最後の晩餐にはまだ早い


綾瀬「パティスリー・コワン」

 以前にもブログに書いた事あるが、仏語の「パティスリー(pâtisserie)」の語源は古仏語である‘pastitz’で、元は「粉を練る(人)」という意味、英語の「ペースト」や伊語の「パスタ」も同義語だ。
 そうすると、その場で粉を練り成形し焼いた菓子類を売る店しか「パティスリー」を名乗れないのではないかと思う、でも街中ではセントラルキッチンで作った冷凍保存ケーキを運んで並べただけの疑似「パティスリー」が多く、そうした店では有名パティシェの名前をロイヤリティ払って借用していたりするので話題にはなる。ブランド志向を全て批判する訳ではないが、冷凍種のパンを焼く「ブランジェリー」同様、個人的にあまり利用したいと思わない(笑)。

 今回紹介する地元足立区綾瀬のパティスリー「コワン」は、その場で作った自家製スイーツを売る紛れもない「パティスリー」だ(笑)。店は千代田線綾瀬駅東口を出て、高架線沿いに亀有方面へ5分程歩くと高架下にある。この店舗は私の記憶では以前このブログで紹介した「コシジ洋菓子店」の支店で、そこが撤退した後に居抜きで入店したと思う。
 WEB情報によると2006年の開業、店主はベテラン職人でパティシェ歴30年以上との記載がある。私もこの店で過去何回か生ケーキや焼き菓子を買った事あるが、手堅い技術と昔ながらの美味しさが感じられるものだった。

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 今回はブログ記事で紹介したかった事もあり、久しぶりにこの店のケーキを買いに行った、繁華街の亀有と北千住に挟まれ、飲食店が長続きしない綾瀬だが、此の地で8年続いたのは立派(笑)、それだけ地元で支持されて来たと云う事だろう。店内は狭い、正面に生ケーキ用の陳列ガラスケース、右手にオーブンと作業場、左手に焼き菓子等が並べてある、以前は店主と販売の女性2人でやっていたが、この日は他にもう一人コックコート姿の若い男性が手伝っていた、もしかしたら息子さんだろうか?

 何を買おうかとガラスケースの前で暫し悩んだ、下町のケーキ店なのでホイップクリームを多用したものが多い、個人的にはレストランデセールではクレームシャンティ系は好まないのだが、まあケーキなら許せてしまう(笑)。
 値段は以前より少し値上げしていた、現在乳製品やチョコレートの高騰が続き、洋菓子店は相当厳しい状況だ、それを考えればこの店のケーキ類は良心価格だと思う。
 結局「当店の人気ケーキ」の1~3位を買う事にした、以下の通り、

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・フルーツのロールケーキ(400円)
 この店の人気No.1商品だそうだ、果物は苺、バナナ、黄桃、みかん、キィウィこれを刻んでホイップクリームに混ぜ、焼いたジェノワーズ生地で巻いてロールケーキにする、その上に更にクリームを塗り果物を乗せたもの、1本ロールでも販売している。説明どおりの判り易く、子供からお年寄りまで万人に好まれる味だ、反面優等生的で面白味さが無いとも言える。

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・和栗のモンブラン(410円)
 人気No.2商品、国産の栗ペーストを使ったモンブラン、このクリームはなかなか美味しい。土台はタルト生地でもメレンゲでもなくジェノワーズ生地なので、これが少々平凡、でも下町では仕方ない事かも、この辺りではあまり高踏的なケーキを作っても受けない筈だ(笑)。

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・モーツァルト(410円)
 人気No.3商品、個人的にはこれが一番気に入った。良質なチョコレートを使用し控え目ながらリキュールの香りもある、コシジ洋菓子店のチョコトルテも良かったが、あれに比べると少しウェットな印象。甘味、苦味、酸味のバランスが良く一度に2個位食べられそう(笑)、ホールケーキでも売っている。

 ケーキの印象は穏やかで尖らずどこか懐かしく、下町の客を念頭に置いた優しい味付け、特に子供に喜ばれそうだ、だからと云って不二家のレベルとは違う(笑)。
 先日行った、駒込に移転したフランス料理「オゥ・レギューム」で感じた事だが、急激に進む少子高齢化社会の中で、これからレストランが長続きしていくためには、いかに地域に根差して地元客を掴むかが大事になって行くと思う、パティスリーも同じだ。親に連れられて買物に来ていた子供がやがて大人になり、今度は自分の子供を連れてケーキを買いに来る、それまで地域で続いていられる店、それこそが「名店」ではないだろうか?

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 仏語で「街角」「近所」の意味を持つ、この小さな店も長続きして欲しいと願わずにいられない。


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代官山「ル・ジュー・ドゥ・ラシェット」

 「初めて行くレストランで美味しいものにありつける」、実はこれがかなり難しい事なのだ。私の経験上でも初訪問時は店も客もお互いがよく判らない、だから店側も安全運転をするので、その店の平均値的な料理が出てくる事が多かった。「(同じメニューで)隣席は鳩なのに私達には鶏だった、残念」等ブログに書かれる事あるが、これはある程度仕方ない事だ。
 江戸時代に隆盛を極めた吉原遊郭の看板花魁となると、客が一緒に床入れ出来るのは3度目の登楼からだった、それまでの2回は言わば「お見合い」みたいなもの、それだけ「客との相性」が重視された。
 レストランと客の関係も似ていると思う、その店で本当に旨い物を食べたかったら何回も通うのが最善なやり方だ、ブログを書いている私がこんな事を言うのも変だが、一回来ただけで料理を批評されるのは、店側にとって決して本意ではない筈だ。

 それでも初めて行く店で良い思いをしたかったら、「その店の常連客と行く」あるいは「常連客の紹介で行く」だと思う、もしこれが出来なかったら「その店に睨みの効く人物と行く」だろうか?例えば有名料理人や料理業界関係者、あるいは有名ブロガー(笑)等だ。
 この日初めて訪れた、代官山のフランス料理店「ル・ジュー・ドゥ・ラシェット」だが、同行したメンバーが睨みの効く怖い存在だったからか(笑)、結果素晴らしい料理体験になった。それに加えて夏休み中の平日昼席で、マダム達も少なく空いている日だった事も幸いしたと思う、
 先ずはこの日に出た料理全品を紹介したい、

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・真鯛の炙り、米の泡を纏わせて

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・枝豆のチュロス

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・稚鮎と牛蒡のフリット

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・アーモンドのブランマンジェ、スナックエンドウの冷製スープ

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・フォアグラの冷製、ドライオレンジ

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・42度の鰯、ジャガイモのピュレ

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・鮎とメロン、鮎のヴルーテ

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・世界一軽いスフレオムレツ、サマートリュフ

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・温製フォアグラ、いちぢく、牛タンのスープ仕立て

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・平目のポワレ、サザエの壺焼き

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・ラカン産小鳩、内臓のアンチョビ仕立て、軽いソースサルミ

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・桃のコンポート、紫蘇のグラニテ

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・ショコラバナーヌ、パッションフルーツソース、バナナのグラス(バナナの飾り)

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・トンカ豆のムース、塩キャラメルのシュー・クリーム
・エスプレッソ

 料理+デセールで14皿、私の経験における国内最多記録だと思う(笑)。品数が多いだけでなく、前の料理と今の料理、その後ろの料理が有機的に繋がり飽きさせない。起承転結があって緩急取り混ぜているので、何時の間にか27人が打ち取られ、完全試合が達成されていたと云う印象だ(笑)。
 個々の料理について説明すると長くなるので簡単に留めるが、軽い前菜に始まり冷製フォアグラで最初の頂点が来る、鰯と云う高級店ではなかなか使い難い食材を的確な調理でガストロ料理として昇華、鮎とオムレツの軽さで一休止した後、温製フォアグラで2度目の頂点。そして平目と鳩で両頬を平手打ちされ、デセール3品で絶頂を迎える。
 最後のエスプレッソの時間はオーガズムみたいな開放感(笑)、満腹だけれどあくまで軽い食後感で、心身の緊張が消えて行く。今年の東京では三指に入れたい料理だと思った。

 高橋雄二郎料理長は噂以上の注目すべき才能だ、1977年生れだから今年37歳。青山「フロリレージュ」川手料理長(1978年生)とは同世代だ、この二人の料理は似ている様で少し違う、店名の「ル・ジュー・ドゥ・ラシェット」は仏語で「皿上の遊び」だが、皿の上で遊ぶのは川手料理で、高橋料理はもっと計算された「遊戯」だと感じた、どちらも国際都市東京の今を代表する若手料理人だと思う。

 この店は元々現在地にあった店舗を「オー・グー・ドゥ・ジュール」グループが譲り受け、現在の店名にした。その時の料理長は現「ア・ニュ・ ルトゥルヴェ・ヴー」の下野氏で、彼が独立開業後に高橋氏が料理長に就任する。店舗は経年により内外に古さも目立ち、2階店舗へのエントランスは暗くて、トイレはコーヒーショップみたいに平凡、店全体にもう少し「非日常感」があったらもっと良くなるのにと思う、今は料理だけが突出してしまっているので、少々残念な印象も受けた。
 あくまでも想像だが、おそらく高橋料理長は「この先」も考えている事だろう、どういう方向に進むにせよ、今後追いかけたい料理人だ。

 12時からスタートした「おまかせランチ」、店を出たら3時半になっていた、料理も凄かったがこの日の会話内容も凄く濃かった(笑)、おかげで楽しくて充実した一日になりました、ご一緒出来た皆様ありがとうございました、またの機会があります様に。

 

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駒込「レザントレ・コウジイガラシ・オゥ・レギューム」

 赤坂、氷川公園近くにあったフランス料理「オゥ・レギューム」は私の好きな店だった、「野菜とともに」と云う店名そのままに野菜を主食材にして、軽いけれど工夫を凝らした個性的な料理は他店では味わえなかったもので、特に女性陣には評判のいい店だった。
 その店が開店十年を機に移転する事になった、理由についてはWEB情報で知ったのだが、赤坂では人を雇って昼夜営業していたが、人材難でいいスタッフが集らず、それなら小規模でも夫婦二人で出来る店にしようと考えを変え、子供も手がかからなくなったが、職住接近のために住居の近くで物件を探して、昨年7月に駒込に移転開業した。この話を知ってからずっと「行ってみたい」と思っていたのだが、なかなか機会がなかった、今回ようやく北区在住の人と訪問する事が出来た、五十嵐料理長の料理を味わうのは久しぶりなので、店へ向かう道は期待が高まる。

 場所は駒込駅からは歩いて5分位、飲み屋の多い雑多な飲食店街を抜けた辺りで、中里郵便局の斜め向かい側。2階だった赤坂の店舗とは違い今回は1階の路面店、店は奥に長い造りで、手前にカウンター席、奥が半個室になっていて、合わせても15席位の小さな店だ、この日は個室に案内されたが、個室から厨房が見える小さな窓が面白い、おそらく料理の進行具合が見られる様にしているのだと思う。

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 アラカルトもあるが、この日は予約時に5,400円(税込)のムニュをお願いしていた、その全品を紹介したい。

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・油脂を使わないヴィシソワーズ、フォアグラのムース

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・ラタトゥイユのテリーヌ、ガスパチョのソース

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・自家製米粉のパン

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・白インゲンとたっぷり野菜のミネストローネ、パルミジャーノのチュイール

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・鰆と冬瓜のスープ仕立て

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・マグレ鴨のロースト、季節野菜のグリル

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・茄子のクレームブリュレ、茄子の赤ワイン煮、西瓜

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・無農薬ルイボスティー(+100円)、ヌガー

 赤坂時代より盛付は少し地味になった気がする、これは厨房が一人だから当然の事だろうが、その反面料理自体は柔らかくなり、実質的で食べて美味しい料理に変化して来たとの印象を受けた。
 ヴィシソワーズは脂を使わず最後にフォアグラムースを加えるので素材の味が生きている、テリーヌ、ミネストローネは定番料理だが、良質の野菜と的確な火入れによって際だった個性が感じられる。
 鰆の料理は和食的な印象、肉料理は本来メニューなら豚だったが、マダムが「明日は休業日なので、食材の関係で鴨でも追加料金なしでお出し出来ます」との提案があり、それをお願いする事にした(笑)。ただこの料理も鴨はあくまでも脇役で、主役は野菜だと思った。デザートは赤坂時代と同じく野菜を使ったもの、これがとてもいい出来だった。

