最後の晩餐にはまだ早い


青山「フロリレージュ」(2014年6月)

 最近、料理人と話していて興味深い話を聞いた、それは「料理人が店に客として来た時は、名乗らなくても料理の注文の仕方で(料理人だと)大体わかる」で、その理由は「店側が今日はこれを食べて欲しいと思う料理をまず注文するから」だそうだ。
 これはいい事を聞いた、別に料理人だと思われたい訳ではないが、「この客は解っている、ただ来てみただけの冷やかし客ではない」位には思われてみたいものだ(笑)。
 最近は「おまかせメニュー」の形態を採る店が増え、こうした店と客の腹の探り合いが可能なカルト注文の店が減っているのは寂しいが、もしそうした場になったら、「この日、店が一番食べて欲しい料理」を探り当てられる様、より一層勉強しないといけないなと思う(笑)。

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 この日3ヶ月ぶりに訪れたのは、青山の超人気店「フロリレージュ」のランチ、この店のディナーはカルトブランシュのおまかせメニュー1種類だが、昼は前菜・メイン・デザートから1品ずつ選べるプリフィクスになる。何回か通っている内に気付いたのだが、紙に書いたメニューは1つだけでなく2つ以上あり、更には「本日の肉料理」「本日のチョコレート」と表記され口頭で説明する料理が席毎に微妙に違う、この店は席間隔が割と近く天井が低いので、各テーブルでサービスが料理を説明する声が聞こえる、つい聞き耳を立ててしまい(笑)、それで理解した。
 初訪問の客には、この店のスペシャリテである「フォアグラとメレンゲ」「チョコレートのオムレツ」等が提案されるが、何回か通った客には初登場の料理になる事が多い、その中から「今日は何を食べさせたいか」の料理人のメッセージを受け取る必要がある、これは客のレベルを試させられるみたいで、ちょっと怖い(笑)。
 そしてこの日選んだ料理は以下のとおり、

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・アミューズ(定番のオリーブパン)

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・白ワイン4種(スイス、ローヌヴィオニエ、ギリシャ、シャサーヌモンラッシュ)

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・熊本天草産車海老とフォアグラ、焼き茄子のソース(45℃の海老)

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・肉切りナイフは仏Perceval社の9.47

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・本日の肉料理(宮崎産馬肉のロースト、牛蒡の牛蒡巻、レモンと松の実ソース)

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・肉料理2品目(馬肉のパイ包み焼き)

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・本日のチョコレート(長野産白桃、ホワトチョコレート、メレンゲの液体窒素)

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・変わったカップに入ったエスプレッソ

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・佐藤錦のパート・ド・フリュイ

 前菜は雑誌「専門料理」最新号で、「45℃の海老」と題して紹介されている料理、摂氏45度の低温加熱で調理した最上質の車海老を、焼き茄子とフォアグラの上に、握り寿司みたいに(笑)乗せたもの、焼き茄子の皮を使った苦味のある黒いソースが効いている、これは注目すべき料理だった、今年これまでに体験した全レストランから前菜を一品選べと云われたら、多分これかなと思う。焼き茄子とフォアグラの組合せは以前にもこの店で出たが、相性がいい事は実証済み、そこへ海老が加わる事で味とテクスチャーが複雑になると共に、料理として完成度が更に高まっている。
 馬肉は今注目されている食材、レストランでも提供される事が多くなった、脂身が少ない赤身は滋味があり、食肉として可塑性も大きく、これからもっと使われていいと思う。この旨味に富んだ肉をロースト、短角牛の赤身と似ているが鉄分味はこちらの方が多いのではと感じる、これに酸味を利かせたソースがベストマッチ。
 2品目のアンクルートは王道の古典料理、それを軽く現代的に仕上げるのが、料理人のセンスだ。
 デセールはこれから旬の白桃のコンポートとホワイトチョコの組合せ、液体窒素で加工したギモーヴが面白いアクセントになっていた。

 湿気と高温が厳しく、フランス料理には不向きな季節を迎えるので、今回の料理はどうなのだろうとの懸念もあったが、これはノープロブレムでいつも以上の冴えを感じさせてくれた、この料理人は酸味の使い方が優れているので、他の料理人の料理が疲れる?夏場の料理にこそ本領を発揮するのかも知れない。
 この料理が4,500円(税別)で、それも高額家賃の青山で出せるのが凄い、客入りに苦しんでいるレストラン店主は、この店へ一度行って勉強すべきだと思う。 
 この日も有給休暇を一日申請して行ったのだが、その価値は十二分にあった、「そこへ行くために旅をする価値のある店」が「三ツ星」の定義なら、私の三ツ星は「そこへ行くために休暇を取って行く、取れなければ仮病を使ってでも行く店」、そう此の店がそれだ(笑)。
 最後はいつもどおり笑顔の川手料理長と宮垣支配人に見送られて退店、次は何時行けるのかと、まだ予約も取れていないのに待ち遠しい、悔しさも少しあるが今回も若い料理人に完敗だ(笑)。


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本郷「ビストロ・アバ」(2014年6月)

 昨年末に初訪問をして以来、その強烈なキャリテ・プリから「また行きたい」と思いながらチャンスがなかった、本郷のフランス料理「ビストロ・アバ」のランチ、この日偶然にも2回目の訪問が出来た。
 平日の昼前に近くを歩いていて、本郷三丁目駅近くで饂飩か担々麺を食べようかなと考えながら、この店の前を通り過ぎた。11時半の開店直前でまだ電気が点いていなかったが、中年女性二人が店前で話していた。そこで「今なら一時間以内で食時終了できる筈」と閃き急遽予定変更、オバサマ達の後ろに並ぶ事にした、人生とはこうして当初の予定とは違ってくるものだ(笑)。
 11時半を過ぎてもまだ店は開かなかったが、しばらくして店主が出て来てランチメニューを書いた小さな黒板を置いた、この日のメニューは以下のとおり。

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 店のWEBページでも説明があったが、スペシャリテの豚肉料理が値上げになっていた、最近豚肉の値段が高騰しているのでやむを得ない処だろう、他の料理は殆ど値上げしていないので嬉しい事だが、反面「大丈夫なの?」と心配もしてしまう。

 店が開いたのは11時40分頃、並んでいたのは5人だったが、この後次々と入店して12時にはカウンター&テーブル席は殆ど埋まった。
 前回利用時は店主の他にもう一人サービスの女性がいたが、この日は店主一人だけ、料理を作りサービスまでこなすので大変そうだが、一人体制は慣れているのか淡々とこなしている様に見えた、ただ最後の方に入って来た客はどうしても料理が出るのが遅くなるので、この店のランチは開店時間に行くのが狙い目だ(笑)。
 前回は豚肉料理だったので今回は別の食材にしようと、悩んだ末に注文したのは、

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・グリーンピースの冷製スープ(300円)

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・肉用ナイフはPARISの厨房機器販売店「E.DEHILLERIN」の物

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・骨付き鴨もも肉のロースト(1,150円)

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・リーフサラダ

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・ごちそうさまでした(笑)

 グリーンピースのスープはクリーム分を感じさせず、水とオリーブオイルで味を調えたのか畑の香りがした(笑)、前菜にはいい一品。
 骨付き鴨もも肉のローストは、おそらく胸肉を取った後のもも肉を一旦コンフィにして保存、注文後に温めたものだと思うが、パリっとした皮目と味の濃い肉で二度楽しめる、ソースはあらかじめ別に仕込んでいた鍋から取分けた、トマトベースの肉じゃが?みたいなもので、加えてある粒状の物は多分トルコ料理で使う挽き割り小麦「ブルグル」ではないかと思う、この肉じゃがソースがとても美味しい。
 この2品にリーフサラダと自家製パンが付いて1,450円、サラリーマンのランチとしては高いかも知れないが、この本格的な料理内容を考えたらとても安いと思う、そして料理の量が多い(笑)、隣席の若い女性は骨付き豚の大きな塊と格闘、それでも見事完食していたので思わず拍手してあげたくなった(笑)。

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 前回は食後にコーヒーを頼んだが、この日は料理人一人で大変そうだったので、食べ終わったら早目に店を出た。フレンチはどうしても食後に甘味が欲しくなるので、コンビニで100円アイスを買って歩き食いをすると云う、あまり褒められない事をやってしまった(笑)、皆さんは真似しない様に。
 この料理人はきっとチマチマした事が嫌いなのだろう、フランス的にとにかくド~ンと質量として料理を出す、「美味しさは大きさだ」と言いたいみたいだ、それを味わう客側は決して残したりしてはいけない、苦しくても意地で全部食べないと(笑)。
 此処の料理は「フランス料理とは何であるか」の一面を体現している、誰にでも勧められる店ではないが、特に肉を本気食いしたい肉食男子&女子は一度行ってみる価値ありと思う。


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麻布十番「ビストロ・コティディアン」(2014年5月)

 ある日、FBで友人になっている関西の若手料理人から届いたメッセージを開封したら、「明日、明後日と東京に行きますが、どこかでご一緒出来ませんか?」との知らせがあった。「そんな、急に言われても困る」と思ったが、偶然にもその日の昼の予定がスッポリ空いていた(笑)。私の予定は空いていても、問題は都合よく空いている店があるかどうかだ、記憶を辿って「平日昼に営業」「今からでも予約が取れそう」「料理人なのでよく食べる?」、この条件で候補店を考えた。
 今回はその若手料理人の他にもう一人、在京の「フードファイター級の胃袋を持つ料理人」(笑)が同行するとの事で、これは東京に多い上品少量系な店は選べなくなった。「ガッツリ系のビストロだけれど、東京ならではのセンスを感じさせる店」、そんな難しい店があるだろうか?と考えて思い浮かんだのが、私の好きな店の一つである麻布十番の「ビストロ・コティディアン」、「頼む、空いていてくれ」と願いながら電話をしたら、運良く席が確保できたので、この日に店で集合する事になった。

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 前回利用は昨年末だったので、もう半年経ってしまった、いつも同じ事を言っているが、この歳になると月日が経つのが怖いほど早い(笑)。
 12時より少し早めに着いてしまったが、マダムが笑顔で迎えてくれた、昨年末にいたサービス担当の若い男性は辞めてしまったそうで、現在マダム一人で接客にあたっている、このため全席は埋めない方針みたいだ。着席後に挨拶に出てきた須藤料理長に、私から二人の料理人を紹介した。料理長夫妻は6月末から3週間フランス~スペイン研修に行くため店を休むそうで、その前に伺えて良かった。

 他店同様に4月から少し値上げしていたが、それでもこの店のランチは内容と麻布十番の地盤を考えたら安いと思う。私はその中から選んだのが2皿のプリフィクス(2,300円+シュークルート900円)、他の2人は私が勧めた、スペシャリテであるカスレコース(4,200円)をお願いする事にした。

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・アミューズ(ポタージュ)

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・ヤリイカのソテー、クスクスのサラダ

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・「ポワンタージュ」のバゲット

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・岩中豚のシュークルート

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・イチジクのタルト、バニラアイス
・エスプレッソ

 フランス料理でイカを扱うのは難しい、クリュ(生)では和食になってしまうし、加熱しすぎると美味しさが消えてしまう、過去フレンチのイカ料理で「旨い」と感心したのは、三田「コートドール」の「ムギイカのソテー」位だが、このヤリイカの調理も的確、これ以上火を入れると身が固くなるし、これ以下だと身の旨味が出ない、下に敷いたクスクス(スムール)のサラダとの相性も見事、周りのグリーンのドレッセが、この店が只のビストロでない証拠だ(笑)。
 「岩中豚のシュークルート」は2回目だが、自家製のベーコンとソーセージを使い、東京ビストロ味としてリファインしたもの、本場アルザスでもこの料理を食べたが、量は多いがもっと雑な出来(笑)、現地の人にはあれでないと駄目なのだろうが、21世紀に生きる日本人の私には、このコティディアン版の方を採りたい。
 この店はデザートが美味しい事でも非ビストロ的だ、旬の生イチジクを加熱し過ぎず上手く活用し、バニラアイスとの相性も抜群、お代わりしたい位(笑)。

