最後の晩餐にはまだ早い


映画「ノーマ東京-世界一のレストランが日本にやって来た」

 出版社勤務の友人のご厚意により、封切前の映画試写会に参加する事が出来た、その映画は食に興味のある人なら観たくなると思う、12月10日公開予定の「ノーマ東京-世界一のレストランが日本にやって来た」だった。
 昨年、日本橋のマンダリンオリエンタルホテル東京にて開催された「NOMA東京」、デンマーク本店からスタッフ全員(77名とされる)が参加し、5週間と云うフェアにしては異例な長期間の「引っ越しレストラン」だったが、主にその準備段階を追ったドキュメンタリーが製作されていた。
 映画や小説の紹介記事の常として、以下は「ネタバレ」を伴うので、観ると決めている人は読まない方がいいかも知れない(笑)。さらに私自身はフェアに参加しておらず、またコペンハーゲンにある「NOMA」本店も訪れていないので、この店の料理については語る資格はなく、あくまでも映画自体の印象と思って欲しい。

        161104-1.jpg
 映画はまず本店から数名のスタッフが「先乗り」として、マンダリンオリエンタル東京にやって来る処から始まる、フランス料理店ならスーシェフやシェフ・ド・パルティクラスだと思う、まず彼等は厨房の狭さや暗さ等環境がよくない事に驚き、本国との野菜の味の違いに困惑する。
     161104-2.jpg
 日本で提供するメニューを考えるのだが、なかなか纏まらない。スタッフのモノローグ的な紹介があって、各自料理人になった動機や「NOMA」で働く事の意義を語るのだが、私はこの場面が一番好きだ(笑)。
     161104-3.jpg
 そして料理長のレネ・レゼピが遅れて日本へやって来る、勿論その間にも電話では何回も連絡は取り合っているが、現場を知りスタッフ達と直接会って話すと、それまでとは違う空気が支配する。料理長は部下が考えた、本店とあまり変わらない料理に駄目出し(笑)、日本で行う意義を皆に強調し、食材を探すために出発する。
     161104-4.jpg
 築地市場から始まり、北は青森白神山地から南は沖縄まで、雨の中で野生茸を探し、立ち木の枝を集める、苺農家では熟していない白い苺を求め、未熟だからと売りたがらない農家と揉める(笑)、さらには地方料理を味わい「日本」への理解を深めようとする。
     161104-5.jpg
 探し集めた日本の食材からインスピレーションを得て、フェアメニューの試作を重ねながら構築する、この辺りは料理人の作業と云うより、映画等で見るルネッサンス時代の美術家工房みたいな印象だ。
     161104-6.jpg
 開催日が迫って来る、ダイニングの内装もフェアに合わせた特別仕様、料理に関してはディティールに拘る料理長も、店内装飾等に関する日本人の細やかな作業に感嘆する。
 そして遂にフェアオープン当日、最初の客がやって来た、厨房前で迎えるのはレネ・レゼピ本人、これからの時間どんな信じられない料理が提供されるのか・・。
     161104-7.jpg

 原題が「Ants on a Shrimp」なのが少々笑えるが、お約束どおりにちゃんと「蟻」も登場する、日本の蟻では長野産が最上だそうだ(笑)。
 勿論レネ・レゼピ料理長も登場しながらも、どちらかと云えば彼の下で働く若いスタッフ達が主役の、特別イベントを追ったメイキングムービーと云う印象を受けた。多国籍なキッチンスタッフを束ねるのは、マケドニア人の父とデンマーク人の母を持ち、スペインとアメリカで料理を学んだ料理長、彼・彼女達が日本で開催したフェアをオランダ人?の監督が撮ったドキュンメンタリーと云う、まさにグローバルな現代料理界を表わしていると思う(笑)。フィクションだが、ロンドンが舞台の「二ツ星の料理人」では、キッチンで仏語が聞こえていたが、このドキュメンタリーでは英語だけ、今やそうした時代になったのだ(笑)。

 なお映画の公式サイトは以下のリンクで、予告編も観る事が出来る。
http://noma-movie.com/
 個人的な希望を云えば、実際にフェアに参加した客の感想や運営側の話、また「NOMA」が日本に何を伝えたのか等、もう少し日本人の「声」が聞きたかった気もするが、特に日本向けに作った映画ではないので、それは仕方ない処か。
 映画としての完成度は別にしても、料理人やレストラン関係者、レストラン愛好家が観れば、客としては知る事出来ない舞台裏が見られるので、きっと「面白い」と思う筈だ(笑)。
監督:モーリス・デッカーズ、2016年オランダ映画

※今回のブログに掲載した映画のスチール画像は、配給元から提供を受け、ブログへの掲載許可を得ています、画像等の無断転載はおやめください。

スポンサーサイト
  1. [ edit ]
  2. 書籍・映画
  3. / trackback:0
  4. / comment:0

野地秩嘉著「イベリコ豚を買いに」

 食レポは1回休みにして、最近読んでとても面白かった本を紹介したいと思う。
鮮やかな赤と黒の装丁が印象的な「イベリコ豚を買いに」で、小学館から2014年4月に刊行された。著者は野地秩嘉氏で、過去「キャンティ物語」「食の達人たち」等、飲食関連の興味深いノンフィクションを書いている。

        160820-1.jpg

 書名のとおり、この本の主役はイベリコ豚だ、原産地のスペインでは‘Cerdo Ibérico’と呼ぶ、Ibéricoとはイベリア半島の事。最高品質の養豚で値段も飛び抜けて高い、特に腿部分を塩漬け乾燥した生ハムは「ハモン・イベリコ‘Jamón Ibérico’」と呼ばれ、スペインのレストランやバルでは別格の値段が付いている。
 またハム以外の精肉もレストランで好まれ使われている、以前より輸入量が増えたみたいで、今年になって都内のレストラン数店で食べる機会があった、ロース部分をローストした料理や「とんかつ」もあった。日本産の豚肉に比べると味が濃く、脂身の旨さに特徴がある。
 でもこれだけ出回ると、以前から思っていた疑問がまた沸いてきた、それは「イベリコ豚の個体数はそんなに沢山居るの?」だった。三元豚みたいに人為的に作られた養豚なら生産数も多いが、もし純血種を保っているなら、日本を始め世界中のレストランへ供給出来る程の頭数が実際に存在するのか、そもそも「イベリコ豚」とは一体何を指してそう呼ぶのか?こんな思いを抱えている時に出会ったのがこの本だった。

 著者は偶然イベリコ豚肉を使ったメンチカツを食べた事から、この豚に興味を抱く、そしてジャーナリストの習性から、本物のイベリコ豚を見たいとの思いに動かされて、スペインへ行こうとアポイントメントを確保するのだが、ここで問題が発生する、2010年宮崎県で発生した口蹄疫によるものだ、日本からの見学はキャンセルとなってしまう。それでも著者はあきらめず解決法を思い付く、それは「見るのが無理なら、買うならOKではないか?」と、無謀にもイベリコ豚そのものを購入する事を思い付く(笑)。

     160820-2.jpg
 
 そしてイベリコ豚について学ぶのだが、この部分を読んでいて長年の疑問が氷解した(笑)、過去イベリコ豚については「ドングリだけを食べさせて飼育した、スペイン固有の黒豚」だと思い込んでいた、たしか開高健の著書にもそうあったと思う、これは正しくないとは云えないが、正解にするのはあまりに乱暴な定義だった(笑)。
 過去には生産詐称的な事例も多く、信用を失った時期もあり、現在は現地の生産者協会によって、以下の通りイベリコ豚の定義が決められている。
・母が純イベリコ種の豚に限られる。
・種豚(父)は純イベリコ種またはデュロック種に限られる。
・母がイベリコ種で父がデュロック種の交配豚(イベリコ種50%)はイベリコ豚と呼べるが、このイベリコ50とイベリコ種以外の豚との交配豚(イベリコ種25%)はイベリコ豚とは呼べない。
 つまり父母共に純イベリコ種である純血種及び交配一代限りの種を総称して、「イベリコ豚」と表記出来る事になる。
 次に、同じイベリコ豚でも飼育の方法によって呼び方が変わって来る、
・ベジョータ
 屠畜時の月齢は14ヶ月以上、出荷前に放牧地でドングリまたは自生植物で穀物飼料を与えずに60日以上放牧肥育するが、純イベリコ種とそれ以外では表示を変えて出荷する。各養豚場の中で血統も生育状態も良いペジョータになる豚を選別する、エリート豚であり言わばイベリコキャリア組だ(笑)。
・セボ・デ・カンポ
 ベジョータ同様の方法で放牧肥育したものだが、穀物飼料も与える、屠畜時の月齢は12ヶ月以上。
・セボ
 穀物飼料だけで肥育されたもの、屠畜時月齢は10ヶ月以上。