 とにかく野菜が美味しい、その美味しさを引き立てるための下仕事がどの皿にも感じられる料理だ。最近レストランで「〇〇農園の新鮮サラダ」とか名付けて、生の葉野菜にヴィネグレットをまぶしただけの皿が出る事があるが、「これって、フランス料理?」と常々疑問に思っていた、「火を入れて自然」がフランス料理本来のあり方と思う私はたぶん古い人間なのだろう、でも今回の五十嵐料理を体験して、同じ考えをする料理人が居たと嬉しくなる(笑)、先行する十年の野菜料理経験は大きいと思った。そして私がレストランで出会いたいのは、農園野菜ではなくそれを料理する人間のイデー、個性だと思うのだ。
 マダムに「これだけの料理(内容)で、この値段で大丈夫なのですか?」と聞いたら、「野菜は原価安いのです、でも仕込みに時間がかかるので、平日はランチを止めシェフはひたすら仕込みをしています」との事、アラン・パッサールに聞かせたい言葉だ(笑)。
 接客を担当するのがマダムだが、シャキシャキっとした話し好きで陽性の方だ(笑)、料理だけでなくこの人と話していると元気になる、五十嵐料理長は元から饒舌なタイプではないが、料理と同じく表情も赤坂時代より柔らかくなった印象を受けた。

 私も年齢を重ね、フランス料理が続くと辛いなと思う時がある、この店は自然食を謳っている訳ではないが、食べ終わってもお腹が重くなく、身体にいい食事をしたなとの思いになる、いかに身体に良くても美味しくなくては再訪したくないが、この店の料理なら毎日でも食べられそうだ(笑)、また行きたいなと思う。そして和洋中ジャンルを問わず野菜料理を勉強したい料理人は一度この店へ行くべきだ(笑)。
 なお店名に付いた「レザントレ」は仏語の‘Les Entrees’で、レストランにおける「前菜」の事、今回の店では野菜たっぷりな前菜をメインにしたかったので、この店名にしたそうだ。
 店を出た時に笑顔になれる、素敵な店でした(笑)。


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私の本棚から

 猛暑の中で外食のペースが落ち気味なので、今回は飲食店リポートではなく料理書籍の話をしたいと思う。
 このブログを読んだ人から、「料理は何処で勉強されたのですか?」とか「(料理)業界関係の方ですか?」と聞かれる事があるが、がっかりさせるといけないがどちらも答えは「否」で、知識は殆どが本から得たもの、「独学」と云えば聞こえはいいが、要は「我流」(笑)。私が独学派の料理人に惹かれ易いのも共通するものがあるからだと思う。
 今は積極的に料理本を買う事は殆どなくなり、書店の立読みで済ませる事が多くなったが、若い頃は大型で高価な書籍も買った、既に処分してしまった物も多いが、現在書棚に残っている本で、私自身が何がしかの影響を受けたものを紹介したい、これから料理を勉強しようとする若い人達の参考になればと思う。

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・辻静雄著作集(新潮社)1995年刊
 辻静雄ならまず代表作と云うべき「パリの料亭(レストラン)」(新潮文庫)を挙げるべきで、そうするつもりでいたが本が見つからなかった、たぶん誰かに貸した後返ってこなかったのだと思う(笑)。この著作集は死後刊行されたものだが、まず名人佐野繁次郎の洒脱な装丁が見事。中では「ヨーロッパ一等旅行」が特に読み応えがあった、「吉兆」主人の湯木貞一一行と共に、当時の欧州を代表する高級店を巡る旅は、まさに羨望の気持ちで読んでいた。辻静雄や湯木貞一みたいな巨人は、もうこの国には生まれないだろうと思うと寂しくもなるが、TV等で見ただけでも同時代を共有できたのは幸運であった。

