最後の晩餐にはまだ早い


四谷荒木町「懐石 大原」(2014年8月)

 今年4月に、代々木八幡の秀逸なカウンタースペイン料理「アルドアック」に誘っていただいた尊敬するグルメなご夫妻に、「お返しに何処かお誘いしなければ」とずっと考えていたのだが、何処にしようかと悩んで決まらなかった、それで今年これまで東京で訪れた中で特に「印象に残った店」は何処だろうと考えてみて、真っ先に思い出したのが、1月に訪れた四谷荒木町の和食店「懐石 大原」だった。そうだこの店にしようと決めたのが6月末、それで電話をしてみたら「金曜夜だと最短で8月末、土曜夜だと9月になります」との答えで、思わずのけぞってしまった(笑)。東京の和食店は名前が知られ出すと、需要と供給(提供出来る席数)のバランスが崩れ、すぐに「予約が取れない店」になってしまう、それでも8月末でお願いをしたのだが、私の年齢になると2ヵ月と云うのは意外と早くやって来る、何時の間にか当日を迎える事になった(笑)。

 この日は花の金曜夜、店がある「杉大門通り」や、JR四ツ谷駅から此処へ来るまでに歩いてきた「しんみち通り」も若い人中心に賑わっていた、ただよく見ると人が入っているのは客単価の低そうな店だけ(笑)、神楽坂あたりも同じだが、今は居酒屋より「バル」的な店が人気で、客単価は低くしても回転を早め「質より量」で勝負する店ばかりに見える。その中にあるこの「大原」は、店へ入るまでは雑多で俗な雰囲気だが、一歩店へ入ると心地よい緊張感に包まれる別空間に感じる。
 1月以来だから7か月ぶり、ご主人に挨拶してカウンター席に着くが、麦茶を出してくれたのが奥さん、たしか6月に出産予定と聞いていたのだが、もうお店に出ていた。「お子さんは?」と思ったら、厨房内の隅に寝ていた(笑)。前回来た時はもう一人女性が居たが寿退職?したとの事で大変そう、だからと云ってこの奥様に代る人材を探すのは、今は至難だろう。夫婦二人それも変則営業のため席は全部埋めていないみたいで、それで余計に予約が取り難くなったみたいだ。
 まな板の音を聴いて眠るこの子は、もしかしたら将来大料理人になるかも知れない、いやきっとなる筈だ(笑)。

 この日の料理(9,000円)全品を紹介したい、メモを取っていないので、食材等細部は違っているかも知れません、

     140905-01.jpg
・先付 茄子の煮浸し、胡麻クリーム

     140905-02.jpg
・造り 石鰈、秋刀魚

        140905-03.jpg
・椀物 はも

     140905-04.jpg
・八寸 里芋、ひげそり鯛、もろこ、薩摩芋他

        140905-05.jpg
・焼物 郡上八幡産天然鮎、蓼酢

        140905-6.jpg
・煮物 冬瓜、鱧の子、椎茸

        140905-7.jpg
・酢の物 えのき茸、オクラ

     140905-8.jpg
・御飯 新潟産こしひかり、青海苔の味噌碗、自家製じゃこ・香の物

        140905-9.jpg
・甘味 自家製水ようかん

     140905-10.jpg
・抹茶

 1月訪問時の料理印象は真面目で正攻法、料理人の朴訥な人柄が滲み出ていたが、少し硬さも感じた、それが少し変化している様にも思った。
 正当な和食献立の3番・4番打者は椀物と八寸だろう、料理人が個性を発揮するのもこの二品で、これが詰まらないと如何しようもない料理になる。椀物は前回よりキレと深味が増し、八寸は見栄えが更に良くなって各料理の味も際立っていた。その他の料理も前回の印象と同じく、目白にあった茶懐石の名店「和幸」の衣鉢を継ぐ、正統的でケレン味のないもの、「草・行・楷」で云えば楷書の料理だが、随所に野暮でない洒脱さを感じた。
 料理人は父親になった、これは料理に影響していると思う、カウンターでの話の応対も柔らかくなったし、態度にもある種の自信が感じられる、これは大事な点だ。
 
 和食は上を見たらキリがない、献立が2万3万円する店は幾つもあるし、使う食材や食器によって如何様にも出来る自由さ、言い方を変えれば「いい加減さ」がある(笑)。「大原」の料理も高額家賃の銀座で人を雇って高価な器で出せば、この値段(9,000円)の倍払っても無理かも知れない(笑)。
 この店は本質がわかるベテラングルメにこそお勧めしたい店、ベタベタな接客や人を驚かす料理技法はないが、姿勢を正したくなる気品と上質さ、それでいて親しい人の家に招かれたような、心和む温かさがある。

 店を出る時に「今日は美味しかった」と思う店はそれなりにあるが、「今日、素敵な人達に逢えた」こう思える店は少ない。いくら料理が旨くても厨房での怒号が聞こえて来る様な店では決して楽しめない、此処は少しでもいい時間を提供しようとする夫妻の気構えが感じ取れる店、「料理は人」だなとあらためて思う。
 料理長ご夫妻、おかげで素敵な夜になりました、また伺わせてもらいます。
 
スポンサーサイト

  1. [ edit ]
  2. 日本料理
  3. / trackback:0
  4. / comment:0


 管理者にだけ表示を許可する
 


プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

訪問者

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR

« 2017 11  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -