最後の晩餐にはまだ早い


亀有「麺 たいせい」の塩らー麺

 フランス料理を志している料理人の友人が、長く欧州で働いていて一番食べたかった日本の食べ物はラーメンだったとの事(笑)。このため日本に久しぶりに帰って来た時に、真っ先に食べに行ったのは、福岡出身なので豚骨白濁スープ&細麺の九州ラーメンだったそうだ。
 私は長く日本を離れた事は無いが、彼と同様に1年2年と日本から旅立っていたら、一番食べたくなるのは、寿司でも蕎麦でも天ぷらでもなく多分ラーメンだと思う、それも東京下町育ちなので、醤油味のラーメンが一番恋しくなるだろう。
 日本人にとってラーメンはそれだけ普遍的な食べ物になった、昔はラーメン不人気地帯だった関西でも、ここ数年は訪れる毎にラーメン店が増えている気がする。
 
 以前に書いた事があるが、20代の私はラーメンフリークだった、ネットの無い時代なので店情報は食の情報誌、そこで美味しいと名前の挙がった都内の店は殆ど行ったと思う(笑)、あれから20年以上経ち、当時「名店」とされた店も殆ど無くなったが、この業界は次から次に「新星」が登場する(笑)、ただ新星が旧星になって消滅するまでの期間が以前に比べると短過ぎる気がする、住んでいる地元では十年間で居抜き物件ラーメン4軒目の店舗がある(笑)。

 以前の様に交通費を使って有名店訪問はしなくなったが、地元で自転車に乗って行ける範囲のラーメン店は極力回っている(笑)、その私が最近気に入っているのが、実家のある亀有にある「麺 たいせい」と云う店だ。
 場所は亀有駅北口を出て環状7号線に向かい、信号を左折し7号線沿い。開店して6年目になるそうだが、当初は夜しか営業していなかったので、なかなか行く機会がなかった、去年から昼も営業を始めたので最近続けて伺っている。

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 この店が好きな理由は、まずは店内が綺麗な事で、掃除が行き届いているしカウンターから見える厨房機器類も全て光っている、更にはテーブル上の調味料入れも丁寧に磨かれ並べられている、店主の美意識が感じられ食べ物屋はこれでないといけない(笑)。使う器も高価な物ではないが、洒落ていてラーメンが映える、割り箸を止め共有箸を使っているが、漆の塗り箸でそれも一膳ずつ紙で封印するなど、細かな心遣いが感じられる。

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 そして厨房内が静かだ、店主一人で調理するが、最近多い「なんとか返し」みたいな、そこら中に湯をまき散らす事は一切無い、淡々と麺を茹で丼にスープを張り盛る、無駄な動きや騒音が皆無、これは客と距離が近いカウンターでの調理には、一番大事なことだと思うが、どうも理解していない人がいる、酷いのになると一緒に働く人間を客の前で怒鳴り散らす店主も居るが、これでは食べ物が不味くなるだけだ。

 「たいせい」のラーメンの味は端麗でいて且つ深い、ゲンコツ、鶏ガラに昆布プラス何かの魚介系だと思うが、繊細で丁寧なスープに浅草開化楼の細麺が良く合う、WEB情報によると、店主は護国寺にあった有名な「ちゃぶ屋」出身との事、そう言えばモノトーンの店内装飾は似ている。「ちゃぶ屋」の創業者はフランス料理出身なので、スープの取り方には他店と違うものがあるのかも知れない。

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 この日注文したのは「塩半熟味玉らー麺」(800円)、少し濁った塩味スープに細麺が合う、何処か子供の頃の記憶を呼び覚ます様な「懐かしい」味わいがある(笑)。この店の特徴はやはりスープ、昼は白飯がサービスで付くが、最後は丼の中に入れて「雑炊」みたいにして食べてしまう、あまり品のいい食べ方ではないが、これが一番旨い(笑)。
 もし亀有まで来る事があるなら、今一番お薦めしたいラーメン店だ。