 客と店との関係だとあまり馴れ合いになってもいけないが、料理人との会話は刺激を得る事が多い。彼等がどんな事を考えて日々料理にあたっているのか、これは知っているか否かで、随分と理解が違うと思う。中には「私の料理に言葉は不要です、まずは感じてください」(笑)などと云う料理人もいるが、正直言ってこの手の料理人はあまり信用したくない(笑)。
 アセゾネ(味付け)、客気質、家賃等々、特に大阪と東京の違いの話は大変興味深い、大阪出身の料理人が「東京へ来てとにかく楽だと思ったのは、カウンターでの料理でも喋らなくて済む事、大阪なら黙っていたら客が次々と話しかけてくる、それに相手出来ないと料理人と認めてくれない」との話しを聞き、これからカウンターに座ったら、料理人が嫌そうでも話しかけないといけないなと思った(笑)。
 食材と格闘し、古典を学び周りの動向に目を光らせ、日々悩みながら前へ進もうとしている、生き方は不器用だけれど魅力ある彼等に、もっと光が当たらん事を(笑)。

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 この後「蕎麦を食べに行こう」と話がまとまり、麻布十番の代名詞にもなっている蕎麦店へ向かったのだが、これはスペースの都合?で割愛します(笑)。
 


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大谷田「トラットリア・サンタ・テレーザ」

 東京・飯倉にあるイタリア料理の老舗「キャンティ」の開業は1960年(昭和35年)、創業者は川添浩史・梶子夫妻で、海外経験豊富だった彼らの「日本には本格的なイタリアン・レストランがない、それなら自分達で作ってしまおう」との発想から生まれた店だった。やがて各界の著名人が集まって来る様になり、料理だけでなく文化発信地としても名声を高めていく事になる。そして現在でも営業を続けているが、オーナーは夫妻から数えて三代目になるそうだ。この店の歴史については、野地秩嘉著「キャンティ物語」(幻冬舎文庫)が詳しく書いている。 
 何故「キャンティ」の話を書いたかと云うと、この店の開業後半世紀以上を過ぎて、ようやく我家の近くにイタリア料理店が出来たからだ(笑)。
 我家がある場所は東京の外れの外れ、パリに例えれば「キャンティ」がカルチェ・ラタンなら、位置的にはラ・ヴィレットとかベルヴィル辺りになる(笑)、およそヨコメシ系のレストランが似合わない地域だった。環状7号線沿いにはファミレスが幾つかあるが、何処も「一回入れば、いや一回入らなくてもいいや」と思う店ばかり、外食は電車を乗り継いで都心へ出るのが当たり前と思っていた。

 ある日何気なく見ていた地域のタウン誌に、我家から自転車で5分程度のイタリア料理店の存在を知った、それから一度店の前を通ったのだが、以前は焼肉屋だった店舗、アパートの一階部分なので、上階の居住部分には洗濯物がぶら下がっているのはさすが下町(笑)。
 まずはランチタイムに行ってみようと考えていたが、なかなか勇気?が出ずに見送っていた、今回ブログネタが不足した事もあり(笑)、意を決し?訪れてみる事にした。
 店の名前は「トラットリア・サンタ・テレーザ」、場所をうまく説明するのが難しいのだが、どの駅からも離れていて、私の様な近所の人か、車で来る人を想定しているのだろう、狭いながら駐車&駐輪場も備えている。

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 平日11時半の開店直後に入店したのだが、既に先客があり、この後も続々と客がやってきた、意外と云っては失礼だが(笑)、ランチタイムに関しては既に人気店になっている。店内は意外と広くカウンターと椅子席、喫煙可のテラス席もあり、この席が人気みたいだ、全部で30席以上ある。オープンキッチンには伊武雅刀の若い頃似の渋い男前料理人(笑)と若い男性、サービスは若い女性2人計4人の体制。                                                        
 ランチメニューは単品パスタ(880円)、これを前菜&デザートと組合せた「贅沢セット」(980円)、その他にピッツァもあったが、今回はその贅沢セットをお願いする事にした。

