最後の晩餐にはまだ早い


赤坂「古屋オーガストロノム」(2016年4月)

 赤坂のフランス料理「古屋オーガストロノーム」の古屋賢介料理長は、ベルギー南東部、フランスとの国境に近い街パリウ‘Paliseul’にあったレストラン‘Au gastronome’で働いていた事から、店と料理長への敬意を込めて自店の名前にしている。
 古屋氏は当時ミシュランで二つ星評価をされていたこの店で1年間働いた後、一旦日本へ帰国するが、総料理長に懇願されて呼び戻され、約2年間実質的な料理長として勤め上げた。
 今年一月の初訪問時に彼の料理を体験して、この経歴は決して誇張ではないと思った。研修生として短期間働いて来たのではなく、店の重要な戦力だった事は、料理を食べればある程度は判る、ましてや料理長ともなれば、料理の全てに注意力と細心さが求められる、前菜、魚、肉料理、デセール、更にはパンまで焼くが、どれも平均点以上の高いレベルを維持し、体操競技なら種目別ではなく個人総合を戦えないと通用しない、「今日はパティシェが急病なので、デセールは業務用のアイスを使う」では、少なくとも星付き店の料理長は失格だ。

 この日、関西の食仲間が東京に来るのに合わせ、食事をする店の候補を考えた時に、真っ先に頭に浮かんだのはこの店だった。既に定評のある東京の名店より、まだ知名度は低いが、私自身が行って惹かれた店を、他のフランス料理経験値の高い人がどう評価するのかは、一番興味を持つ処だ(笑)。
 さらに友人夫妻も誘って、合計4人のうるさい食通?が赤坂に集まった。サービス担当の秋葉氏と、新規参入した石橋氏に挨拶し始まったディネ、古屋料理長が前夜寝ず?に考えたと聞く(笑)当日の料理は以下のとおり、

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・新玉葱のポタージュ、ホタルイカと春菊

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・自家製パン

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・ロワール産ホワイトアスパラガスのポッシェと帆立貝のクリュ

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・ブルガリア産フォワグラのポワレ、「関山桜」エキスのソース「春の装い」

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・松坂産地卵を66度40分で"温度卵"に、現代版ウッフ・ア・ラムーレット、フランス産黒トリュフ添え

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・宮城産スズキとイタリア産緑アスパラガス、ピエドムートン(茸)、マスタード風味のソース

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・イタリア産仔うさぎ 三種のプレパラション
背肉のロティ、アプリコットソース、ベルギービール「レフ」煮込みカルボナード、 レバーのソテー、エシャロットとシェリービネガーのソース

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・桜風味の苺パンナコッタ

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・ココナッツミルクのグラス、黄人参のピュレ、カカオ70%のチョコレートソース、チュイール
・エスプレッソ

 アミューズに前回同様ポタージュを出すのは、最近他店であまり見ないが、個人的には好みだ、新玉葱の香りが生きていた。季節の白アスパラと良質な帆立貝は見事なマッチで、これなら生ハムは要らなかったかも知れない。
 フランス産が禁輸なため、代替使用したブルガリア産フォアグラの質の良さに驚く、甘酢味と合わせるのは定番だが、桜エキスが面白いアクセントになっていた。
 ウッフ・ア・ラムーレットは前回も印象に残ったもので、元は家庭料理だそうだが、赤ワインを多く使いトリュフが加わると、豪華さが増すと共に旨味が凝縮する、伝統的なやり方だが、結局これが一番美味しい卵料理ではないかと思う。
 鱸は低温調理ではなくしっかり火を通し、濃い目のソースを使う、こうした手法も最近東京で見なくなった。
 仔兎の料理は、デル=ビュルゴ時代のPARIS「タイユヴァン」の「ラパンのデクリネゾン」を思い出した、これもしっかりと火を入れ、三種類のソースを使う事によって、繊細な仔兎の肉質が生きている。
 デセールがいいのも前述のとおりに古屋氏の特徴、黄人参とショコラソースの意外な相性は面白かった。
 厨房は現在古屋氏だけなので、当然ながら全て一人で作る、それでいて仔兎料理の三種ソースみたいに決して手を抜かない、この辺りに欧州の最前線で料理長をやっていた料理人の矜持みたいなものを感じた。
 私自身が理想とするのは、1990年代のフランスのフランス料理なのだが、どうやらそれは本国では絶滅寸前で、主流はベルギーへ渡ってから日本へやって来た、そんな印象も持った(笑)。

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 ‘Au gastronome’の総料理長だったミシェル・リポットのメッセージ

 サービス担当の秋葉氏の話は前回以上に濃く面白い、東京のフランス料理40年史を30分で聞きたかったらこの人をおいて他にない(笑)。当夜はレアな昔話に加え、門外不出?の貴重な資料も見せてもらい、集まったベテラングルメ達も思わず絶句した(笑)。 開店以来ディレクトールとして支えて来た秋葉氏だが、残念な事に4月以降は非常勤職の待遇になり、毎日は店に出なくなるそうだ、後任の石橋氏に期待すると共に、私が行く時には前もって知らせるので、秋葉さん出来るだけ来て下さいと、勝手なお願いをしておいた(笑)。
 現在の東京フレンチでは、モダンスパニッシュやモダンノルディックに感化された料理が増えているが、それだけではない伝統的なフランス料理は美味しいのだと云う事を、あらためて教えてくれる店、私が年齢を重ねたのもあるが、結局最後はこうした料理に還って来たいと思う(笑)。
 濃くて楽しい夜を提供してくれた、古屋料理長、秋葉・石橋両氏に感謝。

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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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