最後の晩餐にはまだ早い

大阪・上本町「レストラン・コーイン」(2019関西食べ続け-7)

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 和歌山「オテル・ド・ヨシノ」が10回目の訪問なら、これから訪れる上本町(地下鉄なら谷町九丁目)の「コーイン」はたぶん9回目の訪問だと思う、初訪問は同じ2010年だから、両店の十年間の変遷を知っている数少ない東京人だと、数少ない自慢が出来る(笑)。
 宿泊先からは歩いて向かう、店まで歩く事は徐々に気分が高揚して来るので好きなのだが、反面貧乏臭さもある、財布の中身は薄くても見た目堂々と振舞うのが大事(笑)。
 大阪は道が直線なので判り易い、迷わず店前に着くが、営業しているのかどうか、見当つかない真っ黒な扉を開けると、見慣れたシャンデリアが目に入る、店内を担当するコックコート姿の松下さんが居る。此の店も何故か座る席が決まっていて(笑)、数年来同じ店内左奥のテーブルに案内される。
 約束していた在阪の友人も到着、湯浅料理長に挨拶する、去年は痩せて哲学者的な風貌になったと感じたが、今年はさらに進化し?仙人みたいな雰囲気になっていた、来年はどう変っているのか、今から楽しみだ(笑)。
 料理は一切お任せしたが、毎回の事ながら、予想の斜め上を行く恐ろしい内容になった。まずは当夜の料理を全部紹介したいが、元々照明が暗いのでカメラを+補正したつもりが、不覚にも間違えて-補正をしてしまい、残した画像を後で再補正してみても、少々不鮮明な画像になってしまった、店にも期待しているブログ読者にもお詫びしたい。
「黒トリュフ祭り2019」(私が勝手に名付けた(笑))
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・グジェールバーガー、間にトリュフ

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・蟹の身、帆立貝とトリュフ

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・トラフグとトリュフ

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・甘海老とトリュフ

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・左:干柿の中にフォアグラ、右:フォアグラの上にトリュフ

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・土佐ジロー鶏卵の白身と黄身を分け、それぞれにトリュフ

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・コンソメ、ベキャスのクネル、べキャス内臓パテとトリュフのパイ

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・体重1.5トンのミンククジラのクリュ、トリュフ

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・福島産黒アワビ、仏産モリーユと白アスパラ、トリュフ

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・トリュフ丸ごとを丹波産猪の身と縮緬キャベツで包んで!(笑)

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・黒豆トリュフ

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・エチオピア産カカオ70%のビターショコラをモンブラン仕立

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・ミニャルディーズ
・コーヒー

 まずはお馴染みのトリュフバーガーからスタート、続く3品もアミューズだが、中でもトラフグ皮のコリコリとした食感にトリュフが加わる品が印象的。前菜のフォアグラ料理も秀逸、干柿の中にフォアグラを居込んだものは両者の相性が際立つ。
 感心したのが次の卵料理、半熟玉子を白身と黄身に分け、白身の中に刻んだトリュフ、黄身にはスライストリュフ、「此処までやるか」と唸りたくなるものだった。コンソメは「ぽたじぇ」とはまた違う深い味わい、普通は此処にベキャスは使わないが(笑)、絶妙にバランスが取れている。
 そして他店では味わえないと思う鯨とトリュフ、これは「禁断の味、悪魔の味」としか伝え様がない、舌に絡みつく妖艶な味を表現するのが私の役目だが降参、滅多に入らないらしいが「一度食べてみてください」としか云えない、たぶん此処までが前菜だと思う(笑)。
 次は魚料理の筈だが、主役を張れそうな黒鮑、トリュフ、モリーユの三重奏、この鮑は寿司屋だったら一体幾らするのだろう?
 「参りました」としか云えないのが肉料理、トリュフ丸ごと一個を縮緬キャベツと猪肉で包んで調理、これ笑うしかない。元の料理が記録や文献にあるのか調べているのだが、未だに見つかっていない、少なくとも街場のレストランではあり得ない筈。同席の友人は次第に無口になって来たが、私は既にトリュフ酔いが始まったみたいで、逆に饒舌になり始める(笑)。
 プレデセールの丹波黒豆とトリュフが合う事にも感心、微かな黴臭に共通点がある。そして「今回は、記憶に残るデザート部門を狙いました」との料理長自信作(笑)、ショコラのモンブランも文句の付け様がない。

 滅茶苦茶な位に素材を物量投下し、恐ろしく手間をかけながらも、絶妙なバランスの料理に仕上げて提供する、食べている途中「こんなに量食べられるのか?」と不安を覚えるのだが、不思議と完食してしまう。長編小説でも内容が面白かったら一気に読み終える事が出来るが、それと同じで重量級でもバランスに優れ、結果胃に重くなく、こうして画像を振り返ると、「よくこれだけ食べられたな」と我ながら驚く。
 2日前の「オテル・ド・ヨシノ」で手島料理長と話をした時、「あそこ(コーイン)は変だ、あの料理であの値段はあり得ない、それでいて料理のグレードは年々上がって来ている」と呆れていたが、まさにその通り。少なくとも東京でこれやったら、周りの店が潰しにかかりそうな気がする、大阪だから出来るのだろう。初代桂春団治や将棋の坂田三吉などに共通する、大阪ならではの横紙破りな無双の奇人にして天才、湯浅氏にはその思いを強くする。
 十年前の初訪問時、湯浅氏は「料理を出した後、調理場の陰からドヤ顔で客席を眺めている料理人」のイメージだったが、今は前述のとおりまるで仙人か宗教家みたいな雰囲気になって来た、街中で見かけても私服なら料理人とはまず思わない筈(笑)。
 初回は厨房に3人、店内は奥様が担当していたが、今は松下さんと2人になった、それでも当時以上のレベルの料理になっているのが凄い。ただその松下さんも近々フランスへ渡ってしまうそうで、「次来る時はワンオペでやっているかも知れません」と、冗談とも本気ともつかない事を云っていたが、ワンオペになってもきっと今以上の料理を作る自信があるのだろう、私が現在の半分の齢なら下で働かせてもらうのだが(笑)。
 圧巻でした、白旗振ってお手上げです。「子供の喧嘩に親が出て来た」と云う言葉があるが、「料理人の試合にハルク・ホーガンが出て来た」みたいな、見ただけで戦意喪失する別次元の料理。それまで一年間体験したフランス料理店を、リング下へ突き落し病院送りにする(笑)。
 一年分以上のトリュフを摂取した私は、人生3度目のトリュフ酔い状態になった、前回もコーイン後だったが、その時はなんば駅近くを「不思議なピーチパイ」を歌いながら歩いていた、今回は天王寺警察署の前を通るので静かにしていた(笑)。でも夜中の3時にガバっと目が醒める、媚薬であり興奮剤でもあるトリュフ、この齢でも効く事が証明できた(笑)。

大阪・天王寺「あべとん」(2019関西食べ続け-6)

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 朝ホテルで鏡を見ると、顔も身体もむくんで来たのが判った(笑)関西4日目。夜のスーパーヘビー級の料理に備え、昼は軽く済ませたいと思った、でも折角なので大阪らしいものがいい、まず頭に浮かんだのは饂飩だが、最近は大阪でも讃岐系が主流になり、自分が食べたい昔風(たぶん)の大阪饂飩の店が少ない。
 スマホで近辺のランチ処を調べていたら、お好み焼き屋が多い事に気づく、TV版「孤独のグルメ」中、大阪に出張した井之頭五郎が入ったお好み焼き屋も、少し遠いが何とか歩いて行ける場所だ、其処へ行く事も考えたが、飲食店評価サイトで検索してみると、もっと近くに高評価店がある、何を注文したらいいのか判らないが、フランスと違い日本語も通じる筈(笑)、取りあえず行ってみようと思った。
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 店はJR天王寺駅近く、「あべちか(阿倍野の地下街)」と云う名の地下連絡通路に繋がる飲食街の北端にある「あべとん」。11時の開店だが私が着いたのが11時10分位、その時点で満席に近く、たぶん数人は開店前から並んでいたと思う、かなりの人気店だ。
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 店前にはランチメニューの写真が、ランチ定食はお好み焼きか焼きそばにご飯と味噌汁が付く、そう「孤独のグルメ」で五郎さんが食べていたものだ、大阪でのお好み焼きは30年以上前に食べているが、単品注文で定食ではなかった。粉もの炭水化物+炭水化物と云う、かなり危険コンビだが、此処は人生初体験でトライしてみようと思った(笑)。

 入口近くの女性店員に一人である事を告げたら、大きい鉄板前のカウンター席に案内される、昨夜の直心とは反対に狭い店内に客を詰め込んでいるが、カウンターが10席、鉄板の付いたテーブル席も10卓程ある。
 注文はあまり悩まずに「とん玉定食」(税込710円)に決めた、五郎さんもこれを食べていた。
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 まずはサラダが来る、刻みキャベツとキュウリにサウザンドレッシング、何故か沢庵の細切りが付く(笑)、この皿が乗るスペースは幅15㎝位しかなく、「どうやって並べるのだろう?」と不思議だったが、楕円の皿を上手く使い、なかなか考えている。
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 水はビールジョッキに、お代わりしないで済むよう沢山入っている(笑)。
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 焼きの担当は男性3名、目の前で豚肉を焼いているが、これはお好み焼きに使うので、食べてはいけない(笑)。配膳は女性2名が担当し満員の客席を捌いている、11時から22時の通し営業だから交替制だろう、低い客単価でこれだけ従業員を雇うのだから、席は何回転もする筈だ。
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 お好み焼き製作中、全て店側が焼くやり方だ、テーブルに付く鉄板は温めるだけの用途みたいで、客側に焼かせていたら回転は悪くなると思う。
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 こちら側の鉄板では焼そばを焼いている、クロッシュみたいな物は蒸し焼き用の蓋。
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 先に来たのがご飯と味噌汁、大中小選べるご飯(同料金)だが、残すといけないので小盛でお願いした(笑)。
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 焼き上がり、鉄板上を滑らせて来た「とん玉」、上にはソースたっぷりで、おかかと青海苔がかかっている、マヨネーズは後からではなくソースの下に塗るタイプ、大阪人は鉄ヘラでそのまま食べるが、慣れないのでヘラで切って箸で食べる事に、隣席の外国人客もそうしていた。
 まずはお好み焼きを一口、生地に山芋を混ぜているそうで、見た目より柔らかな仕上がり、毎日百を超える枚数を焼いているだろうから、鉄板の癖も知っている、焼きムラはない、少しソースの甘味が強過ぎで、本体の味を侵食している気がした。
 これをご飯と一緒に食べてみるが意外と悪くない(笑)、「お好み焼きとご飯」を食べると思うと東京人には違和感あるが、「豚肉ピカタとご飯」を食べていると思えば不思議でなくなる(笑)、水分が欲しくなるので味噌汁も必然性ある。
 あくまでも個人的な好みだが、ご飯と一緒ならソースでなくポン酢が合いそうな気もするが、きっと大阪人から「大阪のソウルフードの何たるかを理解していない」と、怒られそうだ(笑)。余計な事を考えながらも完食しました、これで支払は710円ポッキリ、大盛ご飯ならお腹一杯になる筈だ、こうした食べ物があるから、大阪でフレンチランチ5,000円は、正直高いと思われるだろう(笑)。

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 食後はそのまま地下街を歩いて「あべのハルカス」へ行き、16階の美術館で開催中の「驚異の超絶技巧!」展を観る事に、安藤緑山の牙彫が目的だったが、現代作家の高橋賢悟が作るアルミニウム彫刻も異彩を放っていた、作品も興味深いが、ハンドバックからミニライトを取り出し展示品を照らし、係員に注意される自由なオバチャン等、観客も見ていて面白い展覧会だった(笑)。
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 58階の展望台は高さも値段も高いから(笑)、16階からの景色を紹介、遠くにある北大阪の高層建築が目立つが、ここ数年で増えたと思う、真ん中にあるのが大阪市立美術館。
 旅行中唯一の観光?も終わり、一旦ホテルへ戻る事に、夜は上本町の無冠の帝王が待っている。

兵庫・夙川「直心」(2019関西食べ続け-5)

