最後の晩餐にはまだ早い


大阪・本町「びすとろぽたじぇ」(2012関西食べ続け⑤)

 聖書の中に「放蕩息子の帰還」の話がある、父から財産を等分に分け与えられた兄弟がいたが、弟は家を出て放蕩を重ね財産を使い果たしてしまった、その後極貧の生活を続けるが最後には父の元に戻る、兄からは非難されるが、父は息子の帰還を喜び温かく迎え入れるという、宗教の慈悲と寛容を説いたもので、古くから絵画や音楽の題材になっている。大阪で訪れた本町の「びすとろぽたじぇ」で、「若鶏のクスクス」のスープを一口啜った時、急にこの話を思い出した。

 大阪最後の夜は、昨年7月に開店したこの店に、料理業界で長い人生経験?を積んできた方達とご一緒する事になった(笑)。此処は調理師学校で後進の指導に就かれていた方が、退職後に息子さんと始められたビストロ、スタッフはそれぞれの夫人を加え4人で運営されている。カウンターだけの店だが、リビングスペースもあり、この種の店にありがちな狭苦しさはない、これは「我家に来たみたいに、寛いで欲しい」と云う店主親子の考えからだ。
 2回目の訪問になるが、前回はP・ボキューズ直伝の「スズキのパイ包み焼き」を体験した事もあり、今回は事前に無理を言って、大料理人F・ポワンが築いた店「ピラミッド」の名物デザート、「ガトー・マルジョレーヌ」を食べたいとお願いしてしまった、これについては後述する。

 この日は通常の5,700円のプリフィクス(コーヒー別)のムニュから選択、

120220-8.jpg
・リエットとパン

・コンソメ

120220-9.jpg
・サーモンマリネ・ぽたじぇ風

120220-10.jpg
・河内鴨のサラダ

120220-11.jpg
・若鶏のクスクス

120220-12.jpg
・「ガトー・マルジョレーヌ」

120220-13.jpg
・デザート各種(好きなだけ)

 ここまでの食べ続けで、胃がかなり疲れていたのと、この日はデザート狙いもあったので、冷たい前菜2種とクスクスという軽めの構成にしてもらった。サーモンマリネは優しく柔らかなサーモンの上に、パコジェットで作った鮮烈なトマトのソルベが乗り、いいアクセントになっている。初めて食べる河内鴨は表面だけを火入れした「タタキ」状のものだが、マグレ鴨などと比べると肉質がよりしっとりして噛んで美味しい。そしてクスクスはニンニクもトマトも感じない、まるで「ポトフ」の様な優しさ、一口食べて急に泣きたくなった、それまでの放蕩をすべて許してくれる、慈悲深い「父親の味」だった(笑)。

 「ガトー・マルジョレーヌ」、稀代の名料理人フェルナン・ポワンが考案したとされるこのデザート、知ったのは辻静雄の著作で、彼は「世界最高のデザート」と何度も書いていた、日本でも同じ名前のケーキは売ってはいるが、見かけからして正調とは遠く離れたものに感じ、一度「本物」を味わってみたいと以前から思っていた、この「ぽたじぇ」のグランシェフはピラミッドではないが、一番弟子の「P・ボキューズ」で働いていて、また同僚・先輩にはピラミッドの厨房で働いた仲間もいる、本物の味を知っている筈なので、面倒なのを承知の上で「食べたい」と我儘なお願いをしてしまった。
 そして目の前に置かれたのは一見無骨な姿、専門家でないので詳しい作り方は書けないが、生地作りも中身も面倒で時間がかかるものらしく、パティシェ泣かせのデザート(笑)、泡立てた生クリームに溶かしバターを加えるなど、リッチでカロリーの高いものだ、2cm厚位に切り分けるのだが、中身が濃厚なのでそのまま立っている(笑)、これは貴重で贅沢な食体験だった、今のフランスでこのデザートを出しても受けないかも知れないが、こうしたルセットは「歴史」でもあるので、料理文化として伝承してもらいたいと願う。このマルジョレーヌを筆頭にデザートは数種食べ放題、こうした形はフランスでも廃れつつあるが、この濃いビストロには似合っている、息子さんはパティシェの修業を積んだだけあって、どれも上質な出来だった。

 人生の渋味を加えつつある男性4人、更にはグランシェフを加え5人の、濃くて深い話は最後の客になるまで続いた、人生の勉強はまだまだ終わりがなさそう(笑)。
 退店時に前回から気になっていた事を息子さんに訊いてみた、「お父さんと毎日一緒に仕事して、(意見が)ぶつかる事はないですか?」。これに対して息子さんは笑って「僕の方から父に文句を言う事はあるけれど、父からは何も言われない」との事(笑)、今の処は安心して大丈夫です。
 シェフ夫妻とグランシェフ夫妻、夜遅くまでお付き合いいただきありがとうございました、迷惑でしょうが次回のリクエストは何にしようかと今思案中です(笑)。

スポンサーサイト

  1. [ edit ]
  2. フランス料理
  3. / trackback:0
  4. / comment:2

次回は・・・

  1. [ 編集 ]
  2. 2012/03/06(火) 20:11:13 |
  3. URL |
  4. パマル
「肥鶏の膀胱包み」なんか如何でしょう?
勿論、次回もご一緒させて下さい!

  1. [ 編集 ]
  2. 2012/03/07(水) 07:17:33 |
  3. URL |
  4. トシ・オンクレ
パマルさん、「ロッシーニ」とか「V.G.Eスープ」とか、今のではなく、1970年代の作り方で食べてみたいですね(笑)。手間も原価もかかるので、他のお客さんのいない時に、特別料金になるでしょうけれど。

 管理者にだけ表示を許可する
 


プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

訪問者

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR

« 2017 08  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -