最後の晩餐にはまだ早い


三田「コートドール」

 この日は若い食べ歩き仲間が東京にやって来たため、連れだって三田のフランス料理の老舗「コートドール」でランチを一緒にする事になった、約一年ぶりの訪問。
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 コートドールは1986年の開業なので今年26年目を迎える、私が初訪問したのは1992年の丁度この季節だった、その時食べた料理を今でも鮮明に覚えている、前菜に「赤ピーマンのムース」、「オマールのテリーヌ」(当時「ダニエル風」とは名乗っていなかったと思う)、主菜は「牛の尻尾の赤ワイン煮」、その料理は頭を金槌で殴られた様な衝撃だった、そしてこれらは20年経った今のカルトにも載っている、考えてみれば凄い事だ。
 この20年の間に現れて消えて行った店は数多い、この店が何故生き残れたのか、そして今でも東京を代表する名店として輝いていられる理由は何なのか、これからレストランを開業しようとする人は、ジャンルを問わず訪れてみて是非自分の眼でこの店を見て欲しいと思う、感じ方は人それぞれだろうが必ずや何かが見つかる筈だ。
 この日は通常のランチメニューに旬の白アスパラガスを加えてもらった、

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・アミューズ(赤ピーマンのムース)*久しぶりに食べたがやはり名品。

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・茹で上げホワイトアスパラガス、ドレッシングソース(カルトの2分の1皿)

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・ムギイカのソテー、クミン風味のキャベツ添え

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・仔鴨のロースト、ワイルドライスと新玉葱

・小田原蜜柑のソルベ

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・ルバーブのスフレ

・ミニャルディーズ&エスプレッソ

 20年前のコートドールの料理は、食べる人間の首根っこを摑まえ「どうだ、旨いだろう」と耳元で怒鳴られる様な料理だった、当時斉須料理長は40代初め、気力体力が充実し、今なら「オテル・ド・ヨシノ」の手島料理長の料理みたいに、初球から最後まで150km超のストレート勝負を仕掛けていた、それが歳月の経過と共に余計な力が抜け、今は130km台の勝負球で打者を打ち取るスタイルに変わったと思う。

 今日の料理で言えば、前菜に出た「ムギイカのソテー、クミン風味のキャベツ添え」は現在の境地を表現するものだ、小ぶりのムギイカを短時間炒めて、はらわたを使ったサラっとしたソースで和える、薄切りしたキャベツはクミンを使ったカレー風味で、全体の印象は簡単に云うと「お惣菜」(笑)、食材単価は決して高くない筈で居酒屋のメニューにあっても不思議ではない、それを絶妙な火の通し方と味付けで高級店のフランス料理に格上げしている。
 ムギイカの料理は以前にも此処で体験していて、その時も大変美味だったので、後で料理長に「どうやって火入れしたのですか?」と思わず訊いてしまった、その時の答えが「何も特別な事はしていません、普通に炒めただけです」だった(笑)。この「普通」に辿り着くまでに20年かかったと言いたかったのだろう、普通の人が普通の食材を普通に調理してもこの味にはならないと断じて言える。
 その他の定番料理にしても、それ程調理には時間を掛けていない筈なのに何故か美味しい、もうこうなると「コートドールマジック」としか言いようがない、食材が一番美味しくなる瞬間、調理、休ませる時間などを知り抜いているから出来るものなのだろう。

 明るく居心地の良い客席で繰り広げられるのは、客とサービス陣が繰り広げる優雅な舞踏会、その中心は日本を代表するメートルの松下氏。この店の椅子に座っていると心身がリラックスしてきて「放下(ほうか、ほうげ)」という言葉を思い出す、全ての執着を捨て去った境地の事で、中世には放下僧という路上で説法をする僧がいたそうだ、斉須料理長はその風貌からその生まれ変わりなのかも知れないと思ってしまった(笑)。最後は皆で記念撮影をしようという話になり店の扉前に集合する事に、斉須料理長まで積極的に加わってくれたのは嬉しかった。

 この店に通って20年、同世代料理人の引退の話も聞く様になり、もうこの先は長くないのかも知れないが、此処を知って長く通えたのは人生の幸福な出会いだったと思いたい。
 素敵な仲間と素敵な店で素敵な午後が過ごせました、この店を利用するならやはり一人ではない方がいいです(笑)。


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  2. フランス料理
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  4. / comment:2

  1. [ 編集 ]
  2. 2012/05/31(木) 20:54:12 |
  3. URL |
  4. フリッカー
あの居心地の良い空間は又行きたくなりますね(^_-)≡★
次行くときあれば赤ビーマンのムースがあるのを願うだけです♪

  1. [ 編集 ]
  2. 2012/05/31(木) 22:43:37 |
  3. URL |
  4. トシ・オンクレ
フリッカーさん
「赤ピーマン」は大体5月頃から秋ぐらいまではある
みたいですが、前回は残念ながら運が悪かったみたい
ですね。次回リベンジを果たしましょう(笑)。

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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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