最後の晩餐にはまだ早い


竹下鹿丸「焼締片口鉢」

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 竹下鹿丸氏は、1977年に陶芸の町栃木県益子に生れた若手陶芸家だ、実父も現役の陶芸家で、栃木県立窯業指導所を卒業後プロの世界に進む。2000年に中世日本では一般的だった「穴窯」を築き、「焼き締め」と呼ばれる釉薬を使わない器の製作を始める、2002年25歳の時には益子陶芸展で審査員特別賞を受賞、以降は地元栃木や東京のギャラリーで個展を開催し、一部の陶芸好きには注目されていた。
 去年の東日本大震災時の激しい揺れで使い続けていた穴窯が壊れてしまった、益子では他の作家(工房)の窯も被害を被ったが、彼はいち早く再建に取り組み、今回は耐震性を考慮した窯を築き上げたそうだ。

 器を焼く窯の熱源は昔から薪だったが、現在は資源の枯渇や周囲への影響(煙・匂い)等で、ガスや電気が主流になっている、それでも薪窯に拘る少数派の作家がいるのは、どうしてもこれでないと出せない「味」があるからだ、一言で云うと「作為の無い非均質性の表現」だろうか。

 画像は数年前に六本木の陶芸店「サボア・ヴィーブル」での個展時に購入した片口鉢、歪んでいるが作為的な嫌らしさが無い、緋色の入り方がいい景色になっている。そして一番大事な点だが見た目より軽いのだ、片口と云えば本来は水や酒を注ぐための物、デザイン優先で重くなった物は「用の美」とは云えない筈だ。この個展の時に居た作者と少し話をしたが、芸術家というより本当に肩の力の抜けた好青年という印象だった。
 今は好きなのは陶器(焼き締め)ではこの人と、北海道の工藤和彦か、今後の更なる活躍に期待したい作家だ。ただ陶芸家の宿命?として、いい作品を作り名前が知られて来ると、若い時と同じ材料・技法を使っていても値段が高くなってしまう、これは本人の責によらないものだが、それを考えると買うなら今のうちかも知れない(笑)。



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桜新町「ラ・クレ」(3月)

 現在の私は基本週4日勤務なので週の中日が休みだ、結果収入は昔と比べると格段に減ったが、反面お得で席が取り易い平日ランチを狙い易いという利点はある(笑)。
 この日も特に予定がなかったので、桜新町のフランス料理「ラ・クレ」を利用する事にした、桜の咲く気配が全くない今年の遅い春だが、街の名前だけは桜が付いている(笑)。此処は去年の7月に開店(移店)なので、この地での営業が半年間経過した事になる。

 12時の入店時には既に4組がテーブルに着き、カウンターではスーツ姿の男性が一人で食事中だった、東京でも浅草あたりは食事の開始が昼夜共に早いが、この街も同じみたいで、あとで料理人が話してくれたが、以前の店(文京区)に比べるとまず料理を出すスピードが肝心で、特にランチでは早く出せる料理が中心になってしまうとの事。私の様な下町人間には東急田園都市線と聞くだけで、「東京山の手、高級住宅街」と連想してしまうが、「サザエさん商店街」が近くにある様に、意外に下町的な住人気質があるみたいだ。
 厨房は前回と同じで料理人が一人、サービスが二人だがメンバーの交替があった様だ、この日はランチメニューのB(2,600円)から選択、

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・アミューズ(新玉葱のババロワ、ブロッコリーのピュレ)

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・自家製ライ麦パン

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・ホタルイカとクスクスのサラダ

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・トマトのポタージュ

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・牛バラ(三角)肉のグリル、エリンギ、新ジャガ、小松菜

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・プロフィットロールのチョコレートソース
・エスプレッソ

 奈良料理長の料理は、手慣れていてどこかホッとする優しさがある、本人は職人気質で決して能弁なタイプではないが、叩き上げというか国内外で長く厨房に入っていた経験から来るものだろう、中でも前菜系が上手いと感じる。食べる人間に謎や不安を与える最新の尖鋭な料理ではないが、フランス料理が一番美味しかった頃の料理を引き継いでいると毎回感じる。
 地元に根付いて地元人に支持される店を狙っているのだろう、値段も良心的だ。

 前回のブログにも書いたが、南欧・北欧から勉強を積んだ日本人料理人が毎年何人も帰って来ている、これから彼・彼女達が活躍出来る場が日本にそれだけあるのかとなると、長期デフレと少子高齢化が蔓延するこの国では、将来への展望は決して明るくはない。長く続けるためには、他人にない個性を発揮するか、地元民に根強く支持されるみたいに、何かしらの特徴が要求される筈だ。この店も今以上に工夫した料理を出すためには厨房が一人では苦しいだろう、ただこの料理人はそこまでは狙ってはいないと感じている、それならば何とかこの地で頑張って続けて行って欲しいものだ。



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阿佐ヶ谷「ラ・メゾン・クルティーヌ」

 この日の昼に伺う事になった、阿佐ヶ谷のフランス料理「ラ・メゾン・クルティーヌ」は、親しくしている料理人から教えてもらった店だ。オープンは去年の9月で、オーナーシェフは善塔一幸氏、パリ「ターブル・ダンヴェール」「ルレ・ルイ・トレーズ」を経て、一つ星(当時)「メゾン・クルティーヌ」では実質的な料理長を務める、その後「アラン・サンドランス」からフランス南西部ポー(PAU)の町で新規ビストロの料理長を経験し帰国、六本木のフランス料理店で料理長を務めた後、念願の独立を果たした。自店のブログでフランス時代を回顧しているが、なかなか読ませる文章で、料理にかける熱い気持ちが伝わってくる。
http://chefkazu.blog.fc2.com
 店名は働いていたパリ時代の同名店から取ったもの、この店名については「物語」があるので、興味のある方はブログを読むか、実際に店へ行って料理長にぜひ訊いてみてください。
 この店を教えてくれた料理人によると「善塔は料理バカです」との事(笑)、これを言った人間も相当なものなので、会うのが楽しみな料理人だった。

 店の場所は阿佐ヶ谷駅南口を出て高架沿いに歩いて5分、近くには飲食店が軒を連ねていて、どことなく「昭和」の匂いも漂う一角にある、テントの色に使っている黄色が店のイメージカラーみたいだ。席数は20でその他に個室もある、厨房は善塔氏と洗い場?の女性、店内は男性が一人で対応している。お昼は1,900円と3,980円の二種だったが、3,980円はメインが「牛ヒレ」であまり気乗りしなかったので、1,900円のものに前菜のパテ・ド・カンパーニュを半分追加してもらう事にした。

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・アミューズ(プチシュー)

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・阿佐ヶ谷駅前「エディ」のバケット

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・「究極の大根」のスープ

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・パテ・ド・カンパーニュ(1/2)

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・仔羊のナヴァラン、クスクス添え、ホウレン草のプランチャ

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・洋梨とフロマージュブランのクレープ

 経歴とブログでの印象から、フランス的に「力技」を全面に押し出すタイプかなと勝手に想像していたが、意外に柔らかく優しい料理だった、スープは大根の繊維を残して繊細過ぎず、そうかと言って野暮ったくはならないギリギリの線で味を決めている、盛付けのセンスもいい。パテも日本人向けで優しい味、ナヴァランはトマトの酸味を生かした軽い煮込みで、私の好物であるクスクス(スムール)との相性は抜群、鉄板で焼いたと聞くホウレン草も美味しい。
 これで1,900円(パテは別)はかなり勉強価格、本当なら最低2,500円は欲しい処だが、開店して間も無く店を知ってもらうための「出血サービス」だろう。この日店内は4組の客、フランス人男性が来ていたが、あとで料理長に聞いた処、パリ時代に一緒に働いた人で、某有名店の実質的な料理長だそうだ、日本に来る事になり時間を割いてこの店まで食べに来てくれたとの事。

 ランチ1回だけで判断するのは早急かも知れないが、この料理人の料理は好きだ、根に確かな「フランス」を感じるが、それを日本人に向けて上手く変容させていると思った。可能ならば定期的に訪れてみたいと思う、阿佐ヶ谷はこの手の店は少ないし、いい客が付けば人気店になれる可能性ありと見た。この店を教えてくれた料理人が、「毎年フランス、スペイン、北欧からたくさん日本人料理人が経験を積んで帰って来る、彼・彼女達との競争だ」と語っていたが、まさにそんな時代になった、客側としては嬉しい事だが、料理人にとってはこの業界で残るのは更に厳しくなり、固定客を掴むのには何らかの特筆した「個性」が要求されると思う。
 食後に善塔氏と話をさせてもらったが、文章と同じく真摯に料理に取り組む姿勢には好感を持った、家からのアクセスはあまり良くないが、近い内に再訪したいと思う。


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亀有「寿司 導らく」(閉店)

 常磐線の亀有は私が14歳から約18年住んだ場所で、当時は電機会社の大きな工場があったためか、猥雑で何処か荒んだ労働者の街だった、駅前には赤提灯街があり、昼でも子供は近寄り難い独特の雰囲気があった。それが「再開発」の名のもとに、駅前が整備され近くには巨大なショッピングモールも誕生し街は綺麗になったが、結局生き残ったのは大資本ばかりで、昔からの個人商店は閉めてしまった処も多い、街の特色は無くなってしまい、コンクリートばかりの東京なら何処にでも在る街になった、昔の亀有を知る人間には、寂しい気持ちもある。

 その亀有に結構本格的な寿司屋が出来たと知ったのはWEB上の情報で、半信半疑で記事を読んでみると、評判は良さそうだが夜の「お任せ」は1万円位取るらしいと知り、都内のまともな寿司屋なら1万円は高くないが、亀有では無理があるのではと暫く様子を見ていた、その後実際に行った人からランチなら1,500円からあると聞き、興味を抑えきれずに訪れてみる事にした。
 店の名前は「導らく」、場所は駅南口至近の商店街と商店街を繋ぐ小道にある、隠れ家的な入口の雰囲気は悪くない、カウンターが7席とテーブル2席だけの小さな店だ、この日は行って入れなかったら困るので、あらかじめ電話をして行ったが、先客が一人居ただけだった。WEB情報では店主と手伝いの女性がいるとの事だが、この日は店主一人での対応、寿司屋の主人というと、何となく頑固で無口な職人タイプというイメージが強いが、この店主は気さく過ぎる位の話好き、どんな話にも乗ってくるので、場合によっては煩わしいと感じる人もいるかも知れない(笑)。
 昼は1,500円、1800円、2,500円と三種あるが、この日は2,500円のものを注文する事にした。

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・烏賊

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・金目鯛

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・カワハギと肝

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・帆立貝

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・サヨリ

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・関サバ

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・鮪

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・才巻海老

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・雲丹軍艦巻き

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・玉子(白身すり身)

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・巻き物(干瓢・小松菜・漬けイクラ)
・しじみ汁

 この店の特徴は「赤酢」を使う事で、そのためご飯(シャリ)の部分が茶色く見える、江戸時代中期にそれまでの発酵鮓しから、酢を使った「寿司」に進化した時にはこの赤酢を使い、本来は砂糖を使わず酢と塩だけの味付けだったそうだ、ただ現代人は酢飯に砂糖を使った味に慣れてしまっているので、この店でも少量加えているとの事、まずはこの酢飯が美味しい、寿司とは吟味して仕事を加えた魚貝と酢飯が、職人の仕事により瞬間に出会う「マリアージュ」なのだとあらためて思う。特に印象に残ったのは、さより、帆立貝、関サバ、才巻海老など、鮪は若干弱く味が薄かった、今は冷凍でない高級鮪は、どの店でも「奪い合い」状態だと聞くので、銀座あたりの高い金を払ってくれる客を何人も抱えている店でないと、本当に良い鮪を仕入れるのは難しい現状みたいだ、個人的には寿司屋に鮪が無くても一向に構わないが、これはフォアグラの無いフランス料理店みたいなもので、なかなか「うちに鮪は無いです」と言う訳にはいかない様だ。それと最後出た「干瓢巻き」が素晴らしく美味しい、これは持ち帰り寿司で売っているものとは、役者が違うと云う感じだ。
 全体を通しての印象は「雛に稀な」久々に美味しい寿司だった、高級寿司屋はあまり詳しくはないが、値段も都心に比べたら安いと思う。

 店主は以前に隣町で寿司屋を営業していたが、自分の「遊び過ぎ」で潰してしまったとの事で、今の寿司屋らしくない店名はどうやらそれに由来するらしい(笑)。
 大阪も同じだが、人間が住んでいる下町に元気がないと都市は発展しないもの、何とかこの場所で頑張って欲しいものだ、また訪れてみたいと思った。
※閉店した様です。(2013.11)

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神楽坂「ピアッティ・カステリーナ」(3月)

 この日は職場内である「お祝い会」を企画し、総勢6人で神楽坂のイタリア料理店「ピアッティ・カステリーナ」を訪れる事になった、店選びはもちろん私。
 この店は昨年9月に西麻布「カステリーナ」の支店として開業したが、初めて訪れたのが11月、その時の料理に惹かれるものがあって、それ以来この店の女性料理長、榎本さんに注目している、職場から近い事もあり、この日は早くも3回目の訪問になった。
 料理は現在の東京スタンダードになりつつある「夜でも5,000円台」の5,250円、サービス料はないがコペルト(席代)として一人500円加算される。メニューは1本でメイン料理だけ3種からの選択になる、食材調達のロスを極力カットするためこの方式を採っているのだろう、これは今後も流行りそうだ。
 基本メニューは月替わりなので、この日(1日)変わったばかりの3月のメニューは、

・グリーンピースのムースと蟹

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・イベリコ豚頬肉のゼリー寄せ

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・宮崎産ホワイトアスパラと烏賊のソテー、レモンのコンフィチュール

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・フォアグラのフラン(毎回出るスペシャリテ)

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・蝦夷鹿のオルキエッリ(手打ち)

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・仔羊のグリエ、菜の花、仔羊のジュ

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・スパゲッティポモドーロ(好きな量注文出来るが、この日は50g)

・キャラメルのジェラート、コーヒーのジュレ
・エスプレッソと小菓子

 異性間、同性間でも同じだが、客と料理人にも必ず「相性」があるものだ、それで言えば私とこの店の女性料理長である榎本さんとは、一度も話した事がないが今の処は相性抜群と勝手に思い込んでいる、言わば一方的な「片想い」(笑)。全体の印象は繊細だが、随所に芯が通っていて「力」も感じさせてくれる、メインの仔羊は男勝りの出来。この店の前はフランス料理店の料理長だったが、人づてに聞いた話では結構頑固で妥協せずオーナー等とぶつかる事もあったらしい、「女性の時代」と言われているが、男社会のこの業界で頭角を現すには、ある程度は我を通さないと残れないのだろう、今まで女性料理人の店は国内外で何店か経験したが、私はこの人の料理に一番焦点が合った。

 店内のサービスにあたっているのは、オーナー兼支配人の大原氏、和歌山・岩出の「アイーダ」出身の料理人で、2009年に西麻布で独立開業しこの神楽坂は2店目になるが、現在は両店共厨房は自分より若い料理人に任せ、もっぱらサービスを担当している。この点について気になっていたので、単刀直入に理由を聞いてみた、その答えは「ずっと厨房ばかり籠っていたので、お客さんの顔が見えないし料理の話も出来ない、(それに疑問を感じて)楽しく語り合える場所(支店)を増やしたいと思うようになった」との事だ。料理人にも様々なタイプがいる、生涯現役料理人として厨房から出ない人もいるし、彼の様に経営者として違った視点から店に関わるのも、一つのスタイルとしてあっていいと思う。超高齢化社会に対応するには、料理人も生き方を変える時代になりつつあるのかも知れない。
 メニューは月替わりなので可能ならば毎月訪れたい、そう思わせるものを今のこの店に感じている、「予約のとれない店」にだけはなって欲しくないと、勝手な願いを思っているのだが・・。


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大阪・上本町「レストランコーイン」(2012関西食べ続け⑥)

 関西最終日の昼食は、約2年ぶりとなる大阪・上本町のフランス料理「コーイン」へ伺う事に、そして今回の食べ続けを締めくくるにふさわしい、圧倒的に美味な料理に出会う事になる。
 2年前の初訪問時には、上質な食材を採算度外視としか思えない程に大胆に使う料理に感嘆、それ以来再訪を願っていたのだが、店の研修旅行等とぶつかってしまい機会を逃していた、今回は旅行日程が決まった時点で真っ先に予定に入れ、前回同様ラスト訪問店にしたが、結果この選択は正解だった。

 食後に東京に帰るため荷物をホテルに預けてからレストランへ向かうが、12時の入店時には既に客席は殆ど埋まっていた、大阪は昼食の開始も早い。前回もそうだったが、この店は本気で作った結構硬派な料理を出し、店内も「蝶よ、花よ」という雰囲気はあまり感じられないのに昼は女性客が殆どだ、これは2,000円、3,000円のランチでも手を抜かず割安感があり、この分野の店が比較的少ない地域というのが理由かも知れない。
 この日の注文は予約の段階で昼の7,500円「おまかせムニュ」をお願いしていたが、これが予想を遥かに上回る内容だった。

