最後の晩餐にはまだ早い


南青山「MAMA」(2020年3月)

 2008年3月に彼岸へ旅立った亡母の13回忌のため、兄弟達が久しぶりに集まった。高齢者ばかりなので悪病流行の影響を考え、予定していた寺内本堂での法要は見送り、墓前での参拝だけに省略する事に。
 法要後に一席設ける事になるが、こうした時には必ず役割が回ってくる(笑)。7回忌の時はフランス料理だったが、皆それから6年経ち齢を重ねてしまい、直球のフランス料理は厳しいだろうと考え、思い付いたのがこのブログで数回登場している、南青山高樹町の「MAMA」だった。
 事前に店主の平垣内氏に相談し、「参加人数は何人、年齢構成は高め、この予算でこの位の内容で」とお願いしていた。こうした客要望へのカスタマイズは、此の店の得意とする処だと思ったからだ。
 省略法要だったので予定より早く終わり、タクシーで行くつもりで居たが、時間調整も兼ね地下鉄で表参道へ、其処から歩いて到着。以前「骨董通り」と呼ばれた高樹町通りは、この時期でも結構人が往来していて、日常とそう変わらない印象、天気がいいのはありがたかった。
 開店時間の5分前に着いてしまい、店前で待っていたら平垣内氏が出て来て入店させてくれた(笑)、今回は初の個室利用で料理は以下のとおり、

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・自家製ポテトチップス(キタアカリ、シャドークイーン)と塩抜きした甘い黒オリーブ

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・ブルゴーニュだと思う(訊くのを忘れた)、綺麗に酸が立った上質な白ワイン。

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・野菜の前菜:野菜のカクテル、グリーンピースのスープ、蕪のヴルーテ&生ハム、一口キッシュ、フォアグラのマーブル

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・野菜のカクテル「RED」部分のUP(中にラタトゥイユ、野菜ジュレ、人参ピュレ) 

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・的鯛のカダイフ揚げ、紫キャベツのマリネ、ニョッキの団子三兄弟(笑)、ビーツとレモンのソース

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・イベリコ豚のトンテキ&ローストビーフ定食、イベリコ豚の豚汁

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・肉部分のUP

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・桜のブランマンジェ

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・ウェッジウッド・ジャスパーに淹れた堀口珈琲

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・自家製小豆の甘煮とアイスクリーム

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・ガナッシュショコラ

 市村料理長が色々と考えてくれて、油への耐性が減った高齢者でも完食出来る料理を出してくれた、店のコンセプトは「フランス料理の哲学に基づいた創作洋食」で、箸を使って食べる。市村氏は大阪の有名調理師学校卒業、2星高級店出身で「的鯛のカダイフ揚げ」は出身店のスペシャリテ、此の日メンバーに評判が良かったのもこの料理だった、同じカダイフを使った魚フライが、ナイフ&フォークvs箸では食感が違い、「どちらが美味しく感じたか?」なら箸の方だった。前者だと衣と身を崩しながら食べるのに対し、箸はそっと持ち上げて口中に運べるのが大きいと思った、天ぷらをナイフ&フォークで食べないのと同じだ(笑)。
 野菜の前菜はフォアグラ以外殆ど脂分を感じさせず、素材「そのまま」を強調した美味しさ、塩分も控え気味にして後の料理へ繋げる巧さは、さすが高級店出身の料理人だ。
 イベリコ豚のトンテキは、私が参加メンバーを考えてリクエストしたもの、それもパンではなくご飯と豚汁と合わせてもらったが正解だった、画像には写っていないが、このあと市村特製カレーもサービスしてくれた(笑)。
 デザート3品共にいい出来、個人的には市村氏が神楽坂の小豆名人から学んだと聞く、小豆甘煮が好みだった。
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 急速な少子高齢化が進む此の国で、高齢者でも完食できる、こうした油脂を抑えた素材優先の洋食は、これからも需要は増える筈、そして今の社会情勢を反映して、洋食弁当のデリバリーが増えているとの事、フランス料理店出身のオーナー&料理人が、2015年の開業にあたり現在の路線にしたのは、それだけ先を見越していた云う事だろう。
 母が逝ってから今年で12年だが、その間私にも大きな変化があった、体調を崩した事により、永年勤めた組織を早期退職、2011年東日本大震災後の救援要請?を受けて非正規雇用として復帰、約5年を経て再度リタイアして現在に至っている。今思うと色々あった月日だった、でもお金との縁は無くなったが、人の縁には恵まれたと思う。
 13回忌の次は4年後の17回忌だが、その時はたぶん誰か欠員になっているだろうとの話が出た(笑)、何とか皆が無事で此の店で集まれたらいいのだが・・。
 平垣内&市村さん、そしてスタッフの皆さん、素敵な料理とセンスある店の雰囲気は参加者に好評でした。加えてお土産までいただき恐縮です、ありがとうございました。
 他の人はどうか判らないですが、私は法事がなくてもまたトンカツやカレー食べに行きます(笑)。



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麻布十番「L'inédit(リネディ)」(2020年3月)

 関西食べ続けの最終訪問店の記事を書く予定だったが、事情があって暫く延期したいと思う、今回から東京それも下町地区が多く登場する、いつもの食記録に戻る事に。
 まずは関西から帰り最初に行ったフランス料理店が、麻布十番狸穴坂入口に在る「L'inédit(リネディ)」。パティシェ出身の料理人が主に料理を作り、パティシェールのパートナーがデセールを作る二人三脚の店で、前回は日曜限定のブランチに訪れ、提供されたヴェノワズリーの技術の高さに惹かれ、次は必ずディネに来たいと思っていた。その機会が意外に早く訪れた。
 麻布十番駅から狸穴坂までの道は、夜は昼とは違う雰囲気になり、遠くには照明に浮かぶ東京タワーが見える、内藤多仲設計の赤い電波塔は私と同年代生まれなので、スカイツリーより親しみがあり、均整がとれたデザインはあらためて名作だなと思う。高い場所はあまり得意ではないが、今度何十年ぶりかで展望台へ昇ってみたいと思った(笑)。
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 人通り少なく暗く静かな住宅地に在る店の灯りは、道行く人を何処か惹き付ける。入店してサービスを担当する北原さんに挨拶し、前回と同じ壁際席に座った。
 夜は税別5,000円のお任せメニューのみ、静かに始まった全12品を以下に紹介する、

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・アミューズ:鯖の燻製、ルバーブのコンポート

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・サバラン オ レギューム

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・鹿のパテ(アレッタ、洋梨のコンフィチュール)

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・穴子 カーボロネロ

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・鴨 ローズ イチゴ(ワサビの花)

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・ワインペアリング(あともう一杯あり通常3,800円、量が飲めないので少なくしてもらった)

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・自家製パン2種

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・ルバーブ

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・イチゴ

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・ショコラ
以下メニュー外で
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・レモンのタルト

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・カボチャのアイスクリーム

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・チョコバナナ
・ハーブティー
 
 アミューズの鯖を食べ、この料理人が只者でない事は判った、続く「サバラン オ レギューム」と題された料理は、根菜を使った「おでん」みたいな印象、そこへ小さなブリオッシュを加えスープを吸わせるのでサバラン、これはパティシェ出身の料理人ならではの発想と思った。
 パテ&テリーヌ類は料理人の実力を反映するが、鹿肉に豚首肉を加えたと聞くパテも問題なく旨い。続く穴子の皮目を強く焼いた料理は、ソースは省き穴子の旨味を強調していて、衣のない天ぷらと云う印象、黒キャベツの苦みも効いている。
 「鴨のオレンジソース」に代表されるが、飼育の鴨肉に果物や甘味を合わせるのは定番、それを苺とバラの香りで表現したのは心憎いやり方、鴨の火入れも文句なしだった。
 デセールになると担当が替わり、今迄サービスだった北原さんが主に作り、料理人の石毛氏がサービスをする。一品一品の量は少なくそう強い印象ではないが、序奏・展開部・終結と持っていき方がいい。
 ミャルディーズ、食事中のパンも全て自家製で、どれもレベルは高いと感じた。
 
 食後のボワゾン含めて5,000円(税別)は、内容を考えたら随分と思い切った価格設定だ、それでいてどの皿もバランスが取れ、全体にライトな印象ながらも最後まで到達すると満足感がやって来る、そしてパティシェ出身の料理人に共通するデザインの良さを感じた。
 思わず石毛氏に「これで利益出るのですか?」と訊いてしまったが、彼は「食材料の仕入などを工夫しているので、正直に云っても利益はちゃんと出ています」との答え、人を雇っていなくて家賃と光熱水費だけ、何とかなるのかも知れないが、「これで利益出るのなら、他の店は何?」と、つい余計な事を考えてしまう(笑)。
 前回と違いコックコート姿の石毛氏は、彼と同じくフランスに長く滞在した藤田嗣治みたいな髪型だが、いい料理人の顔をしていると思った。「古屋オーガストロノーム」の古屋、「レクテ」佐々木の各料理長に共通する、欧州戦線の第一線で戦ってきた顔とでも云うか、喋り方も肝が据わっていて、おそらく戦国武将もこんな雰囲気だったのではないかと思わせる(笑)。
 とてもいい店だが、今の東京ではこの内容でこの値段で勝負しないといけないなら、余計なお世話かも知れないが、新規フレンチ出店は正直儲からないから、考え直した方がいいのでは?と思ってしまう。
 その場での満足感も大事だが、帰り道に「また来たい、次は何時にしよう」と思わせるのが良い店だと常々考えているが、此の店はまさにそれだった。あまり教えたくない気持ちもあるが、私にとって「今年一番の発見店」になりそうな予感がする(笑)。
※店情報は:https://www.eatpia.com/restaurant/Linedit-AzabuJuban-French


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大阪・上本町「レストラン・コーイン」(2020関西食べ続け-7)

 関西最後の夜は、大阪来て此処へ来ないでどうする?と云いたい、この旅のクライマックス的イベント、上本町のフランス料理「レストラン・コーイン」へ、私の記憶とブログ記事に間違いなければ、此の日が10回目の訪問になる。
 店前に着くと、とても営業しているとは思えない暗いエントランス、以前「食べロガーお断り」の掲示が出ていたが、今はなくなっていた(笑)。
 湯浅料理長は去年、「次来る時はワンオペでやっているかも知れません」と話していたが、此の日は調理師学校仕様のコックコートを着たアルバイトの若い女性が居たので、一安心(笑)。大阪も東京同様飲食人材不足は深刻だが、店からあまり離れていない場所には、世界三大調理師学校?の学生が居るので、まだ何とかなるのかも知れない。
 19時過ぎの訪問時には既に友人が待っていてくれた、フランス料理店全般に云えることだが、本気の料理を味わいたいなら一人より二人、更には四人以内で行った方がいい結果になると、自分の経験からそう思っている。
 湯浅氏に一年ぶりの挨拶をして、始まった料理は以下のとおり、

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・(左)甘海老と蟹味噌、(右)蟹とオシェトラキャビア、金箔を載せて。

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・此の店では初めて見るハート形のパン

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・(左)エイの生レバートリュフ風味、(右)エイのクリュ、シェリビネガー風味
 ※画像悪いです。

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・土佐あか牛のコンソメ

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・「畑のビーツ」

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・ミンククジラ(生)、畑のサラダ、熟成パルミジャーノ

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・オマールのスピラ

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・シャラン産ビュルゴーのクロワゼ鴨のラケ(全容)

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・切り分けて一人分、ポム・ド・ピュレ、鴨のジュとトリュフを合わせたトリュフソース

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・クロワゼ鴨と土佐ジロー卵の親子丼(笑)

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・当日のワイン

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・アーモンドミルクのソルベ、苺(上本町版「いちごミルク2020」(笑))

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・(左)通常の25倍ヴァニラ使用のプレミアムグラス
(右)72%エクアドルカカオ使用のスフレショコラ

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・ミニャルディーズ
・コーヒー

 金箔を付けた大阪のオバチャンが二人でやって来た(笑)みたいなアミューズの後は、最初のジャブであるエイ、特に生レバーは衝撃的な旨さだった、初体験なので他に例えようがなく、自分の脳内が混乱しているのが判る(笑)、「これ鯛茶漬けみたいにして食ったら、さぞ旨いだろうな」と思った。
 続く赤うしのコンソメは、和歌山のベキャスコンソメとタイマン張れる作り(笑)。自家製農園のビーツと黒トリュフ、フォアグラを並べた皿は、過去此処で出たトリュフ料理の中では割と大人しい方だが、赤と黒の難しい色を一見無造作に並べていて、この置き方が美的にも優れているのは、私は現代美術を少し齧ったので分かった。
 此の店ではたしか4回目の鯨は、毎回思うのだが「禁断の味」そのもので、ミンククジラとDeep kissするような舌にまとわりつく食感と肉味、これ知ってしまうと、もう捕鯨反対とは云えなくなる(笑)。
 オマール料理の「スピラ‘spire’」とは、仏語で螺旋、巻きの意味で、外側のパスタ状のものを指す、中にはオマールの身と摺った身のファルス、オマールの濃厚なソースがそれを包む、まさにコーイン料理ならではの、手間をかけたのが判る突き抜けた皿だった。
 今日はジビエでは?との予想を裏切り、湯浅氏自ら持って来た肉料理が、シャラン産ビュルゴーのクロワゼ鴨のラケ、かつて一世を風靡した料理が此処で出て来るとは意外だった。「ジビエはもう飽きました」と湯浅氏が話すが、実は私も同様に感じていた事で、半野生物の使用等「ジビエ」の概念自体怪しくなり、個体も当たり外れが多い、珍味と美味は違う筈なのに、何でもジビエと呼んでありがたがる風潮には疑問を持っていた。「ラケ‘laqué’」とは「~を塗る」の意味で、蜂蜜や鴨から出た脂を塗りながら焼く、フランス人が北京ダックをパクったとしか思えない調理法(笑)。食材としてのサプライズ感は少ないながら、やはり食べて無条件に美味しいと思う、シャラン鴨は日本の米と同じく、生産者が改良を重ね品質を高めて来た食材、特にソースの善し悪しを反映するので、料理人にとっては実力を試される怖い料理だ。
 そしてダメ押しで出て来たのが親子丼、米の炊き方を含め文句の付け様ない出来、満腹なのに食べてしまう。それにしてもエイ&鯨のクリュと親子丼が出て、しっかりフランス料理になっている店は、世界中でも此処一店だけだと思う(笑)。
 デセールでは、通常の25倍ヴァニラビーンズを使用したと聞くグラスが秀逸、「量は質に転化する」の実例をあらためて知る。反対にミニャルディーズは以前に比べ量より質に変わった(笑)。

 調理を終えた湯浅氏と話をするが、もう料理の話をしてもこの人に敵う訳ないので、その場で思い付いた質問をしてみた、それは「湯浅chefは、生まれ変わったら何になりたいですか?」で、たぶん「また料理人やりたい」とは答えないと思ったからだが、彼は一瞬考えた後、
「医者ですね、フォアグラ等の血管を見ているうちに、この血管を繋げる事が出来たら面白いだろうなと思った、日常は医者をやり、時にこうした店(レストラン)を食べ歩きたい」との答えを聞いて、この料理人の謎が少し解けた気がした(笑)。
 連想したのがルネサンスの巨人レオナルド・ダ・ヴィンチ、人物画を描くために人体構造を知ろうと、死体解剖まで手掛けたと伝えられるが、「何でそんな面倒な事を」と考えるのが凡人で、自分が興味を覚える疑問なら徹底して探求検証しないと気が済まない、そのための時間も手間も惜しいと思わない、こうしたタイプの人間は少ないながら存在する。
 「長く権威と信じられてきたことに対してもまずは疑ってみる態度も、その成否を明らかにするための実証主義も、ルネサンス精神の最たる特質である」、作家の塩野七生がこう著書で語っているが、湯浅氏の実証精神は料理界の一人ルネサンスだと思った、ガンジー、寿老人の次に会えたのは大阪のダ・ヴィンチだった(笑)。どうでもいい事だが、私が生まれ変わったらなりたいのは「錦鯉」で、理由について書くと長くなるので止めておく。
 誰にでも薦められる店ではないが、今行っている店に何らかの不満を抱えるフランス料理好きには、一度は訪れて欲しい名店であり怪店、此の店へ通い出すと他店が霞んでしまうのが欠点だが(笑)。
 関西最後の夜にふさわしい、例年にも増して刺激的で楽しい夜になった。


