最後の晩餐にはまだ早い


稲荷町「キエチュード」(2020年1月)

 例年1月は稲荷町の下谷神社で初詣をしてから、目の前にあるフランス料理「キエチュード」でランチを摂っていたが、諸事情により大幅に遅れ1月末になってしまった、今年だけ旧暦で実施する事に(笑)。
 1月末とは思えないポカポカ陽気の中、日比谷線の上野駅から歩いたが、浅草通りから一本南側の道は、懐かしい木造の看板建築等、随所に昭和が残っていて、昭和生まれの下町人間にはあの時代に戻れる気がする。
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 下谷神社でお参りを済ませるが、今回境内に正岡子規の句碑があるのに気づいた、あとで調べたら、寛政年間に境内で江戸初の寄席興行が行われた史実に因んだもので、句中の「上野の鐘」とは上野公園内寛永寺の鐘、現在でも鳴らされているが、車の騒音で稲荷町迄は聞こえないと思う、こんな情緒のある句はもう生まれる訳ない?(笑)。
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 開店時間になったので入店する、一番乗りかと思ったら既に着席しているテーブルあり、下町ランチは出足が早い(笑)。
 荒木料理長に挨拶してカウンター席に座るが、スタッフが増えていた、黒服の専任支配人が就任しキッチン内も5人と、客席数18に対して手厚い体制、それでいて開店以来ランチ値段は変えていないので、営業的に大丈夫なの?と余計な心配をしてしまう。Aランチ(平日のみ):税別1500円、B3,000円で後者をお願いする。
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 此の日の料理内容、カトラリーはクリストフルのステンレス仕様のもの。

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・荒木料理長の郷里熊本産のワイン「菊鹿(きっか)」シャルドネ(1,500円)

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・バゲット

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・本日のジビエ(鹿肉)のパテ

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・しらすのマリネと鎌倉野菜のサラダ

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・サーモンのミ・キュイ 麦と茸のリゾット

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・岐阜県産鹿肉の香草パン粉焼き

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・焼きたてのチョコレートのフォンダン(蜂蜜のアイスクリーム)

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・エスプレッソ

 まずスタッフが充実しているので、料理の出が早く客にストレスを感じさせない。早く来て早く食べ早く帰る下町の客には、このスピード感は大事だ(笑)。
 鹿肉パテはおそらく端肉を使いながらも印象に残るアミューズ、続く鎌倉野菜の皿は荒木氏のスペシャリテで盤石な一品。
 浅い火入れのサーモンの扱いも安定している、下に敷いた麦リゾットも効いている。
 鹿肉はブフ・ブルギニョンの要領で赤ワインで煮込んだ後、ディアブル風にパン粉をまぶして焼いている、昔からある技法みたいだが、手間がかかる割には見栄えがイマイチなので、最近あまり見なくなった、でもこうした料理は旨いものだ、付合せのクミン風味のじゃが芋コンフィも印象に残る。
 デセールは私の好きなフォンダン&グラスなので嬉しい、レストランデセール特に冬場は冷だけでなく熱さも欲しくなる(笑)。
 店の価格帯は違うが、荒木氏と「ローブ」の今橋氏の料理には何処か共通点を感じる、ほぼ同年齢で同じ時代にフランスで働いている。鎌倉野菜を積極的に使い、フランスでも北より南の方を向いて、素材を力業で捻じり伏せるのではなく、素材自体に謳わせるタイプの料理。食感は軽いが「あの日何を食べたか」が思い出せるのは、アクセントの付け方が巧いからだろう。

 現在、調理スタッフが充実しているので、荒木氏は中心になって調理せず、若手に任せて最後の仕上げ等に目を配っている。彼も十分若いが、次の世代を育てようとする姿勢を、オープンキッチンで見ていて感じた。
 荒木氏は「料理界の東大」を標榜する大阪の名門調理師学校の出身、卒業後はフランス校でも学んでいる、俗な話だが料理人になる迄には相当な金額を自分自身に投資している。現在ようやくそれを回収している段階だが、学んで得たものを独り占めするのではなく、次代に伝えようとしている姿には感心、なかなか出来ない事だ。
 どんなに才能ある料理人でも不老不死ではない、そして昔と違い「技は盗んで覚えろ」の時代でもなくなった。文化とは継承しながら続いていくもの、此の日厨房に居た若い料理人が、間もなく郷里の岡山に戻って開業するらしく、彼の地でも「エコール・アラキ」を伝えて行って欲しいものだ。
 店は今年5月には開店5周年を迎えるとの事で、上野=浅草間と云うあまりフランス料理が似合わない地域でも、誠実に仕事をしていれば、やがて客は付いて来ると云う、いい先例になったと思う。先日行った青山高樹町の「MAMA」でも感じた事だが、普段着で気兼ねなく良質なランチに行ける店が家の近くに在れば、老後の孤独と不安が少しは解消する気がする、我家の近くにも欲しい店だ(笑)。
 5年だけでなく10年、15年と続いて行って欲しいと願ってしまう。
 尚、「キエチュード」の店情報については、以下をご覧ください。
https://www.eatpia.com/restaurant/Quietude-Inaricho-French


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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
人はそれぞれに「見方、感じ方、考え方」が違います。私が美味と思ってもそう思わない人が居て当然です、味覚とはそれだけ不安定で不完全なもの、あくまでも筆者個人の嗜好による感じ方である事を承知の上で読まれてください。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに赤坂、麻布十番等。
混雑電車が苦手で加齢による朝型人間化のため、ランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

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