最後の晩餐にはまだ早い


恵比寿「ラ メゾン フィニステール」

 私はモダン料理が嫌いな訳ではない、北欧系は無理でも現代スペイン料理位までは何とか付いていけた(笑)。それでも一応古典好きと思われているので、「○○〇はきっと好きな料理だよ」と教えてもらうのは、クラシック系料理を出す店が多い。
 今回も食の先輩から誘われた店で、昨年10月恵比寿にオープンしたフランス料理店。名前は「ラ メゾン フィニステール(La maison finistère)」、「フィニステール」とはフランス・ブルターニュ地方の行政県の名前、言葉の意味は「地の果て」になる、ブルターニュ半島の最西端の地。あえてこれを店名にしている事に興味を覚えた、料理人の目指す方向が何となく見えるし、WEB上に公開されている料理画像も古典的だ。
 料理人は沖知充氏、WEBページによると1976年福岡生れ、大阪の名門調理師学校~同フランス校卒業後、銀座「レザンジュ」等勤務し渡仏、ブルターニュ地方やアルボワ「ジャン・ポール・ジュネ」、ヴィシー「ジャック・デコレ」等で働く、帰国後六本木「マクシヴァン」で料理長就任、昨年独立開業を果たした。

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 店の場所は恵比寿~広尾間と云う、東京ではフレンチ最激戦区の一つ、恵比寿駅から恵比寿通りを広尾方面へ向かい、渋谷恵比寿郵便局前の建物になる。

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 一見、1階だと思うが此処は和食で別店舗、2階が店で脇の階段を上がる。予約時間の12時に入店、店内はカウンター&テーブル席で合計14、厨房一人、サービス一人の最小体制だった。

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 基本土曜日だけのランチメニューは3,800、5,800円の2種類、事前に後者をお願いしていた、料理は以下のとおり。

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・イタリア産仔うさぎとキャロットラペ、フォワグラのジュレ寄せテリーヌ、ハニーマスタードソース

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・自家製パン

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・鮎のリエットとほんのりミントの香るクレム・ド・コンコンブル

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・稚鮎のフリットとパン・ド・カンパーニュ

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・白身魚とオマールのクネル

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・ブルターニュ産ウズラ、茸のリゾットのファルス、アスペルジュソバージュ

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・島ソムリエセレクションの白&赤、ロワール産ピノグリ、ドイツ産シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)

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・トロピカルフルーツとババ、バナナアイスクリームとシャンティ添え、ダークラム

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・3種類のネスプレッソから選んだのは、ミディアムボディの「ルンゴフォルテ」

 料理全体の印象は、事前情報どおりクラシック料理を基本にして、各皿の作りが細部まで丁寧、盛付けも変に凝らず正攻法、さすが名門校出身でいいメソッドを受けていると感じた。
 まず前菜のテリーヌがそれを端的に表している、ラプロー(仔兎)、フォアグラ、人参と食感も味も違う3種の材料を、切り方・調理を変え一つの料理に上手く纏めたセンスは見事、見映えもいい。続く季節物の鮎もリエットにして相性のいい胡瓜と合わせ、フランス料理らしさを出している。
 魚料理のクネルはこの日最も印象に残った一品、クネルと云えばフランス・リヨンの名物料理だが、今は現地でも中身のクネルは専門店の物を使い、原型から作る店は少なくなっていると聞く、沖氏の料理は勿論クネル種から起こし、濃厚なオマール出汁と絡んで、「ああ、これフランスだ」と呟きたくなった、もっと量があってもいい(笑)。
 ウズラは王道のファルス(詰め物)料理で安定の美味しさ、スースはジュ・ド・カイユがベースだろう、酒類も相当使っている筈だ、フランス料理はこれでないといけない(笑)。
 デセールもフランス伝統のもの、沖氏は料理人ながらソムリエ資格も有しているそうで、そのためか料理・デセールへのリキュール使いが巧いと感じた。
 食後感は書道で云えば「楷書」の料理だと思った、基本に忠実で正統派、今では古典とされるが、元を辿れば1950~1970年代のフランスで確立した、当時では「新しい料理」が根底にあると感じた。ただ店の場所がフレンチ密集地域なので、これからリピート客を増やすには、あと少し個性と云うか崩しや遊び、「草書」的なものがあればいいと思う。