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大阪・天王寺「うどん 前田 天王寺本店」(2020関西食べ続け-6)

 私の生れは千葉県だが、人生の大半を東京それも城北の下町地区で過ごした、現在の行動圏でも上野、秋葉原あたりが中心で、西東京へ出る事は殆どない。渋谷など行こうものなら別の惑星に着いたみたいな異次元感覚になってしまう(笑)。それなので大阪も梅田、中之島、北浜と云った中心街はどうも感覚が合わず、繁華街の北新地も自分にはお呼びでないと思ってしまう、そんな私が歩いていて落ち着くのが大阪南側だ。
 此処数年は和歌山や上本町の定番フレンチへ行く事が多くなり、アクセスのいい天王寺駅近くのホテルを利用している。何回か行くうちにこの辺りの雰囲気に馴染んできた、「あべのハルカス」は東京的建物であまり魅力は感じないが、周辺の阿倍野界隈は適度な猥雑さがあって興味深く、歩いていて面白い。
 大阪4日目はこの近辺を歩く事から始めた、ハルカス内の近鉄で頼まれた「神宗」の昆布を買った後、外へ出て大阪市立大学医学部の脇を通って向かったのが、以前読んだ井上理津子著「さいごの色街 飛田」(新潮文庫)の舞台になった場所、一度見ておきたかった。さすがに午前10時台では営業?している店は僅かだが、街は表現が難しい独特の雰囲気で、魔界的な怪しい魅力があった、現在の東京吉原は遊郭時代の面影は全くないが、此処はおそらく往時を残していると思う。可能なら店内も見てみたく、若ければ実践も伴ったかも知れないが、今は見学だけで十分、でも次は夜の姿も見てみたいと好奇心は湧く(笑)。
 この後はJR高架下を戻り、天王寺動物園に行ってみる事に、大阪に詳しい人から「面白いよ」と聞いていた。
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 場所は天王寺駅から通天閣へ向かう一角、繁華街「新世界」の東側入口の目の前に在る。
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 入園料500円で当日中なら再入園も可、自販機でなく係員窓口で入園券を買うのは昔風でいいなと思う、画像は人気動物のベストテン。
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 この動物園で面白いと思ったのは、動物の精巧なブロンズ像がある事、これはカバのテツオ君で、実物はこの後ろにあるカバ舎に居る、何らかの都合でカバが見られない日もあるし、もしかして本人?が死んでも、記憶に留める事ができる、お金はかかるがいい試みだと思った、このテツオ君は人気9位だが私は1位に入れたいと思った、カメラを向けると寄って来る、さすが大阪人?らしいサービス精神を持った愛嬌ある姿がいい(笑)。
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 ライオンは人気3位だが、一家全員やる気なし(笑)。昼間殆ど寝ているのは、夜の狩りのため体力温存しているとの説明案内あり。
 天王寺動物園は敷地が狭く、ジャイアントパンダみたいなスター?が居る訳ではないが、動物を見せる工夫が随所に感じられ、園内を歩いていて飽きず面白かった、大阪の穴場的観光スポットだと思うので、未訪問の人は一度行ってみる事をお勧めしたい。

 此の夜はたぶん重そうなので、いっその事昼飯は抜こうかとも思ったが、昼過ぎになると胃腸は飽和状態の筈なのに何か食べたくなる(笑)、そこで行ってみようと思ったのが、徒歩圏内にある饂飩店で、カレーうどんが名物と聞いていた。
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 店の名前は「うどんの前田 四天王寺本店」、場所は「大坂の陣」の舞台になった茶臼山下に在る堀越神社からすぐ、四天王寺からも道路を渡れば近いので、参拝帰りに寄る善男善女も多いようだ。
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 この視覚的に訴える宣伝方法は、好き嫌いは別にして東京より上手だなと思う。一番人気はやはり「カレーうどん」との事。
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 ランチメニュー、「うどんの大盛も並と同じ価格」がウリみたいだ。

 入店して、真中の共用テーブルに座る、間髪を置かず女性店員が「何にします?」と聞いてくるが、大阪はこの間が短い、座った時には注文を決めていないと遅く、井之頭五郎氏みたいにメニューを見て悩む時間は必要ないと思われている(笑)。
 注文は一番人気の「カレーうどん」(税込880円)を、夜を考えてご飯は付けなかった。
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 大阪は大体において料理の出て来るのが早い、割と短い待ち時間で出て来たカレーうどん。カレーの粘度があり、かけうどんに別に作ったカレーを足す作り方か。
 カレー汁は、スパイスを重ねた複雑な味わいと云うより、中庸で万人向けの分かり易い美味しさ、以前やはり近くにある別のカレーうどんが有名な店に入ったが、決して悪い意味でなく「ボンカレーの味がする」と思った、このカレーもそうした普遍性のある味、ボンカレーよりココイチに近いかも?(笑)。
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 うどんは細からず太からず中庸、特筆する程ではないが、普通に美味しいと思う。
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 こう云っては失礼だが、予想したより美味しかった(笑)、上手くバランスが取れていて、「また食べたい」と思うカレーうどんだった。店は結構年季が入っていて、13時過ぎでも客がやって来る、人気がある店のようだ。
 カレーは胃を活性化する作用があるみたいで、重かった胃が動き出した気がする、コロナウィルス耐性にカレーがいいとの噂(あくまでも噂です)も聞いたし、もしかしたら「カレーは世界を救う」可能性があるかも知れない(笑)。
 ホテルに帰ってから、ライオンみたいにベッドに横になり一休み、夜の戦いに備える事に。