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 JR阪和線の終点は天王寺駅だが、環状線と連絡しているので乗ったまま大阪駅まで直行出来る、今夜の店は阪急「夙川」駅が近いが、直に向かってしまうと着くのが早過ぎるので、阪急百貨店に入って食料品売場を見る事に、平日でも人で賑わっている。万博誘致効果なのかは不明だが、今年の大阪は以前より活気が出て来たようにも感じる、「元気が一番、元気が貰える」街なので、このまま上昇して欲しいものだ。
 時間が近づいたので、阪急梅田駅より神戸線特急で夙川駅へ向かうが、兵庫県へ移動でも3駅なのですぐに着いてしまう、関西交通圏の距離感にまだ慣れていない(笑)。
 駅出口で待ち合せていた在関西の友人と合流し、本日の夜席の店へ歩いて向かう。この「夙川(しゅくがわ)」は、読み方は忘れていても駅名に微かな記憶があり、友人に確認したら、やはり谷崎潤一郎の代表作「細雪」に登場していた、読んだのは何十年も前だが、主人公姉妹の一人がこの辺りを歩く場面があったと思う。あの物語に出て来る位だから当然高級住宅地、駅からの道も瀟洒な住宅が並び、「金持ち喧嘩せず」みたいな雰囲気が漂っている(笑)。
 店は住宅街の中にあった、趣のある玄関へのアプローチに、「この店只ものではないぞ」との印象を受ける。店の名前は「直心(じきしん)」、友人が贔屓にする和食店で、以前から行ってみたいと思っていた店だ。主人は1973年生れの大西裕一郎氏、吉兆グループ出身と聞く、以前はJRのさくら夙川駅近くだったが、2011年に現在地に移転した。住居兼店舗でカウンター12席だけの店内、高級感があり席間も広く取り落ち着く空間、入店時には我々分を残して満席だった。
 夜だけの営業で、おまかせ1万円1種のみの献立、当日の料理は以下のとおり、

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・富山白海老、淡路雲丹

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・粕汁

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・小女子

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・椀物:宍道湖の白魚、ウド

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・造り:淡路平目

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・造り:鰹、針烏賊

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・焼物:鰤幽庵焼

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・唐墨と橙

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・煮物:車海老、岩津葱、椎茸

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・揚物:芝海老と三つ葉のかき揚げ

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・揚物:たらの芽

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・揚物:芽キャベツ

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・御飯:伊賀土鍋で炊いた豆ご飯、太刀魚の蒲焼、胡瓜と茄子の漬物

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・甘味:うぐいす餅
 日本酒は友人が選んだ三諸杉(奈良)と奥播磨(兵庫)
 料理全体の印象から云うと、近海物の魚介を中心に使い、手間は相当かけながらも、見た目は割とシンプルな素材重視の調理と盛付、それを乾山風の華やかな器に盛って提供する、入り組んだ複雑さより判り易い美味しさで、相当経験を積んだ実力の料理人だと思った。
 特に印象に残った料理を挙げると、まず和食の華とも云える椀物、昨日の「桜花」の椀出汁に比べ鰹の香りがより立っている、しっかりした昆布の土台の上に鰹が乗っている感じだ。三種提供された造りの中では、針烏賊のねっとりとした口腔感と濃厚味は、まるで谷崎の文章を連想するようで記憶に残る(笑)。
 煮物の出汁は昆布味の勝ったもの、確認したらこちらは二番出汁を使っているそうだ、厚かましく「何処の水を使っているのですか?」と訊いたら、大西氏はニコッと笑い「水道の水です」との応え(笑)、大阪より兵庫の水は良質なのだろう。料理の質問に応えてくれる大西氏の表情がいい、「いい料理人はいい顔をしている」のは日本いや世界共通(笑)。
 此の店の特徴は、最後に天ぷらが出る事で、当然目の前で揚げたものが提供される、どれも美味しかったが、個人的には最初のかき揚げで十分かなと思った。
 土鍋で炊いた〆の豆ご飯も美味しい、昨日のバーミキュラと比較したくなるが、炊飯器に例えると圧力IHで炊いたのがバーミキュラ、通常のIHで炊いたのが土鍋に近いなと感じた、前者が「もちもち、ふっくら」に対し、後者が「しゃっきり、固め」な印象、これは優劣ではなく好みだと思う、あくまでも個人的な好みは土鍋だが、バーミキュラご飯もたまに食べたいと思う、でも家の安いIH炊飯器はたぶん壊れる迄使うと思うが(笑)。上に乗せた太刀魚はご飯の美味しさを生かす意味で、別盛にした方がいいのでは?とも思った。
 自家製うぐいす餅も良質、欲を言えば抹茶があれば、なお良かったか。