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・ワカメ?スープ

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・前菜(合鴨のスモーク、海老のマリネ、ローストビーフ)

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・シーザーズサラダ

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・ホタテとズッキーニのフレッシュトマトのスパゲッティ

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・焦がしたピスタチオのジェラート

 席に着いたら、注文前に水とスープが運ばれて来た、このスープが薄いので「理研のわかめスープか?」とも思ったが、一応自前みたいだ(笑)。前菜は意外にも本格的な味、これは美味しかった、シーザーズサラダは普通(笑)。問題のパスタは麺がちょっと柔らか目で、全体的に薄目な味付けだった、ランチタイムに乾麺を茹でると時間がかかるので、あらかじめ下茹でするか水に浸けておく店も多く、もしかしたらこの店もそのやり方かも知れない。
 この値段でジェラートも付くのは立派、コーヒーは別料金だった。

 980円ランチなのであまり細かい事は言いたくないし、とにかく5品出すのはエライと思う(笑)。現時点では同価格帯なら亀有の「ティア・ブランカ」の方に魅力を感じるが、それでもヨコメシ系食堂不毛のこの地で、続いて行って欲しいなと願わずにいられない。
 後でショップカードとポイントカードを貰ったのだが、荒川区町屋にあるイタリアン「トラットリア・トラム・ ロカーレ」の支店になるそうだ。

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 少子高齢化が続き若年人口が減っていく中で、これから都内でも若い人達にどう定住してもらうかが課題になって行く、保育園や学校といった子育て環境を充実させるのも勿論だが、歩いて行ける範囲に良い外食店があると云うのもこれから大事になりそうだ(笑)、行政側も地域の飲食店をもっとバックアップすべきだと思う。
 この店潰れないで頑張って欲しい、また行ってみるつもりだ。


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北海道「斜里窯」中村親子の器

 今回は料理の話ではなく容れ物、器の話をしたい(笑)。
 話は今年2月に遡るが、「そごう柏店」で開催されていた、「北海道の観光と物産展」に出店していた「札幌五丈原」のラーメンを食べて帰ろうとした時、会場内の一角で足が止まった。それが「斜里窯」と名乗った道産窯元の陶器を並べたコーナーで、一目見てなかなかいい焼物ではないかと直感し、器好きの本能?が目覚めてしまった(笑)。素朴な中にも力強さがあり、古陶みたいな鄙びた雰囲気も感じさせる。
 その時売場には誰もいなかったが、気にしないで幾つか焼き物を見ていたら、「どうぞ、手に取ってご覧ください」と、大柄な男性が明るい声で話しかけてきた。
 このコーナーの売場担当かと思ったら、デパートの人間にしてはカジュアルな格好をしている。もしかしたらと思い「作家さんですか?」と聞いてみたら、そのとおりだった。

 男性の話によると、この「斜里窯」は北海道斜里郡斜里町にある窯元で、中村さんという親子二人が制作している、この方は息子の中村しんさんだそうだ。
 器好きはお互いの匂い?で判るもの(笑)、そこから器話になってしまったのだが、やはり私が見込んだとおり、北海道産の陶土と薪を使って登窯で焼いているとの事、薪窯特有の自然な色合いと素朴な造形がいい。
 立ち話だけで帰るつもりが、焼物話に高じているうちに結局皿と茶碗を買う事になってしまった(笑)、まずは父親である中村二夫さん作の「粉引平皿」(3,150円)、直径19.5cm、高さ3cm。

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 朝鮮出自の古い井戸茶碗に多く、古陶磁好きが「琵琶色」と呼ぶ赤みがかった独特の色合い。鉄分の多い陶土とガラス質の長石釉を使い、薪窯の木灰が混ざるとこの色が出やすいと聞く、同じ窯の中でもこうして赤く焼ける物と灰色に焼ける物があり、後者は周りに灰が多く降り積もり、一種の酸欠状態になると現れるらしい。
 全体的に武骨で男性的な作り、作為がない自然さで鄙びた風情も感じ、これは相当数をこなしてきた作家だと思う、裏返すとしっかりとした高台付近は、ザラっとした荒い陶土で、意外にも九州の唐津焼と似ている。
 持ってみると皿全体はズシリとした質量があるが重過ぎる程ではない、表面に凹凸があって均質ではなく、この皿に乗せるのは魚の切り身や、鴨の抱き身、ローストビーフ等が合うと思う。

 続いては息子さん作の刷毛目茶碗(6,300円)

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 同じ琵琶色でもこちらの方が明るい仕上がり、かけ流した白い化粧土の模様が抽象画みたいで面白い、若い世代が作った物だけあって作風も若々しい。
 分類すれば大振りな飯腕だが、抹茶碗としても使える大きさだ、名碗中の名碗とされる井戸茶碗の風格も備えている。実際に手で持ち上げてみると、手の小さい私には大振りに感じるが、全体のバランスがいいので不釣合いさはない。裏を返すと高台は小さく、高台周りには釉薬が爛れたみたいな状態になっている、これを昔の茶人は「梅花皮(かいらぎ)」と呼び、茶碗の景色つまりそれぞれの個性として珍重した。日本の茶人特有のディレッタンティズムなのだが、まあ外国人には最も判り難い分野だと思う(笑)。
 多孔質の厚い陶器は熱さを伝え難いので、熱い物を入れても手が耐えられる、このためお茶漬けに使う等の用途には最適だ。

 親子の作品を見て、昨今の備前や信楽みたいな有名処と違い、作品全体に作為が無く、中世の朝鮮陶器に共通する真摯で大らかな作風だ、父と息子で微妙に印象が違うのも面白い。
 買ってから約4ヶ月経ったが、器とそれを使う人間が歩み寄るには、最低でも半年位使い続ける必要がある、ようやくお互い馴染んで来た頃だろうか(笑)。  
 作品になるまでの手間と造りを考えたら、この値段は安いと思う。

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 この斜里窯は、「日本最北東端の登窯窯元」だそうで、場所は知床半島の付け根あたり、カフェもやっているそうなので、これは是非に一度見に行ってみたいと思っている。北海道在住で器に興味があり車の運転が出来る方、連絡お待ちしています(笑)。
http://bigfis2.wix.com/sharigama/


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八丁堀「シック・プッテートル」(2014年5月)

 この日は、3月で職場を定年退職した人の慰労会を開いたのだが、毎度の事ながら私が店選びを任された。内輪の集まりで総勢6名、メンバーは既に仕事をリタイアした人もいて、平日昼に行いたいとの希望だった(私を含め年配者は夜遅いのが苦手(笑))、主役はフランス料理に行きたいとの事で、平日のランチタイムでもゆっくり出来、料理もいい店となると、これが結構限られてしまう、最近個人店では平日ランチ営業を止めている店も多く、営業しているのは1,000~2,000円のビジネスランチ中心か、銀座辺りの昼でも客単価1万円越えの超高級店のどちらかに両極化している。
 私達みたいな普通の市民?が自分の財布で楽しめる店が少ないのだ、そこで思い浮かんだのが、このブログではお馴染みの八丁堀「シック・プッテートル」、「もう予約は無理かな?」と思いながら電話をしたら、幸運にも席が確保出来たので一安心、この店のクオリティなら集まる連中に、決して文句は言わせない(笑)。

 当日は五月晴れの絶好のランチ日和、この店に来る日は不思議と天気に恵まれる(笑)、私以外は初訪問になり現地集合は不安なため地下鉄八丁堀の駅で待ち合せて店へ向かった。12時予約なのに少し早目に着いてしまったが(年配者は集合が早い(笑))、オーナーの星氏が笑顔で迎えてくれた。
 あらかじめお願いしていたのは6,000円の昼メニューで、「今日は年配者が多い」のは事前に伝えてあった(笑)、すべてお任せで何が出るかは楽しみの、生井料理長の「カルトブランシュ」だが、料理内容は以下のとおり。

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・ラングドック産三日月形オリーブ

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・バスク、キントア豚のサラミ

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・クッキー2種(パルメザンとキャラウェイ、桜海老とアーモンド)

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・浜名湖の青海苔のチュイール

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・トマトとルーコラのスフェリフィケーション

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・仏産グルヌイユのパネ、温かいニンニクのクーリーとパセリのオイル

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・クミンをきかせたトリ貝とホッキ貝、新玉葱のマリネ クレソンのサラダを添えて

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・ホワイトアスパラの温かいエスプーマ、 ズワイガニと卵黄のコンフィ

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・仏産プーサンの低温調理 、ニンニクをきかせたジュのクレム

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・アメリカンチェリーのコンポート シナモンのアイスとキャラメル ムースオフロマージュを添えて
・ココナツのサブレ
・エスプレッソ

 結論を先に言ってしまうと「素晴らしい」の一言、悔しいがこれ以外の言葉が思いつかない(笑)。前回利用時のメニューでは、途中「トリップのグラタン」みたいな理解に困る料理もあったが、今回はそうした寄り道?も無く、全体に隙を感じさせない料理構成。
 青海苔のチュイエールはブラス、トマトとルーコラはモダンスパニッシュ、グルヌイユ(蛙)はロワゾーを連想させた(笑)、でも模倣ではなく精神として自分の料理にしている。なお「スフェリフィケーション」とは「球体のソース」の意味で、ゲル状にした液体を「あんこ玉」みたいな形にしたもの(笑)。
 トリ貝&ホッキ貝は皆が「美しい」と感嘆した皿、特に新玉葱の扱いが見事。次のアルペルジュブランは濃厚でいながら淡麗、吟味した食材と調理により「洗練されたグラタン」と云う印象。
 そして肉料理のプーサンで唸った、低温スチームオーブンで長時間加熱された鶏肉は、軽いけれど濃い肉質、繊細で気品を漂わせる料理になっていた、微かに感じるソースの苦さが味を複雑にしてグレードを上げている。

 料理個々を見ると「この店でしか味わえないオンリーワン料理」と云うより、何処かモダンスパニッシュやモダンノルディックの影響を感じるのだが、全体の流れと調理が適格なのでオリジナリティを充分感じる。例えればMLBで活躍中のダルビッシュ有みたいな、緩急を付けた見事なピッチング、まさに「手も足も出ない」感じだ(笑)。
 星オーナーと北野ソムリエールのサービスは更に良くなっているし、この店が現在持っているポテンシャルの大きさには、この店の小ささはもう不釣合いなのかも知れないと思った。

 超高齢化社会を迎える日本で、リタイア後の毎日の過ごし方は大きな課題、年金生活者になっても、月に一度位はこうした素晴らしいレストランで食事が楽しめる様、今から健康維持と貯金に励まないといけないなと改心?した(笑)、これからレストラン側も高齢者対応を真剣に考えるべきだと思う。
 今回も美味しくて素敵な午後になりました、シック・プッテートルの皆さん、何時にも増して素晴らしい料理とアンビアンスを提供していただき、ありがとうございました、また必ず伺います(笑)。


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池尻大橋「オギノ」

 レストランの定点観測については、前々回のブログ記事に書いたが、それとは逆のケースになるのが「行きたいと思いながら、ずっと行けていない店」で、実はこれが結構ある。我家が東京の外れにあるので、往復に時間がかかる西東京方面に特に多い、そしてそこが「予約が取り難い店」になると猶更だ。
 その一軒が池尻大橋にあるフランス料理店「オギノ」だった。今更私が説明するまでもないが、料理長は荻野伸也氏、人気店「キノシタ」の副料理長、「キャスクルート」の料理長を経て2007年に独立し、自身の名前を冠した店は「予約が取れない店」の代名詞にもなっている。1978年生まれだから私から見ればバリバリの若手、もう一つの予約が取れない店の代表格「フロリレージュ」の川手料理長と同年で、指向する料理は少し違うが、二人共に東京を代表するアンファンテリブルな料理人だ(笑)。
 その「オギノ」を今回初めて利用する事になった、これは偶然からで、SNSがきっかけで親しくなった方よりお誘いがあり、それも土曜日の夜と云うプラチナチケット級の席、これは万難を排して伺うしかないと(笑)、即時参加表明をさせてもらった。

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 店は東急田園都市線池尻大橋駅を出て、国道246号に沿った抜け道みたいな通りに面しているのですぐに判った、この日は地下の個室を貸切り、総勢6名の集まりで男女混合、皆さん食べる事にかけては量も質も並外れた人?ばかりだ(笑)。
 注文はムニュではなく全てアラカルトで、相手がいればハーフポーションでも注文可能、店の常連からあった「この店では魚より肉です」との言葉に従い、以下の肉メニューを選んだ、

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・アミューズ代わりの野菜ピクルス

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・ホワイトアスパラガスのベニエと砂肝、フレッシュトマトソース、フェンネルシード添え(ハーフ)

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・自家製カンパーニュ(美味しい、他店もこの位のレベルのパンを出して欲しい)とリエット

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・自家製ソーセージと季節野菜のオーブン焼き

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・ブルターニュ産仔牛骨付きロースのロースト、マスタードソース(ハーフ)

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・白いけどコーヒー風味のブランマンジェ

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・フィナンシェ

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・カモミールのアンフィージョン

 本日のお勧め食材は「ブルターニュ産仔牛骨付きロース」だったので、6人中4人が注文、私もこれをメインにした。まずアスパラガスの皿は無難で判り易い味、次の自家製ソーセージは、サービスの女性が一押しだったので注文した料理だが、ニンニクとスパイス類でちょっとクセを感じるソーセージが焼き野菜の旨味に絡んで、美味しいと云うより「旨い」と言いたい味(笑)、ビジュアルはあまり良くないが、「旨ければ文句ないだろう」と云う説得力がある、次の仔牛がハーフの注文だったので、この料理をメイン的に食べようとして結果失敗した(笑)。
 その仔牛が凄かった、これでハーフとは信じ難い量で、間違いなくフランスサイズ。こうした物は早目に食べるのに限る、冷めると余計食べられなくなる。この料理は2003年に訪れた、仏ブルターニュ地方の二つ星(当時)「オーベルジュ・ブルトン」で体験した「コート・ド・ヴォー」を思い出した。肉質は僅かながら落ちているが、これは長旅を考えれば仕方ないだろう、淡白さの中にも濃い味わいが感じられ、記憶どおりの見事な仔牛だった。途中でギブアップしそうだったが、何とか肉だけは完食、ガルニのトレヴィスの肉詰めは無理、同席者にフォローをお願いした(笑)。
 デセールは「コーヒー味」はあまり感じなかったが、いい出来のブランマンジェだった。

 久しぶりに「肉を喰った」と云う印象(笑)、この店に小食人間は向かない、フランス人みたいに前菜に肉、メインも肉の塊、それで甘いデセールもしっかり食べる、こうした人にこそ行って欲しい店、この日のメンバーがそうだった(笑)。
 全体的にシンプル味付けで直球勝負、フランス料理ビギナーからベテランまで十分楽しめると思う、値段も安いし、これなら「予約の取れない店」になる理由が判った。
 料理以上に感心したのが店内サービスで、若いスタッフ達によるものだが、皆感じ良く笑顔を絶やさない、地下の席だと目が行き届かないのでは?と思ったが、頻繁に階段の途中から邪魔にならない程度に客席の進行具合を見ている。そして6人バラバラの料理注文ながらオーダーを間違えない、当たり前の事ながらこれが出来ない店は結構ある。
 この日料理長は代官山のデリカショップへ出向き不在だったが、それでこの料理とサービスが維持できるのは立派だ、人材不足の東京で、これだけ優秀なスタッフを抱えていられるのが、この店の一番誇れる資質ではと思った。

 楽しくてお腹一杯になる夜でした、お誘いありがとうございました。昔話に浸れる同年代グルメとの集まりも勿論いいが、この日みたいに次世代の若いグルマン達と話すのは刺激があって面白い。やはり料理は一人より二人、二人より四人、そしてこの日みたいに六人揃えば、楽しさは六倍になる(笑)。


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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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