 サービスを担当するのが島氏で、沖氏とは前店からのコンビとの事、若いながら柔らかな客対応で、代官山「レクテ」のサービス、辻氏と同じ雰囲気を持っている(笑)。
 食後、客席に挨拶に来た沖料理長、専門学校時代から現在に至るまで、色々と話をしてくれた。特に彼が働いていたヴィシーの「ジャック・デコレ」は、私が2009年に訪れているので懐かしかった、当時サービスの男性が「ウチは代々日本人の優秀な料理人が居て、今も2人働いて居る」と、自慢するように話したのを思い出す、沖氏も「優秀な日本人」の一人なのは間違いない(笑)。
 東京では「古屋オーガストロノム」「レクテ」、関西では「オテル・ド・ヨシノ」「コーイン」と、私の好きな古典派料理人は皆20年選手だ、それだけまともなクラシックを作るのは時間がかかるもの、文献を調べては料理を作り、作ってはまた調べる地味な作業の繰り返しで、クリックすれば答えが一瞬で出るものではない、若い人達がやりたがらないのも無理はない(笑)。
 東京では貴重な古典を志向する料理人、それも若手代表として今後に期待したい店だ。


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三ノ輪「「ビストロ ルミエル」(2018年5月)

 いい店に出会うと誰かに教えたくなるものだ。今年4月に初訪問した三ノ輪のフランス料理「ビストロ ルミエル」、リーズナブル価格ながら本格的な料理と、オーナーの加藤夫妻の真摯な姿勢に触れて、会う人毎に「あそこはいいよ」と宣伝していた。ついでに台東区に住んでいる身内にも「今度行ってみて」と話してしまい、「それなら連れていけ」と反対に頼まれてしまった(笑)。
 そうした訳で5月にも続いてランチ訪問をする事に、北千住で日比谷線に乗換えて2駅、我家から30分もかからず近いのはありがたい。
 前回訪問時も暑かったが、この日も初夏を思わせる陽気で日差しが眩しい、店名が‘lumière’(光)なので晴天になる事は間違いない?(笑)、店前に到着したら丁度予約時間の12時だった。

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 白いファサードの入口扉を開け入店、マダムに挨拶して右手のテーブル席に座る、紙ナプキンのオレンジ色が目につく、白とオレンジを店のイメージカラーにしているみたいだ。

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 本日のランチメニュー(税込2,300円)、プリフィクスで前菜2種、メイン3種からの選択になる、前菜で目を惹いたのが「トリップのサラダ仕立てラベンダーの香り」で、これに即決。メインは前回「牛ホホ肉」だったので、今回はパルマンティエだなと思った、どうも私の世代は「ご馳走=肉」なので、メインを選べる店ではやはり肉系になる(笑)。
 メニューの一番下に書いてある「減塩やソースを別に盛り付ける等、ご要望がございましたらお伝え下さい」に、この料理人の考えが推し量れる、1950~60年代生れの料理人からは、なかなか出てこない言葉だと思う。
 料理は以下のとおり、
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・さつま芋のポタージュとフォカッチャ風自家製パン

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・前回と変わらず1杯400円と格安の白ワイン、銘柄は聞いていない。奥に見える壁の巾木もオレンジ色に塗ってある。

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・トリップのサラダ仕立てラベンダーの香り

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・同行者が注文した、小エビとホタテ夏野菜のゼリーよせ

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・パルマンティエ(豚ひき肉とジャガイモの重ねやき)とその断面

