最後の晩餐にはまだ早い


四谷荒木町「懐石 大原」

 東京・目白にあった懐石「和幸」は、近江・八日市の「招福楼本店」と共に、私が若い時から「いつか行ってみたい店」だった、料理雑誌等で紹介されて、茶の美学に沿った佇まいと、写真で見る料理の端正さに憧れていた、「いつかこの店に相応しい大人の風格と財布が身に付いた時に訪れたい」そう願っていた店だ。やがて年齢を重ねて「招福楼」は訪れる事が出来たが、「和幸」は主人の高橋一郎氏の逝去により閉店、「叶わぬ願い」になってしまった。
 この「和幸」で働いていた料理人が独立し、四谷で板前割烹を開業したのをWEB上で知り、「今度こそ行くぞ」と意気込んで、食べ歩きで知り合いになった料理人とグルメ美女を誘って、この日の夜に訪れる事にした。店は客の都合を待ってくれない、気が付いたら予約の取れない店になっているか、閉店しているかどちらかになってしまう(笑)。

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 店の名前は「大原」、場所は新宿区荒木町1番地と云う判り易い住所だが、小さなビルの2階でひっそりとした佇まい、目立つ看板を出さないのは店主の意向だろうか、一昨年の6月に開店したので、この地で1年半が経過した事になる。
 店内はカウンターが3席に椅子が8席の計11席、和食を楽しむには一番いい大きさ(小ささ)だろう、この日はカウンターに三人陣取る事になった。客から見える板場には店主の大原氏が一人、下手の厨房には女性料理人が二人で、このうち一人が配膳を担当する、あとでこの方が店主の奥様だと知った。
 料理は9,000円(サービス料別)の一種のみで、この日の料理は8品、内容は以下のとおり、

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・造り  (左から)ホウボウ、平目、メジナ

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・椀物  すっぽんの玉子豆腐、海老

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・八寸  (手前から時計回り)海老芋、黒豆&ちょろぎ、数の子、もろこ、とこぶし&蕗

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・焼物  甘鯛の幽庵焼、長芋

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・煮物  牡蠣、天王寺蕪、味噌仕立て

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・酢の物 鱈白子、ポン酢仕立て

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・御飯  新潟産こしひかり、蓬麩の白味噌碗、鮪山かけ、香の物

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・おかわりは染付碗で

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・茶と菓子 百合根の練り切り、抹茶

 料理全体の印象は端正で清新、店主は和幸時代から茶事の出張料理も担当していたそうで、そうした経験が料理に反映していると思った、盛り付けが綺麗で丁寧、人を驚かす手法はなくても、淡麗でいながら深い味わいを感じた。
 特に惹かれたのが和食の花形である「椀物」、上質の鰹節を使うと香りが立つし、昆布は旨味を出す、更にそこへスッポン出汁を加えると「強さ」が出る、まるで筋肉増強剤を加えるみたいだ(笑)、これは料理人としては使いたい食材、しかしスッポンは見栄えが悪いので、そのまま椀物にするのは茶懐石の美学に合わない、そこで身を刻んで玉子豆腐に包み椀種にする、この料理人のオリジンなのかは不明だが見事な解決法だ、こうした処はさすが茶懐石の名門出身だと思う。

 八寸、焼物、煮物の出来と流れもいい、食べ終わって、「もう一品位あってもいいかな」と感じたが、家に帰って今日の料理を振り返ると「いい料理だったな」と頂点が来る、これも茶懐石の考えに沿ったやり方だろう。最近は京都の和食でも「強肴」と称してローストビーフが出たりするが、そうした変化球は投げたくないみたいだ。
 器は特に高価な物は使用してはいないが、料理の印象に共通して、端正で料理を引き立てる物が多い、和幸から引き継いだ器も幾つかあるそうだ。

 店主はまだ38歳の若さ、饒舌ではなく尖らず穏やかな話しぶりだが、料理や食材の話になると語り始める(笑)。今年6月には第一子が誕生予定との事で、料理人としても父親としても、今年が本番の年になりそうだ。
 最後は店主夫妻を含め三人揃っての見送り、一階へ降りると荒木町の賑やかで「俗」な世界へ帰る事になるが、それまでは「聖」なる世界へ留まっていた事になる、この階段は二つの世界を隔てる「結界」と云う事だ(笑)。 
 この店はまた来てみたい、料理人は更に進化しそうな気配がある、私の予想ではあと2年後の40歳位が一回目のピークが来そうなので、それを見届けたい店だ。

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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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