最後の晩餐にはまだ早い


五反野「酒肴 和ろく」(2020年6月)

 ヨコメシ系好きの私にしては珍しく和食が続くが、以前「酒肴 和ろく」に同行した身内から、「また行きたい」とのリクエストを受け、此の店なら前記事の「こへると」同等に安価、いや適正価格で(笑)財布もあまり痛まず、何より美味しい。そして家から近いのがありがたくリピートに便乗する事に。
 和食系は基本夜席が本番で日曜休みの店も多い、都心の店へは電車での往復になるので、行きは空いていても帰りの混んだ車内は、この時期現役引退している身には避けた方が無難、一人でも混雑緩和に協力した方がよく、家から近い店なら気兼ねなく食事を楽しめる。
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 夜の開店時間直後に店前に着くと、佐竹料理長のお義母様が暖簾を出している処だった、まだ子供が小さいので昼は奥様、夜は義母様が店を手伝うが、人材不足の飲食業界なので、こうした昼夜交代制は増えて行くのではないかと思っている。
 佐竹氏にも挨拶し、キリンラガーで乾杯して始まった6月水無月の料理は以下のとおり、

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・突出:アカモク、表面を炙った鮪

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・前菜:チーズ西京、新物もずく酢、もろこし海老、枝豆塩ゆで

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・御椀:初夏の便り 鱧真丈と順才 芽葱、梅肉

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・造里:本日の鮮魚三種(水蛸、本鮪、平目)、あしらい

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・当初献立にはなかった、鰹たたき、八丁味噌和え、茗荷

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・焼物:栃木県さくら市応援!! 若鮎竹筒焼き 蓼味噌酢 谷中生姜

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・小鉢:和風ビシソワーズ パセポン

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・強肴:和牛ローストビーフ 生ウニそえて

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・食事:冷たい胡麻ダレ茶漬け 和ろく風

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・佐竹氏の出身地、栃木の辛口純米「望(ぼう)」

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・甘味:紫陽花見立て ヨーグルトムースと二色のゼリー

 チーズ西京、ビシソワーズ、ローストビーフ、ヨーグルトムースと書いていると日本料理と思えないが(笑)、食べ終わると「洋食ではない、和食だ」と納得してしまう、これが和の鉄人の衣鉢を継ぐ佐竹料理の特徴だと思う。
 最近注目されている海藻アカモクを使った突出から始まり、前菜は「夏」を連想させるもの、トウモロコシの裏に海老摺り身を貼ったものが面白かった。
 和食の華とも云える椀物は鱧、佐竹氏は海のない栃木県出身で、東京に出て来るまでは鱧と河豚は調理した事なかったそうだ、その後必死で鱧切りを勉強しフグ免許も取得したとの事、その血と汗の跡が感じられる深い味だった(笑)。
 造りは此の店では初めてだと思う平目が秀逸、「白身は関西で」と思っていたが、認識をあらためた。焼物に使った竹は佐竹氏の父親が採取したもので、出身店や同僚だった料理人の店でも使っているとの事、飾りだけで終わらず、香り付けにもなっている。
 ビシソワーズとローストビーフが今回の目玉だと思った、前者はジャガ芋と玉葱を鰹出汁で圧力鍋を使い炊き濾したもの、そう云えば鉄人番組でも圧力鍋はよく使われていた。ローストビーフと雲丹の組合せは意外だが不思議と合っている、牛肉も鉄人流の低温湯煎調理で、ソースも屑肉を炒めて作った洋食スタイル、でも「旨いものを喰った」との食後感に満たされるので、あまり洋の東西に拘らなくていいのではと納得してしまう(笑)。
 締めの胡麻ダレ茶漬けは、ランチの「冷し胡麻ダレうどん」と共通のタレだが、麺ではなくご飯を使うと印象が変わる、私はどちらも好きです。
 甘味が凝っているのも此の店の特徴、果物を切っただけの皿が出る和食店もある中、工夫が感じられるのは嬉しい。

 おそらくピュアな和食ファンや料理人からは、今回の料理画像を見て「ケレン味」と捉える人も居る筈だ、佐竹氏の師も云われてきた事だと思う。私も若い頃なら多分感じた筈だが、自分が齢を重ねた今は少し違う見方をしている。
 過去において千利休、新しい処では柳宗悦や、その柳を批判した北大路魯山人、こうした人達はそれ迄の「常識」を覆し、あらたな文化の価値観を提唱した。利休の教えを受けながらも利休とは違う方法で茶の湯を造った古田織部も同様だが、先人と同じことをやっていても先人は超えられない。鉄人に学んだ佐竹氏も、自分の店で独自の料理を確立しようとしている、料理からそう感じるものがあった。
 敢えて云えば、前記事の「こへると」等と比較してしまうと器類が物足りないか、佐竹氏もそれは分かっていて「器を買い替えようと思っていたが、コロナ騒動で資金が足りなくなり、今は見送っている」との事、料理価格には転嫁したくないのだろう、長い目で見たいと思う。
 2016年6月に開業した此の店、家族の支援を受けながら成長し名店への道を歩んでいるように感じる、地元民としてこれからも応援したい店だ(笑)。
 


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浅草「和食とワイン、酒 こへると」

 浅草寺観音堂の裏手、言問通りを渡った北側の一角を何時の頃からか「裏浅草」と呼ぶようになり、街歩きムック本やグルメ番組等で取り上げる事が増えた。元々料亭が多かった地で、其処へ出入りする芸者さん達を手配する見番(けんばん)が今でも存在、夜歩くと独特の艶っぽい雰囲気が感じられる界隈だ。現在ではフランス料理を始めとする外国料理店、洒落たパティスリーやカフェ等もオープンしていて、下町の古い町並みと面白いコントラストを見せている。
 去年1月にこの一角に開業したのが「和食とワイン、酒 こへると」で、WEB上で紹介されている料理画像に惹かれるものがあり、また居酒屋でない本格和食にしては、私の財布でも無理ない価格設定で興味を覚え、訪れた事ある食仲間に頼んで同行する事になった。
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 店の場所は大学芋で知られる「千葉屋」のすぐ裏手、近所にはフランス料理店の「ルディック」や和菓子の老舗「徳太郎」が在り、元料亭の雰囲気ある建物も見えるが、残念ながら近日中に取り壊し予定で、やがて何処にでも在るコンクリート建物になりそう。
 「こへると」の料理長は青森出身の金澤祐樹氏、不思議な店名は津軽弁で「物を作る、こしらえる」を意味する「こへる」に、女性オーナーの出身地福岡で語尾につける「~と」を合わせた造語との事。入口前に立つと店内が見えるが、過去の経験から「此の店はイケそうだ」と予感みたいなものを覚える、「直感は欺かない、判断が欺くのだ」と云ったのはゲーテだと思ったが、佇まいを見る限りは期待大だ(笑)。
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 入店してテーブル席に座る、他にカウンター席と、最近の店では珍しい小上がり的な座敷席もあり、全部で20席程。厨房内は金澤氏ともう一人男性が居て二人体制。
 単品料理も豊富だが、初回訪問でお手並み拝見の意味で、おまかせ5,000円(税込5,500円)の料理をお願いする、ビールで乾杯して始まった八皿は以下のとおり、

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・先付:穴子と香味野菜のなます

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・前八寸:長芋そうめん、鴨ロース煮、稚鮎あおさ揚げ、さくらんぼ白和え、夏野菜酢浸し、二五八焼、クリームチーズ味噌漬け

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・造里:鱸、鮪、平目

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・焼物:真鯛空豆焼

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・揚物:帆立とトマトの磯辺揚げ

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・煮物:眼張と甘藍のオイル蒸し

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・食事:青柳とクレソンの土鍋ごはん

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・香物、味噌汁を添えて

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・静岡茶

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・甘味:メロンソルベ

 料理の印象は、値段からそう高価な食材は使えないが、内容はよく考えられ手が込んでいて直球的に美味しく、十分満足できるものだった。
 まず料理の顔見世、土俵入でもある八寸がいい、中でも琵琶湖産稚鮎にあおさ海苔をまぶして揚げたものは秀逸、白和えにしたサクランボ、チーズ味噌漬もいいセンスだと思った。
 続く刺身三種も上質で、盛った器は家庭では使えない料理屋ならではの凝ったもの。
 鯛の身に擂った季節の空豆を乗せ焼いた料理は、添えられたきんぴら牛蒡と共に印象に残る皿。続く帆立とトマトの珍しい組合せの揚物も、揚げ加減的確で美味しい。
 煮物とあるがこれも面白い、昆布を敷いたメバルにキャベツ(甘藍)を乗せ、オーストラリア産の上質なヴァージンオリーブオイルをかけて蒸したシンプルな料理で、家でも出来そうな気がするが、同じものにならないのが技術と素材、料理の勢いの差だ。
 そして此の日最も印象に残ったのが最後の「青柳とクレソンの土鍋ごはん」、お腹に余裕あれば土鍋抱えて食べたかった位(笑)。米自体上質で最近食べたご飯物では最上位にしたいもの、ご飯が美味しい和食店はそれだけで信用してしまう。
 個人的にはもう千円出してもいいから、椀物を入れ(別注文は可能みたいだが)、最後の甘味にもう一捻り欲しかった気もするが、全体としては良質で真摯な料理、満足出来る内容だった。
 店内インテリアも洒落ているし、オーナーと料理人が集めた料理を盛る器がいい、人間国宝作とか江戸盛期伊万里みたいな高価な物ではなく、どれも料理を盛って映える器、料理の心得がないと的確なものを選べないが、全体に一貫した感性が伺われる好ましい器達だった。此の日、噂の美人オーナーは不在で会えなかったが、食後に金澤氏と話していて、穏やかな風貌と話し方は料理と共通するものがあり、また近々にでも訪れたい店になった。
 ヨコメシ好きの私でも、蒸し暑い日本の夏は和食がいいなと思う、美味しいけれど値段が高い和食は何店か在るが、美味しくて安いと思う本格和食はそう無い。貴重な一店として個人ファイルに載せておきたいと思う。
 店を出たら外は雨、でもいい和食の余韻があるので、湿った夜気に風情を感じた、裏浅草の夜には雨が似合う(笑)。
EATPIAの紹介記事


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五反野「酒肴 和ろく」(2020年5月)

 コロナウィルス感染防止における緊急事態宣言も、5月末迄には解除される見込みだが、何らかの形で営業している地元飲食店は応援したいと思い、このブログでも取り上げて来た。忘れていけないのが過去何度か記事にしている、東武スカイツリーライン五反野駅近くの和食「酒肴 和ろく」で、店のFBページで、ランチタイムに「暑いので!!『冷し胡麻ダレうどんとミニ本鮪丼』セット始めました」とあり、興味を覚え訪問する事に。利用する人は減っているfacebookだが、今回のコロナ騒動下で飲食店の動向を知るには、他のSNSより役立った。
 夜利用が多かったがランチタイムは3回目、昼は佐竹氏の奥様が店内サービスを担当する。
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 あらかじめ佐竹氏には行く事を伝えていたが、「(自転車なので)雨降りだと翌日に延期」と、いい加減なお願いだった(笑)。
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 訪れた日は夜の通常営業は自粛中、予約制で酒肴をテイクアウト販売、ランチタイムは通常営業に加え、持ち帰り弁当も用意している。
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 通常のランチメニュー、家では道具や食材の問題で、なかなか旨い焼魚を食べられないから、ランチは過去2回共「焼魚定食」を頼んでいたが、今日は「冷し胡麻ダレうどんとミニ本鮪丼」にすると、来る前にほぼ決めていた。
 12時少し前に入店して奥様と佐竹氏に挨拶、カウンター席の端に座る、一番乗りかなと思ったら既に女性客が一人で食事中、この方も饂飩を注文していた、私の後に4人来客があり、暑い日だったので皆同じセットの注文。
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 そう云えば此の週のTV番組「徹子の部屋」に、佐竹氏の師である道場六三郎氏が娘さんと出演していた、89歳の今でも毎日ではないが自店に出るそうで、姿勢も言葉もしっかりしていた、年下の黒柳徹子さんの方が滑舌よくなかった(笑)。
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 佐竹氏一人で全部作るので時間は少しかかったが、出来上がったランチ全容。
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 冷し胡麻ダレうどん、うどんと表記しているが冷麦麺だと思う、担担麺を思わせる胡麻風味の冷しダレは鰹節と鯖節ベースとの事、具は白葱、筍、温泉卵に自家製ローストビーフが加わる豪華版。何と云っても冷しダレが美味で、丸亀製麺でもこの時期似ている「担々うどん」を提供しているが、出汁のクオリティの違いは歴然(笑)。
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 ミニ本鮪丼、「ミニ」とあるが結構量がある、酢飯ではなく白飯だが、佐竹氏の出身地栃木米はなかなか美味しい、そして鮪が良質、自分でも鮪サクを買って似たような丼を作る時あるが、スーパーではこのレベルの鮪は売っていても一サク2,000円前後だろう、山葵は当然本山葵。
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 添えてある小鉢(鶏肉とじゃが芋煮)と漬物。煮物は濃い目の味だが定食にはこの位でピントが合う。糠漬けは夜だけ店を手伝う奥様の母上製だと思う。
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 デザート(黒胡麻ぷりん)、勿論自家製で美味しい、こうしたものでも手を抜かずにキチンと作るのが、料理人の矜持だろう。
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 この内容で税込1,430円は、下町ランチとしては高めかも知れないが、内容を考えたら十分以上に納得、夏の間は提供するみたいで、画像を見て「旨そう」と思ったら、迷わず五反野まで行く価値あり。
 奥様は以前鉄人の店でサービスの仕事に就いていただけあって、ソフトな客対応で昼の忙しい店内でもいい時間を過ごせる。でも母娘共に鶴のような痩身で、お子さん生んでも、普段何食べても体型の変わらない人が居るのを知る、私には信じられないが(笑)。
 非常事態宣言期間中に行った「おやつ屋マムマル」「ビストロ・ヌー」「酒肴 和ろく」、いい店には何処も素敵な若い夫妻が居た。コロナ騒動で心配しているのが、不安定さを避けて今後若い人達が食業界に入って来なくなる事、でも働いていればこうした素敵なパートナーを得られるチャンスもある(確約は出来ないが(笑))。
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 店からの帰り、五反野駅前のたい焼き屋にいつもの行列がない、学校が休みなので女子高生達が居なかった、これはチャンスと思い、たい焼きを3種類(小豆140円、紫芋170円、チョコレート150円)購入。
 店名が「薄皮たい焼き たいあん」なので、名前のとおり皮が薄い、どの餡はそれ程甘くなく質もいい、なかなか好みのタイプだと思った。五反野行く時は此の店もお勧めしたい(笑)。



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五反野「酒肴 和ろく」(2020年3月)

 新型コロナ騒動で最も影響を受けているのが個人経営事業者、飲食店もその一つだ。仕入業者への代金支払や従業員への賃金支給が滞らないよう、緊急支援を実施する必要があると思う。或る区のWEBページには『現在、融資あっせん申込受付窓口が大変混雑しております。長時間お待ちいただく場合がございますので、あらかじめご了承ください』とあるが、この時点でもう駄目だなと思ってしまう、待っていられる事態ではない。
 不要不急の外出は控えよとの主旨は勿論理解するが、個人的には此の時期出来るだけ個人経営の飲食店、それも地元の店を利用する事で応援したいと思っている、そして支払いは現金でするべきだ。
 そうした訳で此の夜伺ったのは、ブログでも数回取り上げている、東武五反野駅近くの和食「酒肴 和ろく」。WEB上で紹介されていた3月の料理に興味大で、自分が行きたかったのが一番の理由だが(笑)。 
 予約の電話をした時、第一希望の日は殆ど塞がっていて第二希望の日を選択、店主の佐竹氏によると、2月の客入りは冴えなかったが、3月半ばになって復活しつつあるとの事、此の日もテーブル席は2卓埋まっていた。やはりこうした時に頼りになるのは、ガイドブックや店評価サイトを見て来る客ではなく、地元中心のリピーター客のようだ。
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 下町五反野の夜始まりは早い、18時に入店したがテーブル席では家族連れのグループが既に座っていた。佐竹氏と義母様に挨拶をして、希望していたカウンター席に座り、キリン一番搾りで乾杯、始まった弥生三月の料理は以下のとおり、

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・お通し:厚揚、練物揚、小松菜

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・前菜:チーズ西京、ピースふくませ、天豆白和え、ホタルイカ酢味噌

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・御祝:節句椀、地蛤と春野菜(わらび、独活、木ノ芽)

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・造里:本日の鮮魚三種盛り(本鮪、〆鯖、平目)

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・揚物:春の山菜揚げ(ふきのとう、たらの芽、こごみ、長芋)

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・酢物:三ツ葉と木の子、かに、切干し

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・煮物:牛すね肉の赤味噌煮、赤ワインも入れて、新玉葱、他

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・食事:筍の焚込みご飯、白こんにゃくあげ

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・甘味:京味噌ぷりん、桜の香

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・此の日の日本酒二種、「望(ぼう)」は佐竹氏の出身地栃木県の益子にある蔵元
  