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・チョコレートのムース、キウイのグラニテ

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・同行者が注文、スペシャリテのロールケーキ
・コーヒー

 トリップは丁寧に下処理された後、焼き目を付けサニーレタス等とヴィネグレットで和えてある、味のバランス良好、量もしっかりある。女性客の多いランチタイムの料理にしては結構チャレンジだと思うが、現代的に軽く食べ易くしている。
 野菜のゼリー寄せは見ただけで食べていないが、「オー・グー・ドゥ・ジュール」系に居た料理人だけあり、仕上がりは綺麗で女性に受ける事は間違いない、添えられた茹で玉子が何かホッとするビジュアル(笑)。
 パルマンティエは予想とは少し違ったが、豚挽肉で作ったハンバーグ状の肉の上に茹でたジャガイモとチーズ、パン粉を乗せ、上火で炙ったものだった。見た目どおりの優しく分かり易い味、味付けやスパイス使いも控え目で、これも女性客に好まれそう。
 チョコレートのデザートが良かった、高価なクーベルチュールを使えば印象に残るものになるが、2,300円のランチでは無理な話、上手く味のバランスを取っていて、また食べたいと思うものだった。
 食事中に私が「この店行ってみて」と伝えた大先輩まで来店し、焦ってしまった(笑)。レストランと客には相性があり、過去私が誰かに勧めた店が気に入られなかった事は何度かあるが、この店に関しては「がっかりした」とは思わないのでは?と考えているが、実際にはどうだったろう(笑)。
 料理は尖らず中庸で下町でも受け入れられそう、日本人客の好みを知っている、デザートがいいのは好印象。オーナー夫妻の接客も温かくて、「一発当てて儲けよう」みたいな嫌らしさは微塵も感じさせない。地域に支持され長く続けられる事を第一に考えているのは感じ取れる、店はこうした時期が新鮮でいいなと思う。
 昼はこの2,300円のメニューに、1,200円のランチプレート、夜でも2,800円、4,800円と云う安価な設定。下町地区でもあり、地域客を想定した価格設定でスタートするのは賛成、でも仕事量を考えたら、前菜からデザート、食後のコーヒーまで付いて、鰻重より安いディナーメニューは安過ぎるかも知れないが(笑)。

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 加藤夫妻に見送られて退店、この日の天気みたいに爽やかな食後感だった、また来月も来てみたい、そう思わせる良店だ。


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赤坂「古屋オーガストロノム」(2018年5月)

 十年来の友人である「元ジャニーズ、現在は小栗旬似の料理人」(あくまでも自称です(笑))が、北国から神輿を担ぐためやって来ることになり、大役の前に会う事になった。フランス料理、それもクラシック系が好きなので、選んだ店は赤坂の「古屋オーガストロノム」、今東京でまともな古典派料理を提供、平日ランチ営業していて「昔の名前で出ています」みたいな店を除けば、まず此処だろうと決めた。

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 成田着の飛行機遅れも考慮し13時集合だったが、もう一人の友人と時間少し前に店へ着いたら、既に友人は来店していた。彼とは去年の10月以来、此の店も11月以来になってしまった。
 サービス担当の石橋氏と古屋料理長に挨拶し、始まったのは以下の料理、

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・‘Amuse-Bouche’アミューズ・ブーシュ(2色アスパラガスのスープ)

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・‘Le Thon’熊本県産マグロのタルタル仕立て、うずらのポーチ・ド・エッグ添え

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・‘Le pain’自家製トマトベースのパン

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・‘Le Foie gras’ハンガリー産フォアグラのポワレ、ベトラーブのゴーフル、カカオ72%ショコラのヴィネグレット

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・‘Le Poisson du jour’青森産天然活締め平目のムニエル、春キャベツとエンガワのソテー、5種のスパイスソース

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・‘Le Caille’ヴォージュ産ウズラの3プレパラション、胸肉のロティ、キュイスのブレゼ、リ・ド・ヴォーのセルベラ、ロワール産ホワイトアスパラガスとモリーユ茸

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・‘Avant Dessert’レタスのソルベと苺

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・‘Grand Dessert’オレンジのグラティネ

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・  同    ピスタチオのアイスクリーム

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・‘Le Vin’ 石橋氏セレクションのワイン

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・‘Café express’エスプレッソ

 まず料理全体の印象から云うと、以前より一皿の構成要素が増え料理が精緻になったと感じた、「一人厨房で此処までやらなくても」と思ってしまう皿もあるが、「此処までやらないと気が済まない」のが古屋氏の料理力なのだろう。
 マグロのタルタルは二つに分け、一方はうずらポーチ・ド・エッグ、もう一つは上にブリニみたいなパンとハーブを乗せる、ラディッシュの陰に隠れているのはキャビアを乗せたポーチ・ド・エッグ、一人厨房でよくこんな事をやると思う(笑)。
 フォアグラはハンガリー産だが、上質な鴨の生状の物で、短時間加熱すると鱈白子みたいな食感、カカオソースとベトラーブを加えたゴーフルを添える、カカオは高級品の伊ドォモーリ製を使っているが、この三者の相性は抜群。
 青森産平目は少々懐かしいカレー風味のソースが印象的、ロブションやジャック・ボリーがカレーソースを流行らせたが、最近あまり出会わなくなった。キャベツとエンガワは別にソテーし身の下に敷いている。
 カイユ(ウズラ)の3プレパラション(Trois Préparations)とは、3種の調理法の事で、胸肉はシンプルなロティ、腿肉はワインを使った煮込、端肉はリ・ド・ヴォーと合わせセルベラ(ソーセージ)仕立にしている、添えたのはモリーユと白アスパラ。古屋氏は同じ食材を2種・3種の調理法を使って一つの皿に仕上げるのが得意で、これは彼が働いていたベルギー南部にあった「Au Gastronome」譲りのやり方だそうだ。ただ気を付けないと主役がハッキリせず曖昧な料理になる恐れもあるが、さすがは経験豊かな古屋氏は巧い、手をかけたソースが全体を纏めている。
 デセール2種も万全、果物のグラタンも懐かしいものだが、クレームパティシェールが上質で現代的に軽やか、添えたピスターシュのグラスがいいアクセントになっていた。

