最後の晩餐にはまだ早い


神戸・元町「bb9」(2015関西食べ続け⑦」

 関西食べ続け巡礼もようやく終盤になった4日目、大阪から足を伸ばし向かったのは神戸元町、目指すは以前から行ってみたかった、薪の熾火により全ての調理をするレストラン「bb9」だ。
 私が関西で訪れる店を選ぶ際に、一番ポイントにしているのが「東京には無い店」だ、フランス料理で云えば前記事の「コーイン」などはまさにそれ(笑)。ところがここ数年関西、特に大阪で開業するフレンチはどうも東京スタイルばかり、見かけは現代スペインと北欧が混ざったみたいな、モダンながら少量多皿で細部に拘り過ぎの料理を並べる店ばかりで、料理画像を見ただけで「またか」と、行く前にがっかりしてしまう。
 パリとリヨンの料理が違う様に、東京と大阪(関西)の料理も違っていい筈、せっかく交通費払って来たのに、東京的料理はパスしたい、もっと関西ならではの、個性を感じさせる店へ行きたいと考えていた時に、思い付いたのがこの「bb9」だった。

 料理人の坂井氏は、スペイン・バスク山中にある薪焼き料理専門店「エチェバリ」で働き、帰国後2011年に、神戸元町で同じく薪焼き専門の「ヌーダ」を開業、昨年店をリニューアルしたのに伴い店名も変更した。
 この店に興味を持ったのは、在京のグルメ達の評判がすこぶる良かったからで、それもベテラングルメほど賞賛している、これは一度行かねばとずっと思っていた。今回は大阪の友人が同行してくれる事になり、何と約40年ぶりの神戸訪問(笑)。途中阪神電車の車窓から甲子園球場の実物や、震災で倒壊した阪神高速が見えて、ちょっと感動した。
 元町駅到着後に時間があったので、商店街を散歩してみた、店頭に女性用下着が山積みされる大阪のバタ臭さとは違い、どこか都会的だけれど庶民的な温かさを感じる、東京なら阿佐ヶ谷の商店街みたいな雰囲気だった。

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 店の場所は、商店街から1本駅側の細い路地から更に横道に入った判り難い場所にある、ファサードには店名等の表示はなく、知らない人がフリで入れる雰囲気ではない。
 店内に入ると迎えてくれたのは、サービス担当の西川氏でソムリエも兼ねる。窓際席に案内されるが、暗い店内に窓から差す光、木部剥き出しのテーブルにウェグナーのチェア、BGMはジョスカン・デ・プレか?ちょっと「やり過ぎ」なまでに非日常感を演出していて、まるで中世ロマネスク建築の礼拝堂内みたい(笑)。
 西川氏セレクトのバスクの微発泡白ワイン、チャコリで乾杯し、昼夜共通の8,500円ムニュをいただく、当日出された料理は以下のとおり、

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・明石さより、薪焼き

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・自家製バター(トリュフ)

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・いいだこ薪焼き

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・淡路なごやふぐ、薪焼き

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・自家製河内鴨チストーラ、薪焼き

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・季節野菜(キャベツ、黒大根、若ごぼう、ロマネスコ、九条ねぎ、大根、蜜芋、黄かぶ、カリフラワー、ルッコラ、ツタンカーメン、マーシュ、おおたにわたり)

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・淡路天然ひらめ、薪焼き(ソースはピルピル)

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・トリュフと卵のカルボナーラ風スパゲットーニ

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・熟成牛肉の薪焼き(ガルニはパースニップ)

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・チョコレートのアイス、苺のソース

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・薫香アイスと薫り茶

 食べ終わって、これは「利休の朝顔」だなと思った。秀吉が訪れる際に、庭の満開の朝顔を全て切り取り、中の一輪のみを茶室に生け、花の存在感を表したとされる千利休の故事みたいに、他の料理人とは発想からして正反対のやり方だ。
 料理されたものの背後には、多くの料理されなかったものがある、それをどう感じるかで、この店に対する評価が180度変わる。受け取る側によっては「こんな炉辺焼きみたな料理が続くのが、独創なの?」と訝る人もいる筈、そしてその感じ方が間違いとは云えないのも真理だと思った。
 私自身はどう感じたかは、昨夜「コーイン」の豪壮華麗で長大なグランドオペラ的料理を体験した後だったので、余計にこうした無伴奏ソナタみたいなやり方は、多様性としてあっていいと思った。素材を裸にする、最良質な部分を抽出する方法は、西洋料理より和食、それも天ぷらや寿司の思考に近い、肉類より魚と野菜に惹かれたのもそれが理由かも知れない。
 薪焼きによる火入れ、薫香は確かにプラスにはなっているが、この料理人が一番やりたい事は、この「抽出」と云う手法ではないかと思った。

 料理を絶対的、具象的なものと考え、ピラミッド型の階層を築いて来たフランス料理、これに対して季節や時間軸、相手の経験値により変化する抽象的な日本料理、この店が提供しようとするのは後者ではないかと感じた。それだからこそ、日本や世界中の名店を訪れた、経験値の高いグルメ達を刺激するのだと思った。
 食べ終わって大阪のホテルへの帰り道で、「絶対と相対」「具象と抽象」「西洋と東洋」等々、考える事が実に多かった、知能を刺激するレストラン、「また来たいか?」と問われれば、私は「Yes」と答えたい。