 使っている素材を考えれば、この価格でこの内容はかなり頑張っているなと思う、店は夫妻二人で回し従業員を雇っていないので出来るのだろう、それでも「星」を免罪符にして値段を急に上げる店も多い中、夜営業だけでこの値段で続けているのは立派だ。
 ビジネス街にある「桜花」が勤め帰りに寄る店なら、こちらは一旦家に帰り鞄を置き、ネクタイを外して来る店だろう、店の近くに住む人は羨ましいと思ったが、常連と思しき隣席の夫妻(たぶん)と話したら、南大阪から来たとの事だった、高級住宅地の住人が全て食べ物にお金を使う人でない事は、東京でも同じだ(笑)。
 配膳などを担当するのが和服作業着姿の小柄な女将、黒子に徹していて目立たないながら、ブログで店の情報を発信するなど店を支えている。
 料理とは関係ないが、男女別ブースになったトイレの雰囲気の良さは、今回の食旅行中では大賞を上げたい位だった(笑)。
 最後の客になり夫妻に見送られて退店、関西の飲食店の魅力は何よりも「人」だと思うが、此処も「桜花」と同じく素敵な夫妻の営む店だった。

和歌山「オテル・ド・ヨシノ」(2019関西食べ続け-4)

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 食べ続けはマラソンレースみたいなものだが、今日は折り返し点、毎年恒例の和歌山詣でを敢行する事に。
 JR天王寺駅から阪和線快速で1時間10分で和歌山到着、考えれば此処も東京なら通勤圏内だ(笑)。車窓から民家を見ると、南へ行くほど瓦屋根の所々にブルーシートが被せてある、去年の台風21号による被害で、関空だけでなく伝えられるより広範囲だったようだ。
 いつもどおり駅から歩いて向かうが、歩いている人は少ない。だいぶ前に駅前で「ビッグ愛(「オテル・ド・ヨシノ」が入っている建物)へ行くのは、こちらの道ですか?」と通行人に訊いたら、「あんた本当に歩いて行くの?」みたいな表情だった、地下鉄乗換で鍛えられている東京人は歩く(笑)。
 線路沿いを進んで15分程でビッグ愛に到着、奥のエレベーターで12階へ、東京や大阪と違って高いビルの少ない和歌山市の眺望を見ながら客席へ、お馴染みになったセルヴーズの辻村&細川さんが迎えてくれる。
 去年に続いて奥の円卓に案内されるが、此処は他席から目立つので、もう少しまともな格好で来るべきだった(笑)。厨房から手島料理長も挨拶に現れて、始まった昼のムニュ・スペシャルは以下のとおり、
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・グジェール

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・カリフラワーのムースと甲殻類のジュレ 雲丹とキャビア(ラトビア産)

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・ベキャスのビスク

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・自家製パン

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・サワラの軽いフュメのグリエ トマトとともに

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・和歌山県産 的鯛のポワレ デュグレレ風

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・古座川の鹿のバロティーヌ

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・細川ソムリエールセレクションの白と赤

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・牛乳のソルベ

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・善兵衛農園のレモンのタルト フロマージュブランのソルベ