 食後、挨拶に来た古屋氏と色々と話をするが、彼が「先日初めて来たお客さんが、『東京でこうした料理が味わえるとは思わなかった、今迄は●●●へ行っていたが、もう行かなくて済みそう』と話していた」との事で、成程フランス料理それも古典系が好きな人は、視点が同じだなと納得する、なお「●●●」は差し障りありそうなので伏せ字にしておくが、皆さんで想像してください(笑)。
 私がこの店を訪れるのは10回目だが、同行者2名はそれぞれ2回目と初訪問なので、古屋氏がフランス・ベルギーで働いていた時代の話をあらためて聞く事に。初めは言葉も話せず頼る人もなく、他に日本人が居ない様な街で料理長まで務めた彼だが、最前線で戦い身に着けた料理力は今になって生きていると思う。
 私が以前から訊きたかった事を訊いたのだが、それは「古屋さん位の実力があれば、向こう(ベルギー、フランス)で店を出す事は考えなかったですか?」で、それに対しては「考えなかったですね、やっぱり日本はいいです」との応えだった。そう云えば以前代官山「レクテ」の佐々木料理長も同様な事を話していた、二人とも1973年生れだ。
 白洲正子は芸術家で作家の赤瀬川原平を「若い頃西洋に傾倒したが、年齢を重ねて日本文化へ回帰した、だからこそ信用できる」と、たしか書いていたが、一時期西洋を相手に本気で格闘した人ほど、最後には日本へ帰って来るのかも知れない。
 時計を見たら何と午後4時、気付かず長居をしてしまった。古屋料理長、石橋さん、遅くまでありがとうございました、私からではないですが、美味しいスープカレーラーメンを楽しんで下さい(笑)。


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御茶ノ水「ビストロ・ヌー」(2018年5月) 

 食仲間から「今、磯貝さん一人で店やっているよ」と聞き、気になったので様子見と云うか、激励?のため半年ぶりにランチに訪れたのは、御茶ノ水(末広町)の「ビストロ・ヌー」。
 店は今年3月で開店7周年を迎えた、バーテンダー出身と云う異色の経歴を持つ磯貝氏が、母親がやっていた喫茶店を改装して始まったビストロ、私が初めて訪れたのは2013年の1月だが、それから「常連」とはとても云えない頻度だが、秋葉原に行く用事がある時はランチに寄らせてもらっていた。今は「ビストロ・ヌーへ行くついでに秋葉原へ寄る」と云った方が正確かも知れない(笑)。
 今までサービスを担当していた奥様が、第2子出産のために産休に入ったので、当面は磯貝氏が一人つまりワンオペで対応するようだ。

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 黄金週間の谷間日だが、この界隈は電気関係の小企業が多いからか、昼時働いている人が結構居る。種類は不明だが店前にある樹も随分と大きくなった。
 昼の開店時間直後に入店、磯貝氏に挨拶してカウンター奥「いつもの席」(笑)に座る、奥様は間もなく出産との事だが、いずれ復帰を考えているそうで、その間は何とか一人で続けるつもりらしい、夜は以前から一人の時はあったので慣れているし、昼はプリフィクスの品数を絞って対応するとの事だった。東京の飲食業界は慢性的な人不足で人件費も高騰している、人を雇って得られるものと失うものを天秤にかけ決めるしかない。あとは客側も協力と云うか理解すべきだと思う、「料理の出が遅い」と感じたなら牛丼店へ行った方がいい(笑)。
 今の私は一時間で戻らないといけない会社人間ではなく、我儘でデフォルトのランチメニューに前菜を一品増やしてもらった、料理は以下のとおり、