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広尾「沢村」のパン

 広尾「ア・ニュ・ルトゥルヴェ・ヴー」でのランチの後に向かったのが、広尾駅と西麻布交差点の中間位にあるベーカリー&レストラン「沢村」、軽井沢に本店がある此処のパンが結構いけると云う噂はパン好きから聞いていた、店主はこれもパン好きには知られている、現「シニフィアン・シニフィエ」の志賀氏の下で働いていたとの事、本店は中軽井沢にあって、例の星野グループが運営するハルニレテラス内にショップを構えている。ハルニレが出来たのが2009年なので、それ以前の情報は不明だが調べた限りでは軽井沢が1号店で、その後東京へ進出し、新丸ビル内にレストランを開業、この広尾が3店目になるそうだ、この経緯ではおそらく単独の個人資本ではないのではと思うが、実際はどうなのだろう。

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 店の場所は広尾から外苑西通りを西麻布に向かって歩き、通りの左側にある建物の1,2階を使用、1階がパン売り場とカフェ、2階がレストランになっている、相当「高そうな物件」だ(笑)、この店の近くには有名な和食の「分とく山」がある、帰りに店を通り過ぎたら、TVでもお馴染みの店主の野崎氏が、店の前で客らしき男性と話し込んでいるのを見た(笑)。
 パン売り場は思っていたより狭い、人が3人入ったらもう満杯になりそう(笑)、本店は対面販売と聞くが、この店は客が選んでレジへ持っていくトレイ式だ。私は新しいパン屋へ行くとまずは置いてあるパンの「面構え」を見るのだが、料理人と同じで美味しいパンはいい顔をしている(笑)、過去の経験で言うと、優男タイプのイケメンパンよりゴツイ感じの格闘家風パンの方が概ね美味しかった(笑)。このパンはまずはこの点では合格、しっかり焼いてあるので焦げ色もいい、値段は東京の高級ブランジェリーと同じ位か。

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 幾つかある中から選んだのは、「ル・ヴァン1/4」(400円)と「ハードトースト1/2」(350円)。レジへ持って行ったら女性が「お切りしましょうか?」と言ってくれたので、ハードトーストだけ4枚に切ってもらった、この女性店員の対応は良かった。
 家に帰りそれぞれ食べてみたので、その感想を、

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 「ル・ヴァン」
 予想していたのより質感が柔らかだった、粉の香りは充分感じられる、個人的にはもう少し酸味がある方が好みだが、これはこれで真面目に作った美味しいパンだ。やはり何処か「シニフィアン・シニフィエ」のハード系と似ていると思った。

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 「ハードトースト」
 形態は「パン・ド・ミ」だが、焼いてみると「もちっと」した食感で食べ応えがある、焦げ目が付きにくいのは糖分が少ないからだろう、トースターで焼く時間を長くして品名どおりに「ハードトースト」にした、おそらくはバゲット用の粉を使っているのではないかと思う。これはなかなか気に入った、可能なら毎朝でも食べたいパンだ。
 
 軽井沢では観光客が押し寄せる軽井沢銀座にある、東京にも出店している「浅野屋」と、ジョン・レノンが買いに来た事で知られる「フランスベーカリー」の2店が有名だが、個人的にはこの「沢村」の方がずっと好みだ(笑)。
 軽井沢にはなかなか行けないが、広尾まで来たらまた買いに行ってみたいと思う。


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広尾「ア・ニュ・ルトゥルヴェ・ヴー」

 怒涛の?平日ランチシリーズ(笑)、今回は広尾の人気フランス料理店「ア・ニュ・ルトゥルヴェ・ヴー」、長いので単に「ア・ニュ」と呼ばせてもらう、私は今回初訪問の店だ。料理人は以前「オー・グー・ドゥ・ジュール」グループの、代官山「ル・ジュー・ドゥ・ラシェット」(ここまでカタカナで書き難い店名ばかり(笑))で料理長を務めた後に2009年に此の地で独立し、現在はかなりの人気店になっている。
 以前から一度行ってみたいと思っていたのだが、平日は単身で外食に行く事が多いので、この店は一人で行くのには微妙なカテゴリーの店(笑)、それもあって後回しになっていた。今回は「行ってみたい」と言う同行者がいたので、2週間前に予約を取ってようやく出かける事になった。