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大阪・高麗橋「桜花」(2020関西食べ続け-5)

 身体も顔もパンパンに膨れ、和歌山から戻った関西三日目、ホテルに帰ってそのまま眠りに就きたかったが、食べ続けの苦行はそう甘くない、まだ夜の部がある(笑)。暗くなってから重い身体に鞭打ち、地下鉄で向かったのは「高麗橋 桜花」、2014年から毎年続けて訪れ、これが7回目になる和食店だ。
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 地下鉄淀屋橋駅から阪神高速道路の高架へ向かって歩き、手前の信号で右に曲がればすぐ店がある、通りから少し奥まっていて、店前には植栽や喫煙対応?のベンチが置いてあり、店へのいいアプローチになっている。「高麗橋」の地名由来は、朝鮮半島から来た特使を迎える「難波高麗館」が在ったと云う説と、豊臣秀吉統治時代に朝鮮特使のため橋を架けたからの二つが通説になっている。今みたいに高い建物がなかった当時、此の場所から眺める大坂城は、さぞや豪壮華麗に見えただろうと想像する。同地には湯木貞一が「吉兆」の本店を設けた事でも知られている。
 此の夜も遅いスタートにしてもらったので、店に着いたのは19時過ぎ、森田夫妻に挨拶し、調理場前のカウンター席に座る、奥のテーブル席では既に会食が始まっていた。約束していた友人も来て始まった、如月二月の料理は以下のとおり。

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・箕面黒ビール

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・「立春大吉」(八寸):のれそれ(穴子稚魚)、烏賊塩辛、ホタルイカ、稚鮎、蓮根稲荷寿司

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・造り:マハタ、真鯛、辛子醤油

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・浪花好みの煌びやかな塗椀

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・椀物:帆立真薯、そら豆、ウルイ

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・煮物:穴子、田辺大根、千住葱、富田林海老芋

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・焼物:紅ずわいがに、温泉卵

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・強肴:河内鴨、白菜、舞茸、鍋仕立

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・友人が選んだ日本酒二種

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・御飯:白魚御飯、浅利汁、香の物

 此の店へ来るのが毎年2月なので、いつも「立春大吉」だが(笑)、ただ「八寸」としないのは店主の文学的素養か、中では奔りの稚鮎と優しい味わいの稲荷寿司が印象に残った。
 関西ならではの白身造りの旨さの後には、和食の華である椀物、こちらの体調もあるが、いつもより僅かだが旨味と塩分は抑え気味に感じた。次の料理とのバランスを取ったのかも知れない。
 煮物鉢は今回特に印象深かった料理、見た目は地味な惣菜風で、おでんみたいな香りも感じる、森田氏は以前殆ど大阪食材だけを使っていたが、私の地元である東京の千住葱を加えるなど、心境にやや変化があったようだ(笑)、家庭料理的だが、味わうとやはり家庭では出せない深い味、また食べたいと思う一品だった。
 通常なら高価な献立になってしまう紅ずわいがにだが、たまたま買い得品が入ったらしく、此処で出るのは運がよかった、温泉卵を合わせたのが面白い。
 鴨鍋は大阪特産の河内鴨を使い、濃い目の味付けで締めの料理にふさわしいもの、バーミキュラで炊いた上質な御飯も後を引く美味しさだった。
 今回最後に甘味がなく、その理由についてあとで森田氏に確認したら、「特に希望する方以外には(甘味は)提供しなくなりました。その労力と原価を(料理に)集中したい」「色々な意見があるのですが、炭水化物のあとに豪華なデザートが不要というのが私の考え」との事で、甘味好きの私ではあるが、一つの見識として尊重したい。

 料理全体的には、此の店を始めて訪れた頃の「料理屋的な料理」から、「旨いもの屋の料理」に変化して来た印象を受けた。それで連想したのが、北大路魯山人が残した『料理芝居』と題した一文、少し長いが一部を引用する。
 『良寛は「好まぬものが三つある」とて、歌詠みの歌と書家の書と料理屋の料理とを挙げている。まったくその通りであって、その通りその通りと、なんべんでも声を大にしたい。料理人の料理や、書家の書や、画家の絵というものに、大したもののないことは、われわれの日ごろ切実に感じているところである。(中略)
 家庭料理は、いわば本当の料理の真心であって、料理屋の料理はこれを美化し、形式化したもので虚飾で騙しているからだ。譬えていうならば、家庭料理は料理というものにおける真実の人生であり、料理屋の料理は見かけだけの芝居だということである。』
 おそらく昭和戦後の文章だと思うが、なかなか正鵠を射ている。「料理屋の料理」が全て駄目だと云っているのではなく、「形式化した虚飾で騙している」のがいけないと指摘している、これ令和になった現代でも、和食に限らず全てのジャンルの料理にも当て嵌まる気がする、「インスタ映え」などと云う言葉の意味を知ったら、きっと魯山人は怒髪天を衝き罵倒しそうだ(笑)。
 十年変わらぬ料理を提供していたら客に飽きられる、その店に飽きた客は蜜蜂みたいに違う店へ行ってしまう、料理屋は常連には彼等が思う「いつもの味」を提供しながらも、其処から進化して行かないと続かない。「桜花」は料理屋の料理から、家庭料理とはまた違う「旨いもの屋の料理」へと、脱却している途中なのかも知れないと思った。

