最後の晩餐にはまだ早い


麻布十番「L'inédit(リネディ)」(2020年3月)

 関西食べ続けの最終訪問店の記事を書く予定だったが、事情があって暫く延期したいと思う、今回から東京それも下町地区が多く登場する、いつもの食記録に戻る事に。
 まずは関西から帰り最初に行ったフランス料理店が、麻布十番狸穴坂入口に在る「L'inédit(リネディ)」。パティシェ出身の料理人が主に料理を作り、パティシェールのパートナーがデセールを作る二人三脚の店で、前回は日曜限定のブランチに訪れ、提供されたヴェノワズリーの技術の高さに惹かれ、次は必ずディネに来たいと思っていた。その機会が意外に早く訪れた。
 麻布十番駅から狸穴坂までの道は、夜は昼とは違う雰囲気になり、遠くには照明に浮かぶ東京タワーが見える、内藤多仲設計の赤い電波塔は私と同年代生まれなので、スカイツリーより親しみがあり、均整がとれたデザインはあらためて名作だなと思う。高い場所はあまり得意ではないが、今度何十年ぶりかで展望台へ昇ってみたいと思った(笑)。
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 人通り少なく暗く静かな住宅地に在る店の灯りは、道行く人を何処か惹き付ける。入店してサービスを担当する北原さんに挨拶し、前回と同じ壁際席に座った。
 夜は税別5,000円のお任せメニューのみ、静かに始まった全12品を以下に紹介する、

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・アミューズ:鯖の燻製、ルバーブのコンポート

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・サバラン オ レギューム

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・鹿のパテ(アレッタ、洋梨のコンフィチュール)

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・穴子 カーボロネロ

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・鴨 ローズ イチゴ(ワサビの花)

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・ワインペアリング(あともう一杯あり通常3,800円、量が飲めないので少なくしてもらった)

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・自家製パン2種

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・ルバーブ

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・イチゴ

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・ショコラ
以下メニュー外で
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・レモンのタルト

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・カボチャのアイスクリーム

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・チョコバナナ
・ハーブティー
 
 アミューズの鯖を食べ、この料理人が只者でない事は判った、続く「サバラン オ レギューム」と題された料理は、根菜を使った「おでん」みたいな印象、そこへ小さなブリオッシュを加えスープを吸わせるのでサバラン、これはパティシェ出身の料理人ならではの発想と思った。
 パテ&テリーヌ類は料理人の実力を反映するが、鹿肉に豚首肉を加えたと聞くパテも問題なく旨い。続く穴子の皮目を強く焼いた料理は、ソースは省き穴子の旨味を強調していて、衣のない天ぷらと云う印象、黒キャベツの苦みも効いている。
 「鴨のオレンジソース」に代表されるが、飼育の鴨肉に果物や甘味を合わせるのは定番、それを苺とバラの香りで表現したのは心憎いやり方、鴨の火入れも文句なしだった。
 デセールになると担当が替わり、今迄サービスだった北原さんが主に作り、料理人の石毛氏がサービスをする。一品一品の量は少なくそう強い印象ではないが、序奏・展開部・終結と持っていき方がいい。
 ミャルディーズ、食事中のパンも全て自家製で、どれもレベルは高いと感じた。
 
 食後のボワゾン含めて5,000円(税別)は、内容を考えたら随分と思い切った価格設定だ、それでいてどの皿もバランスが取れ、全体にライトな印象ながらも最後まで到達すると満足感がやって来る、そしてパティシェ出身の料理人に共通するデザインの良さを感じた。
 思わず石毛氏に「これで利益出るのですか?」と訊いてしまったが、彼は「食材料の仕入などを工夫しているので、正直に云っても利益はちゃんと出ています」との答え、人を雇っていなくて家賃と光熱水費だけ、何とかなるのかも知れないが、「これで利益出るのなら、他の店は何?」と、つい余計な事を考えてしまう(笑)。
 前回と違いコックコート姿の石毛氏は、彼と同じくフランスに長く滞在した藤田嗣治みたいな髪型だが、いい料理人の顔をしていると思った。「古屋オーガストロノーム」の古屋、「レクテ」佐々木の各料理長に共通する、欧州戦線の第一線で戦ってきた顔とでも云うか、喋り方も肝が据わっていて、おそらく戦国武将もこんな雰囲気だったのではないかと思わせる(笑)。
 とてもいい店だが、今の東京ではこの内容でこの値段で勝負しないといけないなら、余計なお世話かも知れないが、新規フレンチ出店は正直儲からないから、考え直した方がいいのでは?と思ってしまう。
 その場での満足感も大事だが、帰り道に「また来たい、次は何時にしよう」と思わせるのが良い店だと常々考えているが、此の店はまさにそれだった。あまり教えたくない気持ちもあるが、私にとって「今年一番の発見店」になりそうな予感がする(笑)。
※店情報は:https://www.eatpia.com/restaurant/Linedit-AzabuJuban-French