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・パリの味―シェフたちは藝術家/増井和子著(文芸春秋社)1985年刊
 日本人が書いたフランス料理の本を一冊挙げろと言われたら、私ならこの本を選ぶ。長いパリ生活の経験で得た並外れた知識だけでなく、文章が瑞々しく感性豊かで、「理」の辻静雄に対する「情」の増井和子と言いたい位に対照的だ。そして文芸春秋社写真部長の故丸山洋平の料理写真が素晴らしい、私の料理画像はこの人を目標にしているのだが、当然ながら足元にも及ばない(笑)。

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・フランス美食街道―レストランが怖くなくなった日/山本益博著(文芸春秋社)1988年刊
 僭越ながら文章については前2冊に比べると落ちる、それでも当時これだけの熱意を持ってフランス特に地方を回った労力は称賛に値すると思う、「アラン・シャペル」「ヴィヴァロワ」みたいに、既に消えてしまった名店の貴重な記録にもなっている。装丁もとても洒落ている。

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・ヨーロッパ天才シェフ群像/アンリ・ゴー編(学習研究社)1994年刊
 まずはこの本に出てくる料理人達が凄い、25店26人(「オーベルジュ・ド・リル」はエーベルラン親子として出ている)「綺羅星の如く」と云う表現は古いかも知れないが、今あらためて見ると、この本が刊行された時期はフランスの料理界にとって「黄金期」だったと思う、私はこれを読んでブラス、トラマ、ガニェール、ロワゾー、ラムロワーズの店へ「行きたい」と熱くなり、やがて訪れる事が出来た、元来出不精の私をそこまで駆り立てる何かが、この本にはある(笑)。

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・十皿の料理/斉須政雄著(朝日出版社)1992年刊

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・吉兆味ばなし一~四/湯木貞一著(暮しの手帳社)1990~1992年刊

 料理人が書いた(前者は聞き書)で残したいのは二冊。「十皿の料理」はフランス料理人のバイブルにも例えられる有名な本なので、私如きがいらぬ説明をしない方がいいと思うが(笑)、東北地方出身の日本人青年がフランス料理、フランス文化を相手にした戦闘記、青春の書としても読める。
 後者は不世出の名料理人が雑誌の一般読者を相手に、料理、食材、器、茶事について判り易い言葉で綴った名随筆、料理に興味を持つ全ての人に読んで欲しいと思う。

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・檀流クッキング/檀一雄(中公文庫)1975年初版
 「作る」料理本はかなりの数を買ったが、一冊選ぶならやはりこれ。「小さじ何杯」等の細かいルセットは一切なし(笑)、それでいて読むと今すぐにでもキッチンに立ちたくなるから不思議だ、「フードポルノ」の本来の意味は「食欲をそそられる美味しそうな食べ物の写真や文章の事」だそうで、それならこの本こそフードポルノかも知れない(笑)。

 こうして並べてみると古い本ばかり(笑)、西暦2,000年以降のものは無い、これは日本の「食」は発展していても「食文化」は衰退しているのでは?と危惧してしまう。物を食べるのも忘れる様な面白く読み応えのある料理書籍はもう出ないのだろうか、残念な事だ。


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六町「萬来軒」

 実家に住んでいた頃、近くに「芳楽」と云う名前の中華料理店があり、この店からよく出前をとっていた、街場の中華料理店としては割と美味しく、私の定番は「肉野菜炒め」とそのバリエーションである「もやしソバ」(笑)、数え切れない位食べたのだが、残念な事に店主が若くして病気で亡くなり、もうその店はなくなってしまった。今でも時折あの味が堪らなく懐かしくなる。
 街中から昔ながらの中華料理店が無くなりつつあるのはとても寂しい事だ、その代わりに増殖中なのが、中国人が経営する中華料理店。考えればこちらの方が味的には正統的な筈で、ブログで取り上げた「川国志」などもそうだが、値段が安くてそれなりに美味しい店は現に在る。
 ただ私が子供の頃から馴染んだ中華料理の味とは違う、上手く説明できないのだがこれはもう民族性の違いとしか言い様がなく、あえて名付ければ「昭和中華」の美味しさ(笑)、醤油を薄い鶏ガラスープで割った味、あれが食べたくなるのだ。
 この昭和中華が食べられる店が身近にないのかなと、WEB検索をしていたら興味を惹かれる店があった、画像を見て懐かしくなるものがあり、暑い中自転車を飛ばして訪れてみる事にした。
 店の名前は「萬来軒」、この名前も昭和を連想させる(笑)。場所はつくばエクスプレスの六町駅近くで新しいビルの1階、コンクリート打ち放しの入口はモダンな印象で、これだけ見ると昭和中華とは思えない。

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 店内に入ると結構広く、右側に6人掛けの椅子席が2卓、左側が入れ込みの座敷になっている、コンクリートの壁に赤い塗装、壁には液晶TVと見かけはモダンだが何処か懐かしい雰囲気があるのは、竹の装飾と座布団が多いせいだろうか。

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 椅子席に座り「菜単」と書かれたメニューを開いたが、これが物凄く豊富で百種はありそう、この他にも壁に「おすすめメニュー」が貼ってあって、選ぶのに苦労する。席から厨房内が見えるのだが男性が二人で、おもに調理を担当するのは白髪で70歳は超えていそうな人、これなら昭和味が期待できそうだ(笑)。

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 結局、私の定番である「もやしソバ」(700円)と「餃子」(450円)を注文する事に決めた。

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 やがて運ばれて来た料理を見ただけで思い出が甦った(笑)、まずはもやしソバのスープを一口啜るが、「孤独のグルメ」の主人公井之頭五郎みたいに「これこれ、この味だ」と思わず呟きたくなる(笑)。カラメル混の安い醤油を使い、薄い鶏ガラベースのスープ、微かな化学調味料(たぶん)、これぞ求めていた昭和の味。麺は縮れのある細麺、太麺主流のラーメン専門店ではあまり使わないタイプだ、上にかかったとろみのあるモヤシとニラの炒め具合も丁度いい。

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 餃子は家庭の樹脂製フライパンでは出ない焼き色、カリっと焼いた皮がとても美味しい、中身は昔ながらの豚肉、ニラ、キャベツだと思う、ニンニクもしっかり効いている。450円は少し高いかなと思ったが、これは食べて納得した。使い込んで「萬来軒」の字が擦れた楕円形の餃子皿がまたいい(笑)。

 WEB情報によると、この店は別の場所で長く営業していたが、区画整理だかで移転する事になり、此の地で再開したとの事らしい、店は新しいながら味も含めて「昭和」を感じたのは理由があった。
 座敷では中年男3人組が昼間から生ビールを飲んで餃子を食べている、後ろの席では車でやってきた家族連れが6人、ここは駐車場があるので子供を連れて来るのに向いている、椅子席では落ち着いて座っていない小さい子も座敷なら大丈夫だろう。
 店の雰囲気は変わっても昭和中華は生き残っていた、でもこうした店も後継者不足からやがては消えて行く運命かも知れない、そうなる前に訪れて昭和の味を記憶に留めておきたいと思った、言うなれば「記憶遺産」か(笑)。
 「フカヒレ、ツバメの巣や鮑より、もやしソバに餃子」、また井之頭五郎だが「私にはこれがお似合いだ」(笑)。


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神楽坂「オー・トレーズ・ジュイエ」(2014年7月)

 猛暑の中で我家のエアコンが機嫌を損ねて?とても不安定な動きをする。スイッチON後は全く冷えず、暫くすると思い出したように動き出すが、今度は一気に冷え過ぎて部屋が冷蔵庫の中みたいになり(笑)、これは駄目だと思って仕事帰りはレストランへ避暑?に直行する事にした。
 向かった先は職場からも近い神楽坂の「オー・トレーズ・ジュイエ」、このブログでお馴染みのフランス料理店だ。

 この日はカウンター席に座って、料理人と色々と話しながら料理を楽しむことが出来た、これを書いていて思い出したのだが、以前関西で働いていた料理人と話をした時、
「東京へ来た時一番楽だと思ったのは、カウンター調理でも客の話の相手をしないで済む事で、これは助かった。大阪では客が話しかけてきたらすぐに応えなければならずプレッシャーが大きかった、(関西では)話の相手が出来ないと一人前の料理人と認めてもらえないので、料理と話術を両方磨かなければならなかった。」
 こんな事を言っていた、そうして鍛えられているせいか、たしかに関西の料理人は喋らすと断然面白い(笑)、反対に東京は客も料理人も「沈黙は美徳なり」と考えているのかも知れない。
「オー・トレーズ・ジュイエ」の佐藤料理長は能弁なタイプではないが、特に料理の事なら話すのは嫌いではないみたいなので、調理の邪魔にならない程度に話しかけてみてください(笑)。
 この日の料理を紹介したい、

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・焼きスイカのメキシコ風、イベリコ豚のソテー添え

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・凾館産黒メヌケのコンソメ、夏野菜のサラダ

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・ヴァンデ産ウズラのロースト、いわしのリエット、タプナードのソース

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・アプリコット、リ・オ・レ、バジルのパルフェ

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・コーヒー

 鳥の巣みたいなヴィジュアルの前菜は、イベリコ豚の首部分の肉と旬の西瓜を合わせたもの。豚の塩分と焼いた西瓜の甘味は意外なマッチングで、料理長のオリジナルとの事だがこれは面白い料理だった。
 続いての魚料理は函館の業者から直送された黒メヌケのポワレで、上に載せたキャベツや九条ねぎとコンソメ仕立てにしたもの、佐藤料理長は毎回特に魚料理が上手いなと思うが、この日もこの料理が一番印象に残った。スパイスを効かせたコンソメと野菜の甘味、そこへ皮目をしっかり焼いた魚とのバランスはとても良かった。
 仏産のウズラ料理は本来なら牛肉料理で使われる鰯のリエットをソースのベースにしたもの、個性的で面白かったが個人的な好みからすると、鰯リエットの塩分の強さと生臭みがやや気になり、ウズラの繊細さを少し消してしまった気がする、このソースを使うならもっと量を減らした方がいいと思った、ウズラの火入れ自体は良かった。
 デセールは一種のパフェだが、バジルケーキの独特な香りがアクセントになり、夏向けの爽やかなデセールだった。

 オー・トレーズ・ジュイエも今年の10月で丸3年を迎える、幾多の飲食店が乱立する激戦地の神楽坂で、失礼ながらも何とか続いたなと思う。週末ランチタイムに利用希望が集中し、電話で断りが続いたかと思うと、平日夜はノーゲストの日もあり、集客はもう一つ安定しないみたいだが、結構なベテラングルメや近所のマダム達にも支持するファンはじわじわ広がっていると感じる。
 このブログを見て「この店へ行ってみたい」と言う関西のグルメな人も知っている、やはり判る人には見て判るのだと思う。「フロリレージュ」や「シック・プッテートル」みたいに時代を先導していく先鋭的な料理ではないが、1990~2000年位のフランスのフランス料理が本当に美味しかった時代を知っている人なら、此処の料理は美味しいと感じてもらえる筈だ。

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 全くの余談だがエアコンは11年経過していて、不調の原因はホースの劣化による室外機との接続不良で、冷媒ガスが漏洩していたそうだ。結局新規更新する事になったのだが、この予定外の出費は痛かった、今年もまたパスポートを使う旅は断念する事になりそうだ(笑)。
 一応表向きは「腰が悪くて、長時間のフライトはもう無理だから」と、言い訳しているのだが・・(笑)。


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人形町「シェ・アンドレ・ドゥ・サクレクール」

 ブログを続けていると、どうしてもブロガー根性?みたいなものが生じて、店を選ぶ際も料理のクオリティよりも話題性に注目してしまう、その方が読んでくれる人が多いのではないかとの、俗っぽい期待があるからだ(笑)。
 この日の昼に訪れたのは人形町の「シェ・アンドレ・ドゥ・サクレクール」、WEB上で読んだ店の来歴にとても惹かれたからだ。店の成り立ちについてはこの記事が紹介している、
http://www.nihonbashi-tokyo.jp/enjoy/gourmet/201204/
 人形町で働いていたフランス人女性が、食事に行った日本蕎麦屋の二代目?と出会いやがて結婚、蕎麦屋の若女将に就くが、やがて女性の実家だったパリのカフェをこの街に再現しようと思い始める、そのために夫はフランス料理を一から学び、その甲斐あってこの店が生まれる、私がもし作家なら小説にしたい様な物語だ、NHK朝の連続ドラマにも使えると思う(笑)。
 店の場所は地下鉄人形町駅から近い、鳥料理と昼の親子丼で有名な「玉ひで」のある通りで、その近くの老舗洋食店「小春軒」の道を挟んで斜め前、2階建ての建物で規模は小さいながら、何処から見てもパリのカフェそのまま。これは建材等の内外装には相当こだわったと思う。

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 ランチは予約を取らないみたいで、開店時間の11時過ぎに入店したのだが、既に2卓客が来ていた、パリそのままの黒いベストにタブリエ姿のギャルソンに一人である事を告げると、「お好きな席へどうぞ」との案内だったので、入口から見て右奥の椅子席へ座った。

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 店内は本当に細部までこだわったパリ仕様、テーブルや椅子までフランス製ではないか?と思った、違うのは店員と客が全て日本人だった事位で、フランス人マダムは後から出てきた。
 昼のメニューは「本日のランチ」(1,050円)の他に、サラダランチ、グラタンランチ等がある、日替わりランチは「ローストポーク、オレンジソース」だったので、それをお願いする事にした。

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・先ず運ばれて来たのはバゲット、味は普通だがこの籠の使い方がフランス的(笑)、なくなると追加を出してくれる。

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・ローストポーク、オレンジソース
 塊で出てくるのかと思ったら薄切りにしてあった、オレンジピールが乗っていて見た目は「豚の生姜焼き」を連想してしまった(笑)。肉・ソース共にオーソドックスな出来で間違いない美味しさ、付合せのポテトピュレも良かった。

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・食後はやはりデザートが食べたくなり、デザートセット(750円)をお願いする事にした。

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・選んだのはファーブルトン
 本場ブルターニュで食べたものとは違い、どちらかと云えば「フランケーキ」みたいな感じだが、これはこれで結構美味しかった、中に入っているのはアプリコット。

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・小さなシュガーポットや極小角砂糖など小道具にもこだわっている。

 入店時は居なかったフランス人マダムも登場、恰幅がよくて明るい「肝っ玉母さん」みたいな印象(笑)、日本語も達者だ。
 正午が近づいてランチ客が次々と入店して来た、中にはフランス人客もいてマダムとフランス語で挨拶をしている(当たり前ですね(笑))、2階にも客席がありグループは2階へ案内するみたいだ。1階だけでもサービス陣は3人体制で皆感じがいい、特に男性は丁寧な接客で私がレストラン経営者ならスカウトしたい位(笑)、人材不足の東京でこれだけスタッフを揃えられるのは、おそらくマダムの人柄によるものだろうと思う。

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 インテリアも実にフランス的、マダムの実家はパリ・モンマルトルで同名のカフェを営業していたが、現在は人手に渡りその名前のカフェはなくなったそうだ、少女時代を懐かしんで遠く離れた日本の人形町で復活させたのだから、夫君の協力があったとは云え、客入りが安定するまでは気苦労も多かった事だろうと思う。此の地で長く続いて欲しいと願わずにいられない。
 一つのレストランには一つの物語がある、百のレストランには百の物語があると云う事だ、料理だけでなくそうした背景まで探る事が出来るのなら、このブログも読んでもらう価値があるかも知れない(笑)。



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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

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