(席が少し暗かったので、写りがあまり良くありません)
・アミューズ(フォアグラのクロケット)

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・前菜(ラパンのリエット、フォアグラのテリーヌ、ウニとカラスミ)

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・神奈川長井産ラングスティーヌのサラダとキャビア(別盛)

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・フォアグラ、トリュフのスープ、パイ包み

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・南淡路産ガシラ(オコゼ)のファルシ、白アスパラ

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・ブレス産鶏のベッシー包み、フォアグラクリームのソース、トリュフのライスボール

・プレデセール(ハイビスカスのジュレ)

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・「デセール・モヒート」葉巻をかたどったショコラ、ミントとラムのジュレとソルベ
・ミニャルディーズ(たくさん)

 フランス料理に詳しい方はおわかりと思うが、スープと肉料理は「ポール・ボキューズ」の料理が原型、ちなみに東京・代官山の店ではカルト2品で計2万円を超える(笑)。此処の料理人が凄いと感じる処は、決して形だけの模倣をしていない事で、食後テーブルまで来て「ベッシー包み」の説明をしてくれたが、要旨は以下のとおり、
「豚の膀胱は独特の匂いがある、これに鶏を包んで火入れしても嫌な匂いが移るだけ、ところがここへトリュフを入れ仲介させると、匂いが芳香へと劇的に変化する、同時に膀胱が湯煎の熱から鶏肉を守って穏やかに加熱が出来、ブレス鶏特有の肉厚な皮もそれを助ける、調理時間はかかるが優れたルセットだ。今フランスで使っている中国産の膀胱輸入が途絶えているため、国産に頼らざるを得ないが、国産豚は成長前に屠殺してしまうためか膀胱が小さい、これにブレス鶏一羽を入れるのは無理、そのため胸肉を四つに分けて入れ調理したが、これなら二人分でのカルトにも応えられる。」
 古典的調理法の優れた点を十分理解しつつ、それを現状に合わせて応用できる柔軟さがある、この料理人は頭で考えるだけでなく修羅場を何度も経験していて、状況により戦法を変化する事が出来る現場に強い優れた指揮官タイプと見た。
 同じように「ガシラのファルシ」については、料理人自らが説明しているので、これを読んでください。
http://koinkoinkoin.blog28.fc2.com/blog-entry-363.html

 肝心の味については、誇張ではなく「本家」をも上回るのではとも思った、私がフランスを頻繁に訪れていたのは今から十年程前、その頃訪れた「ラムロワーズ」「ラ・コートドール」といった当時の三ツ星店と、料理だけならまったく遜色ないと感じた。この料理人は技術も気力もその持続力もあり感覚的にも鋭い、この店の料理を体験してしまうと、どの世界にも上には上が、更にはその上もいるのだという事を知る、そして知ってしまった不幸も付いてくる、現在の東京にはこういう店は無い、あえて言えば今から20年位前の四谷「北島亭」などが少し近いが(今のでは無い)、それでも料理は明らかにこちらの方が一段突き抜けている。
 厨房は狭いし調理はサービス兼任の1人を入れて3人、それでこの料理が出せるのは、仕込みに相当時間をかける筈だ、それでも下の人間が逃げ出さないのは、料理長へのリスペクトによるものだろう、そして手間をかけ高原価な食材を使用したのに、この値段で出せるのは驚異的だ。

 この料理人は、大阪でも他の料理人達とは距離を置いているとも聞く、群れる事を嫌い孤高である事を保ちたいのかも知れない。食後に話をさせてもらったが、2年前に比べると尖っていた部分が丸くなり穏やかになった印象を受けた、マダムのサービスも格段に良くなっているし、料理と共に店も確実に進化している。
 ここは私にとって「大阪に来たら必ず寄りたい店」になった、いや「この店へ行くために大阪まで出かける」店だとも言える、レストランでの食事で言葉が出ず、ただ唸るしかなかったのは本当に久しぶり。この日の料理は前回をも上回り、過去30年以上続いた国内でのフランス料理体験の中でも、指折りの記憶に残るものになった。
 上質なレストラン空間で上質なワインと共に二人で料理を楽しみたいのなら「オテル・ド・ヨシノ」、マニア系の仲間とマニアックに料理を堪能したかったら「コーイン」(笑)、クラシック料理が好きなら使い分けをお奨めします、いや関西へ行くなら是非両店訪れて下さい。

