最後の晩餐にはまだ早い


大阪・高麗橋「桜花」(2020関西食べ続け-5)

 身体も顔もパンパンに膨れ、和歌山から戻った関西三日目、ホテルに帰ってそのまま眠りに就きたかったが、食べ続けの苦行はそう甘くない、まだ夜の部がある(笑)。暗くなってから重い身体に鞭打ち、地下鉄で向かったのは「高麗橋 桜花」、2014年から毎年続けて訪れ、これが7回目になる和食店だ。
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 地下鉄淀屋橋駅から阪神高速道路の高架へ向かって歩き、手前の信号で右に曲がればすぐ店がある、通りから少し奥まっていて、店前には植栽や喫煙対応?のベンチが置いてあり、店へのいいアプローチになっている。「高麗橋」の地名由来は、朝鮮半島から来た特使を迎える「難波高麗館」が在ったと云う説と、豊臣秀吉統治時代に朝鮮特使のため橋を架けたからの二つが通説になっている。今みたいに高い建物がなかった当時、此の場所から眺める大坂城は、さぞや豪壮華麗に見えただろうと想像する。同地には湯木貞一が「吉兆」の本店を設けた事でも知られている。
 此の夜も遅いスタートにしてもらったので、店に着いたのは19時過ぎ、森田夫妻に挨拶し、調理場前のカウンター席に座る、奥のテーブル席では既に会食が始まっていた。約束していた友人も来て始まった、如月二月の料理は以下のとおり。

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・箕面黒ビール

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・「立春大吉」(八寸):のれそれ(穴子稚魚)、烏賊塩辛、ホタルイカ、稚鮎、蓮根稲荷寿司

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・造り:マハタ、真鯛、辛子醤油

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・浪花好みの煌びやかな塗椀

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・椀物:帆立真薯、そら豆、ウルイ

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・煮物:穴子、田辺大根、千住葱、富田林海老芋

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・焼物:紅ずわいがに、温泉卵

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・強肴:河内鴨、白菜、舞茸、鍋仕立

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・友人が選んだ日本酒二種

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・御飯:白魚御飯、浅利汁、香の物

 此の店へ来るのが毎年2月なので、いつも「立春大吉」だが(笑)、ただ「八寸」としないのは店主の文学的素養か、中では奔りの稚鮎と優しい味わいの稲荷寿司が印象に残った。
 関西ならではの白身造りの旨さの後には、和食の華である椀物、こちらの体調もあるが、いつもより僅かだが旨味と塩分は抑え気味に感じた。次の料理とのバランスを取ったのかも知れない。
 煮物鉢は今回特に印象深かった料理、見た目は地味な惣菜風で、おでんみたいな香りも感じる、森田氏は以前殆ど大阪食材だけを使っていたが、私の地元である東京の千住葱を加えるなど、心境にやや変化があったようだ(笑)、家庭料理的だが、味わうとやはり家庭では出せない深い味、また食べたいと思う一品だった。
 通常なら高価な献立になってしまう紅ずわいがにだが、たまたま買い得品が入ったらしく、此処で出るのは運がよかった、温泉卵を合わせたのが面白い。
 鴨鍋は大阪特産の河内鴨を使い、濃い目の味付けで締めの料理にふさわしいもの、バーミキュラで炊いた上質な御飯も後を引く美味しさだった。
 今回最後に甘味がなく、その理由についてあとで森田氏に確認したら、「特に希望する方以外には(甘味は)提供しなくなりました。その労力と原価を(料理に)集中したい」「色々な意見があるのですが、炭水化物のあとに豪華なデザートが不要というのが私の考え」との事で、甘味好きの私ではあるが、一つの見識として尊重したい。

 料理全体的には、此の店を始めて訪れた頃の「料理屋的な料理」から、「旨いもの屋の料理」に変化して来た印象を受けた。それで連想したのが、北大路魯山人が残した『料理芝居』と題した一文、少し長いが一部を引用する。
 『良寛は「好まぬものが三つある」とて、歌詠みの歌と書家の書と料理屋の料理とを挙げている。まったくその通りであって、その通りその通りと、なんべんでも声を大にしたい。料理人の料理や、書家の書や、画家の絵というものに、大したもののないことは、われわれの日ごろ切実に感じているところである。(中略)
 家庭料理は、いわば本当の料理の真心であって、料理屋の料理はこれを美化し、形式化したもので虚飾で騙しているからだ。譬えていうならば、家庭料理は料理というものにおける真実の人生であり、料理屋の料理は見かけだけの芝居だということである。』
 おそらく昭和戦後の文章だと思うが、なかなか正鵠を射ている。「料理屋の料理」が全て駄目だと云っているのではなく、「形式化した虚飾で騙している」のがいけないと指摘している、これ令和になった現代でも、和食に限らず全てのジャンルの料理にも当て嵌まる気がする、「インスタ映え」などと云う言葉の意味を知ったら、きっと魯山人は怒髪天を衝き罵倒しそうだ(笑)。
 十年変わらぬ料理を提供していたら客に飽きられる、その店に飽きた客は蜜蜂みたいに違う店へ行ってしまう、料理屋は常連には彼等が思う「いつもの味」を提供しながらも、其処から進化して行かないと続かない。「桜花」は料理屋の料理から、家庭料理とはまた違う「旨いもの屋の料理」へと、脱却している途中なのかも知れないと思った。

 森田夫妻に見送られて夜の街へ、この界隈は近隣で働くサラリーマン男女でいつも賑わうが、悪病流行の影響だろう普段より静かな雰囲気で、フランス料理とはまた違う和食の余韻には、かえってこの静かさが似合うと思った。
 森田さん、女将さん、遅く迄ありがとうございました、苦しいお腹を忘れるような、楽しく心温まる夜になりました(笑)。


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オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
人はそれぞれに「見方、感じ方、考え方」が違います。私が美味と思ってもそう思わない人が居て当然です、味覚とはそれだけ不安定で不完全なもの、あくまでも筆者個人の嗜好による感じ方である事を承知の上で読まれてください。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに赤坂、麻布十番等。
混雑電車が苦手で加齢による朝型人間化のため、ランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
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