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大阪・上本町「レストラン・コーイン」(2020関西食べ続け-7)

 関西最後の夜は、大阪来て此処へ来ないでどうする?と云いたい、この旅のクライマックス的イベント、上本町のフランス料理「レストラン・コーイン」へ、私の記憶とブログ記事に間違いなければ、此の日が10回目の訪問になる。
 店前に着くと、とても営業しているとは思えない暗いエントランス、以前「食べロガーお断り」の掲示が出ていたが、今はなくなっていた(笑)。
 湯浅料理長は去年、「次来る時はワンオペでやっているかも知れません」と話していたが、此の日は調理師学校仕様のコックコートを着たアルバイトの若い女性が居たので、一安心(笑)。大阪も東京同様飲食人材不足は深刻だが、店からあまり離れていない場所には、世界三大調理師学校?の学生が居るので、まだ何とかなるのかも知れない。
 19時過ぎの訪問時には既に友人が待っていてくれた、フランス料理店全般に云えることだが、本気の料理を味わいたいなら一人より二人、更には四人以内で行った方がいい結果になると、自分の経験からそう思っている。
 湯浅氏に一年ぶりの挨拶をして、始まった料理は以下のとおり、

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・(左)甘海老と蟹味噌、(右)蟹とオシェトラキャビア、金箔を載せて。

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・此の店では初めて見るハート形のパン

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・(左)エイの生レバートリュフ風味、(右)エイのクリュ、シェリビネガー風味
 ※画像悪いです。

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・土佐あか牛のコンソメ

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・「畑のビーツ」

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・ミンククジラ(生)、畑のサラダ、熟成パルミジャーノ

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・オマールのスピラ

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・シャラン産ビュルゴーのクロワゼ鴨のラケ(全容)

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・切り分けて一人分、ポム・ド・ピュレ、鴨のジュとトリュフを合わせたトリュフソース

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・クロワゼ鴨と土佐ジロー卵の親子丼(笑)

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・当日のワイン

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・アーモンドミルクのソルベ、苺(上本町版「いちごミルク2020」(笑))

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・(左)通常の25倍ヴァニラ使用のプレミアムグラス
(右)72%エクアドルカカオ使用のスフレショコラ

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・ミニャルディーズ
・コーヒー

 金箔を付けた大阪のオバチャンが二人でやって来た(笑)みたいなアミューズの後は、最初のジャブであるエイ、特に生レバーは衝撃的な旨さだった、初体験なので他に例えようがなく、自分の脳内が混乱しているのが判る(笑)、「これ鯛茶漬けみたいにして食ったら、さぞ旨いだろうな」と思った。
 続く赤うしのコンソメは、和歌山のベキャスコンソメとタイマン張れる作り(笑)。自家製農園のビーツと黒トリュフ、フォアグラを並べた皿は、過去此処で出たトリュフ料理の中では割と大人しい方だが、赤と黒の難しい色を一見無造作に並べていて、この置き方が美的にも優れているのは、私は現代美術を少し齧ったので分かった。
 此の店ではたしか4回目の鯨は、毎回思うのだが「禁断の味」そのもので、ミンククジラとDeep kissするような舌にまとわりつく食感と肉味、これ知ってしまうと、もう捕鯨反対とは云えなくなる(笑)。
 オマール料理の「スピラ‘spire’」とは、仏語で螺旋、巻きの意味で、外側のパスタ状のものを指す、中にはオマールの身と摺った身のファルス、オマールの濃厚なソースがそれを包む、まさにコーイン料理ならではの、手間をかけたのが判る突き抜けた皿だった。
 今日はジビエでは?との予想を裏切り、湯浅氏自ら持って来た肉料理が、シャラン産ビュルゴーのクロワゼ鴨のラケ、かつて一世を風靡した料理が此処で出て来るとは意外だった。「ジビエはもう飽きました」と湯浅氏が話すが、実は私も同様に感じていた事で、半野生物の使用等「ジビエ」の概念自体怪しくなり、個体も当たり外れが多い、珍味と美味は違う筈なのに、何でもジビエと呼んでありがたがる風潮には疑問を持っていた。「ラケ‘laqué’」とは「~を塗る」の意味で、蜂蜜や鴨から出た脂を塗りながら焼く、フランス人が北京ダックをパクったとしか思えない調理法(笑)。食材としてのサプライズ感は少ないながら、やはり食べて無条件に美味しいと思う、シャラン鴨は日本の米と同じく、生産者が改良を重ね品質を高めて来た食材、特にソースの善し悪しを反映するので、料理人にとっては実力を試される怖い料理だ。
 そしてダメ押しで出て来たのが親子丼、米の炊き方を含め文句の付け様ない出来、満腹なのに食べてしまう。それにしてもエイ&鯨のクリュと親子丼が出て、しっかりフランス料理になっている店は、世界中でも此処一店だけだと思う(笑)。
 デセールでは、通常の25倍ヴァニラビーンズを使用したと聞くグラスが秀逸、「量は質に転化する」の実例をあらためて知る。反対にミニャルディーズは以前に比べ量より質に変わった(笑)。

 調理を終えた湯浅氏と話をするが、もう料理の話をしてもこの人に敵う訳ないので、その場で思い付いた質問をしてみた、それは「湯浅chefは、生まれ変わったら何になりたいですか?」で、たぶん「また料理人やりたい」とは答えないと思ったからだが、彼は一瞬考えた後、
「医者ですね、フォアグラ等の血管を見ているうちに、この血管を繋げる事が出来たら面白いだろうなと思った、日常は医者をやり、時にこうした店(レストラン)を食べ歩きたい」との答えを聞いて、この料理人の謎が少し解けた気がした(笑)。
 連想したのがルネサンスの巨人レオナルド・ダ・ヴィンチ、人物画を描くために人体構造を知ろうと、死体解剖まで手掛けたと伝えられるが、「何でそんな面倒な事を」と考えるのが凡人で、自分が興味を覚える疑問なら徹底して探求検証しないと気が済まない、そのための時間も手間も惜しいと思わない、こうしたタイプの人間は少ないながら存在する。
 「長く権威と信じられてきたことに対してもまずは疑ってみる態度も、その成否を明らかにするための実証主義も、ルネサンス精神の最たる特質である」、作家の塩野七生がこう著書で語っているが、湯浅氏の実証精神は料理界の一人ルネサンスだと思った、ガンジー、寿老人の次に会えたのは大阪のダ・ヴィンチだった(笑)。どうでもいい事だが、私が生まれ変わったらなりたいのは「錦鯉」で、理由について書くと長くなるので止めておく。
 誰にでも薦められる店ではないが、今行っている店に何らかの不満を抱えるフランス料理好きには、一度は訪れて欲しい名店であり怪店、此の店へ通い出すと他店が霞んでしまうのが欠点だが(笑)。
 関西最後の夜にふさわしい、例年にも増して刺激的で楽しい夜になった。


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和歌山「オテル・ド・ヨシノ」(2020関西食べ続け-4)

 早くも膨満感と食疲れが出て来て、胃薬必服の関西3日目は、恒例の和歌山詣でを敢行する事に。前2日と違って天候も回復、暖かい日になったのはありがたい、これなら毎回と同じく駅から歩いて行けそうだ(笑)。
 天王寺駅から乗車したJR紀州路快速は、日根野駅で関空行と和歌山行の半分に別れるので要注意、大阪人でも間違える人は居ると聞く、日根野から先は急にローカル線の雰囲気になる。
 和歌山駅からは南に向って線路沿いをテクテクと歩く、カロリー消費と健康維持には歩くのが一番、「高齢者は歩かない」なんて云わせない(笑)。途中にある「ビッグホエール」でイベントが無い日は人通り少なく静かな界隈で、この辺りの住人は学生以外殆ど車で移動する様子だ。店が入っている「ビッグ愛」には12時過ぎに到着、いつもより人の出入りが少なく感じた。
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 12階のレストランエントランス、右に進むとレセプションがあり、メートレスの細川さんが待っていた。彼女の案内で用意してくれた円卓に座る。
 手前にあるカフェ「ステラマリス」は割と空いていたが、メインダイニングはこの後大体満席になった、コロナ騒動の中、平日昼でも変わらない集客力は凄いなと感心する。厨房スタッフとサービス陣が前回とは少し変わっていた。
 料理の内容は全て手島料理長にお願いしていた、2月の‘Menu Spécial’は以下のとおり、

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・グジェール

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・ジビエのコンソメ

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・自家製バゲット

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・生ハムのジュレ フヌイユのムース

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・山鴫のビスク

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・和歌山の真鯛

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・和歌山の猪 バロティーヌ

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・細川ソムリエールセレクションのワイン
 白:PATZ&HALL2016 DUTTON RANCH
 赤:VACQUEYRAS Beaumirail2016

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・牛乳のソルベ

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・いちごミルク2020 梅の香り

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・和歌山産アンフィ―ジョン

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・ミニャルディーズ

 まずは変わったカップに入ったコンソメからで、味の深さと奥行きは抜群、去年10月に札幌で入った、ラーメン店のスープと似ていると書くと手島料理長に怒られるか?(笑)、でもこうしたコンソメ系は突き詰めると似てくる気がする。
 続くフヌイユのムースに合わせた生ハムジュレは、国産の生ハムを使い、見て美しく食べて印象に残る一品。続くベキャスのビスクはたしか3回目だが、前回より酸味が増し、味わいが少し軽くなった印象を受けた、個人的には今回の方が好みだ。
 鯛を使った皿は古典の教科書的料理、表面の均等な焦げ目を見ただけで旨いのが分かった(笑)。伝説的レストラン、ヴィエンヌ「ピラミッド」のスペシャリテだった、「平目の蒸し煮 シャンパン風味」を連想してしまうが、古典そのままではなく現代人に合わせて仕上げている。
 肉料理の猪バロティーヌも2回目だが、これを出したのは素材と調理に自信があるからと思う、「野兎のロワイヤル」に似た印象だが、やはり猪の食感は野兎とは違い、より獣的と云うか、野生の香りと複雑な味わいを感じさせる、仕上げの精度も以前より増していると思った。
 パティシェが替わったそうで、味わいも違って来た、特に苺を使ったデセールは、見た目も味も今迄に無かった感覚、なかなか記憶に残る一品だと思った。

 全体の印象を云うと、王道で瑕疵のない安定した料理、大相撲を観に行って横綱が四つに組んで相手を寄り切り、盤石な横綱相撲で勝ったと云う感じだ。かつて手島料理長が在籍したPARISの ‘TAILLEVENT’、それもジャン=クロード・ヴリナ氏が健在だった時代の料理を思い出すものがあった。
 ただあえて云ってしまうと、私はこれが11回目の訪問になるので、横綱相撲もいいがこの料理人の別の面も知りたいと、欲張りな願望を抱いてしまう。例えば翌日に行く事になる大阪上本町「コーイン」や、東京赤坂「古屋オーガストロノーム」は、料理人一人が最初から最後まで殆ど全ての料理を作るが、そうした店なら、彼はどんな構成で料理を出すのか、本人は以前「自分はチームで料理を作るのが好きなので、小さい店でのやり方は興味がない」と話していたから、実現は難しいかも知れないが、つい妄想をしてしまう(笑)。
 その話には触れなかったが、食後テーブルにやって来た手島氏と色々と話をした、主に東京のフランス料理店の話だったが、業界話で此処に書けない事を含め、煮詰まってしまい、日本版「ゴ・エ・ミヨ2020」の「明日のグランシェフ賞」に選ばれたお祝いを云うのを忘れてしまった(笑)、失礼しました。これは「将来のグランシェフへの可能性を認められた料理人」を選ぶ賞で、今回3名のうちの一人、選考理由が「卓越した技術を用いて、フランス料理を日本人の感性で表現している点」だそうだが、「将来のグランシェフ云々」については、既に十分要件を達成しているから、何を今更と云う気もしないでもないが(笑)。
 食時後はまたテクテクと線路近くを和歌山駅まで歩いて行く、夜はまた別の店で5食目が待っている(笑)。


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大阪・玉出「びすとろぽたじぇ」(2020関西食べ続け-3)

 関西二日目の夜は、私が勝手に「大阪の我家」と思い込んでいる、西成区玉出にある「びすとろぽたじぇ」を訪れる事に、本町から玉出に移転してこれが4回目の訪問、ようやく道も覚えた(玉出駅出口から一直線だが)ので、次の移転がない事を願っている(笑)。東京下町で育った私は、整然としている本町周辺より、何処か雑然とした玉出の雰囲気がしっくり馴染むので落ち着く。
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 昼もしっかり食べたので、19時からの遅いスタートにしてもらった、カウンター席に座るが、後ろのテーブル席では男性客達が食事中、聞き耳を立ててはいけないが、どうもサラリーマンの会話ではないと思った、あとで知ったが普通のサラリーマンではなかったみたいだ(笑)。
 店主の肥田氏に一年ぶりの挨拶をするが、顎髭を生やし寿老人みたいな風貌になっていた、ガンジーの翌日に寿老人と、ありがたい出会いが続いて、今年はきっといい事があるに違いない、明日はローマ教皇に会えるかも知れない(笑)。
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 黒板に書かれた「本日の料理」
 以前は「~が食べたい」と予約時にお願いした事もあったが、今回は特に何も注文はしていなかったので、此処から選ぼうと思っていた。ところが肥田氏から間髪を入れず「今日はベッシーを用意してあるので、よかったら食べてくれ」との申し出があり、断る理由もなく喜んで同意をする、「ベッシー」については後述する。

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・ニュージーランドのゲヴェルツラミネール

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・バゲットと自家製リエット

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・アミューズのポタージュ

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・前菜盛り合わせ(手前から時計回りで:サーモンマリネぽたじぇ風、自家製ロースハム、豚肉の田舎風パテ、キャロットラペ、根セロリのラペ、ラタトゥイユ、フォアグラのテリーヌ、真中はツナのゼリー寄せ?)

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・若鶏のベッシー包み、ドゥミ・ドゥイユ、ソースシュプレーム

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・服(コートと云うべきか)を脱いだ処(笑)。

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・一羽全部ではないです、残った分はスタッフで食べるそうです。

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・シャリオデセール

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・選んだものは:クレームカラメル(プリン)、キャラメルのタルト、粉を使わないガトー・ショコラ、赤白グレープフルーツのコンポート、ソルベ2種

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・アビランドのカップに淹れたエスプレッソ

 前菜は過去にも味わっている定番料理が並ぶが、やはりどれも素直に美味しいなと思う、東京のビストロで出会う前菜類に比べると、全体的に僅かだが塩分が少なく感じる、年々東京と大阪の料理の違いはなくなって来たと感じるが、肥田氏は約半世紀大阪でフランス料理を作り続けて来た、「昔から続く大阪のフレンチ味」を作れる最後の世代かも知れない。特に人参と根セロリのラペは何気ないものだが、込められた半世紀を味わえる逸品。
 そして登場したのがベッシー包み、ベッシーとは豚の膀胱の事で、掃除して乾燥させた膀胱の中に鶏(鳩の場合もある)、リキュール、トリュフ等を詰め紐で縛り、湯をかけながら間接調理する。現在の低温調理の一種だが、豚の膀胱から出る香りがプラスされ、複雑で滋味ある仕上がりになる。一昨年他界した名料理人P・ボキューズのスペシャリテで、肥田氏は同店で働き実際にこの料理を作っていた。ドゥミ・ドゥイユとは「半分喪服」の意味で、鶏の身と皮の間に黒トリュフを入れる事により、外から透けて見える黒色をそう呼んだ、この命名センスはさすがフランス人だなと思う、真面目な日本人ではなかなか思いつかない(笑)。「アルビュフェラ」と云う名のフォアグラを使った重いソースを添える事が多いが、今回は少し軽い鶏出汁のソースシュプレームだった。
 私は過去に和歌山「オテル・ド・ヨシノ」、大阪上本町「コーイン」でこの料理を体験していて、これでベッシーの関西トリプルクラウンを達成した(笑)。
 他の2店が仏産ブレス鶏を使っていたのに対し、今回は国産若鶏を入れた点が違う、そのためベッシー調理の本質が見えた気がする、印象は意外にもガストロ料理と云うより郷土料理的な、地面に根が生えたような強さと伝統食の重厚さを感じさせた。歴史を辿るとローマ帝政時代にも類似料理があったそうで、現代まで残った必然と合理性を持った料理なのが理解できた。
 今回、肥田氏が私のために作ってくれた料理だが、店の若いスタッフ男女2人にも、調理師学校でも教えない料理を教え、次代に伝えて欲しいとの想いがあると思う。今は珍しくなった、ガルニ野菜のシャトーとシャンピニオンのトゥルネはスタッフ作との事。
 そして主にパティシェールが作った、現在では出会う機会が少なくなったシャリオデセールも逸品揃いで嬉しくなる。特にキャラメルタルトが秀逸だった。

 パリとリヨンの料理が違うように、東京と大阪の料理が違っていいと思う、でも最近は料理もスイーツも皆同じ方向を向いてしまい、見て食べただけでは何処で作った料理や菓子なのか判らない、これは残念な事だ。
 畏まった雰囲気は大阪人に一番似合わない気がする、いきなり店に入って来て「親父さん、何か旨いもの喰わしてくれ」と客が云えば、店主が「わかった、少し待ちな」、これが一番似合う街、こんな事書いたら「偏見だ」と云われてしまうかな?(笑)。
 例えばリヨンのブションに居るみたいな、洗練され過ぎない、温かくて何処かバタ臭い居心地いい雰囲気、これが体験できる店だ。教員生活で培った肥田氏の含蓄ある話しが聞けるのも値段に含まれるので、可能ならカウンター席がお勧め(笑)。
 肥田さん、スタッフの皆さん、ありがとうございました、楽しい夜になりました。



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大阪・玉造「歩き」(2020関西食べ続け-1)

 今年の関西食べ続けは、昨年5月に開業した初訪問店から始める事に、その店は大阪市内天王寺区玉造にあるフランス料理「歩き」。
 店主は春木真太郎氏で、このブログでも何回か取り上げている、大阪上本町「コーイン」の湯浅料理長の下で8年間働いた後、太田料理長の北新地「グランシャン」でも厨房スタッフとして参加、その後飲食でのアルバイト等の準備期間を経て独立開業した。
 以前からコーインに通っていた客は、坊主頭で風貌が似ている事から、彼の事を「ガンジー君」と呼んでいた、そうマハトハ・ガンディーに似ていたからだが、私は永井荷風にも似ていると思っていた(笑)。今は髪も伸び立派なオーナーシェフになって帰って来たので、これからは春木料理長と呼ぶ事にする、なお春木はローマ字で「Haruki」だが、通常フランス人は「H」を発音せず「アルキ」と呼ぶ事になるので、それを店名にしたのだと思う。
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 店へのアクセスはJRまたは大阪地下鉄の「玉造(たまつくり)」駅からすぐ、不思議な地名は古墳時代に此の地に勾玉などを作る、大和朝廷の「玉造部」が置かれた事に由来するとされる。戦国時代最後の戦「大坂の陣」では最激戦地となり、近くに「真田丸」が在った事でも知られる。現在は大阪下町の商業地区として発展、歩いていると何処か親しみを感じる町だ。
 地下鉄の駅出口から至近の商店街入口にドラッグストアーがあり、脇の階段から2階に上ると店が見える、フリの客はまず来ないだろうと思うが、木製ドアのガラスから放たれる柔らかな照明光が、ホッとする雰囲気を出している。
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 入口にはカルトの品書きが。
 入店し春木氏に挨拶する、私が会うのは2016年以来だから4年ぶり、彼は髪が伸びたくらいで他は変わらないが、現役を退いた私はすっかり老けた(笑)。
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 テーブルが2卓8席、カウンターが5席で計13席、春木氏が一人で対応している。大阪在住の友人と2人でカウンター席に座った、此の日の料理は5,500円(席料+500円)の夜メニューをあらかじめお願いしていたが、以下に紹介したい。

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・イワシのマリネ、グジェール

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・(手前から)牡蠣とヒラマサのカルパッチョ、キッシュロレーヌ、パテ・ド・カンパーニュ

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・バゲット(何処の店か聞くのを忘れたが、今回の食旅行中最も気に入ったパン)

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・カサゴのパイ包み焼き、マテ貝のエスカルゴ風仕立

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・ニュージーランド産仔羊のロースト、カリフラワー、ポム・ド・ピュレ

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・チーズケーキ、バニラアイス、刻んだ苺

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・アンフィージョン(タイム&カモミール)

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・ミニャルディーズ(チュイエル、ショコラ、紅茶のブリュレ)

 料理全体の印象から云うと、古典をベースにしながらも所々に若さも感じさせ、コテコテのビストロ料理とも少し違う、手をかけた料理なのが分かった、さすがは「コーイン」「グランシャン」と云った、古典派の大家二人に就いていただけの事はある。
 事前予約時に春木氏は、『これといった特徴のないお店なので、食べ歩きの貴重なお時間、うちでよろしいのか不安です』と謙遜していたが、値段を考慮すれば立派な内容だと思った。
 前菜は王道的なもので、たしかに特徴はないが、見た目の華やかさより食べて実質的で美味しい、これは大事だ。
 魚料理は此の日一番感心した皿で、自家製のパイ生地からファルス(詰物)の出来、ソースとガルニに使ったマテ貝まで、十分ガストロ料理になっていた。こうした「手の込んだ料理」は師である「コーイン」が最も得意とするものだが、そのエスプリを継承していると思う。
 仔羊も定番の皿ながら、キュイッソン(火入れ)はジャスト、このブログでも書いた事あるが、「初めてのフレンチでは、パテ・ド・カンパーニュと仔羊ローストを食べれば、料理人の実力が大体判る」と、昔に食の先輩から教わったとおり判断すれば、此の日の料理二品は合格点を出せると思った(笑)。
 デザートのチーズケーキも上手く焼いているし、ミニャルディーズまで手を抜かないのもコーイン譲り。

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 トイレ内の洗面台ボウルは、意外にも「しゃぶしゃぶ鍋」をくり抜いた物だそうだ(笑)、これを始め店内は、店主自ら塗った漆喰壁、他店から貰った中古のドア、陶芸家が作ったランプシェード等手作り感に溢れている、「お金がなかったからです」と春木氏は云うが、なかなかどうして若い感性に溢れていて、いい雰囲気の店になっていた。
 食文化は継承していくものだ、学んだ事をこうして自分なりに実践している若者を見ると嬉しくなり、此の国の将来にも少しは希望が見えてくる(笑)。
 階上店で未だ知られていないので、客入りはこれからだろうが、最低1年は我慢、3年経てばやがて人気店になる、多くの店を見て来た私はそう予言したい、予想以上にいい店だった(笑)。
 


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プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
人はそれぞれに「見方、感じ方、考え方」が違います。私が美味と思ってもそう思わない人が居て当然です、味覚とはそれだけ不安定で不完全なもの、あくまでも筆者個人の嗜好による感じ方である事を承知の上で読まれてください。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに赤坂、麻布十番等。
混雑電車が苦手で加齢による朝型人間化のため、ランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

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