 駆け足で回った3泊4日の食べ続けだったが、今回は前回にも増して素敵な人と料理に出会い「濃い」体験ができた、おかげで今は半分本気で関西移住も考え始めている(笑)。


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大阪・本町「びすとろぽたじぇ」(2012関西食べ続け⑤)

 聖書の中に「放蕩息子の帰還」の話がある、父から財産を等分に分け与えられた兄弟がいたが、弟は家を出て放蕩を重ね財産を使い果たしてしまった、その後極貧の生活を続けるが最後には父の元に戻る、兄からは非難されるが、父は息子の帰還を喜び温かく迎え入れるという、宗教の慈悲と寛容を説いたもので、古くから絵画や音楽の題材になっている。大阪で訪れた本町の「びすとろぽたじぇ」で、「若鶏のクスクス」のスープを一口啜った時、急にこの話を思い出した。

 大阪最後の夜は、昨年7月に開店したこの店に、料理業界で長い人生経験?を積んできた方達とご一緒する事になった(笑)。此処は調理師学校で後進の指導に就かれていた方が、退職後に息子さんと始められたビストロ、スタッフはそれぞれの夫人を加え4人で運営されている。カウンターだけの店だが、リビングスペースもあり、この種の店にありがちな狭苦しさはない、これは「我家に来たみたいに、寛いで欲しい」と云う店主親子の考えからだ。
 2回目の訪問になるが、前回はP・ボキューズ直伝の「スズキのパイ包み焼き」を体験した事もあり、今回は事前に無理を言って、大料理人F・ポワンが築いた店「ピラミッド」の名物デザート、「ガトー・マルジョレーヌ」を食べたいとお願いしてしまった、これについては後述する。

 この日は通常の5,700円のプリフィクス(コーヒー別)のムニュから選択、

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・リエットとパン

・コンソメ

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・サーモンマリネ・ぽたじぇ風

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・河内鴨のサラダ

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・若鶏のクスクス

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・「ガトー・マルジョレーヌ」

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・デザート各種(好きなだけ)

 ここまでの食べ続けで、胃がかなり疲れていたのと、この日はデザート狙いもあったので、冷たい前菜2種とクスクスという軽めの構成にしてもらった。サーモンマリネは優しく柔らかなサーモンの上に、パコジェットで作った鮮烈なトマトのソルベが乗り、いいアクセントになっている。初めて食べる河内鴨は表面だけを火入れした「タタキ」状のものだが、マグレ鴨などと比べると肉質がよりしっとりして噛んで美味しい。そしてクスクスはニンニクもトマトも感じない、まるで「ポトフ」の様な優しさ、一口食べて急に泣きたくなった、それまでの放蕩をすべて許してくれる、慈悲深い「父親の味」だった(笑)。

 「ガトー・マルジョレーヌ」、稀代の名料理人フェルナン・ポワンが考案したとされるこのデザート、知ったのは辻静雄の著作で、彼は「世界最高のデザート」と何度も書いていた、日本でも同じ名前のケーキは売ってはいるが、見かけからして正調とは遠く離れたものに感じ、一度「本物」を味わってみたいと以前から思っていた、この「ぽたじぇ」のグランシェフはピラミッドではないが、一番弟子の「P・ボキューズ」で働いていて、また同僚・先輩にはピラミッドの厨房で働いた仲間もいる、本物の味を知っている筈なので、面倒なのを承知の上で「食べたい」と我儘なお願いをしてしまった。
 そして目の前に置かれたのは一見無骨な姿、専門家でないので詳しい作り方は書けないが、生地作りも中身も面倒で時間がかかるものらしく、パティシェ泣かせのデザート(笑)、泡立てた生クリームに溶かしバターを加えるなど、リッチでカロリーの高いものだ、2cm厚位に切り分けるのだが、中身が濃厚なのでそのまま立っている(笑)、これは貴重で贅沢な食体験だった、今のフランスでこのデザートを出しても受けないかも知れないが、こうしたルセットは「歴史」でもあるので、料理文化として伝承してもらいたいと願う。このマルジョレーヌを筆頭にデザートは数種食べ放題、こうした形はフランスでも廃れつつあるが、この濃いビストロには似合っている、息子さんはパティシェの修業を積んだだけあって、どれも上質な出来だった。

