最後の晩餐にはまだ早い


青山「フロリレージュ」(2014年10月)

 P・シェーファーの戯曲を映画化したミロス・フォアマン監督の「アマデウス」、あの中に印象的な場面がある。生活苦のため困ったW・A・モーツァルトの妻が宮廷楽長サリエリの元を訪ね、夫が書いた楽譜を見せて宮廷音楽師の職を得ようとするのだが、それを見たサリエリは、楽譜に通常ある筈の書き直しの後が全く無い事に驚愕する、妻が言うには「これはオリジナルだ」つまり写しではなく楽譜はこれしかないと、それを知ってサリエリは「あの男は神に愛された(選ばれた)者」で自分はそれではない何者かだと、如何しようもない敗北感を味わう。
 この日の夜に訪れた青山「フロリレージュ」での食事後、見送りのために厨房から出てきた川手料理長と話していて、何故か急に映画の場面を思い出した。モーツァルトは頭の中に沸いた音楽を書き留めるだけで作曲が出来たが、目の前にいる料理人は頭の中に湧いた発想を、すぐに皿上に表現出来る稀有な才能の持主ではないか、「この料理人は(神に)選ばれた者かも知れない、そして自分は一体何者?」、選ばれなかった事を自ら認めなければならないのは、人生において時に必要だ(笑)。
 
 また前置きが長くなったが、時間を遡ってこの夜に提供された料理を紹介したい、 

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・石焼き芋(茸と銀杏)
・(四角いグリーンオリーブ)

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・秋の茸とスッポンとコンソメ

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・スッポンの血によるブーダンノワール

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・フォアグラとオータムトリュフのシフォンケーキ

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・静岡産戻り鰹のロースト、水晶文旦と林檎

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・蝦夷鹿のロースト

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・(二皿目)蝦夷鹿のガレット

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・柿のデクリネゾン

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・カマンベールのクリームを詰めたシュー、糖蜜のグラス
・(鬼灯のパート・ド・フリュイ)
・アンフィージョン

 ムニュ全体の流れからすると、スッポン⇒鰹⇒鹿と赤肉が続くのは大胆な構成、普通の料理人なら魚は無難に白身のポワレ等を持って来る処だが、他人と同じ事をしないのがこの料理人の真骨頂だ、誰かの真似をしていたら「料理界のサリエリ」として世俗的な成功を得ても、後世に作品と名声が残ったモーツァルトにはなれない(笑)。
 スッポンの皿は、中華や和食から料理発想のヒントを得る事が多いと聞くこの料理人の特色が現れたもの、それでも食べるとフランス料理だと感じさせるのが非凡な処だ。
 フォアグラは独特の酸味により脂が中和され、シフォンケーキの食感でサンドイッチみたいな面白さ、鰹の料理は特有の血味に水晶文旦の酸味と林檎の甘味と合わさり、オリジナリティが溢れる。
 そして「まず食べてくださいとシェフが申しております」と、宮垣支配人が告げた鹿肉料理、これが凄かった、蝦夷鹿猟の名人が撃ったものだそうで、この鹿は「自分が死んだ事に気付いていない」(笑)、そして火入れが絶妙で、まるでJ・ロブションの往年の名品「仔羊のパストラル」みたいな外観、後で川手料理長に「バキューム(真空調理)ですか?」と思わず訊いてしまったが、通常のオーブンでのキュイッソンだそうだ、過去国内外で体験した鹿肉料理の中でも最上位に置きたいものだ、そしてガルニに選んだ小豆との相性が絶妙。
 デセールもカマンベールを解体・再構築したものに蜂蜜のアイスを合わせたもの、これも「今年印象に残ったデザート」の筆頭になりそうだ(笑)。

 料理全体の印象は「実りの秋」、そして以前に比べると余計な飾りやガルニがなくなり、主役が明確で中心がハッキリしてきた気がする。別の料理人と話していた時に、「若い料理人ほど皿上に余計な物を乗せたがる」と私が言ったら、その料理人は「何かを足さないと、どうしても不安になるのです」との答えだった、「何も足さない、何も引かない」の境地に行くには経験と時間、そして何より自分の料理に対する自信が必要だ、この日の川手料理には迷いが全く感じられなかった。
 サービススタッフは少しずつ変わっているが、宮垣支配人になってからは全体的に緊張感が和らぎ、フォーマルな中にもカジュアルな柔らかさが増した様に感じる、そして夜は男女カップル中心で客層がいい、騒がしい席は一つもなく皆本当に料理好きな人達が集まっている。

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 最後に店外でこれからの「フロリレージュ」について語る川手料理長の表情に一点の曇りもなく、周りは暗くなっても輝きに溢れている様に感じた、これは例えれば、モーツァルトの比類なき才能に嫉妬するサリエリみたいな心境だろうか(笑)。
 そして帰り道はモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」中のケルビーノのアリア、「恋とはどんなものかしら」のメロディーを何故か口ずさんでしまった(笑)。

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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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