最後の晩餐にはまだ早い


野地秩嘉著「イベリコ豚を買いに」

 食レポは1回休みにして、最近読んでとても面白かった本を紹介したいと思う。
鮮やかな赤と黒の装丁が印象的な「イベリコ豚を買いに」で、小学館から2014年4月に刊行された。著者は野地秩嘉氏で、過去「キャンティ物語」「食の達人たち」等、飲食関連の興味深いノンフィクションを書いている。

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 書名のとおり、この本の主役はイベリコ豚だ、原産地のスペインでは‘Cerdo Ibérico’と呼ぶ、Ibéricoとはイベリア半島の事。最高品質の養豚で値段も飛び抜けて高い、特に腿部分を塩漬け乾燥した生ハムは「ハモン・イベリコ‘Jamón Ibérico’」と呼ばれ、スペインのレストランやバルでは別格の値段が付いている。
 またハム以外の精肉もレストランで好まれ使われている、以前より輸入量が増えたみたいで、今年になって都内のレストラン数店で食べる機会があった、ロース部分をローストした料理や「とんかつ」もあった。日本産の豚肉に比べると味が濃く、脂身の旨さに特徴がある。
 でもこれだけ出回ると、以前から思っていた疑問がまた沸いてきた、それは「イベリコ豚の個体数はそんなに沢山居るの?」だった。三元豚みたいに人為的に作られた養豚なら生産数も多いが、もし純血種を保っているなら、日本を始め世界中のレストランへ供給出来る程の頭数が実際に存在するのか、そもそも「イベリコ豚」とは一体何を指してそう呼ぶのか?こんな思いを抱えている時に出会ったのがこの本だった。

 著者は偶然イベリコ豚肉を使ったメンチカツを食べた事から、この豚に興味を抱く、そしてジャーナリストの習性から、本物のイベリコ豚を見たいとの思いに動かされて、スペインへ行こうとアポイントメントを確保するのだが、ここで問題が発生する、2010年宮崎県で発生した口蹄疫によるものだ、日本からの見学はキャンセルとなってしまう。それでも著者はあきらめず解決法を思い付く、それは「見るのが無理なら、買うならOKではないか?」と、無謀にもイベリコ豚そのものを購入する事を思い付く(笑)。

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 そしてイベリコ豚について学ぶのだが、この部分を読んでいて長年の疑問が氷解した(笑)、過去イベリコ豚については「ドングリだけを食べさせて飼育した、スペイン固有の黒豚」だと思い込んでいた、たしか開高健の著書にもそうあったと思う、これは正しくないとは云えないが、正解にするのはあまりに乱暴な定義だった(笑)。
 過去には生産詐称的な事例も多く、信用を失った時期もあり、現在は現地の生産者協会によって、以下の通りイベリコ豚の定義が決められている。
・母が純イベリコ種の豚に限られる。
・種豚(父)は純イベリコ種またはデュロック種に限られる。
・母がイベリコ種で父がデュロック種の交配豚(イベリコ種50%)はイベリコ豚と呼べるが、このイベリコ50とイベリコ種以外の豚との交配豚(イベリコ種25%)はイベリコ豚とは呼べない。
 つまり父母共に純イベリコ種である純血種及び交配一代限りの種を総称して、「イベリコ豚」と表記出来る事になる。
 次に、同じイベリコ豚でも飼育の方法によって呼び方が変わって来る、
・ベジョータ
 屠畜時の月齢は14ヶ月以上、出荷前に放牧地でドングリまたは自生植物で穀物飼料を与えずに60日以上放牧肥育するが、純イベリコ種とそれ以外では表示を変えて出荷する。各養豚場の中で血統も生育状態も良いペジョータになる豚を選別する、エリート豚であり言わばイベリコキャリア組だ(笑)。
・セボ・デ・カンポ
 ベジョータ同様の方法で放牧肥育したものだが、穀物飼料も与える、屠畜時の月齢は12ヶ月以上。
・セボ
 穀物飼料だけで肥育されたもの、屠畜時月齢は10ヶ月以上。

 精肉として市場に出回るのは殆どがセボ(スペイン語で「補充」の意味)だ、またペジョータに食べさせるドングリも、日本で一般的な椎の実ではなく、現地では樫の木の実、実が成っているのは11~4月なので「ドングリだけを食べさせ飼育した、スペイン固有の黒豚」と云う表現では、あまりにアバウト過ぎるのだ(笑)。「黒毛和牛」にもランクがある様に、イベリコ豚にも階級が存在する、また同じペジョータでも生産者や、同じ飼育場中でも母親豚の違いによって品質が違って来る。

 著者は口蹄疫騒動が納まった後、スペインの生産地に何度も足を運び、遂に純血種のベジョータを購入する、そしてこれを使ってある商品を製作して販売する事になるのだが、詳しくは本書を読んでいただきたいと思う(笑)、でも思わせぶりもいけないので、参考画像を一枚だけ載せておく。

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 イベリコ豚を扱う飲食店、そしてイベリコ豚を食べる客側も是非読んで欲しい本、今年読んだ食関係の本では、ベテラン有名シェフの自慢話より断然に面白かった。
(イベリコ豚の画像は書中から、最後の画像はネット上から引用しました。)

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Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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