 精肉として市場に出回るのは殆どがセボ(スペイン語で「補充」の意味)だ、またペジョータに食べさせるドングリも、日本で一般的な椎の実ではなく、現地では樫の木の実、実が成っているのは11~4月なので「ドングリだけを食べさせ飼育した、スペイン固有の黒豚」と云う表現では、あまりにアバウト過ぎるのだ(笑)。「黒毛和牛」にもランクがある様に、イベリコ豚にも階級が存在する、また同じペジョータでも生産者や、同じ飼育場中でも母親豚の違いによって品質が違って来る。

 著者は口蹄疫騒動が納まった後、スペインの生産地に何度も足を運び、遂に純血種のベジョータを購入する、そしてこれを使ってある商品を製作して販売する事になるのだが、詳しくは本書を読んでいただきたいと思う(笑)、でも思わせぶりもいけないので、参考画像を一枚だけ載せておく。

        160820-3.jpg

 イベリコ豚を扱う飲食店、そしてイベリコ豚を食べる客側も是非読んで欲しい本、今年読んだ食関係の本では、ベテラン有名シェフの自慢話より断然に面白かった。
(イベリコ豚の画像は書中から、最後の画像はネット上から引用しました。)


  1. [ edit ]
  2. 書籍・映画
  3. / trackback:0
  4. / comment:0

映画「二ツ星の料理人」

 6月11日に全国公開される、料理人とレストランをテーマにした映画「二ツ星の料理人」、ありがたい事に試写会に参加する事が出来、先日飯田橋にある配給先の(株)KADOKAWAの会場で公開前に観させてもらった、なかなか面白い内容だったので、このブログで紹介したい。
 ただ「映画を観る」と決めている人には若干「ネタバレ」になるので、読まない方がいいかも知れない(笑)、「観ようかどうか迷っている」人にはご参考までに。
 まずは簡単なあらすじからで、

        160524-1.jpg

 パリで外国人ながらミシュラン二ツ星を獲得していた凄腕料理人が、酒・女・薬で身を持ち崩した末に忽然と姿を消した。死んだとも思われていたこの男が、3年経って現れたのがロンドンだった、その間ずっとアメリカ地方都市のレストランで牡蠣の殻剥きをしていたのだ。
 パリ時代のレストランオーナーの息子が開いたフランス料理店を訪れ、「自分を雇えば、この店をミシュラン三ツ星にする」と云い張って、半ば強引にシェフの座に就く。
 パリ時代の同僚、街場で見つけた女性料理人達を集め、いざ三ツ星店へなるため邁進するのだが、3年間には料理界のトレンドも調理技術も変わっていたので、なかなか思い通りに仕事が進まない、彼に付いて行けないスタッフに苛立ち、調理場で怒鳴り散らし皿を投げる等、散々なスタートになってしまった。
 その後何とか体制を整えマスコミの評価も上がるが、パリ時代から引きずっていた私的トラブルに見舞われる、そんな時店に現れたのがミシュラン調査員らしき男性二人客、料理長は大慌てで彼等に料理を出すのだが、果たしてその評価はどうだったか、三ツ星は取れるのか?
     160524-2.jpg

 以下は個人的感想で、
 「ミシュラン評価は絶対」「三ツ星になれるためなら何でもする」みたいな価値観は、もう十年前に終わったと思うが、それでも「三ツ星」をメインテーマにしないとこの映画は成立しなかった、その点では上手く筋立てをしている。
     160524-3.jpg