 森田夫妻に見送られて夜の街へ、この界隈は近隣で働くサラリーマン男女でいつも賑わうが、悪病流行の影響だろう普段より静かな雰囲気で、フランス料理とはまた違う和食の余韻には、かえってこの静かさが似合うと思った。
 森田さん、女将さん、遅く迄ありがとうございました、苦しいお腹を忘れるような、楽しく心温まる夜になりました(笑)。


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和歌山「オテル・ド・ヨシノ」(2020関西食べ続け-4)

 早くも膨満感と食疲れが出て来て、胃薬必服の関西3日目は、恒例の和歌山詣でを敢行する事に。前2日と違って天候も回復、暖かい日になったのはありがたい、これなら毎回と同じく駅から歩いて行けそうだ(笑)。
 天王寺駅から乗車したJR紀州路快速は、日根野駅で関空行と和歌山行の半分に別れるので要注意、大阪人でも間違える人は居ると聞く、日根野から先は急にローカル線の雰囲気になる。
 和歌山駅からは南に向って線路沿いをテクテクと歩く、カロリー消費と健康維持には歩くのが一番、「高齢者は歩かない」なんて云わせない(笑)。途中にある「ビッグホエール」でイベントが無い日は人通り少なく静かな界隈で、この辺りの住人は学生以外殆ど車で移動する様子だ。店が入っている「ビッグ愛」には12時過ぎに到着、いつもより人の出入りが少なく感じた。
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 12階のレストランエントランス、右に進むとレセプションがあり、メートレスの細川さんが待っていた。彼女の案内で用意してくれた円卓に座る。
 手前にあるカフェ「ステラマリス」は割と空いていたが、メインダイニングはこの後大体満席になった、コロナ騒動の中、平日昼でも変わらない集客力は凄いなと感心する。厨房スタッフとサービス陣が前回とは少し変わっていた。
 料理の内容は全て手島料理長にお願いしていた、2月の‘Menu Spécial’は以下のとおり、

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・グジェール

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・ジビエのコンソメ

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・自家製バゲット

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・生ハムのジュレ フヌイユのムース

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・山鴫のビスク

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・和歌山の真鯛

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・和歌山の猪 バロティーヌ

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・細川ソムリエールセレクションのワイン
 白:PATZ&HALL2016 DUTTON RANCH
 赤:VACQUEYRAS Beaumirail2016

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・牛乳のソルベ

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・いちごミルク2020 梅の香り

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・和歌山産アンフィ―ジョン

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・ミニャルディーズ

 まずは変わったカップに入ったコンソメからで、味の深さと奥行きは抜群、去年10月に札幌で入った、ラーメン店のスープと似ていると書くと手島料理長に怒られるか?(笑)、でもこうしたコンソメ系は突き詰めると似てくる気がする。
 続くフヌイユのムースに合わせた生ハムジュレは、国産の生ハムを使い、見て美しく食べて印象に残る一品。続くベキャスのビスクはたしか3回目だが、前回より酸味が増し、味わいが少し軽くなった印象を受けた、個人的には今回の方が好みだ。
 鯛を使った皿は古典の教科書的料理、表面の均等な焦げ目を見ただけで旨いのが分かった(笑)。伝説的レストラン、ヴィエンヌ「ピラミッド」のスペシャリテだった、「平目の蒸し煮 シャンパン風味」を連想してしまうが、古典そのままではなく現代人に合わせて仕上げている。
 肉料理の猪バロティーヌも2回目だが、これを出したのは素材と調理に自信があるからと思う、「野兎のロワイヤル」に似た印象だが、やはり猪の食感は野兎とは違い、より獣的と云うか、野生の香りと複雑な味わいを感じさせる、仕上げの精度も以前より増していると思った。
 パティシェが替わったそうで、味わいも違って来た、特に苺を使ったデセールは、見た目も味も今迄に無かった感覚、なかなか記憶に残る一品だと思った。

 全体の印象を云うと、王道で瑕疵のない安定した料理、大相撲を観に行って横綱が四つに組んで相手を寄り切り、盤石な横綱相撲で勝ったと云う感じだ。かつて手島料理長が在籍したPARISの ‘TAILLEVENT’、それもジャン=クロード・ヴリナ氏が健在だった時代の料理を思い出すものがあった。
 ただあえて云ってしまうと、私はこれが11回目の訪問になるので、横綱相撲もいいがこの料理人の別の面も知りたいと、欲張りな願望を抱いてしまう。例えば翌日に行く事になる大阪上本町「コーイン」や、東京赤坂「古屋オーガストロノーム」は、料理人一人が最初から最後まで殆ど全ての料理を作るが、そうした店なら、彼はどんな構成で料理を出すのか、本人は以前「自分はチームで料理を作るのが好きなので、小さい店でのやり方は興味がない」と話していたから、実現は難しいかも知れないが、つい妄想をしてしまう(笑)。
 その話には触れなかったが、食後テーブルにやって来た手島氏と色々と話をした、主に東京のフランス料理店の話だったが、業界話で此処に書けない事を含め、煮詰まってしまい、日本版「ゴ・エ・ミヨ2020」の「明日のグランシェフ賞」に選ばれたお祝いを云うのを忘れてしまった(笑)、失礼しました。これは「将来のグランシェフへの可能性を認められた料理人」を選ぶ賞で、今回3名のうちの一人、選考理由が「卓越した技術を用いて、フランス料理を日本人の感性で表現している点」だそうだが、「将来のグランシェフ云々」については、既に十分要件を達成しているから、何を今更と云う気もしないでもないが(笑)。
 食時後はまたテクテクと線路近くを和歌山駅まで歩いて行く、夜はまた別の店で5食目が待っている(笑)。