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・コーヒーとミニャルディーズ

 前回の料理は「エリゼ宮の午餐会」みたいな、畏れ多いものだったが(笑)、今回はまともと云うか、一般的なムニュとして起承転結があるものだった。
 まずは冬定番のカリフラワーを使ったアミューズからスタート、続くベキャスのビスクは2回目だが、前回より洗練度が増したように感じた、これは「この一皿のために旅行する価値ある」料理だと思う。
 鰆は最近の料理を代表するものか、軽いけれど軽さに逃げていない、素材の良さだけに寄りかからず、ムニュに入れた必然性を感じる。続く盛付の美しい皿の的鯛は、フランスではサン・ピエール(saint-pierre)と呼び、よく料理に使われるが、的確な調理により美味しい魚だと認識できる。今は亡き仏カンカルの「メゾン・ド・ブリクール」のスペシャリテに、的鯛を使った料理があり現地で経験したが、あれよりずっと旨いと思った。「デュグレレ」とは19世紀に実在した料理人で、創作した料理法にこの名が付く。
 肉料理の鹿は手島氏から「(野兎)ロワイヤルみたいな感じです」との説明があったが、まさにフランス料理の華とも呼ぶべき、ワインと血とフォンが混然一体となったソースが脳髄を刺激する、古座川は太地町にも近い和歌山最南端の町、此処で捕れる野生の大和鹿の肉質は最上と手島氏が評価する。この近辺は飛行機の窓から見えるが、緑豊かな山があり川があって海に面している、こうした場所は例えばバスク地方だが、餌が豊富で山野のミネラル分が川から海へ流れるので、良質な食材に恵まれる事が多い。個人的には状態のいい鹿肉なので、上のフォアグラはなくてもいいのでは?と思ったが。
 デセールも以前より進化している、見栄えも含めグランドメゾン相応のレベルになって来たと思った。

 前回は自分が学んだフランス料理の先達へのリスペクト、今回は学んだ自分が持てる現在を、地産の和歌山食材を使って表現した、何かそんな風に感じた。
 私が此処へ初めて来たのが2010年、今回はたしか十回目の訪問だと思う、FB友人には六十数回訪れている人も居るので自慢にはならないが(笑)、当時の手島料理には160kmの速球も暴投もあるみたいな粗削りさを感じ、スリルと背中合わせの魅力もあった。今は直球150kmだが、内角と外角を巧みに攻め、最後はチェンジアップで打ち取るみたいな、大投手への道を歩んでいるように感じる。入口から出口まで瑕疵や破綻を感じさせない反面、スリル性は薄れたかも知れない、そして此処まで来てしまったら、先は何処へ行くのだろう?と、現在地に留まっていられるのか、不安も感じないでもなかった(笑)。
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 店内サービスも初訪問当時からは全て入れ替わったと思う、現在は女性二人が中心になり、気候も人間も柔らかく穏やかな和歌山のイメージに合ったもの、東京や大阪の高級店とは違う、ゆったりとした時間の流れる店内の雰囲気は、初めての客でも安心感があり、此処まで来て良かったと、きっと思う筈だ。
 調理を終えた手島料理長と東京や関西のフレンチの現状について話しを始めたが、最後の方は何故か三角ベース野球と自転車の三角乗り(どちらも若い人は知らないと思うが)の、昭和話になっていたのは不思議(笑)。
 「タクシーお呼びしましょうか?」との細川さんの勧めをことわって、また往きと同じ道をトボトボと歩いて和歌山駅へ向かう、これから大阪へ帰るが、ホテルには戻らず市内を縦断し、夕食の地である兵庫西宮へ、途中で旅行中2度目の胃薬を服用する(笑)。

大阪・高麗橋「桜花」(2019関西食べ続け-3)

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 神戸から大阪のホテルに戻り、一時間ほど仮眠した後次なる食訪問地へ向かう、何時ものパターンだ、フランスへ行っていた時もこれだったので、観光を殆どしていない。PARISへ計9回行きながら、エッフェル塔も凱旋門も昇らず、ヴェルサイユにも行っていないのが自慢?の一つだ(笑)。
 大阪は東京より日没が30分程遅い、明るさが僅かに残る中、時間が来たので地下鉄に乗って淀屋橋駅へ向かう、夕食はこのブログでも数回登場している和食「高麗橋 桜花」だ。
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 朝から降っていた雨も止み、駅からの道もしっとりと濡れ、店前の植栽の雰囲気もいい、一人飯には少々勿体ない夜だ(笑)。
 暖簾をくぐってドアを開け、主人の森田氏に挨拶、カウンター席に座らせてもらう。
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 奥のテーブル席では外国人客を交えた集まりが始まっていた。現在店は森田夫妻だけで回しているそうで、従業員募集をしているが、問い合せもない状況との事、飲食店の人材不足は東京に限らない。
 ここ数年は毎回伺っていたが、去年は昼食献立だったので、夜席は2年ぶりになる、当日の料理は以下のとおり、

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・松波キャベツの摺り流し

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・(立春大吉)
 稲荷寿司(おこわ)、黒豆カステラ、プチヴェール甘酒風味の白和え、蕪の中にサムライオイスターと煎りカラスミ、鰯土佐煮、桝に揚げ豆

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・椀物:アイナメ、大黒シメジ、大和真菜、木の芽

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・造り:カンパチ、クロムツ、ボラ、山葵の葉を蓋にして

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・蒸し物:鯛の若菜蒸し 聖護院蕪みぞれあん

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・揚げ物:サバフグ、河内鴨つくねの詰め物をした堀川牛蒡

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・煮物:徳島産猪、オニオンヌーボー、舞茸、蓮根の赤味噌仕立

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・御飯:川エビご飯、香の物(奈良漬、黒大根の味噌漬他)

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・吸物:白子とあおさのり

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・甘味:洋梨蜜煮と青梅風味のシャーベット
・焙じ茶

 寒い日には嬉しい摺り流しから始まるが、珍しいキャベツを使ったもの、事前に云われなければ緑豆かな?と思った筈だ、冬に春の兆しを感じる想い。
 続く「立春大吉」は他店なら「八寸」だが、あえて縁起のいい名前を採ったのが、大学では文芸部だったと聞く森田氏ならでは。どれも丁寧な仕事の感じられるもので、中でも面白いと思ったのが「サムライオイスター」、兵庫県赤穂で養殖される真牡蠣で、赤穂浪士にあやかり名付けたそうだ、外国人客にもウケル事間違いない(笑)。
 続く和食の華とも云える椀物は、大阪人好みの華やかな塗椀を使い、これから旬を迎えるアイナメ、丁寧に骨切りした上身は香り豊かな出汁に浸かって気持ちよさそう、添えられた大黒シメジは「香り松茸、味しめじ」の本シメジで、その言葉どおり味わい深い。
 造りは東京人の私に合わせて白身だけに統一したそうだ、たしかに関西へ来ると白身魚が旨いと感じる。続く蒸し物は冬の名残を感じさせる品、東京では味わう機会の少ない聖護院蕪の独特の香りと味が記憶に残る、器もいい。
 少し意外だったのが次の鯖と牛蒡の揚げ物、まるでインスタ映えしないが(笑)味はいい、おそらく私が今回ヨコメシ多いだろうからと、アクセントを付ける意味で出したと思う、ただ次も濃い目の味付けの料理だったので、少々お腹に重たかったか。
 煮物は徳島産猪を野菜と赤味噌ベースで炊いた一品、これは西洋料理的には主菜と云っていい充実度、今年は亥年のせいなのか、猪肉に当たる事が多い気がする(笑)、でも何処も特徴あって飽きさせないが。
 そして御飯は話題のバーミキュラライスポットで炊いたもので、個人的に興味があった、結論を云うと美味しい、高額な圧力IH炊飯器で炊いたご飯と似て、米一粒一粒がふっくら丸々としてモチっとした味、渡辺直美さんみたいな感じだ(笑)。翌日は別の店で土鍋ご飯を食べる事になるので、違いはそちらの記事で書きたいと思う。
 甘味の洋梨と青梅も、さりげないながら小憎い美味しさだった。

 私がこの店を初めて訪れたのは2014年、当時はスタッフが2名居たが、その頃と比べると森田氏の表情が穏やかになり、和食料理人らしい顔になって来た(笑)。作る料理も中心点がハッキリして、全てがその中心を向いている、随所に硬さが取れたように感じた。以前は大阪食材に拘っていたが、他県の食材も使うようになり、「こうあらねばならぬ」から「こうあってもいいのでは」に変わって来た印象。
 人間も料理も進化するもの、今は「昔と変わらない味」を守っているだけでは取り残される、美味しいだけでなく客の記憶に残り、食後5年10年経っても「あの時の忘れられない味」にするには、作る側にも変容が求められると思う。
 いい料理と楽しい会話でした、森田夫妻の気遣いにより「ぽたじぇ」とはまた違った安心感があり長居してしまいました、ありがとうございました。
 明日は大阪⇒和歌山⇒大阪⇒西宮⇒大阪の強行軍になるので、早く寝ようと思ったが、部屋のTVで「異郷の駅前食堂」を観てしまった、芸人のヒロシさんは魅力ある人物だ(笑)。