最後の晩餐にはまだ早い


秋葉原「ビストロ・ヌー」(2014年7月)

 辻芳樹著「和食の知られざる世界」(新潮新書)によると、辻家で家族旅行をした時に、旅館等で出された料理を食べ、よく料理人の年齢当てをやったそうだ、勿論音頭を取るのは父親であり前辻調理師専門学校長の辻静雄だった。その結果について本では詳しく述べていないが、彼が健在だった頃のTVの対談番組で、「実際の年齢と前後5歳は違わなかった」と語っていたのを記憶している。
 私自身も和食や中国料理は全く自信ないが、フランス料理なら大体の年齢を言い当てられるのではと思う、ただ今はネット社会になって店へ行く前からその料理人の経歴等の情報が氾濫しているし、オープンキッチンの店も増えて、「事前に知っていたのでしょう?」と言われそうなので、年齢当て自体はもうあまり意味のない事かも知れないが(笑)。 
 「若い料理人は若い料理を作る」これだけは間違いない、日本では「若い」は「青い」と同義語であまり褒め言葉ではないが、「勢いのある料理」と言い換えればいいかも知れない。サッカーのW杯をTVで観ていて思ったが、アスリートのピークは30歳前後、それを過ぎるとフィジカル面で落ちるのは確実だ。料理人の場合はサッカー程には走り回らないので、もうあと10歳プラスして40歳前後がピークではないかと思っている(笑)。

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 この日ランチタイムに訪れた秋葉原(末広町)のフランス料理「ビストロ・ヌー」での食事後、そんな事を考えた。この店の磯貝料理長はまだ34歳の若さ、開店して3年経った現在でも、オーナーシェフとしてはこのブログに登場したフレンチ料理人中で最年少だと思う。

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 まずはこの日に出た料理を紹介したい。

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・自家製カンパーニュ系パン

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・ロワールだと思ったソーヴィニヨン・ブラン(850円)

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・トマトの冷たいスープ

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・フランス産ウズラのロティ(+1,080円)

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・ホワイトチョコとルバーブのタルト

 基本のプリフィクスは1,620円だが、これにあえてプラス料金を承知で仏産ウズラを選ぶ事にした。
 まずは此処のパンが美味しい、最近の私はパンの不味い店はそれだけでアウトだが、料理人一人の厨房で粉捏ねから取り掛かるのは立派だと思う、美味しくないパンを作っても意味ないが、噛んで滋味のある素朴なカンパーニュだ。
 ガスパッチョ風のスープはあえて野菜の繊維を多目に残して、洗練され過ぎない味にしている、この日は暑かったので殆どの客がこの冷製スープを注文していた(笑)。
 期待していたウズラ料理は期待以上の出来、「サラマンダーが無いので」と料理長が簡易バーナーで表面を仕上げに焼いていたが、繊細な肉質のウズラの特徴を上手く生かしている、鳥類は骨付きで調理するのが一番美味しい、ソースはフォン・ド・ヴォーを使ったとの事、ガルニの野菜の仕上げも丁寧だった。
 ホワイトチョコのタルトは2回目だが、料理人の自信作なのだろう、甘さをしっかり付けたフランス的な味わいで、見かけは地味だが印象に残る味わいだった。
 これにコーヒーを加えて支払いは3,800円、若い人の多い秋葉原では高額ランチだが、提供される料理のレベルの高さはかなりのもの、斬新さを感じさせながらも何時か食べた記憶のある懐かしい味わいもあり、この料理人はフランスの本当にいい部分を吸収しているなと思った。

 磯貝料理長は少々変わった経歴の持ち主で、大学卒業後にバーテンダーをやっている時に料理に興味を持ち、以降ダイニングバーやカフェ等で料理人を担当する、その後学生待遇で渡仏し働いたのが、パリ17区にあるバスク出身の料理人が経営するネオ・ビストロ、人気店のため厨房は戦場みたいな忙しさで、「料理は習うより作って覚えろ」の世界だったらしく、そうして身体で覚えたものが、現在彼の財産になっている様に思える。
 調理師学校を優秀な成績で卒業し研修生待遇で海外の星付有名店で働いた、みたいなエリート料理人とは違ったアプローチだ。だが料理の優劣は別にして、不思議に私と相性がいいのが磯貝料理長みたいなタイプで、いわば「雑草キュイジニエ」とでも呼びたい叩き上げ職人系、最近通っている「シック・プッテートル」「オー・トレーズ・ジュイエ」「パスティチェリア・バール・アルテ」はこのタイプの料理人達だ(笑)。
 私自身が同じアンチ・エリートだったのもあるが(笑)、彼等の料理に「閉塞していない自由さ」みたいなものを感じるのが一番の魅力だ。そして意外にもと言っては失礼かも知れないが、古典や地方料理へのリスペクトがある。

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 この店はこれからも成長して行くと思う、今を追いかけていたい料理人の一人だ。

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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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