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大阪・玉出「びすとろぽたじぇ」(2020関西食べ続け-3)

 関西二日目の夜は、私が勝手に「大阪の我家」と思い込んでいる、西成区玉出にある「びすとろぽたじぇ」を訪れる事に、本町から玉出に移転してこれが4回目の訪問、ようやく道も覚えた(玉出駅出口から一直線だが)ので、次の移転がない事を願っている(笑)。東京下町で育った私は、整然としている本町周辺より、何処か雑然とした玉出の雰囲気がしっくり馴染むので落ち着く。
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 昼もしっかり食べたので、19時からの遅いスタートにしてもらった、カウンター席に座るが、後ろのテーブル席では男性客達が食事中、聞き耳を立ててはいけないが、どうもサラリーマンの会話ではないと思った、あとで知ったが普通のサラリーマンではなかったみたいだ(笑)。
 店主の肥田氏に一年ぶりの挨拶をするが、顎髭を生やし寿老人みたいな風貌になっていた、ガンジーの翌日に寿老人と、ありがたい出会いが続いて、今年はきっといい事があるに違いない、明日はローマ教皇に会えるかも知れない(笑)。
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 黒板に書かれた「本日の料理」
 以前は「~が食べたい」と予約時にお願いした事もあったが、今回は特に何も注文はしていなかったので、此処から選ぼうと思っていた。ところが肥田氏から間髪を入れず「今日はベッシーを用意してあるので、よかったら食べてくれ」との申し出があり、断る理由もなく喜んで同意をする、「ベッシー」については後述する。

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・ニュージーランドのゲヴェルツラミネール

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・バゲットと自家製リエット

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・アミューズのポタージュ

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・前菜盛り合わせ(手前から時計回りで:サーモンマリネぽたじぇ風、自家製ロースハム、豚肉の田舎風パテ、キャロットラペ、根セロリのラペ、ラタトゥイユ、フォアグラのテリーヌ、真中はツナのゼリー寄せ?)

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・若鶏のベッシー包み、ドゥミ・ドゥイユ、ソースシュプレーム

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・服(コートと云うべきか)を脱いだ処(笑)。

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・一羽全部ではないです、残った分はスタッフで食べるそうです。

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・シャリオデセール

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・選んだものは:クレームカラメル(プリン)、キャラメルのタルト、粉を使わないガトー・ショコラ、赤白グレープフルーツのコンポート、ソルベ2種

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・アビランドのカップに淹れたエスプレッソ

 前菜は過去にも味わっている定番料理が並ぶが、やはりどれも素直に美味しいなと思う、東京のビストロで出会う前菜類に比べると、全体的に僅かだが塩分が少なく感じる、年々東京と大阪の料理の違いはなくなって来たと感じるが、肥田氏は約半世紀大阪でフランス料理を作り続けて来た、「昔から続く大阪のフレンチ味」を作れる最後の世代かも知れない。特に人参と根セロリのラペは何気ないものだが、込められた半世紀を味わえる逸品。
 そして登場したのがベッシー包み、ベッシーとは豚の膀胱の事で、掃除して乾燥させた膀胱の中に鶏(鳩の場合もある)、リキュール、トリュフ等を詰め紐で縛り、湯をかけながら間接調理する。現在の低温調理の一種だが、豚の膀胱から出る香りがプラスされ、複雑で滋味ある仕上がりになる。一昨年他界した名料理人P・ボキューズのスペシャリテで、肥田氏は同店で働き実際にこの料理を作っていた。ドゥミ・ドゥイユとは「半分喪服」の意味で、鶏の身と皮の間に黒トリュフを入れる事により、外から透けて見える黒色をそう呼んだ、この命名センスはさすがフランス人だなと思う、真面目な日本人ではなかなか思いつかない(笑)。「アルビュフェラ」と云う名のフォアグラを使った重いソースを添える事が多いが、今回は少し軽い鶏出汁のソースシュプレームだった。
 私は過去に和歌山「オテル・ド・ヨシノ」、大阪上本町「コーイン」でこの料理を体験していて、これでベッシーの関西トリプルクラウンを達成した(笑)。
 他の2店が仏産ブレス鶏を使っていたのに対し、今回は国産若鶏を入れた点が違う、そのためベッシー調理の本質が見えた気がする、印象は意外にもガストロ料理と云うより郷土料理的な、地面に根が生えたような強さと伝統食の重厚さを感じさせた。歴史を辿るとローマ帝政時代にも類似料理があったそうで、現代まで残った必然と合理性を持った料理なのが理解できた。
 今回、肥田氏が私のために作ってくれた料理だが、店の若いスタッフ男女2人にも、調理師学校でも教えない料理を教え、次代に伝えて欲しいとの想いがあると思う。今は珍しくなった、ガルニ野菜のシャトーとシャンピニオンのトゥルネはスタッフ作との事。
 そして主にパティシェールが作った、現在では出会う機会が少なくなったシャリオデセールも逸品揃いで嬉しくなる。特にキャラメルタルトが秀逸だった。

 パリとリヨンの料理が違うように、東京と大阪の料理が違っていいと思う、でも最近は料理もスイーツも皆同じ方向を向いてしまい、見て食べただけでは何処で作った料理や菓子なのか判らない、これは残念な事だ。
 畏まった雰囲気は大阪人に一番似合わない気がする、いきなり店に入って来て「親父さん、何か旨いもの喰わしてくれ」と客が云えば、店主が「わかった、少し待ちな」、これが一番似合う街、こんな事書いたら「偏見だ」と云われてしまうかな?(笑)。
 例えばリヨンのブションに居るみたいな、洗練され過ぎない、温かくて何処かバタ臭い居心地いい雰囲気、これが体験できる店だ。教員生活で培った肥田氏の含蓄ある話しが聞けるのも値段に含まれるので、可能ならカウンター席がお勧め(笑)。
 肥田さん、スタッフの皆さん、ありがとうございました、楽しい夜になりました。