 主役の料理人アダム・ジョーンズ役を演じるのが米国人俳優ブラッドリー・クーパー、デビット・ベッカムにアンディ・ガルシアを混ぜたみたいなイケメンなのが、ちょっと現実離れしているが(笑)、この役に必要なダーティでキレやすい料理人らしさは出ていた。
     160524-4.jpg

 共演者では、シングルマザーの料理人エレーヌ役のシエナ・ミラーがとても良かった。料理する演技は本気度が漂っている。
     160524-5.jpg

 厨房の臨場感を出すためのセットや調理道具等は本物、TVと映画を較べてはいけないが、「天皇の料理番」のセットとはだいぶ違う(笑)。主要配役以外の調理スタッフは全て料理人を使い、キャスト全員がこの映画のために、実際に長時間厨房トレーニングを重ねたそうで、この辺りはプロの料理人が見れば私以上に感心する筈だ。
 主人公は、実在の英国人料理人ゴードン・ラムゼイをモデルにしたとの事、彼の下で働いたマーカス・ウェアリングが映画のチーフコンサルトなので、この本物感が可能だったと思う。
     160524-6.jpg

 これもし日本映画なら、主人公のパリ時代のエピソードや、アダムとエレーヌの関係について、もっと時間を取りウェットな感情を入れようとするのだが(笑)、それは必要最小限にして、判り易いエンターテインメントにしたのが成功したと思う、一言で云えば「フィクションの面白さ」だ。
 あまり詳しく書けないが、映画の結末が、日本的な「和を以て貴しとなす」みたいになるのがちょっと意外な感もあったが、今世界中に欠けているものがこれなので、かえって受けるのかも知れない。
 あえて言えば、原題の‘ADAM JONES AT THE RESTARANT’を「二ツ星の料理人」にしたのが、映画の内容から考えると、もう一捻り欲しかった気もする(笑)。
 特に料理人、レストラン関係者、レストラン愛好家には観て欲しい、お勧めしたい映画だと思う。

・「二ツ星の料理人」
6/11(土)より全国ロードショー
配給:KADOKAWA
公式サイト:http://futatsuboshi-chef.jp/ ・ここで予告編が見られます。
Artwork © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

※なお今回のブログに掲載した映画のスチール画像は、㈱KADOKAWA映像営業部から提供を受け、ブログへの掲載許可を得ています、画像等の無断転載はおやめください。

  1. [ edit ]
  2. 書籍・映画
  3. / trackback:0
  4. / comment:0

神山典士著「伝説の総料理長 サリー・ワイル物語」

 「読んで面白い」と久しぶりに思った食関連の本を紹介したい、2005年に刊行された単行本の改題文庫化だ。

       150627-1.jpg

 サリー・ワイルSaly Weil(1897~1976年)はスイス出身の料理人で、1927年横浜ニューグランドホテル開業にあたり、初代総料理長として就任し、日本の西洋料理(当時は「フランス料理」とは呼ばず、洋風料理はこう総称されていた)に変革をもたらし、多くの弟子達を育てた名料理人だ。
 著者は日本のフランス料理の歴史を調べているうちに、この料理人の名前を知り興味を抱く、のちに日本のフランス料理界を代表する事になる名料理長達が、何人もワイルの下で働いていたからで、東京プリンスホテルの木沢武男、日活ホテルの馬場久、「天皇」とまで呼ばれたホテルオークラの小野正吉等だ。またワイルの尽力により、スイスやフランスでのレストラン就労が可能になり、彼の事を「恩人」として慕う料理人も多く、「スイスパパ」なる尊称で呼ばれていた事を知る。

 ワイルの物語を書くにあたり、資料を調べていて著者は幾つかの疑問に突き当たるのだが、それは、
・フランス人ではなく何故スイス人が選ばれ雇われたのか?
・サリー・ワイルは厨房に革命をもたらしたと伝えられるが、それはどんなシステムだったのか?
・第二次大戦下、料理人として活動できなくなり、外国人のため当局の監視が厳しくなっても、彼は何故日本に留まったのか?
・終戦後、結局はスイスに帰国するのだが、その後料理人としては不遇だったと伝えられる、その理由は何故なのか?
・日本から本場フランスで働きたいと云う若者達の窓口になり、就労先まで斡旋する事になるが、そこまで彼を駆り立てたものは何か?

 筆者はこれらの答えを求めるために料理関係者と何人も会い、スイスを訪れ生存していたワイルの姪に会って話を聞き、貴重な資料を入手する。そうしてこの疑問を解いていく。
 判らない事があったら、まず現場へ行って調べるのはジャーナリストの基本だ、書いたのは元々料理業界とは関係のない人みたいだが、食材や調理法についてよく調べていて、私が読んだ限りにおいて間違いはなかった、料理については相当勉強したと思える。

 焼いた肉等をワゴンで客席へ運び、そこで切って盛り付けする「ゲリドンサービス」、コースメニューではない単品での料理注文「アラカルト」、厨房で料理人達が一定の期間で持ち場をチェンジする「シフト制」、これらはワイルが日本で初めて導入したとされる、料理長が積極的に客席へ出て客と会話をするのも、それまでの日本のレストランでは無い事だった。今は喫茶店でも見かけるが、ご飯の上にペシャメルソースを乗せる料理「ドリア」を発案したのもこのワイルだとされる。
 絵画や彫刻と違い料理そのものは未来へ残す事が出来ない、写真も残っていないので、ワイルの料理がどんなものであったのかは想像で語るしかないが、おそらくエスコフィエを基本とする正統的なフランス料理だったと思われる、それを日本人の好みと風土に合わせる柔軟性を持っていたのだろう、外国人料理人が滞在する国で認められるか否かは、これが一番重要な点だ、それは現在PARIS等で活躍する日本人料理人達が証明している。

 「天皇の料理番」の放映により秋山徳蔵が注目されているが、調べてみると明治~昭和前期にかけては優秀なフランス料理人が何人も存在した。以前は日本のフランス料理発展は戦後、特に辻静雄登場以降ではないかと思っていたが、どうもそうとばかり言えないのではと考え直している。美術業界に少し関係していた私は、明治期の美術や工芸に接する機会があり、特に金工、木工、漆芸、象牙細工等は超絶技巧な作品が残されていて、当時の日本人アルチザン達の技術は世界に誇れるものがあった、それと同じく料理に関しても、相当なレベルまで行っていたのではないかと想像している。残念なのが料理は工芸品と違い、そのままの形では後世へ残す事が出来ないので、それが最も辛い点だ。

       150627-2.jpg

 サリー・ワイルの若い頃の画像と、昭和31年にかつての弟子達の招きで再来日した時に撮られた、コックコート姿の画像を挙げておく。

       150627-3.jpg

 私の持論「いい料理人は、皆いい顔をしている」は当たっている?(笑)
 日本と同化した外国人料理長の元で、凄い技術者集団があったのは事実だ、彼等の業績を土台にして、現在の日本人料理人の活躍があると思う。料理人や料理業界関係者、私みたいな単なる料理愛好家でも、読んで面白い本なのでお勧めしたい。
(草思社文庫 ISBN 978-4-7942-2135-3)


  1. [ edit ]
  2. 書籍・映画
  3. / trackback:0
  4. / comment:0

私の本棚から

 猛暑の中で外食のペースが落ち気味なので、今回は飲食店リポートではなく料理書籍の話をしたいと思う。
 このブログを読んだ人から、「料理は何処で勉強されたのですか?」とか「(料理)業界関係の方ですか?」と聞かれる事があるが、がっかりさせるといけないがどちらも答えは「否」で、知識は殆どが本から得たもの、「独学」と云えば聞こえはいいが、要は「我流」(笑)。私が独学派の料理人に惹かれ易いのも共通するものがあるからだと思う。
 今は積極的に料理本を買う事は殆どなくなり、書店の立読みで済ませる事が多くなったが、若い頃は大型で高価な書籍も買った、既に処分してしまった物も多いが、現在書棚に残っている本で、私自身が何がしかの影響を受けたものを紹介したい、これから料理を勉強しようとする若い人達の参考になればと思う。