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代々木八幡「アルドアック」(2014年11月)

 このブログでは毎年末に「今年印象に残った店」を挙げ列記して、自分の備忘録にしているのだが、そろそろ今年もこれを選ばないといけない(笑)。初訪問して良かった店は、出来るだけ再訪して初回の印象を確認したいと思っているのだが、限られた日程と財布の中身のため、なかなか思い通りにはいかないものだ。
 代々木八幡のモダンスパニッシュ「アルドアック」も、再訪したいと思いながらも伺えていなかった。今回知人の料理人から「ワンオペレーションの店を勉強したいから」との事でこの店の名前が出たので、案内を口実にくっついて行く事が出来た(笑)。
 初回利用は4月なので、もう7ヶ月も経ってしまった、「光陰矢のごとし」と云うが、私の年齢になると矢どころかライフル弾位のスピードに感じてしまう(笑)。

 店主の酒井涼氏は10月にスペイン・ガリシア地方~パリに研修旅行へ行って来たばかりなので、その成果が料理に反映しているのかの期待もあった。
 「グリグリ」同様に2階の判り難い店舗への到着は18時半、カウンターの一番奥に座らせてもらう、カウンター内は前回同様酒井氏が一人で対応する。食前酒にはやはりチャコリだろうと思ったが、季節的にシードルがお勧めとの事でバスク産の個性的なシードル(シドラ)で乾杯。
 この日に出た料理(7,500円)を以下に全品紹介したい、

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・リーキ、ジャガイモ、塩鱈のスープ

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・アミューズ(オリーブのナンプラーバター詰め、カボチャムース、鳥と豚リエット、オムレツ、いろいろな肉のクリームコロッケ、生ハム、リンゴブルーチーズチョコボール)

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・イナダ、ムール貝、レンズ豆タルタル

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・サンマ、パパーダ(ベーコン)ほうれん草巻き、鯛と鳥のスープ

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・アジ、サフランソース

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・赤ピーマン詰め物、シイタケ詰め物

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・白イカ、イカコンソメソース、イカスミ

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・魚介パエジャ

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・鯛、生ハムと鯛アラとキノコのソース

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・牛ほほ肉赤ワイン煮

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・洋ナシコンポート、パニラとオリーブオイルのアイス、イチジクスライス

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・カフェ・ソロ(エスプレッソ)

 アミューズで出た塩鱈とジャガイモのスープは、バスクの名店「マルティン・ベラサテギ」で出た同種のスープを思い出した。鍋の残り汁みたいに魚介と野菜の旨さが凝縮している、「お祖母さんの味」みたいに懐かしく記憶を呼び覚ます味(笑)。
 以下細かく説明すると長くなるので簡単に留めるが、アミューズは変化と面白さが増したと感じた、続く魚料理三品はこの日特に印象的で、中でも鯵はフランス料理ではあまり使わない魚なので、美味しさに「目からウロコ」の思いだった(笑)。
 定番の赤ピーマン(ピキージョ)の次は珍しい白烏賊の料理、烏賊墨の黒さとの対比が見た目だけでなく味の厚みにもなっている。海老味が主体のパエジャは日本人なら旨いと思わない訳がない(笑)、鯛はフランス料理店でもなかなか出会えない質と的確な火入れだった。
 牛ほほ肉は赤ワインとビネガーを使い酸味を際立たせたもの、この料理人は「フロリレージュ」の川手料理長と双璧に酸味の使い方が巧みだ。
 デザートは鉋状のスライサーで削る凍らせたイチジクが面白い、初めて見たが今迄にもあって良さそうなアイデアだ。
 そして特別なラボで豆をローストして貰っていると云う、エスプレッソも美味だった。

 この店の料理を「モダンスパニッシュ」のカテゴリーに入れているが、どうもそう簡単に分類してはいけないと思い始めている、料理人はフランス料理が好きでよく食べに行っているし、和食や中華からヒントを得たのではないかと思える料理もある、現代スペイン料理をベースにはしているが、ジャンルに固執していない、もう「酒井料理」と呼んでいいのかも知れない。
 この日は特に魚介料理が良かった、失礼ながら決して高級食材を使っている訳ではなく、秋刀魚、鯵みたいな大衆魚を使いながらも、食べ終わっての充実感が大きい、こうした多皿構成の料理は出し方が難しく、時に単調あるいは方向性の判らないものにもなり兼ねないが、酒井料理は起承転結があって飽きさせない。

 料理は7ヵ月前より更に一段進化した印象を受けた、そして前回も感じた事だが、調理から片付けまで全て一人でこなす酒井氏のカウンター内の動きに無駄がない、舞台上での名優の一人芝居、あるいは茶道を極める達人の所作みたいで、つい見入ってしまう(笑)。
 レストランにベタなサービスを求める人には向かないが、「今の東京」を感じさせてくれる店、先入観に囚われずに、料理が好きな人なら一度は訪れるべきだと思う。


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代々木八幡「アルドアック」

 食にかける労力とお金は私など足元にも及ばず、日頃から尊敬しているグルメなご夫妻のお誘いに応じて、この夜に初めて訪れたのは、小田急線代々木八幡駅&メトロ千代田線代々木公園駅から近い、モダン系スペイン料理「アルドアック」。夫妻が最近「一押し」で、私自身も「行きたい」と思いながらも、我家から遠いのと夜しか営業していない事もあり、行きそびれていた店だった。

 店の場所は、富ヶ谷交差点近くの商店街の中にある小さなビルの2階で、目立たずフリの客は来ないロケーション、近くに自然派パンの店「ルヴァン」があり、そこへ来ていたからすぐ判ったが、土地勘の無い人は迷うと思う、2階に上ると店名の書いていないドアがあり、「本当に此処?」と不安になりながら開けると、カウンターが目に入って来て一安心(笑)。
 この店は料理人一人で全て対応する、料理の仕込みを行い、客が来たら酒を注ぎ、調理をして盛り付ける、もちろん会計まで担当する。このため店内はカウンターだけの9席、この日は我々を含め6名の利用で、それも時間差があったので問題なかったが、これで同時に満席になったら、さぞ大変だろうなと想像してしまう。

 料理人は酒井涼氏、まだ33歳の若さだそうだ。WEB情報によると都内の有名スペイン料理店で働き、料理長も務めた後に独立、2012年6月にこの地に開業した。スペイン本国では食事に行った時に内緒で厨房を手伝った?程度で、特に修行歴は無いとの事だ。
 此処へ来たかった理由は、この日同行した夫妻を始め、食仲間の評判がとても良かったからで、この点最近では「シック・プッテートル」と双璧の店だ。

 イケメンの酒井氏と挨拶を交わし、始まったこの日の「ムニュ・デギュスタシオン」(こうメニューに書いてある)(7,500円)全品を紹介する、

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・チャコリを注ぐ酒井氏、チャコリはバスク産の発泡白ワインで、バルでピンチョス(タパス)を味わうにはベストマッチとされ、この様に高い位置からグラスに注ぐのが一般的。

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・スナップエンドウの鞘のスープ

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・アミューズ(鰯のマリネ、塩鱈のブニュエロ、生ハムのクリームコロッケ、エンパナディージャ、ナンプラーバターを詰めたオリーブ、リンゴとブルーチーズにミルクチョコ)

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・蛸の煮込み、生ハムで出汁を取ったスープ

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・イカのプランチャ

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・アホブランコ、ハモンイベリコ

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・ミロの絵画を思わせる、ピキージョ(赤ピーマン)と椎茸の詰め物

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・長崎産黒鯛、鯛の白子、スープ仕立

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・イカスミのパエージャ

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・煮込んでからプランチャした岩中豚、赤ワインビネガー風味

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・エスプレッソのプリン、バニラとペドロヒメネスのアイス?

 店の規模と事前のWEB情報で、この店ではサン=セバスチャンのバル、例えば旧市街にある「ラ・クチャラ・デ・サン・テルモ」みたいな、ちょっと凝ったピンチョス的料理を出すのかなと思っていたが、予想とは少し違った。バルと云うよりもっと体系的に流れを考えた料理で、料理構成は日本の板前割烹の「おまかせ」に近い感覚だ。ブログに書いた、大阪「桜花」の料理をスペインの料理法でアレンジしたら、こんな感じになるのでは?とも思った(笑)。
 特に印象的だった料理を挙げておくと、先ずは「アホブランコ」を含むスープ3種、さりげない物だが丁寧な仕事が感じられた、それと「アミューズ」と表記しているが、紛れもない「ピンチョス」である皿盛りの前菜、これは和食なら「八寸」だ(笑)。
 鯛の料理とパエージャもいい出来、中国料理の技法を応用と話していた豚料理は、酸味が「酢豚」みたいで面白い。料理全体的に酸の使い方が巧いし、スペイン現地料理より塩分・脂分が抑えてあるので、酒飲みでない私には嬉しい(笑)。
 一人厨房ながら盛付けも丁寧で、よくここまでやると感心する。その割にテンションを高くしている訳ではなく、話しかけても応えてくれるし、淡々と料理を進めて行く姿は、今までいなかったタイプの「新世代的料理人」と言えそうだ(笑)。

 これは噂に違わない店だ、そしてこれからも上昇しそうな勢いがある。僅かながら「一人調理の限界」も感じないでもなかったので、スタッフが増えれば更にポテンシャルは上がると思う、でもそうなると次はこの店の容量では足りなくなるし、値段も上がってしまう事になるが(笑)。
 ここはまた来てみたいし、特にモダンスパニッシュの本場?である、関西の食通の友人達を連れて来て感想を聞いてみたいと思った(笑)。我家から遠いのが難だが、ローテーションに入れたい店がまた増えてしまった、いい料理でした。



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プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

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