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・ジャガイモの冷製スープ

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・自家製カンパーニュ系パン

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・コート・ド・ローヌ白

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・ホタルイカとラタトゥイユ、タプナード、ピマンデスペレット

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・カツオのグリエ、白アスパラ、ビーツソース

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・仔羊のトマト煮込み

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・マスカルポーネとブルーチーズのケーキ

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・コーヒー

 料理は従来のビストロ・ヌーのスタイルで変わりなく、初夏らしさも感じさせいい料理だった、旬のホタルイカとラタトゥイユを合わせたセンスは秀逸、続くカツオは磯貝氏がよく使う、ピーラーで削った白アスパラを乗せビーツの味を重ねる事で、日本の「カツオのタタキ」とは違った味わいで面白い。
 仔羊の煮込みは私の好物であるクスクス(スムール)を敷いて出て来た、柔らかく煮込んだ羊肉だが、煮込み過ぎる事なく旨味が消えていない、添えた野菜の扱いも良好で十分美味しい、「クスクス風仔羊煮込み」とも云えそうな料理だった
 スペシャリテのチーズケーキは独特の味わいでユニーク、チーズ好きの人は嵌ると思う。ワンオペながら毎日自家製パンを作るのは立派だ。

 磯貝氏の料理は、先日訪れた新富町「メゾンミッシェル」の小山氏の料理と共通点あると思う。大体同時期にPARISで働いていて、小山氏は10区のブルターニュ料理「Chez Michel」、磯貝氏は17区のバスク料理「‘L’Entredgeu’」、どちらも人気店で磯貝氏の話では週末は3回転する日もあり、死にそうになったそうだが(笑)、そうして鍛えられた料理力を感じる、だから何とか対応出来るのだろう。忙しくてもパニックにならない冷静さ、ブレない料理の味付けや乱れない盛付など、一人厨房では必須なものを持っている。
 磯貝氏はたしか1980年生れだから今年38歳、まもなく2児の父親となり、これから料理人として一番いい時期を迎えるのではないか?約5年通った人間としては、星など付いて白いクロスを使う店になり、値段が上がらない事を願うばかり(笑)。「応援している店なのに、何故そんな事云う?」と思われるかも知れないが、私の云いたい事を分かってくれる人は居る筈だ。

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 ワンオペ対応になったので、ランチタイム営業を止めてしまうかな?との懸念もあったが、磯貝氏は「閉めても夜の仕込みをしているので、あまり変わりない」との事で、その心配はしなくて済みそうだ、もしランチタイムに行って、注文が立て混んでいたら理解してあげてください。
 この日も私の他にはテーブル席に2組、カウンター席に2名の客が同時に居たが、料理出しも停滞する事なく、また客の方もリピーターなのか心得たもので、皆静かに食事を楽しんでいて、磯貝氏に話しかけようとするのは私だけだった(笑)。
 客が店を育て、育った店が客を育てる、こうした関係が生まれれば理想的で、仏語で「オーナー」の意味に使われる「パトロン‘patron’」の語源は、古ラテン語の「パトロヌス‘patronus’」で「保護者」を表す、対になるのが「クリエンテス‘clientes’」、現在使われる「クライアント」の語源で「被保護者」を表す。元の意味では両者の関係は一方通行ではなく、相互扶助関係であったとされる。
 現在は何でもお金が全てみたいな風潮になってしまったが、お互いに助け合う店と客の関係があっていいと思う、それが出来るなら、東京はもっといい食の街になる筈だ(笑)。


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代官山「レクテ(Recte)」(2018年4月)

 3回目の訪問になる代官山「レクテ」、佐々木料理長の料理を味わってから、個人的に東京で好きな店の一つになったが、これで「馴染み客」にもなった。以前にも書いた事あるが、江戸時代の遊郭言葉で、初めての登楼を「初見(しょけん)」と云い、2回目を「裏を返す」、3回目の登楼で「馴染み客」になる、最高位級の花魁となると、この3回目でようやく床を一緒にする事が出来たそうだ。だから「気に入った店があったら3回通え」は私の持論(笑)。
 平日昼の正午を過ぎた店内は既に女性客達で埋まっている、過去2回同様に個室に案内されたが、隣のスペースも埋まりほぼ満席となった。マスメディアで取上げられる機会は多くないが、わかる客特に値段と料理クオリティについて見方の厳しい女性客は、いい店を見逃さない。
 斎藤支配人とサービス&ソムリエの辻氏に挨拶し始まった料理、まずは料理から紹介したい。

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・富山産ホタルイカ、ブッラータチーズ

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・石巻産サワラ、大鹿村山菜(蕗の薹のソース)

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・音更町庄司農園はるきらり、ライ麦(自家製パン)

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・那須産グリーンアスパラガス、エスカルゴ

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・漁師藤本、神経締め鱸(山葵根とニョッキ)

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・豚足ファルシ(山葵菜)

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・辻ソムリエセレクションのワイン、ブルゴーニュ白とボルドー赤

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・江連農園、無農薬イチゴ(練乳のグラスを添えて)

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・細かく選べる食後ドリンク

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・パナマ、ラ・エスメラルダ農園ゲイシャ(+500JPY)

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・ミニャルディーズ

 まず黒い皿に盛られたホタルイカのアミューズが鮮やかない色合いと味、これからの料理へのいい序曲になる。続く鰆は皮目だけを炭火で炙ったとの事だが、長野県大鹿村の山菜の緑と合わせ春を感じさせる。
 緑アスパラとエスカルゴの組合せは初体験で、意外な相性に感心する。魚料理の鱸は絶妙な火入れ、「神経締め」の魚は注目されているが幾つか方法があり、通常は網や釣り上げの魚を船上で処理するケースが多いが、今回の鱸は「活け越し」と呼ぶ方法で、一旦生け簀に放してから翌日以降に締めたものだそうだ、船上締めに比べ魚がストレスを忘れて?いるので、身の味わいが増すと云われている。佐々木料理長の魚料理は毎回感心するが、この日も秀逸な皿だった。
 メニューに「豚足」の文字を見た時に「やられたな」と思った(笑)。フランス人の国民食でもある豚足だが、日本人は韓国料理のイメージからかあまり高級料理と思わない、でも皮と中身を分け他と合わせファルス状にして、赤ワインベースにして煮込んだと聞く、手の混んだ調理法によりガストロ料理に格上げされている。「古屋オーガストロノム」の豚足ファルスのグリエと共に、記憶に残る料理になった、豚足嫌いの友人にも食べさせたい(笑)。
 デセールも更に洗練されて良くなっている、若いパティシェールなので進化も早いと感じる。
 そして前回記事をUPしてから、「エスメラルダのゲイシャ」がプラス500円で飲めるのは凄いと、その筋?から云われたコーヒーを躊躇わずに飲んでみる事に、豆の市価100g2,000円以上のこの珈琲は格別だった、まず深い酸味が舌に来てその後を軽やかなコクと苦味が追随する、余韻も飛び抜けていて極上のブルゴーニュ赤、それもコートドニュイだなと勝手に解釈する(笑)、これは飲んでみる価値あり、どの世界にも上には上が必ずあるものだ。

 料理全体の印象を云うと、初訪問の昨年9月時から少し料理は変化して来たと感じた、季節的な傾向もあるだろうが、野菜や野草を多く使い軽快さも出して、日本のそれも東京代官山の客層に合わせていると思った。
 食後、客席に挨拶に来た佐々木料理長、「レクテ」になってから一年、顔付きも初めて会った頃に比べて少し穏やかになった気がする、PARIS時代に佐々木氏の下で働いていた料理人を知っているが、「佐々木さん怖かったですよ」と今でも云う(笑)、「でも仕事中以外は穏やかな人だった」との事で、日本に帰って来て月日が経ち、日本人に合わせ料理も変えなければならないし、何時も怒ってばかりもいられなくなったのだろう(笑)。
 私が「フランス時代と料理のアセゾネ(味付け)、バターの量等変えていますか?野菜はもっと火を入れていましたか?」と訊いたのだが、佐々木氏は「特にバターの量等は変えていない、野菜はフランスでは殆ど茹でて(ブランシール)提供していたが、今は焼きが多くなった」との事。たしかにこの日の野菜は浅く火を入れたか、加熱しないものが多かった。現在国産食材を中心にしているので、日本の繊細な野菜に合わせ、且つ日本人の好みに沿わせて来たのだと思う。
 サービスも良質で心地よく、支払いも安いと感じる、これは女性達が見逃さない筈だ(笑)、だからと云って、道の向かいにあるフェミニン系フレンチとは方向は違う。フランス料理初心者からフレンチフリークまで、バランスの取れた良店としてお勧め出来る店だ。


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プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
店の点数評価等はしません、「食と人」を描きたいと思っています。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

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