最後の晩餐にはまだ早い


高原敏作「備前丸壷」

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 食レポが続いたので、今回は口直しの意味も込めて(笑)、「焼物」の話をする事にしたい。画像は先日ネットオークションで落札した、備前の物故作家高原敏作の壺で、高さ17cm、直径20cmの丸型、丁度茶室の床等に花を飾るのに適当な大きさの物だ。

 備前焼はご存知の方も多いと思うが、岡山県備前市で焼かれる炻器(せっき:陶器と磁器の中間的性質を持つ焼き物)の総称で、遠く平安時代からからの歴史を持った、「六古窯」と呼ばれる日本古来より続く陶磁器産地の一つで、特徴は釉薬を使わずに焼成、窯の中で火の力によって生じる「窯変(ようへん)」と呼ぶ独特の模様が個々に違う事。桃山時代には茶の発展と共に茶陶として人気になったが、江戸時代以降は茶道の衰退と有田等による磁器生産が増加した事により人気が衰える。昭和になってから後に人間国宝となる金重陶陽らが桃山陶への回帰を目指し、芸術性を高めた器を製作、北大路魯山人等も高く評価した事から復興に繋がった。
 焼物好きは、最初は染付磁器あたりから収集が始まり、最後はこうした無文様、無釉薬の焼締陶器や白磁・青磁に行き着くと言われている、絵画で言えば具象絵画から抽象絵画の世界へ行く様な感じだ。

 この壺の作者、高原敏は昭和9年(1934)生れ、備前で最も歴史が古く金重陶陽を輩出した金重利陶苑で修行し、個人作家として独立後は陶歴を重ね受賞歴多数、息子の高原卓史も備前焼作家として活躍中だ、惜しくも昨年78歳で逝去してしまった。作風は男性的で豪快な作家が多い備前の中では、比較的優しく女性的な印象がする。実はこれが驚くほどに安く入手出来てしまった、ここに書くのを遠慮したくなる程の金額だった。

 長期デフレが蔓延するこの国だが、衣料品や食品、外食などの値段が安い事に目が行きがちだが、ここ20年で一番値段が下がったと感じるのが、骨董・中古品の書画や陶磁器類、TVのお宝鑑定番組では相変わらず馬鹿みたいな高額の鑑定が行われているが、現実はもっとシビアな世界で、値崩れ的に価格が下落している。特にネットオークションが頻繁になったここ10年は、以前なら数万円のレベルだった李朝や中国の陶磁器などは、物によっては数千円などという値段で取引されている、長引く不況で皆「買う」より「売る」になってしまった結果の様だ。
 日本の焼物でも値段がそれなりに付いているのは「人間国宝」の作家位で、他は惨憺たるものだ、骨董業の人に聞いたのだが、今は特に「お茶」を嗜む人が激減し、茶碗等の茶道具が売れず、売却に持ち込まれるのもこれらの品物が多いそうだ。

 コレクターとしては、昔ならとても買えなかった物が安価になるのは嬉しい事なのだが、器作家や流通業者はそれを売る事によって生計が成り立つ世界だ、考えたら喜んでばかりもいられない。料理も同じだが、作り手が精魂込め作ったものが適正な価格では売られないとなると、これは「文化」とは言えないし後継者も育たない。
 総理大臣や日銀総裁が変わってもデフレが続くのがこの国が抱える一番の問題、早急な対策をしないといけないと思う。


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藤ノ木土平「斑唐津湯呑」

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 住んでいる区役所の納税課から封書が来たので、「何事か」と恐る恐る封を開けたら、「住民税を納め過ぎていた事が判明したため、相当分を還付します」との通知で、ランチ1回分位の金額が返ってくる事になった、これは嬉しいと思ったが消費するだけでは勿体なく、何か後に残る物を買いたいと思ってネットオークションを見る事に、結局は一番興味がある「陶磁器」に辿り着き色々探していたら、私の好きな作家である、唐津の藤ノ木土平氏の「湯呑」が出品されていて、出品価格が還付される額と大体同じだった事もあり、「これだ」と思い入札したら競合相手も現れず運良く落札出来た、数日後送られて来たのが画像の「斑唐津湯呑」だ。