 店の場所は広尾商店街を歩き、ドイツパンの「フロインドリーブ」の前を過ぎたら右側に見えるビルの1階、外観も内装も近代的でスタイリッシュ、店内は明るく天井も高いし席間も広くてゆったりした作りだ、「家賃相当高いだろうな」とすぐ考えてしまうのが私の悪い癖(笑)、壁にはワイン色をテーマにしたフランスの女性作家の抽象画が数枚掛けてあり、なかなかいい雰囲気を作り出している。

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 サービス担当は5人位居て、外食人材不足の東京でこの体制は凄い、もう一つ驚いたのは席に案内されたらすぐにグラスに入った水を持ってきた事、平日のランチタイムでワイン類を飲む客は少ないのだろうが、某レストランでの「有料の水」が話題になっていただけに、ちょっと「ファミレスみたい」と思ってしまった(笑)。
 ランチメニューはプリフィクスの3,500円と、スペシャリテをセレクトした6,000円、昼夜共通の12,000円の3種類、6,000円の内容にも惹かれたがメインが牛肉だったし、初回と云う事もあり3,500円から選ぶ事にした。

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・レタスをまとった鮎のベニエ、スイカのマリネ

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・的鯛のポワレ、ビスクソース

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・ウズラのロースト、フォアグラの香るクルトン詰め

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・クレーム・ドゥ・ショコラとベリーのアクセント、 バジルのアイス

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・フレッシュカモミールのアンフィージョン

 前菜は鮎の身をレタスで巻きベニエにしたもの、野菜類とサラダ仕立てになっている、最上質の鮎は西瓜の香りがすると言われているが、スイカマリネと合わせたのはそれが狙いだろう、全体的にはもう少し単純な構成でも良かった、コリアンダーを効かせ過ぎて鮎の繊細さを少し損ねた気がする。的鯛は逆にシンプルなポワレ、ビスクとポムドピュレとのバランスは良かった、手前の葉の天ぷらは「みやこ忘れ」と云われた気がしたが、残念ながら本当に忘れてしまった(笑)、春菊系の味でいいアクセントになっている。
 ウズラは料理名そのままの料理(笑)、ファルスにはフォアグラとクルトン、王道系で美味しくない訳はない。デセールは良質のショコラムースとバジルの組合せが面白い、何故か「サーティワン」の「チョコレートミント」を連想してしまうのは、私の発想の貧困さか(笑)。

 料理人同士の交流があり、価格帯も似ている青山「フロリレージュ」のランチ(4,200円)とどうしても比較したくなるが、即興性が高く鋭角な料理のフロリレージュに対し、安定していて随所にモダンなセンスを感じるア・ニュと云う感じだろうか。フランス料理にあまり場馴れしていない人でも楽しめるのは、ア・ニュの方だと思う、ランチと云う事もあるが、この日来ていた客層もあまりディープなフレンチ好きには見えなかった。
 ランチに関しては、この場所でこの値段なら十分楽しめる内容だと思う、店内の雰囲気もいいし、サービスも過不足ない、特に「初めてのデート」(表現が古いかな)みたいな設定には最適な店だと思う(笑)。
 これからフランス料理店巡りを極めようと思う人には、私とは逆に「ア・ニュ」→「フロリレージュ」の順番で行く事をお勧めしたい(笑)。


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綾瀬「パティスリー・アンプリル」(2回目)

 パティスリー業界の現状は想像以上に厳しいみたいだ、因みにGooglで「パティスリー 洋菓子店 閉店」と検索すると、全国の閉店情報が次から次へ出て来る、その数はレストランの閉店情報より多いのでは?と思う程だ。
 この理由は何と言っても少子高齢化と、コンビニ&スーパーで売られるスイーツの影響だろう、私自身も店売りのケーキ類を買う事は殆ど無くなっていた、たまに「甘い物が食べたい」と思うと、コンビニアイスを買う位だ(笑)、そしてそのコンビニのスイーツ類のクオリティは、ここ数年で飛躍的に向上した。今は誕生日等の記念日以外に定期的に専門店でケーキを買う家庭は、かなり減っているのではと推測する。
 そんな現状でも新規開店のパティスリーはある、他店で修行を積んだ職人が、念願かなって独立店をやっと立ち上げたら、買いに来る客がいなくなっていたとなると、これは辛い事だ、レストランでも個人店は特に応援している私なので、これからは地元を中心に個人経営のパティスリーを取り上げたいと思っている。

