最後の晩餐にはまだ早い


八丁堀「シック・プッテートル」(2013年7月)

 「料理は食べてみないと判らない」と言うが、相当経験を積みお金を使った人の中には、料理画像を見ただけで美味しいか否かが判る人がいる(笑)、私はとてもその域には達していないが、優れた料理人やグルメの中にはこの達人が居るみたいだ。
 中島敦の小説「名人伝」は、修練を極めた末に武器である弓の存在を忘れる弓の名人の話だが、食べなくても料理の味が判るようになれば、もうこれに近い(笑)。

 最近ブログにUPした店の中で一番反響?が大きかったのが、八丁堀のフランス料理「シック・プッテートル」だった、私の料理画像を見て実際に店まで行ったのが、私の知る限り2組、両者共に既にリピーターになっている(笑)、「行きたい」との希望を聞いたのも数人、こうなると紹介者としては黙って眺めている訳には行かない、彼らに遅れたら「予約取れない店」になってしまう(笑)。そうした理由で、この日「裏を返す」2回目の訪問をしたのだが、料理は前回を更に上回る出来で、正直この記事は書きたくなかった。「2回目は期待外れだった」と書けばいいのかも知れないが、やはり嘘は書けない(笑)。

             130719-1.jpg

 前回利用は昼だったが、今回は夜で店界隈の雰囲気は変わる、八丁堀は僅かながらも「下町の情緒」的なものが残った街で、至る処にあるのは居酒屋的な客単価の低い店、その中で正統的なフレンチを続けて行くのは大変だろうなと同情もしてしまう、立地的には浅草「オマージュ」と似ていると思う。
 18時半に入店し、オーナーと料理長に挨拶をして席に着いたら、星オーナーから「今日は料理長の希望で、少量ずつ多皿で料理を出したい」との説明があり、これは断る理由もなく喜んで乗る事にした、何が出るかは料理人任せの「八丁堀カルトブランシュ」だ(笑)。
 照明の具合で映りの良くない画像もあるが、全品をお見せする。

         130719-2.jpg
・バスク豚のサラミ

              130719-3.jpg
・クミンシードのビスコッティ

         130719-4.jpg
・白いガスパッチョ、ラトビア産キャビア「スターレット」

              130719-5.jpg
・時知らずのミ・キュイ、イクラ

         130719-6.jpg
・水ダコ、サマートリュフ、ジャガイモ、プチオニオン

         130719-7.jpg
・蝦夷アワビとアワビ筍、鶏のトサカ、香菜の花

             130719-8.jpg
・穴子のヴァプール、リ・ド・ヴォー、ズッキーニ

         130719-9.jpg
・熟成千代幻豚の藁焼き、信州野菜

         130719-10.jpg
・キャラメルのムース、ゲランド塩のシャンティ
・一口サブレ
画像以外に自家製パンが2種(パプリカ、イカスミ)

 水ダコの料理あたりから、体内にアドレナリンが湧いているのが判った(笑)、東京のレストランで此処まで興奮したのは久しぶり、予想を上回る料理が出ると寡黙になってしまうものだが、この日も唸ってばかりだった、繊細と大胆さが同居したこの料理を、特別な器具や調理法を使う訳でなく、料理人一人で全て滞りなく作るのは凄い、パンまで2種類焼いている。この日は平日夜で5割の入りだったが、満席でこの手間掛けた料理作って大丈夫なの?と心配してしまう(笑)。この中で特に面白い食材がラトビア産の「スターレット・キャビア」、世界一小さいチョウザメの卵で、希少さから「幻のキャビア」と呼ばれる、腹を裂かず人間が手で押し出して卵を採るそうで、帝王切開ならぬ「介助付自然分娩」だ(笑)。
 前回訪れてから、生井料理長の料理は誰かに近いと思っていた、「似ている」と云うのではなく、食材の組合せ等の独特な感覚が何処かで体験したと感じた、この日それが判った、フランス南西部の小村ピュイミロールで、独自の美学で料理を展開する料理人ミッシェル・トラマ、彼の料理だった。トラマは1947年生まれ、初め美術を志すが、経済的事情により料理人に転向、誰にも師事せず独学で料理を習得、特にそれまで脇役だった野菜を料理の主役にした事で有名になる、私は2002年に訪れたが、料理も店造りも実に美的センスに溢れていた。
 聞けば生井氏も調理師学校は出ていなくて、フランスで働いた経験も無いそうで、料理人になった経緯は下記の記事が語っている、これはトラマに似ている(笑)。
http://www.eatpia.com/restaurant/chic-hatchobori-french

 日本人料理人は優秀だが、少しオリジナリティに欠ける傾向はあり、トラマやブラス、ベラサテギみたいな「独学派」の料理人が現れるのは、もう少し先だと思っていた、その予想が外れる事になった。私も過去若手料理人は何人も見て来たが、今までにいなかったタイプ、これから先はどうなるのだろうとの期待と不安両方あるが、これは常時マークしていないといけない凄い才能が現れた。
 最後は料理長とオーナーの笑顔に見送られ退店、この店のおかげで夏の湿気を忘れる素敵な夜になった。

スポンサーサイト

  1. [ edit ]
  2. フランス料理
  3. / trackback:0
  4. / comment:0


 管理者にだけ表示を許可する
 


プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

訪問者

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR

« 2017 06  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -