最後の晩餐にはまだ早い


大阪・上本町「レストラン・コーイン」(2020関西食べ続け-7)

 関西最後の夜は、大阪来て此処へ来ないでどうする?と云いたい、この旅のクライマックス的イベント、上本町のフランス料理「レストラン・コーイン」へ、私の記憶とブログ記事に間違いなければ、此の日が10回目の訪問になる。
 店前に着くと、とても営業しているとは思えない暗いエントランス、以前「食べロガーお断り」の掲示が出ていたが、今はなくなっていた(笑)。
 湯浅料理長は去年、「次来る時はワンオペでやっているかも知れません」と話していたが、此の日は調理師学校仕様のコックコートを着たアルバイトの若い女性が居たので、一安心(笑)。大阪も東京同様飲食人材不足は深刻だが、店からあまり離れていない場所には、世界三大調理師学校?の学生が居るので、まだ何とかなるのかも知れない。
 19時過ぎの訪問時には既に友人が待っていてくれた、フランス料理店全般に云えることだが、本気の料理を味わいたいなら一人より二人、更には四人以内で行った方がいい結果になると、自分の経験からそう思っている。
 湯浅氏に一年ぶりの挨拶をして、始まった料理は以下のとおり、

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・(左)甘海老と蟹味噌、(右)蟹とオシェトラキャビア、金箔を載せて。

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・此の店では初めて見るハート形のパン

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・(左)エイの生レバートリュフ風味、(右)エイのクリュ、シェリビネガー風味
 ※画像悪いです。

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・土佐あか牛のコンソメ

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・「畑のビーツ」

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・ミンククジラ(生)、畑のサラダ、熟成パルミジャーノ

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・オマールのスピラ

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・シャラン産ビュルゴーのクロワゼ鴨のラケ(全容)

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・切り分けて一人分、ポム・ド・ピュレ、鴨のジュとトリュフを合わせたトリュフソース

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・クロワゼ鴨と土佐ジロー卵の親子丼(笑)

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・当日のワイン

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・アーモンドミルクのソルベ、苺(上本町版「いちごミルク2020」(笑))

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・(左)通常の25倍ヴァニラ使用のプレミアムグラス
(右)72%エクアドルカカオ使用のスフレショコラ

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・ミニャルディーズ
・コーヒー

 金箔を付けた大阪のオバチャンが二人でやって来た(笑)みたいなアミューズの後は、最初のジャブであるエイ、特に生レバーは衝撃的な旨さだった、初体験なので他に例えようがなく、自分の脳内が混乱しているのが判る(笑)、「これ鯛茶漬けみたいにして食ったら、さぞ旨いだろうな」と思った。
 続く赤うしのコンソメは、和歌山のベキャスコンソメとタイマン張れる作り(笑)。自家製農園のビーツと黒トリュフ、フォアグラを並べた皿は、過去此処で出たトリュフ料理の中では割と大人しい方だが、赤と黒の難しい色を一見無造作に並べていて、この置き方が美的にも優れているのは、私は現代美術を少し齧ったので分かった。
 此の店ではたしか4回目の鯨は、毎回思うのだが「禁断の味」そのもので、ミンククジラとDeep kissするような舌にまとわりつく食感と肉味、これ知ってしまうと、もう捕鯨反対とは云えなくなる(笑)。
 オマール料理の「スピラ‘spire’」とは、仏語で螺旋、巻きの意味で、外側のパスタ状のものを指す、中にはオマールの身と摺った身のファルス、オマールの濃厚なソースがそれを包む、まさにコーイン料理ならではの、手間をかけたのが判る突き抜けた皿だった。
 今日はジビエでは?との予想を裏切り、湯浅氏自ら持って来た肉料理が、シャラン産ビュルゴーのクロワゼ鴨のラケ、かつて一世を風靡した料理が此処で出て来るとは意外だった。「ジビエはもう飽きました」と湯浅氏が話すが、実は私も同様に感じていた事で、半野生物の使用等「ジビエ」の概念自体怪しくなり、個体も当たり外れが多い、珍味と美味は違う筈なのに、何でもジビエと呼んでありがたがる風潮には疑問を持っていた。「ラケ‘laqué’」とは「~を塗る」の意味で、蜂蜜や鴨から出た脂を塗りながら焼く、フランス人が北京ダックをパクったとしか思えない調理法(笑)。食材としてのサプライズ感は少ないながら、やはり食べて無条件に美味しいと思う、シャラン鴨は日本の米と同じく、生産者が改良を重ね品質を高めて来た食材、特にソースの善し悪しを反映するので、料理人にとっては実力を試される怖い料理だ。
 そしてダメ押しで出て来たのが親子丼、米の炊き方を含め文句の付け様ない出来、満腹なのに食べてしまう。それにしてもエイ&鯨のクリュと親子丼が出て、しっかりフランス料理になっている店は、世界中でも此処一店だけだと思う(笑)。
 デセールでは、通常の25倍ヴァニラビーンズを使用したと聞くグラスが秀逸、「量は質に転化する」の実例をあらためて知る。反対にミニャルディーズは以前に比べ量より質に変わった(笑)。

 調理を終えた湯浅氏と話をするが、もう料理の話をしてもこの人に敵う訳ないので、その場で思い付いた質問をしてみた、それは「湯浅chefは、生まれ変わったら何になりたいですか?」で、たぶん「また料理人やりたい」とは答えないと思ったからだが、彼は一瞬考えた後、
「医者ですね、フォアグラ等の血管を見ているうちに、この血管を繋げる事が出来たら面白いだろうなと思った、日常は医者をやり、時にこうした店(レストラン)を食べ歩きたい」との答えを聞いて、この料理人の謎が少し解けた気がした(笑)。
 連想したのがルネサンスの巨人レオナルド・ダ・ヴィンチ、人物画を描くために人体構造を知ろうと、死体解剖まで手掛けたと伝えられるが、「何でそんな面倒な事を」と考えるのが凡人で、自分が興味を覚える疑問なら徹底して探求検証しないと気が済まない、そのための時間も手間も惜しいと思わない、こうしたタイプの人間は少ないながら存在する。
 「長く権威と信じられてきたことに対してもまずは疑ってみる態度も、その成否を明らかにするための実証主義も、ルネサンス精神の最たる特質である」、作家の塩野七生がこう著書で語っているが、湯浅氏の実証精神は料理界の一人ルネサンスだと思った、ガンジー、寿老人の次に会えたのは大阪のダ・ヴィンチだった(笑)。どうでもいい事だが、私が生まれ変わったらなりたいのは「錦鯉」で、理由について書くと長くなるので止めておく。
 誰にでも薦められる店ではないが、今行っている店に何らかの不満を抱えるフランス料理好きには、一度は訪れて欲しい名店であり怪店、此の店へ通い出すと他店が霞んでしまうのが欠点だが(笑)。
 関西最後の夜にふさわしい、例年にも増して刺激的で楽しい夜になった。


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プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
人はそれぞれに「見方、感じ方、考え方」が違います。私が美味と思ってもそう思わない人が居て当然です、味覚とはそれだけ不安定で不完全なもの、あくまでも筆者個人の嗜好による感じ方である事を承知の上で読まれてください。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに赤坂、麻布十番等。
混雑電車が苦手で加齢による朝型人間化のため、ランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

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