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 家から近い場所に去年10月に開店し、この日2回目の訪問になった「パティスリー・アンプリル」、WEB情報によると、店主は西八王子にあった「ア・ポワン」と云う店で働いていたそうだ、パティスリー情報には疎い私だが、この店はスイーツ好きには結構知られていて、地元だけでなく遠方からも買いに来る客がいたらしい、特に昨年6月に諸事情により閉店する事を発表してからは、この店のケーキが食べられなくなる事を惜しむファンが、連日行列を作ったと伝えられる。その店が閉めた同じ年に弟子筋が開業したこの店には、「ア・ポワン」を偲んで遠く八王子からケーキを買いに来た客がいたそうだ、こうした話を聞くと職人冥利に尽きるだろうなと思う。
「アンプリル」の室内外の装飾は赤色を基調にしていて、これも「ア・ポワン」に似ている(似せて?)そうだ。

 この日は先客が一人居ただけだった、暑い季節になったからかケース内の品揃えは変わっていて、ゼリーやプリン等のカップスイーツ類が増え、看板商品の一つモンブランは、季節的に良い栗が入らないので、秋まで休みますとの張り紙があった。
 今回は前回に買ったのとはあえて違う物を選んでみた。

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・シュークリーム(160円)
 この店では一番の売れ筋商品だそうだ、これが目的で買うと云うより、他のケーキ類と一緒に買う人が多いのだろう、シュー皮に特徴があり固く厚くウェットな感じ、コンビニで売っている薄皮のシュークリームに慣れていると好みは別れるかも知れない、中身は全てカスタードクリームでとてもいい味だ、コンビニシュークリームとは次元が違うし、この値段は安いと思う。

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・サバランオランジュ(330円)
 これは「美味しそう」と云うより、「面白そう」と思い買った物(笑)、通常はラム酒をブリオッシュ生地に浸み込ますサバランだが、これはラム酒ではなくオレンジジュースを使っている、子供や酒の苦手な人向けに作ったらしい、これを「サバラン」だと思うとピュアなスイーツ好きは怒るかも知れないが、「サバラン風な新しいスイーツ」だと思えばいいのかも(笑)、ブリオッシュを間違ってオレンジジュースの中に落としたみたいな感覚(笑)。

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・モガドー(340円)
 今回はこれが一番良かった、「美味しそうに見える物」はやはり食べてみて美味しい物だ(笑)、ムースショコラの上にフランボワーズのコンフィチュール、フランボワーズとブルーベリーの果実を載せたもの、ショコラの甘味とフランボワーズの酸味の組み合せがいい、チョコレートも上質だ。

 計2回の印象では、カスタードクリームを使った物は結構美味しいが、それ以外の物は完成度がまだムラがあるかなと云う感じだ、開店してまだ半年なので精度を上げて行くのはこれからだろう、都心のパティスリーに比べると値段が安いのは好感が持てる。
 厳しい時代だが、これから地域を代表する名店に育って欲しいと思う。


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青山「フロリレージュ」(2013年6月)

 この日は今年2回目になる青山「フロリレージュ」へ、最近ランチが多かったがディナーは久しぶりだ。親しくしている料理業界人が、この店へ行った事がないと聞き、それなら一度行ってみましょう、付き合いますよとの話でまとまった?もの(笑)。
 利用まで2ヶ月待たないと駄目かなと思って電話したら、意外にも1ヶ月前で席が取れた、週末より平日の月・火曜日それもランチよりディナーなら、埋まっていない日もあるみたいだ、当日になって気付いたのだが、この日は日本対オーストラリアのサッカー試合があった夜、もしかしたらそれも関係あったかも知れない(笑)。

 ディナーの開始時間18時半に口開けの客となったが、今は陽が長いのでランチタイムと錯覚してしまう、窓のない店内の雰囲気は昼夜あまり関係ない(笑)、ただ客層は違って夜は年齢高めで男女混合客が多くなる、この店に限らないがレストランらしい雰囲気を求めるならディナーだろう。
 夜はカルトブランシュ(白紙のメニュー)1種類(10,500円)、アレルギーや苦手な食材がある場合は省いてもらえるが、私はいつも「ありません」と答えている(笑)。
 当日の全10品を紹介したい。

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・ほうれん草のガレット(この束の中に隠してあるので探す(笑))

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・定番のオリーブのパン

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・和歌山産雅鮎のベニエ、はらわたのピサラディエール、サマートリュフ、ズッキーニのピュレ

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・フォアグラにパイを被せて、姫人参、レーズン

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・金目鯛、コゴミとリュバーブのピュレ、桜エビ(黒い皿はどうしても写りがよくない)

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・フランス産プーラード、胸肉と腿肉、アンディーブ、焦がしニンニクのソース

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・(二皿目)煮込んだ鶏肉を芽キャベツに包んで

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・パッションフルーツのムース、ブランマンジェ、ミントのジュレ、

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・作り立てのエクレア、クレームブリュレのアイスクリーム

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・チェリーの飴掛け、コーヒー

 雅鮎の皿はベニエした鮎に内蔵のピサラディエールを合わせたもの、蓼酢に見立てたのはズッキーニ。良質なフォアグラはパイ地で作った帽子?を被せ、フルーツの甘味とビネガー?の酸味、「甘酸っぱさ」とフォアグラの相性は定番だが、下品にならないギリギリの線で攻めるのがこの料理人のセンスだ。金目鯛と桜エビは「海老で鯛を釣る」がテーマだそうだ(笑)、コゴミのピュレの苦味がいい。仏産プーラードは丸焼きしたものを分ける、「鳥類は骨付き丸のまま焼くのに限る」は大阪の某料理人の名言?だが(笑)、このキュイッソンも見事の一言、淡白な肉質に熟成黒ニンニクのソースが効いている。一皿目の完成度が高過ぎたので、二皿目の芽キャベツに包んだ煮込みは必要なかったかも知れない。デセールは2品共に秀逸だった。

 料理は甘味、酸味、苦味を見事に駆使し、特に初夏向けに酸味を際立たせ、鮮烈にして淡麗、アミューズからデセールまで優雅にして繊細、それでいて随所に骨太さも感じさせる、時折遊び心を見せるのもまた心憎い(笑)。食材の力が落ち易い夏の料理で、ここまで構成に唸らされたのは、2年前の大阪「Fujiya1935」での料理体験以来だ。

 「カルトブランシュ・メニュー」とは、その場の即興で考えるものではない筈、従来は一神教にも通じる「絶対的なもの」であったフランス料理の世界に、客の経験値や熟練度により変化する「相対的な料理」という概念を取り入れたのが重要な点。考え方は和食や茶の湯の世界に近い、季節や気候によっても変わり、料理はその前に出た料理、その後に出る料理と有機的に繋がり、総合的な作品として完結する。どうもこの事を理解していない料理人がいる、形だけを真似ても駄目で、自分の「精神」を表現する必要があり、かなり難しい方法だと思う。 
 この「フロリレージュ」の若い料理人には、カルトブランシュの本質を理解する非凡なセンスがある、オフにはフランス料理より和食や中国料理を食べ歩く事が多いらしいが、この日の料理にも和食からヒントを得たのではと思わせるものがあった(笑)。

 この店は20席の客席数に対し、3名のサービスと5名の厨房スタッフ、数だけでなく質も備わっているので快適な時間が過ごせる、料理の出も滞らない。夜のムニュ10,500円は東京高級店の中心価格帯だが、この店で提供されるものを考えれば安いと思う。特に平日は同業者が食事に来る事が多いそうだが、自分の店の参考にすべき点が幾つかあると思う、例えば食事中のパンにしてもこの店位のレベルの物を使って欲しい、これはお金をかけずとも出来る筈だ。
 最後は川手料理長と近藤支配人に見送られて店を後にした、此処は昼もいいが夜もそれ以上にいい(笑)。食べる側を常に刺激する料理と居心地の良いサービスのおかげで、とても満ち足りたディナーになった。

 