 人生の渋味を加えつつある男性4人、更にはグランシェフを加え5人の、濃くて深い話は最後の客になるまで続いた、人生の勉強はまだまだ終わりがなさそう(笑)。
 退店時に前回から気になっていた事を息子さんに訊いてみた、「お父さんと毎日一緒に仕事して、(意見が)ぶつかる事はないですか?」。これに対して息子さんは笑って「僕の方から父に文句を言う事はあるけれど、父からは何も言われない」との事(笑)、今の処は安心して大丈夫です。
 シェフ夫妻とグランシェフ夫妻、夜遅くまでお付き合いいただきありがとうございました、迷惑でしょうが次回のリクエストは何にしようかと今思案中です(笑)。


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大阪・北新地「天麩羅 ひらいし」(2012関西食べ続け④)

 「東京人がなぜ大阪で天麩羅?」と言われそうだが、実はこれから行く北新地の「天麩羅ひらいし」のご主人、平石氏とは面識があった。去年の3月の事だが、京都の和食店での食事会で同席し、同じ電車で大坂まで帰りながら色々と話を伺ったのだが、すごい勉強熱心な料理人だなと感心していた、その時に「今度大阪に行った時には伺いますから」と約束していたのだが、それから約一年経ってようやく実現する事が出来た。

 店のある場所は演歌にも出てくる北新地、東京銀座と並び称される大阪を代表する高級飲食店街だ、おそらくこの地を訪れるのは初めての筈だが、昼間という事もあり人通りは少ない、夜からの営業の店が多いが、その中でランチ800円、1000円といった貼り紙を出している店もあり、「まかないランチ500円」などと実に直接的なのもあった、低価格ランチで客寄せ営業するのは、外食不況の中で新地も相当厳しい現実を抱えていると見た。
 店のある場所は雑居ビルの3階、これは知らないとこの店まで辿り着けないし、フリではなかなか入れない雰囲気だ、12時半の予約時に入店、店内は掘り炬燵式のカウンターのみ10席、窓からの陽光で意外に明るい店内は掃除が行き届いていながら、緊張し過ぎない柔らかさも感じる。
 主人に挨拶をした後、お昼のおまかせ天麩羅(5,500円)をお願いする事に、

・先付 若牛蒡
・塩昆布とレタスのサラダ
・車海老の頭
・車海老

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・大葉を巻いた海老

・タラの芽

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・稚鮎

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・蕗のとう

・白魚

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・ホワイトアスパラガス

・白子
・キス
・行者ニンニク

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・フカヒレ

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・天茶(天茶か天丼どちらかの選択)

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・トマトのコンポート
※余談だが、天麩羅の撮影は難しい、皆同じ色になってしまう(笑)。

 天麩羅をいただきながら、ご主人と話をしたが、この平石氏はとにかく探究心が旺盛、もともと和食から職人経歴を始めたそうだが、天麩羅に自分の天分を見つけてから勉強を重ね、東京の有名天麩羅店を食べ歩き、更にはフレンチやイタリアンも大好きでワインにも造詣が深い、その留まる所を知らない向上への姿勢は、まるで「天麩羅界の手島純也」だ(笑)。天麩羅に付ける塩が独特だったので「何処の塩ですか」と聞いた処、実はひと工夫してあるそうで、このアイディアは屋台の串揚げ屋?から拝借したものらしい。
 食材では特に野菜の美味しさが印象的、タラの芽、蕗のとうと云った春を感じる野菜達を食べると、身体の中に活力が沸いて来る気がする、フカヒレはこの店の「スペシャリテ」だそうで、味付けしたフカヒレを揚げたもの、これは和食の修業を積んだこの料理人ならではの手間のかかった一品で美味しい。最後の天茶は御飯の上にかき揚げを乗せて、煎茶をかけていただくものだが、既にお腹一杯ながら食べてしまい「お代り」をしたくなった(笑)。揚げ油は何を使っているのかは聞くのを忘れたが、軽い食後感で全然もたれない。

 この店、東京ならもっと人気店になる筈、それでも主人はカウンター天麩羅の少ない大阪で、本物をわかってくれる客に来て欲しいので、この場所で地道に続けたいみたいだ。
 特筆すべきはトイレが広くて綺麗な事で、これは他の飲食店も見習うべきと思う。
 大阪に来た時にはまた寄りたいと思った、最後はエレベーター前で深々とお辞儀をする主人に見送られ、至極満足な気持ちで店を後にした。


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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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