 料理全体の印象は予想どおり「春」を感じさせるもの、まずは前菜のグリーンピースとマイクロトマトの小鉢で目が醒め(笑)、天(空)豆、ホタルイカと旬の野菜が身体を覚醒させる。
 続く和食の華である椀物は蛤と春野菜、昆布と鰹に蛤出汁が重なり、奥行ある立体的な味になっている。関西で食べたいのが白身の造りなら東京ではやはり鮪、報道では高級鮪の値段が下がったと伝わるが、佐竹氏の話では市場では良い物はかえって値段が上がっているとの事。
 衣をあまり付けない春野菜の揚げ具合も文句なし、これも春の活力を貰えそうだ(笑)。酢の物は蟹が主役、酸味を強めにするのが関西との違いかなと感じる、次の料理のため一旦今迄の流れを切る役目にもなっている。
 そして一番楽しみにしていたのが次の牛脛肉煮、佐竹氏の師である初代和の鉄人譲りの和洋折衷、和と洋のいい部分をどう繋げるかに興味があった。まず感じたのが甘味、思わず佐竹氏に「この甘味は何ですか?」と訊いてしまったが、新玉葱がベースで少量だが味醂も加えるそうだ、そこへ赤ワインの酸味と味噌の渋みが加わり全体の味を複雑で立体的にしている、ブロッコリーとジャガ芋の扱いもいい、たしか鉄人は「ブロッコリー対決」で勝利したと思った(笑)。フランス料理的に物量で攻めるのではなく、もう少し食べたいと思う位の量も、全体の流れの中で適切と思った。
 筍ご飯は自分でも年一回は作るが、味が単調になりがちだ、素人とは手の掛け方が違うのが判った、思わずお代わりを所望(笑)。
 デザートの味噌味プリンはアンパンに使う桜塩漬けを乗せ、和食らしい味わいになっている、切った果物だけで体裁を整えるより、献立に入れる必然があると感じた。
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 私はこれが7回目の訪問で、夜だけなら5回目になった、「あいつ暫く来ないな」と思われている店が多い中(笑)、地元で行き易いのもあるが頻繁に通っている店だ。まず云えるのは訪れる毎に料理が進化している、佐竹氏は1980年生れなので今年40歳、今一番いい時期だろう、アイディアが次々と湧いて来る勢いと感覚の鋭さを、話していても感じる。
 「五反野?何処それ、五反田じゃないの」と云われる事もあった、失礼ながら知名度の低い五反野だったが、こうした良店が登場する事により、個人商店が消える一方の地域全体が活性化して欲しいと思う。個人的にも自転車で行ける範囲にいい店が増えるのは嬉しい、此の地で長く続いて老後の不安と孤独を支えて欲しいと願ってしまう(笑)。
 帰り道に「次は何時来よう」と思わせるが良店だと思うが、次回利用も楽しみな店だ。


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大阪・高麗橋「桜花」(2020関西食べ続け-5)

 身体も顔もパンパンに膨れ、和歌山から戻った関西三日目、ホテルに帰ってそのまま眠りに就きたかったが、食べ続けの苦行はそう甘くない、まだ夜の部がある(笑)。暗くなってから重い身体に鞭打ち、地下鉄で向かったのは「高麗橋 桜花」、2014年から毎年続けて訪れ、これが7回目になる和食店だ。
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 地下鉄淀屋橋駅から阪神高速道路の高架へ向かって歩き、手前の信号で右に曲がればすぐ店がある、通りから少し奥まっていて、店前には植栽や喫煙対応?のベンチが置いてあり、店へのいいアプローチになっている。「高麗橋」の地名由来は、朝鮮半島から来た特使を迎える「難波高麗館」が在ったと云う説と、豊臣秀吉統治時代に朝鮮特使のため橋を架けたからの二つが通説になっている。今みたいに高い建物がなかった当時、此の場所から眺める大坂城は、さぞや豪壮華麗に見えただろうと想像する。同地には湯木貞一が「吉兆」の本店を設けた事でも知られている。
 此の夜も遅いスタートにしてもらったので、店に着いたのは19時過ぎ、森田夫妻に挨拶し、調理場前のカウンター席に座る、奥のテーブル席では既に会食が始まっていた。約束していた友人も来て始まった、如月二月の料理は以下のとおり。

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・箕面黒ビール

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・「立春大吉」(八寸):のれそれ(穴子稚魚)、烏賊塩辛、ホタルイカ、稚鮎、蓮根稲荷寿司

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・造り:マハタ、真鯛、辛子醤油

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・浪花好みの煌びやかな塗椀

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・椀物:帆立真薯、そら豆、ウルイ

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・煮物:穴子、田辺大根、千住葱、富田林海老芋

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・焼物:紅ずわいがに、温泉卵

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・強肴:河内鴨、白菜、舞茸、鍋仕立

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・友人が選んだ日本酒二種

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・御飯:白魚御飯、浅利汁、香の物

 此の店へ来るのが毎年2月なので、いつも「立春大吉」だが(笑)、ただ「八寸」としないのは店主の文学的素養か、中では奔りの稚鮎と優しい味わいの稲荷寿司が印象に残った。
 関西ならではの白身造りの旨さの後には、和食の華である椀物、こちらの体調もあるが、いつもより僅かだが旨味と塩分は抑え気味に感じた。次の料理とのバランスを取ったのかも知れない。
 煮物鉢は今回特に印象深かった料理、見た目は地味な惣菜風で、おでんみたいな香りも感じる、森田氏は以前殆ど大阪食材だけを使っていたが、私の地元である東京の千住葱を加えるなど、心境にやや変化があったようだ(笑)、家庭料理的だが、味わうとやはり家庭では出せない深い味、また食べたいと思う一品だった。
 通常なら高価な献立になってしまう紅ずわいがにだが、たまたま買い得品が入ったらしく、此処で出るのは運がよかった、温泉卵を合わせたのが面白い。
 鴨鍋は大阪特産の河内鴨を使い、濃い目の味付けで締めの料理にふさわしいもの、バーミキュラで炊いた上質な御飯も後を引く美味しさだった。
 今回最後に甘味がなく、その理由についてあとで森田氏に確認したら、「特に希望する方以外には(甘味は)提供しなくなりました。その労力と原価を(料理に)集中したい」「色々な意見があるのですが、炭水化物のあとに豪華なデザートが不要というのが私の考え」との事で、甘味好きの私ではあるが、一つの見識として尊重したい。

 料理全体的には、此の店を始めて訪れた頃の「料理屋的な料理」から、「旨いもの屋の料理」に変化して来た印象を受けた。それで連想したのが、北大路魯山人が残した『料理芝居』と題した一文、少し長いが一部を引用する。
 『良寛は「好まぬものが三つある」とて、歌詠みの歌と書家の書と料理屋の料理とを挙げている。まったくその通りであって、その通りその通りと、なんべんでも声を大にしたい。料理人の料理や、書家の書や、画家の絵というものに、大したもののないことは、われわれの日ごろ切実に感じているところである。(中略)
 家庭料理は、いわば本当の料理の真心であって、料理屋の料理はこれを美化し、形式化したもので虚飾で騙しているからだ。譬えていうならば、家庭料理は料理というものにおける真実の人生であり、料理屋の料理は見かけだけの芝居だということである。』
 おそらく昭和戦後の文章だと思うが、なかなか正鵠を射ている。「料理屋の料理」が全て駄目だと云っているのではなく、「形式化した虚飾で騙している」のがいけないと指摘している、これ令和になった現代でも、和食に限らず全てのジャンルの料理にも当て嵌まる気がする、「インスタ映え」などと云う言葉の意味を知ったら、きっと魯山人は怒髪天を衝き罵倒しそうだ(笑)。
 十年変わらぬ料理を提供していたら客に飽きられる、その店に飽きた客は蜜蜂みたいに違う店へ行ってしまう、料理屋は常連には彼等が思う「いつもの味」を提供しながらも、其処から進化して行かないと続かない。「桜花」は料理屋の料理から、家庭料理とはまた違う「旨いもの屋の料理」へと、脱却している途中なのかも知れないと思った。

 森田夫妻に見送られて夜の街へ、この界隈は近隣で働くサラリーマン男女でいつも賑わうが、悪病流行の影響だろう普段より静かな雰囲気で、フランス料理とはまた違う和食の余韻には、かえってこの静かさが似合うと思った。
 森田さん、女将さん、遅く迄ありがとうございました、苦しいお腹を忘れるような、楽しく心温まる夜になりました(笑)。


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プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
人はそれぞれに「見方、感じ方、考え方」が違います。私が美味と思ってもそう思わない人が居て当然です、味覚とはそれだけ不安定で不完全なもの、あくまでも筆者個人の嗜好による感じ方である事を承知の上で読まれてください。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに赤坂、麻布十番等。
混雑電車が苦手で加齢による朝型人間化のため、ランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

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