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本郷「TIES(タイズ)」

 御茶ノ水から本郷・湯島界隈は、私が30年以上を過ごした職場から近く、遷り変りをずっと見て来た街だ、特に本郷通りは都営大江戸線が出来るまでは歩く事が多く、年を経る毎に古い街並みが失われていくのに寂しさも感じていた。昔から続いた喫茶店や食堂が閉めた後に出来たのは、全国均一仕様のファストフードやコーヒーチェーン、金太郎飴みたいに何処を切っても同じ光景が現れる、面白味のない普通の東京の街になりつつある(笑)。
 その本郷にコーヒーとケーキの美味しい店があると聞いたのは数年前、以前よく歩いていた本郷通り沿いなので、「一度訪ねてみたい」と思っていたが、私は根が貧乏性のためか(笑)、喫茶店で「ゆっくり」出来ない性質で、フランス人みたいにコーヒー1杯で何時間もじっとしていられない、そんな事もあって行く機会を逃していたが、先日運動不足解消のため、久しぶりに歩いて帰る途中、この店の事を思い出して初訪問をする事に。

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 店の名前は「TIES(タイズ)」、WEB情報によると「ネクタイ」の‘tie’の事で、人と人の「結び目」の場所にしたいと命名したそうだ。場所は地下鉄の本郷三丁目駅と湯島駅の中間位、東京大学構内へ入るための龍岡門近くの1階にあるが、店構えも看板?も地味で注意しないと通り過ぎそうだ。
 店内へ入るとケーキを並べたガラスケースがあり、店売りにも対応しているが種類はそう多くない、これは全て店主が作るそうだ。カフェ部分は細長い店内の奥で、結構暗いので客が居るのか判らなかったが、案内されてみると椅子席(6席)は既に埋まり、カウンターにも人が座っていた、この同じカウンターに案内された。
 渡されたのはコーヒーのメニュー、数種ある中から選んだのは「ファイブブレンド」で、豆を20gと30g使用の二種あるうち30gを注文した(600円)、勿論ケーキも食べてみたいので、変わった形の「サーカス」(500円)をお願いした。

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 カウンターなので、コーヒーを淹れる店主がよく見える、眼鏡をかけインテリ風で寡黙そうな風貌、淹れ方が独特でネルドリップだが小さいネル袋に挽いた豆を入れ、湯を入れたポットを2つ使用する、始めは低い湯で蒸らし、その後熱い湯で抽出するみたいだ、ポットの注ぎ口は回さず湯を下に落とすだけ、時折ネル袋を動かす、豆は深煎りで細かくミルしたものだと思う。同じ本郷通りには「和田珈琲店」という老舗専門店があり、こちらもネルドリップだが、大きなネル袋を使いポットの注ぎ口を回しながら淹れる、豆も浅煎りで粗くコーヒーは軽い仕上がりになる、同じネルドリップでもこれだけ違うのは面白い、考えてみれば肉の焼き方も料理人により千差万別だ、どれが正解とは言えず、要は作る側が「これが一番」と納得して実行する事が大切なのだろう。

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 店内がコーヒーの香りに満たされる頃、女性(奥さん?)がケーキを運んで来る。「サーカス」はおそらくサーカス小屋のテントをイメージしたのだと思う、コーヒーとバナナのムースをチョコレート生地の上に乗せココナッツパウダーをまぶしたもの、回りの柱に見立てたのは焼きメレンゲ、全体的に柔らかく優しい味、持ち帰りケーキと考えると繊細過ぎる気もしたが、これはこの店のコーヒーと合わせて味わうのがいいのだと思う。

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 続けて運ばれて来たのが丁寧に淹れたコーヒー、珍しいデザインのカップは小鹿田焼だそうだ、一口飲むと苦味の後に爽やかさがやってくる、濃厚な香りは強いが機械抽出ではないので嫌なエグミは全くない。なお1杯あたりコーヒー豆30gはかなり贅沢な使用量だ、ちなみに市販の紙パック式コーヒーは10g前後(笑)。

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 照明を落とした店内には、エリック・サティ等ピアノ曲のBGMが流れ、贅沢な時間を過ごしている気にさせてくれる(笑)、変な緊張を強いられない空間なのもいい。コーヒー+ケーキで1,100円は高いかも知れないが、殺伐としたコーヒーチェーン店ではまず得られない「豊かさ」を感じる事が出来た。
 此処は東大や本郷三丁目駅周辺まで来たら、足を延ばして寄ってみる価値あるし、男一人でケーキを食べていても、決して可笑しく思われない店だと思う(笑)。


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増田勉作「三島五寸鉢」

 先日、いつもの様にオークションサイトの陶芸ジャンルを眺めていて、「これいいな、欲しい」と思って、入札してしまったのが増田勉作の「三島鉢」、直径16㎝程の小ぶりの鉢、結局競争者が現れず出品時の価格で落札する事が出来た。
 送られて来た物を見たら、予想以上に良い出来で安価で買えた事が嬉しい(笑)、見た目より軽く、これは日常で使いたい器だ。ネットオークションで器を買うのはハズレを引く事もあるが、最近はデジタル写真の向上により、画面で見た印象とそう違わなくなった。

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 WEB情報によると作者の増田勉は1954年東京生まれ、日大芸術学部美術学科卒業後、美術教師に就きながら独学で陶芸を学び独立、現在は神奈川県津久井にて作陶を続けている。作風は「李朝」の焼き物を範とし、粉引、刷毛目、黒釉、灰釉といった古来より伝わる技法を使い、シンプルで日常の暮らしの中で使える器を作っている。

 李朝とは1392年から1920年まで続いた朝鮮半島最後の王朝を指すが、骨董の世界ではこの時代に作られた工芸を総称して呼ぶ、陶磁器については殆どが民衆の日用雑器だったが、室町時代頃から日本に伝わり、千利休が広めた「侘び茶」の精神と繋がるものがあり、特に戦国時代に武将達がこぞって求め、以後日本では骨董陶磁器の代表的収集品となっている。豊臣秀吉による朝鮮戦役への出兵に駆り出された武将達は、同じ物を作りたいと朝鮮の陶工達を連れ帰り、日本で作らせた物が萩焼や唐津焼の始まりとなった。

 「三島」とは李朝以来の装飾技法の一種で、成形した半乾きの陶土へ、波形や丸紋、菊花紋等を型で押判して凹ませ、その上から白化粧土を掛け拭き取ると凹みの中に白い文様が浮き出る、これに透明釉薬を掛けて焼成するやり方、韓国では「粉青沙器」と呼ぶ。なぜこれを日本で「三島」と呼んだのかについては諸説あるが、有力なのは伊豆三島で作られていた「三島歴」に文様が似ていて、これを見た日本の茶人達が「三島みたいな文様の茶碗」と呼んだとの説で、室町時代の茶会記には既に「みしま」の名前で記録されているそうだ。

 ちなみに我家で所蔵する門外不出(笑)の、李朝初期おそらく15~16世紀頃と思われる三島鉢を紹介しておく、大きさ深さ共に今回の増田勉作の物より一回り大きい、買ったのは骨董ブームの頃で恐ろしい値段がした(笑)、全体に傾いでいて高台も小さく実用にはあまり向いていない(笑)。

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 伝世品と全く違わない物を作ってもそれは「コピー」でしかない、技法の研究にはなるが、それを作って売るとなると、現代の生活に沿って実際に使われる物にする必要がある、この増田勉が作った器にはその実用性を感じる事が出来た。

 今は105円ショップで皿、茶碗、グラスと何でも揃えることが出来るが、あれを自宅で使いたいとは正直思わない、スーパーの安売り豆腐でも、いい器に盛れば美味しくならなくとも、心は少し豊かになれる(笑)、かの北大路魯山人も金の無い時代に、無理して買った高価な切子のガラス器に、安い豆腐を入れ食べていたそうだ。
 今の時代に気持ちが豊かになれる事にお金を使うのは、無意味な事ではないと思いたい(笑)。


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東銀座「ル・ボーズ」

 「WEBゲーテ」というサイトの中で、「ビストロ新潮流」と題し比較的最近オープンした、都内のビストロ5店を紹介していた。
http://goethe.nikkei.co.jp/gourmet/130425/index.html
 紹介文を引用させてもらうと、「雰囲気はカジュアルだけれど、味は本格派」「名店と言われるレストランで修業した若手たちが、小さいながらも自分の理想郷として奮闘している店」とある、パリの「ネオ・ビストロ」みたいな感じだろうか、これを見ていて「行ってみたい」と思ったのが、今回紹介する東銀座の「ル・ボーズ」だった。
 サイトでは白アスパラガスの前菜と、ラパンのココット蒸しを紹介していたが、どちらも料理に余計な物が無く端正、料理人は銀座の老舗フレンチ「ペリニィヨン」で18年働いていたとあり、この料理画像を見る限りでは確かにそのキャリアを感じる事が出来た。 
 これは良さそうと、何か働きかけるものがあり(笑)、まずはランチに行ってみようと平日休みに当日予約で行ってみる事にした。

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 店の場所は地下鉄東銀座駅を出て、王子製紙本社のある道を銀座方面へ向かった左側、雑居ビルの3階にある、ビルの入口の案内には‘BRASSERIE BAR A VIN Le Bonze’と表記されている。エレベーターで3階に上がり、ガラス扉を開けたら採光の良い明るい店内、カウンター5、テーブル12の計17席と小さな店だ、サービス担当の女性に名前を告げたら、カウンター、テーブル席どちらでもと言われたので、厨房に一番近いカウンター席に座った。ここは料理の作業が見える最上席だ(笑)、厨房は割と広さを確保しているが、料理は店主一人で担当する。
 ランチメニューは、前菜+メイン+デザート&コーヒーの2,500円と、スープ+野菜+メインの1,200円の2種、前菜とメインは3種から選べる、2,500円の方に決め選んだ料理は、


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・サクラマスのマリネ、緑アスパラ、島キュウリ

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・「レカン」のオリジナルラボで焼いているバゲット(美味しい、売っていれば買いたいがショップは無いらしい)

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・2009 Bourgogne Côte d'Auxerre Chardonnay Domaine Sorin de France (グラス1,000円)

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・仔羊モモ肉のトマト煮込み

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・苺のスープ、クレームダンジュ
・コーヒー

 サクラマスは両面を炙ってからマリネしたもの、島キュウリが珍しい、マスの身は上質で、酸味を効かせ過ぎず柔らかな味。仔羊は想像していたのは違い、骨付きの塊肉をトマト味で柔らかく煮込んだもので、皿からはみ出しそうな程に大きい、この料理も塩気が穏やかでトマトの酸味が効いている、特に骨回りの肉は美味で残さない様に骨まで齧ってしまう(笑)、魚も肉も骨付きのまま料理した方が美味しい実例。デザートの量は少なめだが苺の酸味とクレームダンジュの甘味のバランスがいい。
 全体的には酸味の使い方が上手く、盛付けもシンプルながら綺麗、さすが「ペリニィヨン」出身だと思った。今年行った「ビストロ・ヌー」や「シック・プッテートル」でも感じたが、若い世代の料理人は総じて皿上のドレッセが綺麗だ、これはネット上に料理画像が頻繁に出回る時代になった事と関係ありか、つまり「美人は人に見られて綺麗になる」のと似ていると思うが違うかな(笑)。

 サービスは若い女性が一人で担当、始め料理人のマダムかと思ったが違うみたいだ、でもこの方はしっかり客席を把握しているし、予約なしで入って来た客への対応も良く好印象、外食サービスの人材不足の東京で、今頼りになるのは女性だけかも(笑)。
 夜でもメニューは5,000円と7,000円だそうで、銀座の地代を考えたらかなり頑張っているなという印象、テーブルクロスは省略、ナプキンは紙製、カトラリーは使い回しとコストダウンを図っているが、これでいいと思う。ベタなサービスを望む人はサービス料を取る他店へ行った方がいい、銀座ならいくらでもある(笑)。

 「カミソリみたいな切れ味」と云うより、もっと安心して美味しい料理、でもまた次来たくなる店だ(笑)。雰囲気も隠れ家的だし、この日も予約なしでやって来た客が数人いた、男1人で来ても違和感ないフランス料理店だと思う、銀座にこうした店が出現する事は一昔前なら考え難かった。

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 なお店名は店主の髪型から取ったそうだ、ただ‘Bonze’は職業?としての坊主の筈で、髪型の「坊主頭」は‘Tête rasée’では?もしかしたらプッチーニの歌劇「蝶々夫人」の中に‘Bonzo’(坊主)という怪しげな日本人が現れるので、ここから付けたのかも知れない、次行った時に訊いてみようと思う(笑)。


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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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