        140816-1.jpg

・辻静雄著作集(新潮社)1995年刊
 辻静雄ならまず代表作と云うべき「パリの料亭(レストラン)」(新潮文庫)を挙げるべきで、そうするつもりでいたが本が見つからなかった、たぶん誰かに貸した後返ってこなかったのだと思う(笑)。この著作集は死後刊行されたものだが、まず名人佐野繁次郎の洒脱な装丁が見事。中では「ヨーロッパ一等旅行」が特に読み応えがあった、「吉兆」主人の湯木貞一一行と共に、当時の欧州を代表する高級店を巡る旅は、まさに羨望の気持ちで読んでいた。辻静雄や湯木貞一みたいな巨人は、もうこの国には生まれないだろうと思うと寂しくもなるが、TV等で見ただけでも同時代を共有できたのは幸運であった。

        140816-2.jpg

・パリの味―シェフたちは藝術家/増井和子著(文芸春秋社)1985年刊
 日本人が書いたフランス料理の本を一冊挙げろと言われたら、私ならこの本を選ぶ。長いパリ生活の経験で得た並外れた知識だけでなく、文章が瑞々しく感性豊かで、「理」の辻静雄に対する「情」の増井和子と言いたい位に対照的だ。そして文芸春秋社写真部長の故丸山洋平の料理写真が素晴らしい、私の料理画像はこの人を目標にしているのだが、当然ながら足元にも及ばない(笑)。

        140816-3.jpg

・フランス美食街道―レストランが怖くなくなった日/山本益博著(文芸春秋社)1988年刊
 僭越ながら文章については前2冊に比べると落ちる、それでも当時これだけの熱意を持ってフランス特に地方を回った労力は称賛に値すると思う、「アラン・シャペル」「ヴィヴァロワ」みたいに、既に消えてしまった名店の貴重な記録にもなっている。装丁もとても洒落ている。

        140816-4.jpg

・ヨーロッパ天才シェフ群像/アンリ・ゴー編(学習研究社)1994年刊
 まずはこの本に出てくる料理人達が凄い、25店26人(「オーベルジュ・ド・リル」はエーベルラン親子として出ている)「綺羅星の如く」と云う表現は古いかも知れないが、今あらためて見ると、この本が刊行された時期はフランスの料理界にとって「黄金期」だったと思う、私はこれを読んでブラス、トラマ、ガニェール、ロワゾー、ラムロワーズの店へ「行きたい」と熱くなり、やがて訪れる事が出来た、元来出不精の私をそこまで駆り立てる何かが、この本にはある(笑)。

        140816-5.jpg

・十皿の料理/斉須政雄著(朝日出版社)1992年刊

        140816-6_201408151753593f8.jpg

・吉兆味ばなし一~四/湯木貞一著(暮しの手帳社)1990~1992年刊

 料理人が書いた(前者は聞き書)で残したいのは二冊。「十皿の料理」はフランス料理人のバイブルにも例えられる有名な本なので、私如きがいらぬ説明をしない方がいいと思うが(笑)、東北地方出身の日本人青年がフランス料理、フランス文化を相手にした戦闘記、青春の書としても読める。
 後者は不世出の名料理人が雑誌の一般読者を相手に、料理、食材、器、茶事について判り易い言葉で綴った名随筆、料理に興味を持つ全ての人に読んで欲しいと思う。

        140816-6.jpg

・檀流クッキング/檀一雄(中公文庫)1975年初版
 「作る」料理本はかなりの数を買ったが、一冊選ぶならやはりこれ。「小さじ何杯」等の細かいルセットは一切なし(笑)、それでいて読むと今すぐにでもキッチンに立ちたくなるから不思議だ、「フードポルノ」の本来の意味は「食欲をそそられる美味しそうな食べ物の写真や文章の事」だそうで、それならこの本こそフードポルノかも知れない(笑)。

 こうして並べてみると古い本ばかり(笑)、西暦2,000年以降のものは無い、これは日本の「食」は発展していても「食文化」は衰退しているのでは?と危惧してしまう。物を食べるのも忘れる様な面白く読み応えのある料理書籍はもう出ないのだろうか、残念な事だ。


  1. [ edit ]
  2. 書籍・映画
  3. / trackback:0
  4. / comment:0

NEW ENTRY  | BLOG TOP |  OLD ENTRY>>


プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

訪問者

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR

« 2017 03  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -