最後の晩餐にはまだ早い


田丸公美子著「目からハム」(文春文庫)

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 今話題になっている言葉に、「職場で(席が)隣の人に、メールを送るのは駄目人間」と云うのがあるらしい(笑)、これは私も実際に職場で経験している、もちろん来た以上は失礼と思い返事も出したが、何か釈然とせず不思議に思っていた。更にはスポーツの試合後インタビューを聴いていると、欧米人選手に比べ日本人選手は自分の考えを表明するのが下手だ、勝った時は「気持ち良かった」とか「楽しかった」、敗れた場合は「口惜しいです」で終わってしまう(笑)、だいぶ前にTVで見たのだが、ドイツのサッカー選手がW杯で敗れた試合を振り返ったインタビューは立派だった、試合展開を分析し自分達に足りなかったものは何か、冷静に答えていた場面は印象に残っている。
 どうやら日本人は「自分の考えを言葉で表す事」が大の苦手だ、その理由については、この田丸公美子さんの「目からハム」(文春文庫)を読み長年の疑問が氷解した、日本人は平安の昔から感情を文章で表す事は得意だが、言語として相手に伝える事は苦手だったのだ、「黙って俺について来い」で指導者になれてしまう(笑)。

 この本は面白い、著書はイタリア語通訳として40年近いキャリアを誇ると共に、エッセイストとしても活躍、第一作の「パーネアモーレ」は著者お得意の下ネタが満載の抱腹絶倒の奇書だった、なお著者のニックネームは「シモネッタ」だ(笑)。今回は残念ながら?下ネタ度は低くなり、著者の専門分野である通訳と言語、そして国際理解について語っている、随所に参考にすべき金言がある、その一つとして、或るイタリア人デザイナーの講演時の発言、
「デザインとは単にモノのフォルムを考える行為でも、一朝一夕に思いつくものでもない。まず、自分自身の内面や感性を豊かにする体験や地道な研究を日々重ねることが大切だ。異文化の美術展や音楽会にも足を運び、哲学や美学の勉強もする。薄っぺらな知識と内面からは、決していいデザインは生れない。」
 これなど「デザイン」を「料理」に、「モノのフォルム」を「食材の組合せ」に変えれば、そのまま料理人にも当てはまりそうだ(笑)。

 更には、著者自身の言葉で。
「私の経験で言っても、二十代の記憶力は抜群で、大量かつ難解な専門用語も直前に一度見るだけで、そのまま脳にヴィジュアル・インプットができていた。が、いかんせん若いだけに、背景となる社会知識と現場経験に乏しい。今、五十代、常識や知識の量は多くなったものの、新しい単語が、もどかしいくらい覚えられなくなった。しかも、すぐに忘れる。 (中略)つまり、十分な経験を積み理解力が増したころには、記憶力や瞬発力が衰え始めるのである。世の中は、ほんとうに皮肉にできている。」
 これも料理人も含めて、あらゆる分野の「仕事人」に言える筈だ(笑)。
 文字で覚えただけの知識でなく、「異文化との遭遇」の現場に日々立ち会った人だけに、直感と観察力の冴えは素晴らしい、言語は無理としても気持ちだけは「国際化したい」と思う人間には一読をお薦めしたい(笑)。

 なお書名の「目からハム」は、日本の「目からウロコ」と同じ意味で、イタリアには本当にこうした言葉があるそうだ(笑)。
(文春文庫 ISBN 978-4-16-780158-8)

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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
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