 作者の藤ノ木土平は1949年新潟県生れ、最初は画家志望だったが、その後陶器の製作を開始、唐津焼、美濃焼の技術を学び、1981年から佐賀県唐津市に登り窯を築き独立、以降は桃山時代の唐津焼の再現を目指して作品を作り続けている。
 唐津焼とは安土・桃山時代に現在の佐賀県及び長崎県の一部で生産が始まった陶器の総称で、朝鮮から渡って来た陶工達により技術が伝わったとされている。初期の桃山時代に作られた物は「古唐津(こがらつ)」と呼ばれ、その希少性から骨董マニア垂涎のアイテムになっていて高額で取引されている。特徴は荒い陶土による豪快な造形で、萩焼などと比べると男性的な印象が強い。
 藤ノ木氏は自身のWEBページでも語っているが、この古唐津時代の作品を現代に甦らせる事を目指している。
http://doheigama.hananusubito.net/

 ただ、古作と寸部違わぬ物を作ってもそれは「模倣」でしかない、彼の作品には更にそれを超えようとする「新しさ」も感じられる。

 この湯呑で使われている「斑唐津(まだらからつ)」とは、唐津焼の技法の一種で、釉薬に藁灰を使って焼成し、その途中粘土中の鉄分が溶け出し表面に黒や青の班点が現れた物を呼ぶ、古くから抹茶椀などに使われていた。
 この湯呑は釉薬の下は唐津独特のザラっとした肌触りの土で、底を持ちあげる高台も無く、全体的には小振りな作りもあって、湯呑と云うより大き目の「ぐい呑み」の様な趣がある。見かけは荒々しい豪快さがありながら、持ち上げるとしっとりと掌に馴染む柔らかさも感じる、熱い茶を入れると温かみがじんわりと伝わって来る。昔から「一楽、二萩、三唐津」と、理想の国産抹茶椀三選に茶人達から選ばれ使われていたが、その理由も頷ける、荒い多孔質の粘土と厚い釉薬が生んだ「奇跡の焼物」と言えそうだ。

 これは飾って眺めてもいいが、やはり毎日の食卓で使いたい物だ、一番似合うのは熱い焙じ茶だろうか、ブラックコーヒーもいいかも知れない、「日常の贅沢」に、こういう本物をさりげなく使える大人でありたいものだ(笑)。 


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竹下鹿丸「焼締片口鉢」

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 竹下鹿丸氏は、1977年に陶芸の町栃木県益子に生れた若手陶芸家だ、実父も現役の陶芸家で、栃木県立窯業指導所を卒業後プロの世界に進む。2000年に中世日本では一般的だった「穴窯」を築き、「焼き締め」と呼ばれる釉薬を使わない器の製作を始める、2002年25歳の時には益子陶芸展で審査員特別賞を受賞、以降は地元栃木や東京のギャラリーで個展を開催し、一部の陶芸好きには注目されていた。
 去年の東日本大震災時の激しい揺れで使い続けていた穴窯が壊れてしまった、益子では他の作家(工房)の窯も被害を被ったが、彼はいち早く再建に取り組み、今回は耐震性を考慮した窯を築き上げたそうだ。

 器を焼く窯の熱源は昔から薪だったが、現在は資源の枯渇や周囲への影響(煙・匂い)等で、ガスや電気が主流になっている、それでも薪窯に拘る少数派の作家がいるのは、どうしてもこれでないと出せない「味」があるからだ、一言で云うと「作為の無い非均質性の表現」だろうか。

 画像は数年前に六本木の陶芸店「サボア・ヴィーブル」での個展時に購入した片口鉢、歪んでいるが作為的な嫌らしさが無い、緋色の入り方がいい景色になっている。そして一番大事な点だが見た目より軽いのだ、片口と云えば本来は水や酒を注ぐための物、デザイン優先で重くなった物は「用の美」とは云えない筈だ。この個展の時に居た作者と少し話をしたが、芸術家というより本当に肩の力の抜けた好青年という印象だった。
 今は好きなのは陶器(焼き締め)ではこの人と、北海道の工藤和彦か、今後の更なる活躍に期待したい作家だ。ただ陶芸家の宿命?として、いい作品を作り名前が知られて来ると、若い時と同じ材料・技法を使っていても値段が高くなってしまう、これは本人の責によらないものだが、それを考えると買うなら今のうちかも知れない(笑)。



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白山陶器の急須

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 私はつい最近まで典型的な「欧州かぶれ」だった、赤塚不二夫の漫画「おそ松くん」の登場人物であるイヤミ氏のように、何かにつけ「フランス」を引き合いに出し、欧州の文化や風習がいかに優れていて、それに比べ日本は制度も文化も製品も遅れて劣っている、こんな事をいつも言っていた。
 「本物のフランス料理はフランスへ行かないと味わえない」とか、「コートはバーバリー、それも日本でライセンス発売された物は駄目、英国製でなければ」などと言っては周りの顰蹙を買っていたと思う。
 
 それが変わったのはここ4、5年だろうか、一番大きかったのは料理の世界で、何人かの料理人と親しくなり、フランス料理の本場フランスで、日本人料理人がいかに中心に近い存在で活躍しているかを聞き、3年前に実際にフランスを回ってみて、それが事実なのを知ってからだと思う。更には日本にやって来る中国人観光客達が、こぞって日本製品を買い占めて帰る姿も見る様になり、いままで気付かなかった日本製品の良さ、日本人の勤勉、真面目さは世界に誇っていいものではないかと考える様になった、一時関わっていた現代アートの世界でも、日本人アーチストが何人も世界で評価されている事も知ったのも大きい。そして昨年の東日本大震災を体験した後、自分の残り人生は出来るだけ国内でお金を消費し、日本の物を使う様にしたいと考えを改める様になった、別に「国粋主義者」になった訳ではないが、見るスタンスを変えるとこの国で作られる物は、優れた物が数多くある事に気付く。

 前置きが長くなったが、紹介したかったのは先日ネットショッピングで入手した白山陶器の急須、長く使っていた急須が傷だらけになってしまったため、近くのホームセンターで見たが気に入ったのがなく、アマゾンで探して見つけた物。
 白山陶器は江戸時代から400年の長きに渡り磁器生産が続く「波佐見焼」の地、長崎県の波佐見町においてデザインから製造までを一貫して行う磁器メーカー、人件費の安いアジア地域で多量の「国産品」が生まれる現在、最初から最後まで国内で生産するだけでも貴重と言える。ここは「生活になじむ美しい器」をモットーに、デザイン性にも拘りながらも且つ高価過ぎないノーブルな食器を作り続けている。

 この急須、値段は送料込みで2,310円、名の売れた「作家物」に比べたらはるかに安価だが、使い易さと単純なフォルムの美しさは見事、茶を注ぎ易く液だれもしない。
 ある意味では柳宗悦の提唱した「民芸」運動を一番継承しているかも知れない、「用の美」が伝える精神がここにある。


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快山窯「青白磁浮彫文様皿」

 自分の人生の残り時間を考え、「もう器を買うのは止めよう」と思っていたが、たまにネットオークションサイトを開くと、つい「食器」のジャンルを見てしまう。

 特に東日本大震災後は骨董市場が暴落している、15年位前の「骨董ブーム」の頃は古伊万里など天井知らずに値段が上がっていたが、その後ブームの終焉と共に値下がりを続け、更に震災後は「物よりお金」になってしまったのか現在はかなり安い、ある意味では「買い時」なのだが、これは株と同じ値下がり時は手を出し難い。
 これから集めようという人には嬉しい傾向だが、この国の深刻なデフレを考えると喜んでばかりもいられない。
 
 今回、見つけたのが「快山窯」の青白磁浮彫文様皿5枚組、これは人間国宝(重要無形文化財の保持者)だった塚本快示(1912~1990)が開いた陶房で製作された物だ。有名な陶芸家になると、個人で製作するのは「数」が限られてしまい、大量注文には対応できない、そのため弟子筋が中心になって「工房物」を作る、これは北大路魯山人もやっていた事だが、こうした場合通常「作家物」と「工房物」として区別される、勿論値段もかなり違ってくる、ただ「工房物」と言っても作家は監修の責任があるし、いい加減な物は作れない、良い物はそれなりの値段がしている。
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 この青白磁皿5枚は、出品時の金額は一枚当たりの値段ではないかと思った位の安さ、競った入札者が一人いたのだが、結局私が落札出来た。
 暫くして届いたのが、予想以上に綺麗な状態で、外箱は少し傷んでいたが、皿自体は使用された形跡が無い、おそらくは結婚式などの「引出物」として入手したが、使用されないまま持主の死去などで骨董店に持込まれた物ではないだろうか。

 塚本快示は、「名品」が残された中国北宋時代の青白磁を模範としたと伝えられるが、その精神は十分伝わってくる。パン皿にでも使ってみたいと思い購入したが、この気品ある姿を見たら勿体無くて使えなくなった。
 ランチ一食分位の値段だったが、これは「掘り出し物」。



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プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
一般的に云う「グルメブログ」ではありません、店の点数評価等はしません。食の現場に集まる「人」を描きたいと思っています、もし読んで何か不快になる事があったとしたら、筆者の表現不足によるものでしょう。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

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