最後の晩餐にはまだ早い


ボキューズの想い出

 今回は店訪問レポではなく、さる1月20日に91歳で亡くなったポール・ボキューズ氏の事を書きたいと思う。
 ただ私は氏と直接会ったのは、店へ食事に行った1回きりで、それも挨拶だけで話をした訳ではなく、故人の事を語るのはもっと適当な人が居ると思う、あくまでも「私的な想い出」として読んで欲しい。また氏の経歴や業績もネット上で紹介しているサイトが幾つもあるので、ここでは繰り返さない。

 私がボキューズの名前を知ったのは、1975年から放映されていた料理番組「料理天国」だったと思う、その後別のTV局でもリヨン郊外のボキューズ本店の一日を取り上げていて、当時の日本のフランス料理店の堅苦しさとは随分と違う雰囲気に興味を覚え、「何時か行ってみたい」と思い続けていた、都内には提携店が出来たが、あまり興味を持たなかったのは、「まずは本物を知らないと何も語れない」との思い込みだったと思う。
 「人は願い続けていれば、何時かは叶うもの」らしいが、長年の願いが叶って遂にボキューズ本店に行けたのは、1999年夏の事だった。
 その時は銀塩カメラしか持っていなくて、今に残っているのはプリントした画像数枚だけ、まず外観というより壁、何故こんなもの撮ったのか不明(笑)。
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 元々この場所は、フランス革命前の1765年から続くホテル・レストランが起源、目の前のソーヌ川で捕れる川魚料理が名物だったそうだ。
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 訪問当時の店内の様子、メインダイニングは二重構造みたいな造りで、座ったのは窓際の席だった、真中の方は地元客中心で、日曜昼で大賑わいし、誕生日を祝う手回しオルガンのメロディが何卓かで聴こえた。
 その時頼んだのは、たしか780フランの昼夜共通のムニュで、記憶を辿ると、
・プティポワの冷製スープ
・スペシャリテ‘Soupe aux truffes noires V.G.E’
・エクルビスのグラタン
・ブレス鶏のクリーム煮込(元は「ジョルジュ・ブラン」のスペシャリテ?)
 以上だったと思う、肝心の味だが全体の量が多く、且つバターやクリームが日本のものとは違い濃厚で、エクルビスあたりでギプアップしそうになる(笑)。何とか鶏を食べ終わり、止せばいいのにフロマージュまで少し食べたら、完全に気持ち悪くなった。この後に運ばれたシャリオ3台分のデセールは見ただけで脂汗が出て、バニラアイスとフランボワーズのソルベだけお願いしたが、そのバニラアイスが天国的に美味だったのは覚えている。
 食事中マダムが各テーブルを回って挨拶していたので、「今日はボキューズ御大不在だ」と思っていたら、後になってご本人が「真打登場」と云う感じで現れた、出方も心得ている(笑)、その時に撮った筈の写真が見つからないのが残念。
 長く念願にしていたボキューズ初体験だが、圧倒的な存在感で打ちのめされた感じだ、タクシー乗るとリバースしそうなので、川沿いの道をトボトボとバス停まで歩いたのを、今でも覚えている(笑)。

 この強烈体験から十年後の2009年、今度はリヨン市内にあるボキューズグループ直営のブラッセリー「L’EST」を訪れる事に、リヨン市内東西南北にあるセカンドラインの一つ、此処は元々駅舎だった場所を改装したと聞く。
 予約もしないで昼に入店したが、この時頼んだのがプラ+デセール(19.6ユーロ)の簡易メニューで、
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・ジゴダニョー、ラタトゥイユ

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・ガルニのポムフリット

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・ヴァシュランフレーズ(赤ん坊の頭位に大きかった(笑))
 特にジゴダニョー(仔羊腿肉の塊焼き)とジャガイモが美味だった、この時のジゴダニョーが忘れられず、後に日本のレストランで特別注文してしまった程(笑)。
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 料理以上にスタッフ達のキビキビした動きが印象的で、「自分はP・Bグループで働いているのだ」みたいな、気概と矜持が伝わって来た。リヨンではもう基幹産業みたいなもので、働けるのはとても名誉な事なのだと思った。ボキューズ氏の偉大さと懐の深さみたいなものを、この時に理解した思いだった。「何時か本店もリベンジに行きたい」そう思いながらも、年月は過ぎてしまっていた。
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 2009年に撮った、リヨン歴史地区内にある「サン・ジャン聖堂(Primatiale Saint-Jean)」、今回ボキューズ氏の葬儀は此処で執り行なわれた。

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 70年以上に及ぶ料理人人生、本当にお疲れ様でした。あなたの作った帝国は無事に次世代に引き継がれて行く事でしょう、
‘Requiescat in Pace’。


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北千住「ラ クリア(LA CULIYA)」

 この日北千住に用事があり予定より早く終わったので、ランチを食べようとブログ記事にも書いた、11時半開店の「ブラッセリー・ロノマトペ」へ向かったのだが、店の扉に「本日は食材配達の遅れにより12時開店になります」との貼り紙が、何処かで待って居ようか、あるいは近くで新規店を開拓してみようかと迷った。
 とりあえずロノマトペの前にある東京芸術センターでトイレを借りて考えていたら、「たしか、この近くでフランス料理店がオープンした筈だ」と、スマホで調べてみると近い、営業日みたいで一応店まで行ってみる事に。

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 店の名前は「ラ クリア(LA CULIYA)」、場所は千住仲町で「ロノマトペ」から東武線踏切へ向かって2本目の道を右折してすぐの小さな商店街中にある、外観の雰囲気は悪くない、店前に出ている看板のランチメニューも960円~1,700円と手ごろだし、店名の後に書かれていた「French California Cuisine」にも興味を覚えて、好奇心から入ってみる事にした。

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 2017年8月のオープンだから店は新しいが、店内装飾はレトロ調の雰囲気を出している、思っていたより広い店内でテーブルが18席、厨房の奥には個室みたいな部屋も見える、カウンター席はなかった。2人席に座ってランチメニューを眺める、厨房には料理人の中年男性と奥様らしき女性、もう一人若い女性が居て、店内サービスを担当する。

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 その若い女性が説明してくれたが、「ステーキボウル」(税別1,100円)と「牛ザブトンのステーキ」(1,700円)が「当店のおすすめ」との事、初回なのでお勧めに従い、ステーキボウルに決め、追加でコーヒー(200円)とデザート盛合わせ2種(500円)をお願いした。料理とは関係ないが、この女性色白で肌が綺麗(笑)、佐々木希さん風(「似」ではないが)な美人で、料理人の娘さんではないと思うが、看板娘(表現が古い?)になれそう(笑)。

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 これは夜のメニュー、置いてあった店の案内には、
「弊店は、足立区生まれ・足立区育ち・足立学園卒業のシェフが、フレンチの名店で腕を磨いた後、ロサンゼルスへ渡米し十数年…フレンチとカリフォルニアキュイジーヌを融合し、独創的でありながらも、食べやすい料理をご提供しているお店です。皆様の台所となり、愛されるレストランを目指しております。」と、店のコンセプトが書かれていた。成程それがFrench Californiaを名乗っている理由だった。

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 やって来たのが「ビーフボウル」
 30cm径位の大皿に乗って来た、メニューの説明では「U.Sブラックアンガス牛ハラミ肉の丼 揚げ野菜を彩りに 仔牛のダシのガーリック醤油ソースをかけて」とある。
 別にサラダを頼もうかなと思ったが、揚げ野菜が結構豊富なのでこれで十分だった。
 まずはアンガスの切身を食べてみるが、赤身の肉は不健康な柔らかさではなく、適度な噛み応えあり、このままだと水分が不足しそうだが、醤油ベースのソースが絡んで適度なバランスになる。周りの野菜の扱いもいいし、肝心のご飯の質も良好、さすがはスペシャリテと云うだけある。
 個人的にスーパーで安いアンガスが売っていると買って焼く事あるが、此処まで手の込んだものは作れない、お金を取れるプロの料理だなと思う。

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 料理以上に感心したのがこのガトーショコラとクレームブリュレのデザート、2品で500円(税別)だ、ガトーショコラは好きなので、レストランやパティスリーで注文する事多いが、これは使っているクーベルチュールも含めかなり本格派だと思う、クレームブリュレも、今高騰を続け「黒いダイヤ」的存在のバニラビーンズをちゃんと使っている、店売りならそれぞれ1品で500円付けてもいいかなと思った、味のバランスも良好。日によって内容は変わるみたいだが、この盛合わせは注文するべきだと思う(笑)。

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 コーヒーもマシンで淹れたものだが、美味しかった。
 支払額は1,944円、北千住ランチとしては高額な部類だが、内容は十分見合うものだった、サービスのお姉さんも美人だし、また来たい店だと思った(笑)。WEB情報によると店名の「LA CULIYA」とは、厨房の「厨」から取ったそうだ。

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 今から10年前、北千住にこうしたフレンチが続けて開店するとは夢にも思わなかった、日々変化している街で、駅へ向かう商店街には地上30階建ての住居兼商店の高層ビルも建築中、東京五輪開催の2020年に完成予定なので、街の新たなランドマークになりそうだ。

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 地下鉄に乗る前に、北千住が変わるきっかけの一つになった、2004年開業の北千住マルイ内の食品売場を眺めていたら、吉祥寺「リンデ」のドイツパンを売っていたので購入する事に。

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 これ詰め合せ3種で670円だから、同じドイツパンの広尾「東京フロインドリーブ」や、湯島の「ベッケライ・テューリンガー・ヴァルト」に比べたら安い(笑)、いい買い物だった。


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広尾「有栖川宮記念公園」と「東京フロインドリーブ」

 麻布十番「グリグリ」からの帰りに、広尾の「東京フロインドリーブ」でパンを買おうと思いMapを調べたら、有栖川宮記念公園まで行く近道がある事を知り、スマホを頼りに歩いてみた。
 現在の地名なら港区元麻布になるが、下町人間の私には未踏の地で、「ハイソな人達」が住む街としてイメージがある。実際に歩いてみたらそのとおりで、大臣級か最高裁判事の邸でもあるのか、警備の警察官を数人見かける、車は外国車ばかり目に付き、家自体はそう広くなく金ピカ成金趣味ではないが、お金をかけた普請なのは見て分かった、昔は直近の交通機関がなく、「陸の孤島」とも云われた麻布十番の商店街や飲食店を支えていたのは、此処の住人達だった。
 お屋敷街を抜けた場所に在るのが有栖川宮記念公園。江戸時代は陸奥盛岡藩の下屋敷で、明治29年に有栖川宮威仁親王の御用地になり、その後有栖川宮家が途絶えると、昭和天皇の弟である高松宮家の御用地に変わる、昭和9年に東京市に下賜があり、同年に記念公園として一般公開された、昭和50年に東京都から港区に移管され、現在は港区立の公園として運営されている。

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 広尾駅側からは入った事あるが、北側から入るのは初めて、「三軒家口」と云う変わった名前の門で、石積みは相当古いと思う、門跡の金具に時代を感じる。

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 公園内の案内図、今回は北側から入園し、水の流れに沿い傾斜地を下りながら、広尾駅方面へ出た事になる。

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 小さいが滝があり渓流もある、池へ向かって流れる小川には時代を感じさせる石造りの橋、これも相当時間が経っていそうだ。

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 公園内中間地にある四阿風な場所、昔は茶室があったのかも知れない、奥に見えるのが都立中央図書館。

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 都心とは思えない風景、野鳥もやって来ていて、カルガモの一家?

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 池にあった石灯篭、これも時代ものか。
 公園は今回みたいに、北側から入り下って行くのが正しい順路?な気がする、都心ながら豊かな自然が感じられ、深山幽谷な雰囲気が味わえる場所はそうないので、近くへ行く時は寄ってみて下さい。

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 広尾口を出たら、目の前にあるのが「ナショナル麻布スーパーマーケット」、1962年に当時珍しかった輸入食品を扱う店として開業、外国人が買物に来る店として知られる、2012年に新店舗になった、「サーティーワンアイスクリーム」の1号店は此処だった。

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 こんな店もあります、元麻布セレブの奥方達が「今日は下のフレンチでランチですの、何か?」と、きっと話していたのでしょうね(笑)。

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 東京フロインドリーブ、神戸にあるドイツ人創業の「フロインドリーブ」の姉妹店として、1970年からこの地で営業しているから48年目。見た目重そうな扉は実は自動ドア(笑)。

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 店内(撮影承諾)、15時過ぎていたので、残念ながらパンがあまり残っていなかった、クッキー等の焼き菓子はあったが。

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 旧店舗時代の記憶もあるが、現在は5階建て?の立派な建物に変わった。

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 この日買ったもので「ソフトバイエルン-クルミ入」、ハーフサイズで税込297円、ハードタイプでゴツゴツした素っ気なさだが、噛んでいると旨味が出て来る、フランスパンとは違うドイツパンならではの味わい。

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 シュトーレンのカットサイズが売っていたので買ってみた、9×6cm位の大きさで352円、「素朴」と云う言葉がピッタリの、地味な見かけと味わい、元々シュトーレンはドイツやオランダの新教国発祥なので、こうした物だったと思う、値段はあまり素朴ではないが(笑)。
 寒かったが、ちょっとした東京歴史散歩が出来た日だった、若い頃はあまり関心がなかったが、自身が年齢を重ねると場所や店や人の歴史に興味を覚える、特に歩く事は健康にはいいし、街観察は呆け防止にもなりそう、お金もかからないので老後の趣味にしたいと思う(笑)。


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麻布十番「グリグリ」(2018年1月) 

 前記事の「ル・スプートニク」は急な誘いに乗ったのだが、今回の麻布十番「グリグリ」は少し前から予定していた店で、日本列島に最強寒波がやって来た同じ週にランチタイム訪問する事に、ダウンコートを着込んで行ったが、それでも寒かった。
 麻布十番商店街の坂を上り、近くのダイエーでほうれん草が一袋198円で売っていたのを見て、帰りに買おうと思いながら忘れてしまった(笑)、今冬は本当に野菜が高い、レストランも急にメニュー価格を上げる訳にもいかず、やり繰りが難しいのではと思ってしまう。
 グリグリに来るのは去年2月以来だから、もう1年近く経っていた、東京は店が多過ぎる、行ってみたい店、もう一度行きたい店を真面目に廻っていたら、2年に1度位になりそう、お金を勿論必要だが、頻繁に行けるだけの体力と丈夫な胃袋が欲しい(笑)。

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 店前で待ち合せていた女性3人組の後を追うように2階店舗へ入店、カウンター前には見事な桜の枝木、外は寒かったが店内は早くも春の気分で、マダムに挨拶して奥のテーブルに座らせてもらう。
 ランチはおまかせの1種類なので、初めに苦手な物を聞かれるだけ、東京フレンチ特に高級店はこのスタイルが多くなった。昔のアラカルトスタイルはあれでまた良かったが、食材ロスカットの意味もあり、今後もこのやり方が主流になると思う。
 白ワインで乾杯して始まった料理は以下のとおり、

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・茸のアミューズ(焙じ茶で割った茸のコンソメ、茸のサブレと上に茸のパン)

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・Marc Brédif Vouvray Classic2016

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・蕗の薹のベニエ、青森産グラニースミス、アーモンド

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・烏賊とカリフラワー、烏賊スミと米のチップ

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・自家製パン(美味しい)

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・仔牛のブレゼ、コンソメ仕立、ディジョンマスタード風味

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・尾長鯛のポワレ、干し葡萄のピュレ、タマリンド、黒米、桧葉の香り

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・群馬せせらぎポークのロティ、白貝、スペルト小麦

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・チョコレートのフラン、シュクレフィレ、上に黒胡椒風味のチュイール

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・ミニャルディーズ

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・エスプレッソ

 まずは茸のコンソメの深い味で目が覚める(笑)、焙じ茶で割っているそうだが、この相性を見つけたのが料理人のセンス。続く蕗の薹は微かな苦味が記憶を刺激する、春の足音が近い。
 烏賊とカリフラワーは中国料理でも使う「相性もの」だが、今カリフラワーが高いので高級料理だ(笑)、烏賊スミチップが見た目も味もいいアクセントになっている。
 毎回感じる事だが自家製カンパーニュ系パンが美味しい、この店より客単価が高いながら、美味しいとは思えない冷凍種パンを使う店がある中で、毎日種から成型し焼くのは立派だ。
 仔牛が出て来た時は「もう肉料理?」と一瞬不安になったが(笑)、これはスープ的な意味で、上質なコンビーフスープと云う印象。魚料理の尾長鯛は淡白ながら旨味ある上身、黒米を敷いたのがユニークで、干し葡萄のピュレを合わせるのも面白い、アイディア倒れになっていないし、この店ならではの個性を感じた。
 肉料理は安定の美味しさ、おそらく昼席全員分を塊で低温により長時間焼いたのだと思うが、火入れが抜群でしっとりとした肉質がいい、白貝と合わせるのが面白く、淡白な豚肉の味に貝出汁が加わる必然性がある、単なる「珍しい組合せ」で終わっていない。
 デセールもデザイン、味共に良かった、今の処「今年(2018)印象に残ったデザート」の候補(笑)。

 土曜昼の事もあってカウンターも含め満席になる、客層は若いながらフレンチ初心者と云う感じではなく、結構場数を踏んで来た客達に見えた。2012年11月に名古屋から東京に移転して来た此の店だが、5年を経て料理人のやりたい事と、東京の客層との折り合いが付いて来たのかなと感じる。
 ランチメニューだから、そう高原価な食材は使えないが、全体の起承転結を考え何処に頂点を持って来るか、引く処は引いて強調するものは強調する、店から出た後に「今日はいい料理だった、あれは忘れられない美味しさ」と余韻を残す、そうしたムニュを構築するには時間、経験、反復、そして探求心が必要なのだと思う。
 伊藤料理長はフランスの「ピック」、スペイン・バスクの「マルティン・ベラサテギ」で働いているが、現在は伝統的なフランス料理をベースにしながらも、東京人に合わせて現代的な感覚も取り入れ、自分の料理を確立して来た、そんな風に感じた。マダムも本場フランスで働いていて、日本的にベタっと客に迎合しないサービススタイルで私は好きだ、料理長もマダムに全幅の信頼を置いているので、客前には殆ど出なくなった(笑)。
 レストランもあらゆる生き物と同じく、環境によって進化するもの、それが出来なければ取り残されるのが今の東京だ。
 私は元々夫婦二人だけでやっている小さな店が好きだが、東京フレンチではこのスタイルが少なくなっている、貴重な私好みの店としてこれからも健在で居て欲しいと願ってしまう、また行きたいと思ういい店だ。


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六本木「ル・スプートニク」(2018年1月)

 2015年7月にオープンした六本木のフランス料理「ル・スプートニク」、開業以来高橋料理長と両輪で店を盛り上げ、人気店にした田村支配人が退店するとの知らせを聞き、彼女が居る間に伺いたいと思っていた処、いいタイミングで「ランチの席が取れたけれど、参加しないか」との誘いがあり、喜んで参上する事にした。お金は無いが時間ならあるので、急な招集にも対応出来る、現役時代なら仮病を使うか親類を死んだ事にするしかなかった(笑)。
 私は六本木より千代田線の乃木坂駅からの方が便利なので、駅から歩いて行ったが、新美術館と東京ミッドタウンが出来てからは、乃木坂~六本木間は大幅に街並みが変わってしまった、昔はフレンチ「FEU」とステーキ店しかなかった通りにも、あらゆるジャンルの飲食店が増えた、あちこちで新改築が進行しているので、街は更に変身しそうだ。
 東京の東端で閉じ籠る私は、もう少し都心を散歩したいが今年の冬は寒い(笑)、時間が近付いてきたので店へ向かう事に。そう云えば私が此処へ来るのは7月から9月の夏場ばかりで、冬場は初めてだと思った。
 清掃と手入が行き届いたエントランス、扉を開けてレセプションでコートを預け、奥の丸テーブルに案内される、去年の8月以来なので5ヶ月ぶりだ。
 週末まで勤務の田村さんにも挨拶して始まったメニューは以下のとおり、

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・シャンパーニュ:Charles Heidsieck Brut Reserve

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・アミューズ(1週間熟成させた萩産甘鯛、梨)

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・フォアグラムース、上に根セロリのムース、蜂蜜と青林檎のジュレ

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・寒ブリ瞬間燻製、様々な大根のサラダ、山葵菜とフロマージュブランの液体窒素

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・鱈白子、長芋、ハーブの焦がしバター、ケッパー

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・セイコ蟹、卵、金柑、パスティス

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・ホウボウ、槍烏賊、紫人参、荏胡麻のエミュリション、マイクロセロリ

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・肉料理1:和歌山県産猪背肉ロースト、ジュとマスタード

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・肉料理2:鹿児島出水産サルセル(野生種小鴨)アンクルート、軽めに仕上げたソースサルミ

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・柚子のスフレ、ヴァローナマンジャリとクレーム柚子、柚子風味のメレンゲ、酒粕のグラス

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・ミニャルディーズ(和三盆のシューアラクレーム、焙じ茶のブランマンジェ)
・カモミールのアンフィージョン

 フォアグラのムースあたりから、以前より更に料理が洗練された印象を受けた。鰤は見た目「和」に感じるが、山葵菜のフリーズドライにより新しい感覚の料理に変身する。旬の白子料理は文句ない美味しさ、ケイパーの酸味が焦がしバターを中和するので、次の料理に余韻を残さない。
 蟹も和食的な一皿だが、食べ終わると「これは高橋料理だ」と納得する。次のホウボウは冬場が旬の魚で、皮目の旨味、白身の歯応え申し分ない。
 肉料理は何と2品も出た(笑)、高橋氏はどちらを出すか直前まで迷っていたそうだが、結局「あの客なら2皿でも喰うだろう」と両方出す事になり、周りは止めなかったらしい(笑)。たしかに甲乙付け難い、猪は脂身の旨さが抜群、身体の事を考えると脂肪は危険だが、これだけ旨かったら少し位早く死んでもいいと思わせる、どうせ「散る桜 残る桜も 散る桜」だと悟る事に(笑)。
 和歌山猪にアンクルートと続くと、どうしても紀伊の剛腕料理人を連想してしまうのだが、やはり高橋氏は今の東京料理だなと思う、パイ包みは見た目も味も軽やでいながら、軽さだけに逃げないしっかりした質量がある。
 デセールは季節の柚子を使ったもの、柚子独特の酸味と微かな苦味を生かして秀逸、酒粕アイスも面白く柚子との相性もよかった。

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 2年半前にオープンした此の店だが、開店直後は料理もスタッフも安定しない時期があり大変だったみたいだが、今ではすっかり「チーム髙橋」として、レベルの高い仕事をしている、そして他の高級店と比較して値段が安いと感じる。
 実力も実績もある料理人なので、ここまで持ち上げて来たのは当然と云えば当然だが、オープン後すぐに例の星が付いた事に加え、場所柄外国人客も多いので、スタッフは色々大変だったと思う。
 支配人の田村さんは、店が名前どおりに周回軌道に乗った事もあり、一旦休憩する事になるようだ、女性支配人として気疲れは多々あった事と思う、まずはお疲れ様でした。レストラン業界から去る訳ではないそうで、再充電が完了したらまた何処かで会えるのを期待しています。
 後任の支配人には千葉収之氏が就任、この日も引継ぎのため仕事に就いていた、他店で経験を積んで来た方なので心配ないと思うが、田村ファンは私も含めて多く居るので、当初は比較されて大変かも知れない(笑)。
 レストランは人と人とが出会いそして離れる場所、ゲストとキャストは変わっても店は其処に残る、これからも「ル・スプートニク」が今迄どおりの名店である事を願っている。


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プロフィール

オンクレ・トシ

Author:オンクレ・トシ
店の点数評価等はしません、「食と人」を描きたいと思っています。
出没地域は地元の東京足立・葛飾周辺、上野、秋葉原、たまに表参道、麻布十番等。
混雑電車が苦手なのと現在失業中によりランチ行脚がメインです。更新は週2回が目標。
ブログの品位を維持するため、コメント欄は承認制にしています。

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