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神戸・三宮「ラ・カスエラ」(2020関西食べ続け-2)

 関西二日目の昼は、古くからの友人である料理人が雇われ料理長を務める、神戸三宮の駅直結ビル内にあるスペイン料理店「ラ・カスエラ(La Cazuela)」を、去年に続いて訪れる事に。
 限られた日程の中で行く店を選ぶのは難しいのだが、私の場合はどうしてもフランス料理店がメインになる、若い頃なら昼夜でも行けたが、さすがにこの齢になると厳しくなってきた。夜にフランス料理の日は昼に別ジャンルの料理を選びがちだ、それでも饂飩一杯では寂しいとなると、候補店は限られてくる。其処で去年行って印象の良かった此の店で、軽目に済まそうとの考えだった。此の日は風があり寒い日で、駅から歩かないで行けるのは結果ありがたかった(笑)。 
 約束の時間12時より早めに到着したので、店の入っている商業施設「三ノ宮ミント」内をブラブラ歩き見ていたが、新型コロナの影響だろう、去年より人出が少なく感じる、7階8階にあるレストランエリアも「どの店に入ろうか」と、店定めをしている人は少数、来た人は大体行く店を決めている様子だ。
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 12時になったので入店、岩瀬料理長に挨拶して入口右奥のカウンター席に座った。
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 前回は肉料理迄全部出るフルコースランチだったが、夜を考えて軽めに昼限定の「パエリアランチ」メニューから選ぶつもりでいた。「(パエリアは)3種類あるので選んでください」と云われたので、ランチメニューを見たら目に入ったのが「平日限定!魚介のアロス・カルドッソ(スペイン風雑炊)¥1200+税」の文字、瞬間「これに決めた」と思った(笑)。
 「アロス・カルドッソ(カルドソ)Arroz caldoso」はスペイン・カタルーニャ地方発祥とされる米料理で、バレンシア地方発祥のパエリア(パエージャ)が日本の炊き込みご飯なら、これは雑炊くらい汁気が多い食べ物で寒い日には最適。東京でも提供する店はあるが、スペイン料理店は夜だけ営業が多く、なかなか昼には食べられない。「本日のお米料理」とあるので、毎日提供できるものではなく運が良かった(笑)、これに前菜とデザート(ポストレ)を追加してもらう事に。

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 まずは岩瀬氏自らサービスしてくれた、スペイン・バスク産チャコリ(微発泡白ワイン)「TALAI BERRI」、果実味ある辛口でオリーブオイルを使う料理全般に合いそう。

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 タパス盛合せ(左から:ローストビーフサラダ、トルテージャ、スモークサーモン、田舎風パテ、梨と生ハム)。

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 グリーンピースのスープ(温)

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 ビル地下にも売場がある、神戸「ローゲンマイヤー」のバゲット

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 海老とマッシュルームのアヒージョ

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 アロス・カルドッソ

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 デザート盛合せ(チーズケーキ、クレームブリュレ、カシスソルベ)

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 コーヒー

 前菜はどれも丁寧に作ってある、スペイン本国より塩分は少なめに感じるが、味はふやけていない、トルテージャが特に好みだった、別にスープが出るのも嬉しい。
 アヒージョは去年感心したもの、オリーブオイルだけでなく別の油もブレンドするそうで、日本人に合った味になっていると思う。
 そして期待していたアロス・カルドッソ、魚介のスープにご飯を入れた、あるいは魚介リゾットのスープが多くなったと云う印象だが、質のいい魚出汁がベースになっている。スペインでパエージャは食べたが、これは残念ながら無いので、現地物に近いのかは何とも云えないが、美味しいか否かと訊かれたら、十分美味しいものだった。料理人は高知で働いていたので、魚介の質には敏感だと思う、ベースの魚出汁もいい。
 日本で日本人に食べてもらうのだから、「現地そのまま」のオリジンに拘るより、食べる人を旨いと唸らせる料理を出すのが一番だと思う。
 デザートは無難な盛合せだが、どれも安心して食べられた。去年もそう思ったが、神戸は水がいいので大阪より珈琲が美味しく感じられる。
 
 軽く済ますつもりだったが、雑炊でお腹が膨れ、甘味で満腹感が増し、満足過ぎるランチになってしまった(笑)。商業施設内のスペイン料理店と聞くと、そう過大な期待はしないが、此処は値段も含めお勧めしたい店だと思う、ワインがもっと飲める人なら更に楽しい筈だ。
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 8階から見たJR三宮駅周辺
 食後、折角だから神戸観光をして帰ろうと思ったが、外へ出たら風が強く寒い、小雨も降り出したので駅を一回りしただけで撤退、そうだ此処は「六甲おろし」の本家本元だった、帰りも阪神電車に乗り、その甲子園球場を眺めながら大阪に戻った(笑)。


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プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
人はそれぞれに「見方、感じ方、考え方」が違います。私が美味と思ってもそう思わない人が居て当然です、味覚とはそれだけ不安定で不完全なもの、あくまでも筆者個人の嗜好による感じ方である事を承知の上で読まれてください。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに赤坂、麻布十番等。
混雑電車が苦手で加齢による朝型人間化のため、ランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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