最後の晩餐にはまだ早い


根津美術館「井戸茶碗―戦国武将が憧れたうつわ」展

 南青山の根津美術館で開催中の、「井戸茶碗―戦国武将が憧れたうつわ」展を観に行った。

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 井戸茶碗とは、主に16世紀に朝鮮半島南部で作られた陶製の器で、元は民衆の日常雑器と推測されるが、日本に渡来後に茶人達が抹茶碗として転用、茶の世界では「一井戸、二楽、三唐津」とまで言われる程に珍重された、外に向かって開いた男性的で豪快な形が特徴で、荒い陶土を使って無造作に轆轤を回し成形した作為の無さが感じられる、その他には、
・色は枇杷色と呼ばれるベージュ系かグレー系
・胴部の内外に轆轤あとが残る
・高台が高く、竹の節状になっている
・高台部分の釉薬が縮れ細かい穴が現れている、茶人はこれを「梅花皮(かいらぎ)」と呼び珍重した
 以上の特徴があるが、「竹の節高台」と「梅花皮」については全てある訳ではなく、出ていない類型もある。

 「井戸茶碗」の呼び名については諸説あるが、茶を飲むため茶碗の中を覗き込むと、外見より深く広く感じ、まるで井戸の如くに見えるから、茶人がそう呼んだと云う説が有力らしい。
 室町から桃山時代にかけて日本に渡来し、千利休一門の茶人達が好んで茶事に用いた事から知られる事になる、特に戦国武将達に人気があった、日々戦いに明け暮れた彼等はこの茶碗の詫びた風情、天に向かって開いた形状、孤高な姿に己を重ね合わせたのかも知れない。中でも織田信長は戦勝の褒美として、部下の功労者にこれらの茶碗を与えた、拝領した者は銘を与え家宝として子孫に伝えていく、こうして名碗は現在に伝世する事になる。

 今回の展覧会は、日本各地で伝世され「名碗」となった74点を一堂に展示したもので、前評判も高く実際に見て圧巻だった。井戸茶碗は大きさや色から「大井戸」「小井戸」「青井戸」に分類されるが、眺めていると大井戸は戦国武将、小井戸はその跡継ぎの子、青井戸が奥方達みたいで、これらがまるで「清州会議」の様に、一つの城に大集合した錯覚を覚えた(笑)。
 この中から代表的な名碗を紹介したい、

     131203-2喜左衛門
・大井戸茶碗 銘「喜左衛門」 大徳寺蔵
 井戸茶碗の代名詞にもなっている有名な碗、今回の展示中唯一の「国宝」、口造りは歪んで全体的にも薄汚れているが(笑)、それだからこそ桃山の茶人達の美意識に訴えた、唐物(中国製)茶碗の左右対称の均衡美に対し、左右非対称で不完全な茶碗に美を見出したのだから「価値観の逆転」だ、これを戦国の「下剋上」と結びつけるのも間違いでは無さそう、この茶碗を所有した者は不幸になると云う、オカルト的な謂われがあるのも名品の証拠(笑)。

     131203-3細川
・大井戸茶碗 銘「細川」 畠山記念館蔵
 もし信長公から、全展示品から「一つだけ好きな物を与える」と言われたら、私ならこれか(笑)、男性的な「喜左衛門」に対し、女性的な柔らかい外観と内側の繊細な造りで、見飽きる事が無い。江戸時代の大茶人である松平不味の所有物だった事もあり、愛情を注がれて「育った茶碗」だと云うのがよく判る。

      131203-4有楽
・大井戸茶碗 銘「有楽」 東京国立博物館蔵
 前二碗に比べると地味な外観だが、かつての所有者は信長の実弟である織田有楽斎、時代漫画「へうげもの」の中で名脇役として登場する人物だ(笑)、漫画にも描かれている様に、兄とは対照的な生き方をして、相当なエピキュリアンだったみたいだが、文化人として徳川政権になっても無事生き延びた、江戸城数寄屋橋門近くに屋敷があった事から、現在の「有楽町」はこの人の名前に由来する。

     131203-5柴田
・青井戸茶碗 銘「柴田」 根津美術館蔵
 伝承由来からすれば、この碗に優るものはない、織田信長からの褒賞として家臣の柴田勝家が拝領したとされる。小振りな造りながら姿が大変美しく、所々に青味を帯びた色合いから「青井戸」と呼ばれる茶碗、無骨武将と伝えられる柴田勝家のイメージに合わない気もするが(笑)、所有者と違って乱世を生き延び、今に伝わって歴史の証人になった、この名碗を根津美術館が所有していた事から、今回の展覧会が開催出来たのだと思う。

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 私が行ったのは平日午後だったが結構混んでいた、これだけの量と質の井戸茶碗を、一堂に集める展覧会は暫く無いだろうと思う、器好きで歴史好きの方には是非お勧めしたい。(2013年12月15日まで、東京・青山:根津美術館で開催)
 ※茶碗の画像はWEB上から引用しました。


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